こちら拳骨編集部(2019年)
小説「第四の峰」のスピンオフ作品。
自動車雑誌・拳骨(げんこつ)の取材陣という視点から
カロッツェリア風信子の仕事を解説する。
ニッポンには実に多くの自動車雑誌、自動車評論家が存在する。しかし、だからといって、その数だけ「自由な自動車評論が存在する」わけではない。というのも、ニッポンの自動車雑誌や自動車評論家には心掛けなくてはならぬ「約束事」があるからだ。それは「ニッポンを代表する大手自動車メーカーへの辛口批評は避ける」というものだ。例えば、大手自動車メーカーの新製品がどんなにライバル他車の先行製品にデザインやコンセプトが似通っていても、決してそれを「パクリ」「後出しジャンケン」などと批判してはならないといった具合である。なぜか?ニッポンには「長いものに巻かれろ」という諺があり、それがニッポン人の伝統的行動に他ならないからだ。つまり「強い相手」には媚び諂い「弱い相手」に対してはここぞとばかりに非難中傷を加えるのが「ニッポン人の常識」なのだ。その結果、中小企業が開発したオリジナル製品は全く売れず、大手メーカーが製造したパクリ製品の方が大量に売れたとしても、そんなことは「どうでもいい」のだ。
そこに「そんな真似はしない」という気骨の自動車雑誌が登場した。その名は『拳骨』という。自動車雑誌らしからぬタイトルだが、そこには文字通り強い者に媚び諂う腑抜けた自動車評論の世界に「ゲンコツをお見舞いしてやる!」といった意味が込められているのであった。
で、結果は?
拳骨は常に自動車雑誌販売数「ワーストワン」を更新し続けていた。一握りの固定ファンを獲得するものの、多くの国民からはそっぽを向かれていたのだ。
元々、自動車雑誌を購入する人々の多くは男性で、しかも最大の目的は「パパが新型車を購入するためにママを説得するための口実を手に入れる」ことであり、その目的のためには「新型車のいいところ」ばかりが多数書かれていることが重要なのだ。例えば「安全装備が強化された」とか「新型車ではシートが改良されて超時間乗っていても腰が痛くならない」いった記述である。拳骨は明らかにその目的に合致していなかった。そしてニッポンを代表する大手自動車メーカーに対しても手厳しい批判を加えるとなれば、売れなくて当然であった。
斯くして拳骨はいつ「廃刊」になってもおかしくない状況にあった。
2019年 3月号
本来、このページには「ラ・フェラーリ」に関する記事が掲載される筈であった。しかし我々スタッフはこの日、記事の変更を余儀なくされる「驚くべき状況」に遭遇したのだった。
その日、我々拳骨スタッフはラ・フェラーリの全開走行テストを行うべく鈴鹿サーキットへ来ていた。
そこへ一台のロールスロイスがやってきた。
「お待たせ」
中から降りてきたのは今回の企画に賛同、ラ・フェラーリを快く貸して下さった女性オーナーの安田真弓氏。
その数分後にはアストンマーチンもやってきた。
ロールスにアストン。羨ましい限りだ。我々スタッフ5名は錆錆のグロリアSGLの乗り合わせだというのに。
「フェラーリのハンドルを握るのは久しぶりだな」
そういいながらアストンから降りてきたのは今回、全開走行をお願いしたプロレーサーの等々力鷲男氏。
これで全員が揃った。早速、準備に取り掛かる。
ラ・フェラーリは数周回、慣らし運転を行った後、全開走行に入った。
いくら「ハイブリッド」とはいえ、全開走行となればエンジンは轟音を発する。ラ・フェラーリはフェラーリ特有の甲高い、実に快いレーシーな轟音を奏でながら瞬く間に鈴鹿サーキットの周回速度記録を更新した。
「ふふん」
ご満悦の安田氏。歳は50歳を超え、顔には皺が目立つはずだが、専属メイクの高度な技量に助けられ、見事に30年は若作りしていた。
ここで事件が発生した。といっても「安田氏のメイクが剥がれた」というのではない。
「何、あの車は?」
突然、サーキット場にもう一台、見慣れない車が出現したのだ。
ピコーン、ピコーン、ピコーン
エンジンの爆音の代わりにUFOの様な電子音を奏でながら走る謎の車。
「そんなバカな!」
そして、その謎の車は我々全員の前で全開走行中のラ・フェラーリをいとも簡単に追い抜いたのだ。その光景は電子音とも相まって、まるで1980年代初期のテレビゲームに登場する、ゲーマーが操作するレース中のレースマシンをサイレンを鳴らしながら軽々と抜き去っていく緊急車両を思わせた。
「何してるのよ。はやく抜き返しなさい!」
無線に向かって怒鳴る安田氏。ニッポンを代表するレーサーである鷲男氏も真剣になったのに違いない。
無線からは次のような叫び声が聞こえてきた。
「よし。俺はいまこそ鷲になるんだ!」
だが、ラ・フェラーリは謎の車を追い抜くことができないばかりか、その後、何度も周回遅れを重ねた。
「フェラーリなんて亀と一緒さ」
そう言わんばかりに悠々とサーキットコースに吸い付くかのように走る謎の車。
そして謎の車は、いずこともなく走り去っていった。
「何なのよ、あの車は!」
日頃からタカビーで有名な安田氏がこの時、般若の面のごとき顔をして怒り狂っていたのは言うまでもない。こうなれば最早、いかなる厚化粧をもってしても素顔を覆い隠すことなどできはしない。
だが、いくら怒られたところで、今回の珍事件に関して我々スタッフが事情を知るわけもない。
直ちにサーキット職員に問い合わせたところ。
「その様な車が走行する予定は一切、ございません」
では、我々は夢でも見ていたのだろうか?
だが、それは夢ではなかった。スタッフカメラマンのカメラに、その謎の車はしっかりと写っていたのだ。これがその一枚である。我々はこの車を「シャークマシン」と命名した。写真にある通りフロントノーズに「鮫の背鰭」を思わせるマスコットが付いているからだ。
- それにしても、この車は一体、何だったのだろう?
フードがリアまで真っ直ぐに伸びていることや、リアの巨大なエアインテークから、相当巨大なエンジン、あるいはモーターが搭載されているに違いない。尤もこれが「人間が作り出した車」であるならば、だ。読者からは笑われてしまいそうだが、我々には人類の手によって生み出された車とは思えなかったのだ。
後日、安田氏は今回の敗北を車ではなくレーサーの責任に転嫁した。安田氏にとっては「フェラーリこそが最高のスポーツカー」でなくてはならないのだ。
安田氏の責任転嫁。傍目には「空しい言い訳」だが、しかしながら、まるっきり「的外れ」ではないかもしれない。
なぜなら、ドライバーが速水某、あるいは隼某であれば、或いは負けなかったかもしれないからだ。
11月号
ラ・フェラーリの取材現場に突如として出現、いずこともなく去っていった謎のスーパーマシン「シャーク」。それを設計・開発したのが「風信子(ヒヤシンス)」という名のデザイン会社であることを風の噂で耳にした我々、拳骨首脳陣は直ちに編集会議を行った。
風の噂。真実かどうか疑わしい情報。果たして「取材に値する」のかどうか。風信子はニッポンではなく韓国に本社を置く。それ相応の旅費を覚悟しなくてはならない。
だが、それでも「シャークの魅力」が勝った。我々は風信子への取材を決定、取材陣を風信子が存在するという国・韓国へと送り込んだ。
我々が入手している情報によれば、風信子はニッポン人社長・横田信子、同じくニッポン人チーフデザイナー・碓氷充馬(うすいあたま)の両名が中心となって運営しているデザイン企業である。商品としては女性向けの服やエレクトリックギターなどが知られており、過去にカーデザインを手掛けた例はない。ということは「新たに進出」ということなのか?そして手元にあるデータによれば、風信子はもともとニッポンに本社があったものが事情により「韓国に移転」とある。この事実がニッポンのメディアによる取材を非常に困難なものとする要因であることは容易に想像できた。過去にはローズベイ(エレキギター。風信子を代表するデザイン商品)が大ヒットした時、ニッポンの大手メディア各社がインタビューを試みたものの全社、けんもほろろに追い返されていた。我々が取材に行くことを知った某大手メディアの記者は「あそこは無理、無理。ガードがもの凄く堅い」と、大手メディアで仕事をする人間特有の上から目線で我々の行動を「三流雑誌社による身の程を知らぬ愚行」とバカにした。
だが、それでも我々は取材を敢行した。で、結果はどうだったか?私たちは実に「幸運だった」。スーパーカー専門誌という特殊性が鍵となったことは言うまでもない。我々がスーパーカーを「男が異性にモテるための小道具」としか見ていない大手メディアとは「違う」ということを、われわれが根っからの「スーパーカーバカ」であるということを風信子ははっきりと理解してくれていたのだ。
とはいえ、それでも風信子のガードは、最初はやはり堅かった。社長の横田氏と接触を重ね「マエストロ」碓氷氏が我々の前に現れたのは、それから3か月後。そこから更に3か月、我々は幾度となく接触。焼き肉店で全羅道の肉を一緒に食したり、済州島にある漢孥山にヒーヒー言いながら登ったりするうちにシャークの真実、「あの車は確かに私たちが設計・開発した」「あれは韓国メーカーの新型エンジン開発のための試作車だった」「データ収集のため分解してしまった」ことや、そこで得たノウハウを生かした全く新しいスーパーカーを開発している事実を知らされ、やがて碓氷氏の口から「ニューマシンの名前は『エターナル』だ」と教えられた時には、半年にわたる苦労が遂に実を結んだことに、我々一同の目からは安堵と感激の涙が流れたのである。
このようにして今回、我々は世界で最初にエターナルのスクープを報じることができるのである。ハッキリ言おう。これからあなたが目にする記事は「奇跡」である。
※
- 言葉はいらない。写真からでも十分にその魅力を実感できるだろう。見ての通り、それは謎のスーパーマシン・シャークを生み出した鬼才ならではの魅力を秘めた「21世紀に開発された最も美しいスーパーカー」に他ならない。
- エターナルという名前には「スーパーカーよ、永遠なれ」という意味が込められているのだという。近年、若者の「自動車離れ」が深刻である。エターナルはそうした状況に危機感を抱いた風信子からの回答なのだ。
だからだろうか。エターナルは21世紀に開発されたにもかかわらず、そのボディからは「1970年代の香り」がそこはかとなく漂っている。そう、あのスーパーカーブーム全盛時代の香りだ。フェラーリ、マセラティ、ランチャ、デ・トマソ、ロータス、ポルシェ等、実に多くの自動車メーカーが魅力的なスーパーカーを世に送り出していた時代の香りだ。
そしてランボルギーニ。中でもカウンタックは当時「スーパーカーの王者」と呼ばれた。エターナルにはその香りがプンプンに漂っている。パッと見、誰もが「21世紀のカウンタック」と思うに違いない。
それにしても、エターナルの「プレーンさ」には驚かされる。現在のフェラーリやランボルギーニの穴だらけ・角だらけのゴテゴテした「虚飾塗れのデザイン」とは対照的だ。過去のスーパーカーの写真をひと通り精査したのだが、エターナルは間違いなく「最もプレーンなデザインのスーパーカー」である。このプレーンさに匹敵するのは「カウンタック・プロトタイプ」と「ストラトス・ゼロ」くらいのものだ。エターナルには「空力特性の改善」や「走行性能の向上」を理由に悪趣味なデザインをユーザーに「機能美」として無理強いする言い訳めいたところが一つもない。
まずは真横から見る。サイドスクリーンはカウンタックの後継者であるディアブロのものをさらに極端にしたような造形。だがエターナルはディアブロには似ていない。なぜ?それは「造形の完成度」が極めて高いからだ。カウンタック同様「ここはこうしたらいいのに」「自分だったらここはこうするのに」と注文を付けたくなる部分が極めて少ないのだ。ディアブロのサイドスクリーンは「歪な5角形」だが、エターナルは実に綺麗な平行四辺形である。
エンジンにエアを供給するインテークはサイドスクリーンの後方とその真下の上下対称形。その特徴的な形が生み出すこの車ならではの「個性」はカウンタックのNACAダクトに負けていない。ドアは一般的なスイングドアで、シザーズドアではない。ボディと一体となっている前後アクリル製のバンパーは、この車が「21世紀の産物」であることを物語る部分だ。
リアホイールアーチの造形が1970年代的というか「ガンディーニ的」だ。リアホールアーチの上部をスパッツ状にしてタイヤの一部を覆っている。だが、これは正直、疑問だ。装着できるタイヤの幅を狭くするし、タイヤ交換の際に傷をつけてしまう危険もあるからだ。完成度の極めて高いエターナルの中で唯一「?」と感じるデザイン造形である。
今度は正面。ラジエーターが後ろにあるためフロントボンネットは実にすっきりしている。勿論、トランク容量もそれなりにある。通常のお買い物程度ならば全く問題ない。そしてフロントスクリーンが極端に大きい。運転席の真上までフロントスクリーンが伸びている。
「雨の少ないアメリカではスーパーカーといえども『オープン仕様』が求められる。だが、エンジンが後ろにあるミッドシップカーではデザインの制約が大きい。そこでフロントスクリーンを頭上まで延ばすことで、ハードトップでありながらオープンカー並みの開放感を得られる空間を実現することにしたんだ(碓氷氏によるコメント。今後、特別な注がない場合、コメントは全て碓氷氏)」
ヘッドライトは当然「リトラクタブル」ではない。ウインカーがドアミラーに内蔵されている点も21世紀の車ならではだ。
最後に後ろから眺める。
エンジンフードはガラス製。積極的にエンジンを見せる手法だ。左右に熱を抜くアルマジロが配されている。これで果たしてエンジン音は車内に響かないのか?あとで確認してみよう。
- 真っ直ぐ横に延びる平べったい一枚板から成るリアパネル。ここが最も1970年代を感じさせてくれる部分といえる。そこに装着されるテールランプは何の変哲もないもので、まるでトラックで使われているものをそのまま流用したかのようだ。
「現代のスーパーカーはどれも角が取れて丸っこく、エルゴノミックで自分の好みじゃない。エターナルでは『クリーン&プレーン』であることを心がけた、それこそ『やり過ぎ』というくらいにね。『糊の効いたワイシャツのような清潔感』といえばわかるかな?皺が一つもついていないワイシャツのように無駄な線が一つもないデザイン。昔のスーパーカーは皆、こうだった。とはいえ単なる懐古趣味ではない。21世紀の車であることがわかることも重要な要素と考えた」
リアパネルは1970年代的だが、バンパー下部のディフューザーは明らかに21世紀的だ。強力なダウンフォースを発生させるため、巨大なリアウイングは不要である。
懐かしいのに最新鋭。エターナルならではの魅力がそこにある。単なる懐古趣味に終わっていないのは基本デザインが完全なオリジナルであり、過去のいかなるスーパーカーの「オマージュ」でもないからだ。ぱっと見「カウンタックっぽい」エターナルだが、フロントバンパー、ヘッドライト、サイドドア、サイドエアインテーク、エンジンフード、リアバンパー(そもそもカウンタックにはリアバンパーがない)など、実際に似ている個所は唯のひとつとして「ない」のである。
ではなぜ、エターナルはカウンタックを思い起こさせるのだろう?
「それは同じ『スーパーカー魂』を持っているからさ」
抽象的な表現ではあるが、実に的を射ていると思う。
「モナ・リザの模写画は世界中に何百と存在する。だが『最もモナ・リザに近い作品』と言われているのは、そうした模写画ではなく、髭モジャおやじの肖像画(ラファエロ作「カスティリオーネの肖像」)だ。大事なのは外観が同じことではなく『精神性が同じ』ことなんだよ」
こうした話をさらりと言ってのけるところに碓氷氏の「博学ぶり」が見て取れる。碓氷氏は名門大学出のインテリではないが、昨今流行りのインテリ芸能人やクイズ王など比較にもならぬほど博識で知的な人物だ。
「シザーズドアは絶対に『使用しない』と思った。それはあくまでもカウンタックのアイデンティティだからね。そんなことをすれば単なる『カウンタックの偽物』になってしまう」
ディアブロ、ムルシエラゴ、アヴェンタドールはそれを継承しているが、単に「カウンタックの後継車である」ことを示すアイコンにすぎない。これらの車は厳しい言い方をすれば、カウンタックの持っている伝統や威厳に「おんぶにだっこ」。それらの車たちに固有のアイデンティティは存在しない。
「それに現実問題として、エターナルにシザーズドアは使えない。ドアをシザーズさせるにはあまりにもサイドスクリーンが立ちすぎているんだ」
エターナルはサイドスクリーンがミウラやBB並みに立っている。これはフロントスクリーンを運転席の真上まで延ばした結果に他ならない。もしもエターナルにカウンタックのようなドアを取り付けた場合、エターナルのフロントスクリーンは「三角フラスコ」のような形になってしまうだろう。
※
内装を見ていく。水平基調のそれは木目やクロームの使い方も相まってまさに「1970年代の家電製品」のような香りがする。その一方でセンターには液晶パネルが嵌められている。紛れもない21世紀的な部分だ。
- スポーツカーというよりは、まるで高級リムジンのような装い。近年のスーパーカーは「ブラック本革&アルミ加飾」が主流だが、エターナルは敢えて「違うこと」を試みている。「イタリアやドイツ製のスーパーカーと同じでは、ユーザーは今まで通り『イタリアやドイツのスーパーカーを買う』に決まっている。ブランドは実に偉大なものさ。だから+αが必要だと感じて、こうしたんだ」
メーター類は運転席正面に昔ながらの嵌め込み式タイプのメーターが6つ装備され正直、嬉しい部分だ。左から順番に油圧、タコ、水温、油温、速度、燃料。
センターは上からナビモニター、ナビ操作ボタン、エアコン操作ダイヤル、ドリンクホルダー。ナビにタッチパネルを採用しなかった理由はモニターの表面に特殊加工を施し、外の景色の映り込みを軽減しているため(昔、日立のブラウン管テレビが同様の加工を行っていたっけ)。
アルミのゲートが見るからに頑丈そうな印象のシフトは6速マニュアル。6速セミオートマチックも用意され、そちらはパドルシフトが基本だ。パワーのある車なので実際問題必要ないし、重量増加や故障の原因にもなるのだが、ライバルが装備するギアの段数を考えれば、やはり8速、最低でも7速は欲しいところだ。感触は剛性感のある好ましいもの。6速ゆえに横のゲート幅が広く、ゲートを入れ間違う心配なしに安心して操作することができるのは、実は立派なメリットである。
巨大なフロントスクリーンによって前方の視界は実に開けている。そのフロントスクリーンの中央辺りには自動運転用の車載カメラとルームミラー。カメラへの電力はスクリーンに嵌め込まれた細いニクロム線(リアスクリーンの曇り取り用の熱線と同じ)によって行われるためピラーを連結するバーはない。ボディ剛性について伺ったところ「問題はない」という。この車に乗る人にとってサングラスと帽子は必需品である(笑)。ピラーには大きなアームが装備され、この車は車高が低いため、乗降時にはこれを掴んで体を「ナマケモノのような姿勢」にする必要がある。
天井まで伸びるフロントスクリーンの後方には若干ながら屋根があり、その部分に天井を覆う2段スライド式の日除けボードが収納されている。この車の個性を殺してしまう行為ではあるが、どうしても「天井を覆いたい」場合には中央の取手部分に指を突っ込むことで簡単に引き出せる。
ハンドルには、いろいろなボタンが装備されており、エアコンやオーディオの操作が行える。オートマチック車の場合にはさらに「オートクルーズ機能」まで備わるというから驚きだ。前方車追従式、それも車間距離を一定に保つのではなく、時速100㎞ならば80m、80㎞ならば60mといった具合に速度に応じて適切な距離を保つという優れもの。勿論、渋滞にも対応する。
エンジンフードを開いてから外に出る。
500馬力を誇るアルミ製縦置き90度V8エンジン。外観が実にかっこいい。カムカバーが見えるように吸気管のデザインが非常に吟味されているのだ。排気管のデザインも秀逸だ。この車はまだ新品同様の色だが、いずれは焦げて独特の色合いを見せるだろう。
エンジンの外観を決定するカムカバーやエアチャンバー。フェラーリは昔から赤。他にもメーカーによって緑、青、黒といった塗装が施されているが、エターナルのそれはオレンジ。意図的に他車との差別化を図っている。
- ヘッドは当然のようにDOHCのクワトロバルボーレ。タコ足の直径が狭いのは高回転を多用するエンジンならではのもの。ちなみに高回転を使用しないことを前提とするニッポン製4バルブエンジンのタコ足は直径が大きい。
このエンジンの最大の特徴はシームレス、即ち接合部にガスケットが使用されていないことだ。1/10万の加工精度によってエンジンブロックを完全に密着させることでガスケットを必要としないのだという。その昔、シトロエン2CVがそうであったが、これは500馬力エンジンである。果たして「ガス抜け」や「オイル漏れ」はないのだろうか?
「シャークでは20万kmの走行テストを行ったが、問題はなかった」
確かに、ガスケットが必要ないのならば「ない方がいい」に決まっている。ガスケットは耐熱ゴムや軟鉄でできており必ず劣化する。発熱量の大きいエンジンだと数年しか持たないこともある。
「スーパーカーは大概、大富豪の車庫に眠ってしまい、日頃まともにメンテナンスなどされないのが普通だ。その様な状態でもベストコンディションでエンジンが動くことが求められた」
さすがは「韓国メーカー」である。ニッポンのメーカーは「カタログスペック」ばかりを重視するが、韓国では何よりも「実用性」が重視されるのだ。
「ニッポン人はきっと『何だ500馬力か。GT-Rは600馬力だぜ!』と思うだろう。だが、エターナルの心臓はシームレスエンジンだ」
碓氷氏はエターナルのエンジンに胸を張る。
と、ここで重大発言が。
「現在、馬力を400PSに落として電気モーターと組み合わせたスポーツカーを開発している。莫大な投資をして開発したエンジンなのだから広く車種展開するのはメーカーとすれば当然だ。そちらも近いうちに発表されるだろう。スタイリングはエターナルほど過激ではなく、スーパーカーというよりもミッドシップスポーツカー的なものになる。こちらは1000万円を切る。エターナルに手が届かない人のためのものだ」
※
いよいよエターナルを実際に走らせる。場所はメーカーの試験場。設備は完璧だ。周回路だけでなくサーキットコースもあり、あらゆるテストができる。
前もって話しておくと、マニュアルとオートマチックではエンジンの特性が違う。オートマチックは低速トルク重視で、低速からグングンと車を押し出すよう設計されている。それに対し今回、テストするマニュアルは高速重視で、低速ではややトルクが薄いものの5000回転から一気に吹き上がるという。
実際に試してみるとしよう。先ずはエンジンに火を入れる。実に簡単にかかる。嫌がる素振りは微塵もない。アイドリング時のV8エンジンは実に静かだ。振動は皆無。大型マフラーを装備すれば、それこそ高級車のエンジンとしても使用することが出来るのでは、と思えるほどだ。成程、これならばエンジンフードをガラスにできる。
まず先に行っておくと、サーキット場を疾駆するエターナルの姿は実に美しい。1909年の『未来派宣言』ではないが「疾走するエターナルの姿はサモトラケのニケよりも美しい」と思わず言いたくなる。
いざ走り出す。先ずはサーキット場で挙動を確認する。
- 高速重視とはいっても絶対的なパワーがあるから低速でも速く、しかも粘る。「6速、60km」も決して不可能ではない。だが、5000回転を超えるとエンジンは一気に目覚める。このエンジンはノンターボだが、ドッカンターボのような特性を持っている。マフラーから響く音も明らかに変化。甲高い、実にレーシーな音になる。そして32個のバルブが硝子1枚を隔てた後方で交響曲を奏で出す。その変化はまさに「二重人格」といってもいいくらいで、上品なお嬢様と思っていたら実はとんだ「はねっかえり」だったといった感じだ。そして、こうした特性を知ってしまうと、最初の言葉を訂正したくなる。「この車は低速では貧弱だが、高速ではとんでもなく速い」といった具合に。
ハンドル、クラッチ、シフト、その全てが軽い。こういう点は21世紀的だ。ドライバーに筋トレを強要しない。しかも決して「やわ」ではない。全てがしっかりと安定している。
ハンドルはかなりシャープで遊びがほとんどない。これもオートマチック車では多少ダルに変更されているそうだ。クラッチはエンジンパワーのおかげで、アイドリング状態でいきなり繋いでもエンストせず、車体はゆっくりと前へ動き出す。したがって免許取りたての素人ドライバーでも街中で苦労することはない。
ただし、ハンドリングにはそれなりの技量が要求される。テールハッピーなこの車はタイトコーナーでいとも容易にケツを振る。古典的なドライビング技術に習熟しているドライバーならば大いに楽しめるだろう。ややオーバースピードでコーナーに飛び込み、ヒール&トゥ状態でハンドルを切ってケツを流し、カウンターをかけて流れを止めてからクラッチを繋いで脱出。勿論、あなたが並みのドライバーならば「スロー・イン&ファスト・アウト」が鉄則だ。
それにしてもなぜ、このようなセッティングを?確かに、ミッドシップカーの長所は回頭性なのだから「間違い」ではないのだが、安定志向が叫ばれる今日である。「上級ドライバーに振ったセッティング」であることは間違いない。
「悪かったな」
どうやら、碓氷氏の好みらしい。
サーキット走行を楽しんだところで、そろそろ計測に入る。
0km~100km加速は3,9秒。ランボルギーニ・ウラカンやフェラーリ・F8トリビュートの2,9秒に遠く及ばぬばかりか、4ドアSUVのランボルギーニ・ウルスの3,6秒よりも遅い。やはり500馬力ではここまでか。「エンジンの信頼性が向上したら馬力を上げる」ということなので、それを期待したい。
と、ここまで書いて私はふと思った。私たちは「パワー不感症」なのではあるまいか?フェラーリ・288GTOは4,9秒、F40でも4,1秒なんだぞ。3,9秒は実に立派な数値ではないか。
でもって、いよいよ最高速度。公表値は299kmだが、実測では+20kmを超える323,88kmを記録した。考えてみれば495馬力の初代ディアブロでも325kmの最高速度を出せるわけで、299kmという公表値は随分、控えめな数値といえる。
「それが『韓国流』さ。この国にはニッポンでは完全に失われてしまった『能ある鷹は爪を隠す』の精神が今も生きているんだよ」
今のニッポンでは政治家の「ニッポン自慢」の姿勢が国中に広まって、国民もまた「自画自賛」が当たり前。知らないことでも「知ってる、知ってる!」できないことでも「チョー得意!」と言い張るのが今や「ニッポン人の常識」であり、テレビをつければ、どこもかしこも「クイズ王」「インテリ芸能人」「高学歴アナウンサー」といった連中が知恵者気取りで自分の学力や閃き力を鼻高々に自慢している実にくだらない糞番組ばかりが放送されている。
「だから自分はニッポンを捨てたのさ。自分は名門大学出でもなければ漢字検定取得者でもMENSA会員でも、ましてや大金持ちの御曹司でもない。そんな自分が活躍するためには、そうした肩書を重視する国にサヨナラして『実力社会の国』へ移るしかなかった。ニッポンにアメリカンドリームはないが、韓国にはあるんだ。海外を目指すニッポン人ミュージシャンがニッポンではなく『K・POPの歌手』として、まずは韓国でデビューするのは知っているだろう?」
ニッポン政府は口では「一億総活躍社会」と叫んでいるが、現実は全く違う。碓氷氏という類い稀なる天才カーデザイナーの「韓国流出」もまた、その証明である。
速度を100kmまで落とす。ここで私はハンドルを握る位置を、今までの「3時・9時」から「12時」に変更した。勿論、普段はこんなことはしない。
それから10秒。突然、ピーピーピーという警告音が車内に鳴り響いた。
これは風信子が開発した新発明、その名も「12時ハンドル防止装置」だ。
「韓国では無用だが、とある国(勿論、ニッポンのことだ)では『左手にスマホ、右手は12時ハンドル』『右肘をドアの上に乗せて、左手は12時ハンドル』というドライバーが年々、増えているだろう?それを防止するための機能として考えてみたんだ」
11時~1時の間でハンドルを10秒以上握っている場合に作動、警報音を発する仕組みだ。ハンドルから手を離せば警報音は止む。
12時ハンドルの危険性を碓氷氏は指摘する。
「12時ハンドルは脇が甘くなり、腕が左右に揺れるため非常に危険だ。それに速度計や燃料計が腕に隠れて見えなくなってしまう。そして何より、こういうドライバーは『正しい姿勢』でシートに座っていない。背骨とシートが斜めに傾いてしまっているんだ」
そういえば最近は路線バスやパトカーが走行中にヘッドライトを点灯していないケースも増えた。
「ニッポン人の『危険を感知する力』が低下しているのさ」
碓氷氏によれば、ニッポン人は年々、危険を「危険」と感じなくなってきているという。
「危険だけじゃない。汚いものを『汚い』と感じる能力も低下してきている」
碓氷氏はニッポンにおける「ポイ捨てごみの増加」を嘆く。
「ポイ捨てごみは車高の低いスーパーカーにとっては脅威だ。特に最近、やたらと目にする『使い捨てマスク』。エアインテークに吸い込まれればオーバーヒートの原因となり、ファンベルトに絡みつけばエンジンブローの原因になる」
風信子が「韓国へ移転した理由」がだんだんと見えてきた。私たちは単純に「ニッポンで売れなかったから移転した」と考えていたのだが、「ニッポン人のモラルの低さに辟易した」からだったのだ。
「政治批判からカーデザインまで、あらゆる物事を自分は24時間『庶民目線』で考えている。だが、ニッポン人は、インテリはもとより一般庶民でさえも『上から目線』で考えたがる。例えば『外交問題』。多くのニッポン人が『政治家や評論家になった気分』で偉そうに批評する。だから判断を間違えるんだ。ニッポン人が『エコノミック・アニマル』である理由も同じ。倹しい庶民ならば『人生、お金がすべてじゃない』というべきところなのに、お金持ちの目線で『人生、お金がすべて』と自分の人生や存在を否定する発言を平気でしている。その結果、ニッポン社会はいつまでたっても『お金持ちの天下』だ。ほんとバカだよ、ニッポン人は」
エターナルの開発について、碓氷氏はこう締めくくった。
「自分が小学2年生の時にスーパーカーブームがあった。自分はカウンタックに憧れる少年で、その時のピュアな気持ちがエターナルを開発させた。スーパーカーデザイナーとしての富や名声、顧客である大富豪たちの欲望、実際に製造・販売するメーカーの思惑、それら『擦れた大人の目線』ではなく、少年の目線でね」
この言葉にこそ、エターナルが魅力的な車である「真の理由」が集約されている。
※
-
「シャークの噂」の真相を辿る私たちの旅路は「エターナルのスクープ」という予想外の結末をもって終わった。シャークがこの世に存在しないという事実は確かに私たちを大いにがっかりさせたが、エターナルはそれを補って余りある実に魅力的なスーパーカーだった。実際に目にしたならば、誰もが私たちと同じ感動を「体感する」に違いない。だが、ひとつ残念なことがある。それは、この車がニッポンの路上を走る日は当分「訪れそうにない」ことだ。その理由が「軍国主義を礼賛するニッポン政府の歴史観」を受け入れないことを理由とするニッポン政府による韓国に対する経済制裁なのだから呆れる。どうしても手に入れたい人はアメリカなり一旦、別の国に輸出された車を並行輸入する以外に方法はあるまい。
いつに日になるかは全くもって想像もできないが、真の日韓友好が実現した時、私たちニッポン人はこの「21世紀で最も美しいスーパーカー」がニッポンの路上を颯爽と走る姿を見られるようになるだろう。
12月号
先月号の記事に関して、実に多くのコメントが弊社に寄せられたことをまずご報告申し上げる。
その内容だが、先に言ってしまうと「好意的なもの」が1割弱で、9割以上が「悪意あるもの」である。
①「カウンタックもどき、ダッサー」
②「デザインが最新流行ではなく古臭い」
③「ニッポンを代表するスーパーカーは『童夢ゼロ』」
④「風信子は裏切り者の非国民企業」
9割以上の意見を大別したところ、まあこんな感じである。
①については先月号で指摘した通り似ている個所はひとつとしてない。「タイヤが4つある」といった屁理屈を言わない限りは。
②については「最新流行ではない」とは言えても「古臭い」とは言えない。なぜなら、このようなデザインの車は今まで「存在しなかった」からだ。19 70年代の香りが「古臭い」というのであれば、それは致し方ないが。
③については、恐らくこういう人にとっては童夢ゼロが「憧れの名車」で、それ以外の車は論外なのだろう。
④については、彼らに「そうさせた」のは彼らの仕事を認めなかった「ニッポンの大手企業」や「ニッポンのユーザー」だということを述べておきたい。
※
エターナルのスクープ記事の中で述べられていた「V8エンジンとモーターを組み合わせたスポーツカー」が発表された。その車の名は「スーパースポーツカー」。
そのスーパースポーツカーがニッポンに上陸した。経済制裁に伴う大幅関税にもめげず、韓国企業は「ニッポンへの輸出」を強行してくれたのだ。そして我々、拳骨は光栄にも最初の独占取材を許された。
今回、我々が試乗するスーパースポーツカーは黄緑色と白のツートンカラーを纏ったスペシャルバージョン。
ぱっと見は当然ながら「21世紀のスポーツカー」だ。バンパーはボディと一体化され、バックミラーにはウインカーが装備される。しかし細部を見渡すと、そこには紛れもない「1970の香り」が漂っている。フロントフェンダーの盛り上がりや三分割されたボンネットはV8フェラーリを髣髴とさせ、フロントホイールハウス後方に設けられたブレーキ冷却のためのパラボラコンターは、まるでフェラーリP5のようだ。
だが、やはり我々ニッポン人の琴線を揺さぶるのは、何といっても後方から見た時の姿だ。
ガラスハッチのリア、そしてボディが黄緑色であることもあって「羨望のRX-7」の影をそこに見ないではいられない。
- とはいえ、ミッドシップエンジンを証明するリアバンパー中央の大きなエアダクトはRX-7とは似ても似つかず、また横から見たRX-7が水平基調であるのに対し、スーパースポーツカーは明らかに「尻上がり」。シルバーに塗られたセンターピラーの傾斜の向きも正反対。これだけ差異があれば、ぱっと見の印象が似ているからといって「パクリ」などといわれる筋合いはない。かつての「オースチン・MINIとミラジーノ」や「ポルシェ・カレラGTとMR-S」のような、あからさまな物真似を思えば、この程度の相似は些事だ。
センターピラーはエアインテークを兼ね、直下にも同様のエアインテークが備わる上下対称デザインはエターナルでも用いられているもので、いわば風信子の「お家芸」。
エンジンはV8とモーターのハイブリッド。最高出力はエンジンが400馬力でモーターが150馬力の合計550馬力。エンジン単体では100馬力劣るが、総馬力ではエターナルを50馬力上回る。レーザーを利用した超精密加工による「シームレス接合技術」が用いられている点はエターナルと同じだ。経年変化によるシームの劣化がないため接合部からの「ガス抜け」や「オイル漏れ」が生じないのがいい。ガレージの中で眠ることの多い「大富豪のための車」ゆえのメンテナンスフリーへの配慮がうかがえる。
コクピットに乗る。ディノ246並みに膨らんだフロントフェンダーのおかげでフロントタイヤの位置が容易に把握できる。これならばミリ単位でコースを狙える。スーパーカーではなく「スポーツカー」を名乗る車には絶対に必要な条件だ。この車は「直線番長ではない」のだ。
ダッシュボードにメーターはない。代わりにメルセデス・ベンツの様にタブレット式のパネルが正面に1枚、センターに2枚備わる。エンジンを始動させるとそれぞれメーター、ナビゲーション、エアコン&オーディオの操作スイッチが表示される仕組みだ。正面に表示されるメーター類は当然、アナログではあるが、雰囲気としては今一つだ。やはりバーチャルは本物には敵わない。
背後から聞こえてくるアイドリング音は実に静か。試しに空吹かししてみる。10000回転(!)でも音はそれほど大きくならない。あまり官能的ではない一方、すこぶる(ここでは「大いに」という意味)実用的である。
走り出す。深夜2時の都心は昼間の大渋滞とは打って変わってガラガラ。
低速走行は「お手のもの」だ。まるで普通乗用車並みのイージーさ。ペダルは重くなく、ハンドルも適度に軽い。ガラス面積が広いので視界もいい。
首都高に入り、そこから上越道へ向かう。高速走行に入ってもエンジンは依然、静かだ。このイージーさはスポーツカーというよりもGTカーのようで正直、つまらない。
この車にはエターナル同様「12時ハンドル防止装置」が装備されている。そこで試しに12時ハンドルをやってみる。するとやはり10秒後に突然、ピーピーピーという警報が鳴り響いた。手をハンドルから話すと警報は直ちに鳴り止む。全ての車のハンドルにこの仕掛けを装備すれば、重大事故に直結する「12時ハンドル」は一掃されるに違いない。
さらに窓を開けて腕を外に出してみる。やはり10秒後に警報が鳴り響いた。こちらは「腕出し運転防止装置」だ。
さて「イージーでつまらない」というドライビングの印象だが、それは高速道路を降りた途端、一変した。
小諸インターで高速道路とおさらば、テストコースに利用している、いつもの山道を走る。エンジンのパワーがあるので上り坂でも速度は全く落ちない。
最初のタイトコーナーに差し掛かった時。
「うわっ」
ブレーキを踏んだ瞬間、テールが大きく横滑りを始めた。危うく崖に激突するところだった。対向車が来ていれば間違いなく正面衝突。何というじゃじゃ馬!さすがはミッドシップスポーツカー。気を取り直して再び走り出す。
二つ目のタイトコーナー。今度は覚悟してブレーキを踏む。やはり横滑りが激しい。だが、ブレーキを外せば直ちに横滑りは止まる。これはどうやら車の特性ではなく「意図的な味付け」と見た。この車のリアダンパーは意識的に粘らないようにしてあるのに違いない。
そして3つ目のタイトコーナーを駆け抜けた時には、自分はこの車のハンドリングに「病みつき」になっていた。一度コツを覚えてしまえば、これほどテールを滑らせて「楽しい車」はない。カーブの多いコースでこの車を速く走らせるコツはブレーキを踏んでテールを積極的に滑らせ、カウンターでノーズの向きを調整、一気にアクセルを踏み込むことだ。無論、こうした車の特性はあくまでも電気的デバイスをオフにしたときのことで、オンにしていれば限界まで実によく粘る。ちなみにオンの時には4WD、オフの時は2WDでの走行となる。
気がつけば、あっという間に終点の車坂峠に到着していた。体感もそうだが、車の絶対速度も速い。そこから眺める早朝の富士山は実に美しいものだった。
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メーカーではスーパースポーツカーを「年間2000台」販売する計画を持っている。550馬力のスーパーカーを年間2000台というのは、かなり強気といえるが、ニッポン政府による悪意の関税にもめげず888万円に設定された販売価格はライバルとなるNSXの2420万円は当然のこと、レクサスLCの1377万円、GT-Rピュアエディション(最廉価盤)の1082万と比較してもバーゲンであり、それが有利に働くに違いない。
これらのうち「どれを購入する?」と聞かれたら、私は迷わずスーパースポーツカーを選ぶ。ニッポン車の機械としての完成度の高さは魅力だが、「じゃじゃ馬慣らし」の醍醐味にはやはり捨てがたいものがある。走り屋の本能を擽る「何か」がスーパースポーツカーにはある。
2020年 新春1月号
エンツォはスペチアーレ・フェラーリの中で最も「美しくない車」として我々の記憶に残る車である。部分部分を見ればオリジナリティに溢れているものの、何よりも縦、横、高さのバランスが非常に悪い。横から見れば背が高すぎ、後ろから見れば横幅が広すぎる。フロントからリアへと流れるフェンダーの曲線を意図的にキャビン部分でカットしているのは、はっきり言って「良くない処理」だ。また、フロントバンパーの一部がフロントボンネットの中に入り込み、全て黒い線であるべきボンネットの継ぎ目の一部がバンパー色になってしまっているのは明らかに「煮詰め不足」である。
エンツォの不評によってフェラーリ社とピニンファリーナ社の蜜月関係は大きく変化した。以後、フェラーリ社は自社でデザインを行うようになる。10年後に登場したラ・フェラーリはフェラーリ社のオリジナルデザインである。
ポルシェ959のライバルとして開発された288GTOは文句なくエレガントだった。F40は「エンツォ・フェラーリの遺作」としての価値を持ち、F50はF1の技術をそっくり投入、「最も過激な性能を持つフェラーリ」として我々の記憶にとどめる。
ではエンツォは?スタイリングの不評もさることながら、このスペチアーレには「特別な何か」が絶対的に欠けているのだ。
ということで、エンツォは今日ではテスタロッサと並ぶ「フォリゼリエ」の母体として格好の車となってしまった。
フォリゼリエは大富豪がメーカー、あるいはカロッツェリアに独自に注文する一点物の車という性質上、一般に知られることがあまりない。だが大富豪の中には「こんな車を所有している」ということを世間に自慢したい者もいて、ここに紹介する車は、まさしくそんな1台である。
- 真っ赤に塗られたフォリゼリエ・エンツォ(この車には正式な名前がないため便宜上、このように呼ぶことにする)。このデザインを担当したのは、読者にはお馴染みの風信子だ。
スーパーカーとは異なり、極限性能を追求するレーシングカーは個性を出しにくい。バブル時代「ジオット・キャスピタ」というレーシングカースタイルの国産スーパーカーが存在したのを覚えている人もいるだろう。お世辞にも「個性的なスタイリング」とは言えなかった。しかしながら、そこは風信子。しっかりと個性を打ち出している。真っ先に目につくのはエンジンフードの部分。V字形のエアダクトは後続車に対し自身の「勝利」を高らかに宣言する。
そして何といっても、リアフェイスが格段にカッコよくなった。オリジナルが女性的だとすれば、フォリゼリエは明らかに男性的だ。フォリゼリエ・エンツォは徹底的なまでに「後ろを走る車に見せつける車」なのだ。
- エンジンもまたはオリジナルとは明らかに雰囲気を一転させている。エンジン上部の黒いエアタンクが撤去され、代わりに高速道路のジャンクションの様にエンジンの左右にアルミ製のパイプが複雑に絡み合いながら走る。そしてパイプの先にはターボチャージャー2基とスーパーチャージャー2基。フォリゼリエという性質上、それらの改造パーツから社名は消されているものの、この手の車のエンジンを見慣れた者には、パイプや過給機に施された赤や青の塗装によって、これがドイツのK社でも使用されていたパーツであることが明らかだ。
K社によって改造されたテスタロッサ、通称「コンペティション」は390馬力のオリジナルエンジンから2,57倍の1000馬力を絞り出していた。単純比較はできないが、同じ比率でパワーアップしているとすれば、オリジナル・エンツォは650馬力であるから実に1670馬力に達することになる。
控えめに、このエンジンのパワーは「1300馬力である」と仮定しよう。それでも、このフォリゼリエ・エンツォは軽々と時速400kmの壁を越えていくに違いない。
エンジンクーリングの性能を高めるためだろう、フロントバンパーはオリジナル・エンツォよりも分厚くなったが、キャノピーの形状は理想的なティアドロップであるため、総合的な空力特性はオリジナルよりも優れていると思われる。
インタビュー・風信子社長 横田信子
―あなたのプロフィールをお聞かせください。
「昭和34年生まれ、千葉県育ち。若い頃は某新聞社で働いていましたが、30歳の時に独立、デザイン会社を設立しました。ちょっとした不手際からその会社を他人に乗っ取られてしまい、その後はしばらくの間、地元の老人ホームでヘルパーをしておりました」
―その老人ホームで、今のチーフデザイナーである碓氷氏と出会ったのですね。
「その結果、再び『起業精神』が沸き上がり、ふたりで風信子を始めました」
―最初はアパレルデザインが主だったのですよね。
「そうです。ですが、なかなか利益が上がらず、ギターデザインに手を染めることで、また活動の中心を韓国に移すことで苦境を乗り切ったのです。風信子というとカーデザインと思われる方が多いようですが、今でもギターデザインやアパレルデザインを手掛けています」
―風信子が「ニッポンを代表するデザイン企業」でないことをとても残念に思います。
「それは仕方がありません。ニッポンでは私たちの仕事は全く評価されなかったのですから。ニッポンは経済大国化して以降、保守的になり、変化や成長を求めなくなってしまいましたから。その点、韓国では、まだまだ新しい斬新なアイデアが広く求められています」
―今日のニッポンと韓国の関係悪化を、どう思われますか?
「『アメリカと中国の関係』にも同じことが言えますが、表向きは『安全保障上の脅威』を口実に経済制裁を行っていますが、本音は『相手国の経済成長を妨害してやろう』ということでしょう。アメリカもニッポンも既に『斜陽の時代』に入っていますから」
―今のニッポンやアメリカでは「保守勢力が台頭」しています。
「ニッポンもアメリカも保守的になればなる程、より『国は衰えていく』ということを知らなくてはなりません。ニッポンについていえば、ニッポンはもはや『アジアのリーダー』ではありません。小泉、安倍と二代続けて『器の小さい保守的な総理大臣』に国政を委ねた当然の報いです。経済力では中国、指導力では韓国の方が勝っています。現在のニッポンはその事実を素直に受け入れる必要があると思います」
―過去の歴史認識もそうですが、ニッポン人には『自分の耳に痛い事実』を直視するだけの精神的な強さがありません。
「ニッポン人の生命力は修羅界レベルにとどまり、人界レベルに達していないのです。これが『島国根性』というものなのでしょう」
―ニッポン企業の多くが今日、ボイコット運動によって「韓国からの撤退」を余儀なくされていますが、風信子は韓国で受け入れられています。
「それは私たちが大の『安倍晋三嫌い』だからです。明治政府の政策を礼賛する歴史観も、自衛隊という強大な武力を背景とする対話軽視の威圧的な安全保障政策も、いずれも私たちには到底、納得しがたいものです。例えば徴用工問題ですが、1965年に『ニッポンによる強制労働があった』ということを前提に合意したにもかかわらず安倍晋三は突然『ニッポンによる強制はなかった』と主張し始めました。明らかに韓国との合意を一方的に破棄する暴挙です。同じことが従軍慰安婦についても言えます。癒し財団設立の合意直後から『韓国の女性は自ら進んで慰安婦になった娼婦である』と主張し始めるなど、やり方が実に卑怯です」
―その安倍晋三が礼賛する「明治政府」について気に入らない点を「具体的」に挙げてもらえますか?
「幕末までのニッポンの伝統文化を軽んじた明治政府のおかげで、ニッポンの優れた文化財の多くがこの時代に一気に海外流出しました。それだけでも許しがたい国賊行為といえます。他にも『殖産興業』の美名のもと朱鷺の羽毛を使った羽毛布団の海外輸出を積極的に押し進めたのも許しがたいことです。その結果、ニッポンの朱鷺は全滅してしまいました」
―朱鷺の話は知りませんでした。
「朱鷺の専門書には必ず書かれていますよ。もともと朱鷺はめったに見られない『珍しい鳥』で、江戸幕府の積極的な鳥獣保護政策によって少しずつ増えたのです。そういう鳥ですから乱獲されればあっという間に絶滅することは目に見えていたのですが、明治政府は『金儲け』を優先したのです」
―オナラウッド研究所の珍柿監督は安倍晋三についてボロクソに酷評しています。
「知っています。『商業捕鯨を再開したのは自分の票田である地元・下関の漁業関係者への阿り』といった具合ですよね。それは『真実』だと思います。安倍晋三は『自国の利益が第一、自分の利益が第一』という人間の典型で、およそニッポンの総理大臣に相応しい男ではありません。ましてや『アジアのリーダー』など論外です」
―現在、ニッポンでは「桜を見る会」に関する騒動が起きているのは知っていますか?
「地元の有権者ばかりを招待していたのでしょう?あの男のやりそうなことですわ。あなたは知っていて?安倍晋三が総理大臣になってから毎年、ニッポン人からノーベル賞受賞者が出ていますが、それはスウェーデン政府と『10億円の資金援助』の約束を取り交わした『見返り』なんですよ」
―ニッポンのマスメディアは口を噤んでいます。
「でしょうね。ニッポンのマスメディアはどこもかしこも皆『安倍晋三の太鼓持ち』ですから」
―あなたにも、そう見えますか?
「クイズ番組をごらんなさい。出題される問題といえば『軍艦島』『伊勢神宮』『伊藤博文』『渋沢栄一』といった具合に安倍晋三が喜びそうなものばかりではありませんか。クイズという方法を用いてニッポン国民に安倍晋三の思想・哲学を刷り込ませているのですよ」
―文在寅大統領はどうですか?ニッポンのメディアは当然ながらボロクソですが。
「『文政権崖っぷち?』などという報道については、はっきりと『嘘』と申し上げられます。国民一丸となって『不買い運動』を展開しているのがその証拠です。『安倍晋三なんかに負けるものか!』と結束しているのです。むしろ経済危機はニッポンなのでは?」
―ニッポンからのビールの輸出は0%になってしまいました。デサントは韓国からの撤退を表明しています。パナソニックは半導体事業の売却を、ヤフーはLINEとの経営統合を発表しました。
「韓国では『脱日』が急速に進んでいます。ニッポンから輸入していた原材料を別の国から輸入するようにシフトしているのです」
―消費税が10%に上昇したことによる影響もあるでしょうが、ニッポンの10月の経済指数は明らかに下降しました。
「東京オリンピックが終われば、更に落ち込むでしょう。その時、韓国はもう『救いの手』は差し伸べないでしょうね」
―それは「バブル崩壊」の時のことを言っているのですね?
「バブル崩壊直後、ニッポンの大企業は自分たちが生き残るのに必死で、取引先の中小企業をバッサリと切り捨てました。その切り捨てられた中小企業に救いの手を差し伸べたのがサムソン電子をはじめとする韓国の大手企業でした。そこから本格的な日韓経済交流が始まったのです」
―そんな恩も忘れて安倍晋三は経済制裁を発動した。「自分の歪んだ歴史観」を韓国の人々に押し付けるために。
「ですから韓国の人々は本当に怒っているのです。『下剋上』や『だまし討ち』などニッポン人にとっては当たり前の行動ですが、韓国は儒教の国ですから、そうした『恩知らず』な行為は断じて許しがたいのです」
―その一方で、文大統領はGSOMIAを継続しました。ニッポンとの防衛協力関係は今後も続きます。
「韓国の大統領としてではなく『アジアのリーダー』としての判断を下したのです。『感情まかせ』に経済制裁を発動したニッポンの総理大臣、アジア全体の利益を念頭に『冷静な判断』を下した韓国の大統領、どちらが『人間としての器が大きい』かは明白だと思います」
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―フォリゼリエ・エンツォに関する開発エピソードについて、お聞かせください。
「この車は、さる外国の大富豪の注文品で『パワフルでレーシーな車に仕立ててほしい』ということでした。そして『K社と同じ手法でエンジンをパワーアップしてほしい』などの具体的な要求がいろいろあり、それらを取り入れた結果、あのような車に仕上がったのです」
―フロントバンパーがとても分厚いですね。
「オリジナル・エンツォでは、フロントラジエーターはランボルギーニ・ミウラのように水平に寝かせてあります。ですが、エンジンをパワフルに改造する結果『エンジンクーリング性能を高める必要がある』と判断、ラジエーターを立てることにしたのです。その結果、フロントバンパーを厚くする必要に迫られ、あのようなラッセルカー(除雪車)を思わせる顔になったのです」
―空力的には大丈夫なのですか?
「バンパーそのものの空気抵抗は確かに増えましたが、ラジエーターを抜ける空気の抵抗はむしろ減りましたので、トントンです」
―エンジンフード上のエアダクトがV字であるのは?
「あれは完全にデザイナーの遊びでしょう。クライアントにイラストを見せたところ大変、気に入っておりましたから」
―エンジンの改造は貴社で行われたのですか?
「いいえ。全てK社にお願いしました。わが社はデザイン企業であり、エンジンを改造するだけの施設はありませんので。『改造のノウハウが豊富なメーカーが行う方が良い』という判断です。ですからエンジンの組み込みはドイツで行ったのです。そして走行テストもドイツで行いました」
―ニュルブルクリンク?
「そうです。満足のいくタイムが出たと聞いております」
―フォリゼリエは今回が初めてですか?
「実のところ既にもう1台、完成しております」
―それもフェラーリが母体ですか?
「いえ。ブガッティです」
―ブガッティですって!?
「オリジナル・ブガッティのデザインを気に入らない人もいるのです。リアエンジンをフロントエンジンに変えてあります」
―それはまた大胆な改造ですね。
「こちらはエンツォとは一転、社交場に乗り付けても全く違和感のない、落ち着いた外観の『大人のクーペ』に仕上がっています」
―あなたの会社は順調ですが、近年、カロッツェリアはどこも経営困難に見舞われています。
「社内にデザインチームを設立して自社開発を進めるメーカーが増えていることは事実です。そしてその理由がオリジナルデザインを追求するためではなく、他社のデザインを盗用するためであるということも。ある企業、仮にHS社としましょう。HS社が苦心の末に今までにない車を開発、『新たなる顧客層を開拓した』とします。するとライバル企業のTD社の社長は社内のデザインチームに対し、次のように命じるわけです『HS社の製品と同じ車をつくれ!』。その結果、HS社のヒット商品にクリソツの車が『後出しジャンケン』のようにTD社から発表され、HS社は『顧客をごっそりと奪われる』といった具合です」
―ありそうな話ですね(笑)。盗用が目的ならば何もカロッツェリアに外注する必要はないですものね。
「そういうことになります。ですが、そういう悪質な企業ばかりではありません。オリジナリティのあるカーデザインを訴求するメーカーは世界中にあります。要はデザイナーの実力次第です。実力のあるデザイナーを要するカロッツェリアであれば経営が悪化することはないのです。ベルトーネやピニンファリーナの経営が悪化したのは経営上の問題ではなく単純に『デザイナーの実力が低下した』からです。ガンディーニやフィオラバンティであれば今の時代であっても経営は順調の筈です」
―一概にそうとも言えないのでは?イタルデザインでさえも今やアウディ・フォルクスワーゲングループの子会社です。
「それはマエストロ・ジュジャーロが是が非でも『ブガッティのデザインを担当したかったから』で、経営難から子会社になったわけではないと私は考えています」
―過去は独立した会社だったスーパーカーメーカーも、今ではほとんどが「大メーカーの子会社」となり、外部のカロッツェリアがデザインを獲得することができなくなってしまいました。
「フェラーリはフィアットの、ランボルギーニはブガッティと同じグループの一員。ですから私たちは『スーパーカーデザインのエキスパート企業』でありながら一度もこれらの企業からデザインの依頼を受けたことはありませんし、今後もないでしょう」
―風信子の今のチーフデザイナーは碓氷充馬ですね。
「ええ。彼は本当によくやってくれています」
―私もそう思います。そこで一つ思うのは、彼ならば「ひとりで仕事ができるのでは?」ということです。彼が風信子を去り、フリーランスになる危険は考えられますか?
「それはありません。なぜなら彼は人付き合いが『大の苦手』なのです。ひとりで黙々と仕事をこなすことを好み、営業活動が大嫌いです。その部分を私がやっています。彼は才能あるデザイナーですが、彼ひとりでは仕事を取って来られないのです」
―それを聞いて安心しました。
※
―企業経営者として日頃から「心掛けていること」は何かありますか?
「それは企業として『有名になりすぎないこと』そして『大きくなりすぎないこと』です。先程も出たオナラウッド研究所の珍柿監督によれば、企業の生涯は『零細企業(幼年)→中小企業(青年)→大企業(壮年)→腐敗による倒産(老年)』であり、大企業への成長はそれ自体が既に『倒産への一里塚』なのです」
―私もこの説は知っています。「ひとりの『やる気のある人物』によって起業した企業は、その人物の才能によって中小企業へと発展。すると『優秀な人材』が集まるようになり、やがて大企業へと成長する。ところが大企業になると『大物政治家の息子』や『資産家の娘』といった人間を才能ある人材よりも先に雇用しなくてはいけない状態に陥り、企業は腐敗。『不祥事』の頻発によって社会的信用を失い、最終的に倒産に至る」。
「ですから私は風信子をいつまでも『青年』でいさせようと考えています。枯れた壮年ではなく、向上心溢れる青年の状態のままにです」
―「カネコネ人事」から企業が腐敗するのを防ぐためですね。大企業や有名企業はカネコネ人事が避けられない。
「カロッツェリアの要は何といっても『優秀なデザイナー』の存在ですから、そのポストをカネコネ人事によって決定することなど考えられません。ニッポンのテレビ局のアナウンサーとは違うのですから『有名人の息子』とか『資産家の娘』といった理由を重視して無能な人物を起用することは自殺行為です。自殺行為といえば、メーカーとの契約の際に『協力関係を秘密にしていただきたい』といった類の要求を呑むことも、やはりカロッツェリアにとっての自殺行為といえます。自社のアイデアを『自社のアイデアである』と主張できなくなるのですからね。それだけ自社の『デザイン能力の高さ』を世間に示せなくなってしまいます。過去には幾多のカロッツェリアがこうした不条理な契約をメーカーと結ばされましたけれども、徐々に『真実』が暴かれつつあるのはいいことです。社内デザインとされていたものが実は『某カロッツェリアによるもの』だったと明らかにされることは、そのカロッツェリアにとって本来、得ていて当然の名声を回復することに他なりません」
―協力関係を秘密にすることについては著作権や特許権といった問題も絡んでくる。
「それもありますが、やはり『デザイナーのモチベーションが下がってしまうこと』が最大の問題でしょう。デザイン企業はデザイナーを常に『自分の行った仕事を堂々と誇れる環境』に置いておくべきです。ですから私たちは隠さなければならない仕事は引き受けないようにしています。その結果、獲得できたはずの仕事を獲得できないこともありますが、それは『想定内の出来事』と思っています」
―1点物のフォリゼリエの場合でも、ですか?
「そうです。『どこどこの大富豪による依頼』といった類のプライバシーに関する事柄については当然、隠しますが、『こういう車をデザインした』という事実については隠しません。ですから『こういう車を所有している』という事実そのものを隠したい大富豪はひたすらガレージの中にしまっておくことをお勧めいたします」
インタビュー・風信子チーフデザイナー 碓氷充馬
―プロフィールをお聞かせください。
「昭和44年生まれ、千葉育ち。専門学校卒業後(本当は都内の私立大学卒だが、某東大卒弁護士から「東大以外は専門学校」と愚弄されて以降、専門学校卒を名乗っている)は成田空港や地元の図書館などで仕事をし、さらに老人ホームでヘルパーを5年間やった」
―その時、今の社長と出会ったのですね。
「夜勤の時は毎朝、お手製の弁当を持ってきてくれたり、当時から非常に世話になった。自分の描く絵画も高く評価してくれ、そうしたことから一緒に会社を設立することになった」
―最初はアパレルデザインが主でしたよね。
「自分の彼女に『着せたい』と思うようなものをデザインしていたのだが、それがニッポン人の好みとは合致しなかったようで、まったく売れなかった」
―その後、ギターデザインを始めた。
「というより、昔のデザインを再び掘り起こした。専門学校時代、自分はロックバンドを組んでいて、その頃、盛んにオリジナルギターを制作していたんだ」
―それが韓国に認められ、その後は韓国を主戦場とするようになった。
「社長がたまたま韓国人の秘書(現在の夫人)を雇った関係で韓国にクライアントを求めたところ、直ちに見つかった」
―カーデザインを始めたきっかけは?
「社長の気紛れ。というか、デザインの幅を広げないことには利益が上がらないという判断から、カーデザインに手を出してみた」
―そしてエターナルが生まれた。
「『はじめて』の量産車にしては恐ろしく良くできている。自分で言うのもなんだがね」
―今後、発表予定の車について聞きたい。
「メーカーからの依頼については当然ながら極秘だ。風信子が独自に設計開発しているものとしては『21世紀のDS19』をテーマにしたコンセプトモデル。今度のパリサロンで発表する予定だ。全長5mを超える本格的なフォーマルセダン、といってもフランス車だから5ドアハッチバックだけれど・・・ま、とにかくメルセデスSクラスやBMW7シリーズに対抗できるモデルだよ。社内では『陸の鯨』と呼んでいる」
―社長から「ブガッティのフォリゼリエ」の話を聞いたのですけれど。
「21世紀のDS19に通じるデザインだ。同時期に制作したのだから当然だな。キャノピーは白で、ボディは黒。お尻のデザインが特にDS19に似ている。要するに昔のポルシェ911のように尻下がりで、テールランプが地面すれすれのところに横一列に配されているんだ」
―フロントエンジンの車だそうですね。
「リアエンジンをフロントに載せ換えた。理由はエンジンクーリングの関係から。オリジナルのクーリングが少ないというわけではなく、エアインテークを減らしたかったんだ。やたらと大きなエアインテークは、凄味はあるけれど下品でもあるからね。ブガッティには上品であってもらいたい。あと当然ながら、オリジナルの悪趣味な室内デザインは変えてある(笑)。アルミをゴテゴテ使用せず木目を主体にデザインし直した」
―最近はアルミ加飾がブームですよね?
「走行中に太陽光が反射して眩しかったり、まったく実用的ではないのだがね。私に言わせれば安易に高級感やスポーティーさを狙った『安っぽい虚飾』だよ」
―ハンドルについて。風信子デザインの車はすべて「ウッドハンドル」だ。少なくとも今のところは。
「革よりもウッドの方が好きなんだ。なぜなら『ギターのネック』と同じ感触だから」
―ギターデザインを手掛けていたがゆえに、ということなんですね。
※
―ニッポン人ドライバーのマナーが悪化しています。
「スピード違反もそうだが、あおり運転の最大の理由は、そもそもそういうドライバーは『車の運転が好きではない』んだ。車の運転を『苦行』にしか感じられないドライバーが一刻も早く目的地に到着して運転席から降りたい、運転から解放されたいと思うのは当然のことだ」
―そういうドライバーがニッポンでは「増えている」のですね。
「僕の眼から見て、ニッポン人は日を追うごとに『忍耐力』がなくなっている。昔は我慢できたことでもどんどん我慢できなくなっている。すぐにイライラしてしまうんだな。いつだったか、こんな記事があったよ『SNSに投稿される映像は20分くらいが普通で、それに慣れている人は2時間の映画に耐えられず、20分もすると映画鑑賞そっちのけでスマホをいじり始める』ってね。恐ろしいことだ。今のニッポンでは、こんな人間たちが車の運転をしているのだからね」
―ながらスマホは無くなるどころか増える一方です。
「道を歩いている時に周囲の状況に注意を払うよりも、スマホを見ている方が圧倒的に脳を働かせなくて済む。頭の働きの鈍い人間がスマホを常用するのは、脳の負荷を軽減するための『自衛的行動』だ。だから『危険だから止めろ』といったって止められない。止めるだけの『能力がない』んだ。このような人物から仮にスマホを取り上げたところで、かえってイライラさせるだけだ。周りの状況を絶えず観察して、それらを分析すること自体、脳に対して非常に負荷のかかる行為であり、昔の人にとっては簡単なことだったのだが、便利道具に慣れ親しむ現代人にとっては非常に大変な作業なんだ」
―運転マナーの悪化の「根本原因」は実に深刻なんですね。
「だから単に『道交法の厳罰化』を行ったくらいでは何の効果もない。自分の脳を長い時間にわたって活発に働かせておくことのできるだけの強い忍耐力や集中力を養う必要があるんだ」
―最近は「片手12時ハンドル」のドライバーも増えています。
「理由は不明だが、頭の働きが鈍くなると人間は脇の下が甘くなる。12時ハンドルは脇の下を大きく開くハンドルの握り方の典型的なもので、それ故に頭の働きの鈍いドライバーは無意識のうちにそういうハンドリングをしているんだ」
―スポーツでも脇の下が甘い選手は「試合に弱い」です。
「語源となった相撲はもとより、野球のバッティングやゴルフ、剣道なども脇の甘い選手は決して上達しない」
―「脇を閉める」ことは非常に大事です。
「車の運転の基本は脇をしっかりと閉めて、常にハンドルを腕で押し込むようにして握り、背中をシートバックに強く押し当てること。そうすることでカーブでも体がシートからずれない」
―近年では後頭部や背中をシートから浮かす『前傾姿勢』のドライバーも少なくありません。
「これは『ミニバンブーム』とも関連している。ミニバンはセダンよりも着座位置が高く、セダンよりも遠くがよく見える反面、手前の死角は大きい。だから前に乗り出して『手前を見よう』としがちになるんだ。そしてそれが『あおり運転』を助長しているのさ」
―車の形態が運転マナーの悪化を助長しているんですね。
「ともあれ片手12時ハンドルほどハンドル操作を誤る確率の高い『危険な運転』はない。最近のニッポンでは『直線道路でハンドル操作を誤る事故』が頻発しているけれど、おそらくはこれが原因だ」
※
―カーデザイナーを目指す人々に何か言いたいことはありますか?
「まずは技術論から。カーデザインに限れば、イメージイラストからデザインをスタートさせるのは絶対に止めるべきだ。イメージイラストではいくらでも『かっこいいデザイン』ができるが、それを具現化するのは容易ではない。カーデザインの場合、四面図からスタートしなくてはいけない。四面図を基にクレイモデルをつくり、クレイモデルからイメージイラストを作成するのが『正しい手順』なんだ」
―同じようなことをジュジャーロやガンディーニも語っています。
「ニッポン人デザイナーの作品が『縦・横・高さ』の比率の何とも悪いアンバランスな車ばかりである理由はイメージイラストからスタートするからだ。イメージイラストの車は大概かっこよくて、エレガントだ。だが、そんなものを実際に制作することはできない」
―最初から「制作できるものを考えろ」と。
「そういうことだ。そのためにも最初から四面図でアイデアを考える能力を身につけることを勧める。だからデザイナーは『幾何』に強くなくてはいけない。図面が立体になった時の線の形や位置関係を頭の中で正確に把握できていないことには図面は引けないからね」
―ギターデザインでも基本は一緒?
「ギターデザインについていうと、ギターは事実上の平面物で、ザクリの深さや形などは共通しているから極端な話、平面図だけあればいいのだが、それでもやはりイメージイラストからスタートすると、それを図面化するとき大変な苦労を伴うことになる。今もあるのかな?昔、ヤングギターという雑誌に『僕の考えたオリジナルギター』というコーナーがあり、優秀作は実際に制作してくれるのだが大概、イメージイラストとは似ても似つかぬ『不格好な代物』になっていた。応募はがきに描かれたデザインは縦横比の出鱈目なイメージイラストに過ぎないからだ。勿論、美的センスに長けたギタービルダーであれば可能な限りイメージイラストの持っている美しさを崩すことなく上手に補正して完成作を仕上げるだろうが(笑)。でも、やはり最初からボディの縦横比やパーツの大きさが正確な図面を描く方がいいに決まっている。その時点で『美しい』ならば補正する必要がないのだから。ということで、私はこういうものを作成している(といって、ネックとブリッジが印刷された紙を見せてくれる)。これは前もってネックと弦とブリッジだけが紙に印刷されたもので、丁度1/6の寸法になっている。したがって、これにボディやコントロールノブを書き入れれば直ちに縦横比の正しい1/6の図面に仕上がるという寸法だ」
―便利ですね。
「プロは失敗作も含めて沢山仕上げるから、こういう工夫も必要なのさ。で、次に精神論だが、こちらの方がより重要だ。なぜなら純粋芸術は勿論のこと、工業デザインであっても必ず作者の『人間性が現れる』からだ」
―工業デザインに現れる人間性に関する具体的な例を教えてください。
「自分は特にスーパーカーをデザインする時には『スーパーカーの傑作』をものにしたときに得られるだろう自身の富や名声のことなど一切考えていない。自分が考えているのは、それを見る子供たちの笑顔だ。『かっこいいなあ』といいながら走り去る姿を眺める子供たちの姿だよ。だからこそ自分のデザインするスーパーカーは魅力的なんだ。一方、最近の高級車はどれもこれも満足しているのは乗っている本人だけで、その車が走り去るのを見た周囲の人々を、かえって不愉快な思いにさえしている。それはデザイナーの人間性が『下劣』だからだ。デザイナーの功名心や金銭欲が車を『金持ち自慢の具』にしてしまい、それが周囲の人々を不愉快にさせるんだ」
―デザイナーには「高い人間性」が求められるわけですね。
「この原理は別にデザイナーに限った話ではない。一流の仕事は一流の人間性を備えた人間の手からしか生まれないのは、いかなる仕事でも同じだと思う。一流の仕事を達成する上で重要なのは世のため人のために役に立つ仕事をするのだという『高い志』であり、高い学力が全く意味をなさないことは最近流行りのインテリ芸能人を見ていれば明白だ。彼らは名門大学を卒業し、大いに博識ではあるが『上から目線』でしか物事を見ることができない志の低さゆえに『クイズ王』などという三流人間の称号を手に入れることに夢中になり『後世に残る立派な仕事』ができないまま一生を終えてしまう」
―あなたは「エターナルの生みの親」だ。
「『ローズベイの生みの親』でもある」
―こうした才能を、あなたはどうやって手に入れたのですか?
「『庶民目線で一流の人間を尊敬すること』これに尽きるね。だから『自分が一番だ』と驕り高ぶって上から目線でしか物事を見ない人間は、その時点でもう『おしまい』なのさ。自分はカーデザイナーとしてマルチェロ・ガンディーニ、ジョルジェット・ジュジャーロ、フラミニオ・ベルトーニを、ギターデザイナーとしてレオ・フェンダー、テッド・マッカーティを常に尊敬し、目標としてきた。即ち一流の仕事をした人たちをね。『クイズ王』なんか尊敬したことは一度だってないよ(笑)」
―現代ニッポン人は尊敬する人間を「間違えている」。
「学力を鼻高々に自慢しているだけの本来、軽蔑すべき『衒学人間』を尊敬する。これほど愚かな誤りはない」
―学力は「自慢の道具」にはなり得ない。なぜなら、それらは既に教科書や辞書を引けば載っている事柄で、多くの人々によって既に「知られているもの」だからだ。
「自分が本当に誇れるものといえば、自分の頭をひねって生みだしたもの、自分以外は誰も知らないもの、つまりは自分が『発見した法則』や『発明したアイデア』だけだ。そしてそれらを実現するために人は勉強するんだ、本来はね。ところが現代ニッポン人は富や人気を手に入れるために勉強する。だから大人になっても学生気分が抜けないまま『学力自慢』などというバカバカしいことをして粋がっているわけだ」
―番組の司会者が既に答えを知っている事柄を必死になって解答して、司会者から「さすが」と褒められて喜んでいるなんて幼稚ですよね。しかも問題が「小・中学生用の教科書から出題されたもの」であれば尚更です。
「現代ニッポンにおける学習成果とは『どれだけ多くの知識を頭の中に詰め込んでいるか』であり『既存の知識を土台にして新しいアイデアを生み出せるかどうか』ではないんだ」
―今のニッポンが低迷しているのは、新しいアイデアを生み出さず、既存の知識をひけらかして大威張りしている「創造力のない人間」ばかりだから。
「それでも知識が豊富であるならばまだいい方で、大概の連中は肩書ばかり一張前で、学力の方はまるでなってない」
―「知恵者気取り」で頻繁にテレビ出演している現役東大生が「桃太郎は広島県」と思っていたり、東大OBが「凝縮」という小学生レベルの易しい漢字を書けなかったり、数え上げればキリがない。
「ニッポンの子供たちは、そういう口ばかり達者な大人たちの姿を見て『どう思っている』のだろう?」
―正直「大人って馬鹿だなあ」と思っています。小学生の子供から「小学校に戻って勉強し直した方がいい」とまで酷評される大人たちも大勢います。
「だが、その一方で『漢字が得意な大人』とか『英語が得意な大人』などが子供たちから尊敬を集めるのも、これまた問題だ」
―「自画自賛のタカビーな性格」こそが、今のニッポンの大人たちの「最大にして最悪の問題点」なんです。
「正直な話、ニッポン人の話は額面通りに受け取れない。韓国人はできないことは『できない』、知らないことは『知らない』と正直に告白するが、ニッポン人はできもしないことを『それ、チョー得意♡』、知りもしないことを『自分は全知全能だから何でも知ってるー♡』などと平気で言ってのける」
―そうした性格を「前向き」と考えるのが、今のニッポン社会ですから。
「私に言わせれば、それは前向きではなく『嘘つき』だ。なぜなら『事実と異なる』のだから。ニッポン人は『賢い人間になる』ことよりも『正直な人間になる』ことの方が遥かに大事であることを知るべきだ」
2月号
セダン復権? 風信子、新型セダン2種を発表
SUVやミニバンといった背の高い車が人気の昨今、セダンの車種が減少しているのは実に寂しいことだ。後ろに独立したトランクを持つセダンは構造的に頑丈な設計にしやすく、SUVやミニバンでは味わえない「走りの剛性感」があるとともに、後ろからの追突事故にも当然、強い。近年、前方不注意による追突事故による、追突された車の後部座席に乗っている人の死亡事故が多発している(後ろにトランクがないのだから当然だ)ことを思えば、家族を安心して乗せることのできる車は「やはりセダン」と思わずにはいられない。
こうした現状をいち早く察知したのだろうか?カロッツェリア・風信子から新型セダンが発表された。しかも2台!
1台はコンセプトモデルで、テーマは「21世紀のシトロエンDS19」。もう1台は来春から販売される予定の韓国・H社のニューモデル。
今回はこの2台についてスクープする。
※
初代DSシリーズは1955年に登場したDS19を皮切りにDS23まで、20年間に渡り製造され、1999年に行われた「カー・オブ・ザ・センチュリー」では堂々の3位入賞を果たした名車中の名車の1台(ちなみに1位はT型フォード、2位はミニ)。この傑作中の傑作を「現代的に解釈する」ことの困難さは、例えばシトロエン自身が過去に発表した「C6」において既に証明済みである。だが大胆にも風信子は今回、敢えてその困難に挑んだのである。
とまあ、難しい説明はここまでにして、車を見て行こう。
- その全長は5mに達し(オリジナルは4800mm)、メルセデスベンツSクラスと渡り合える堂々たるサイズ。色が黒いこともあり、まさに「陸を走る鯨」といった印象だ。オリジナルのDSは独立したトランクを備えていたが、こちらはハッチバックスタイル。いうまでもなくシトロエンCXやMX、ルノー25やサフランなど、フランス車にはハッチバックスタイルを採用するプレステージサルーンが多く(シトロエンCXは、見かけはハッチバックだが実は独立トランク式)それに倣った格好だ。テールランプが下に一列に並んでいるのはオリジナルと共通。オリジナルの特徴であるCピラー上部の通称「トランペットウインカー」も採用されているのが嬉しい。
- Cピラー付け根の処理が斬新。シルバー加飾はオリジナルと同じだが、コンセプトモデルではトランク容量を増やすため(プレステージサルーンのトランクはゴルフバッグが4つ入ることが基本)にベルトラインを、Cピラーを境に変更しており、その処理が見事なのだ。このデザイン処理は単に見てくれを良くするだけではない。この結果、後部ドアのサイドガラスはサッシレスの一枚ガラスであるにもかかわらず全開にできるのだ。これはリアドアに施されたシルバーアクセサリーによってサイドガラスの後方下部を大きく切り取れるためリアタイヤのホイールアーチに接触しないからで、こうした丁寧な処理は「さすがは風信子!」である。
ダッシュボードはDSのイメージに違いないが、むしろ「SMに近い」といえる。艶消しシルバーのダッシュパネルがそう思わせる理由。ハンドルは勿論「一本スポーク」。ダッシュボードの湾曲は、まるで「落花生の殻」のよう。個人的には最新のDS3クロスバックに採用されたトラス(ダイヤ模様)をあしらったダッシュボードがクールだと思うが、クラシカルという点ではこれも悪くない。
運転席のペダルがこれまた泣かせる。ブレーキペダルが吊り下げ式ではなく、床から生えた丸形ペダル、通称マッシュルームなのだ。といってもオリジナルDSの様に「おゆるり」と踏まないと直ちに急ブレーキになってしまうといったシビアさはない。ABSが介入するからだ。
VIPカーであるから当然、後部座席は広々としている。足元はどんなに足を伸ばしても前席に届かない。シートもふかふかとしているフランス車式だ。
ホイールベースとトレッドの寸法は「オリジナルDSと全く同じ」だという。ということは後ろのトレッドは前のトレッドよりも20cmも少ないことになる。真上から見ると、前が広く、後ろへ向かう程、車幅が狭くなっているのがわかる。こうしたことから、この車にはVIPカーに相応しい直進安定性が備わっている(フロントよりもリアのトレッドが広い車は幅寄せ時にリアのホイールハウスを壁に接触しやすいだけでなく、昔のオート3輪のようにカーブで転倒しやすくなる)ことは間違いない。
いうまでもなくシトロエンは自動車界に革新のアイデアを次々ともたらすメーカーだ。そうした歴史に敬意を表したものか、風信子もいろいろなアイデアをこの車に盛り込んでいる。
例えば、荷室のスロープ機能。まるでダンプカーの荷台のようにボタン一つで傾斜する。腰を曲げて奥まで手を伸ばさなくても奥にある荷物が自分から手前にずるずると滑り落ちてくるという仕掛けだ。かつてリンカーンのショーモデルに荷室の床を二枚重ねにして上の床をレールで手前にスライドさせるというものがあったが、駐車スペースの後方が広くないと使えないという問題があった。だが、これならば問題ない。これを見ていて私は思わずマツダ・ボンゴフレンディの「オートフリートップ」を思い出してしまった。間違っても小さい子供を載せて作動させてはいけない。
メカニズムにおいては「ハイドロ・ニューマチック」は当然のこと「センターピボット・ステアリング」も採用している。これは原理としては「キングピン軸の延長戦が路面の接触面の中心点を通過する」というもので、実際の効力としては、たとえタイヤが高速走行中にパンクした場合でもハンドル操作を誤ることなく安全に停止ができるという優れものだ。過去のシトロエンでは当たり前だった。現代の車は「安全」をことさらに強調するが、ならばなぜ、このアイデアを採用しないのか不思議である。「衝突安全の強化」は確かに安全に寄与するものであるが、高速道路を走行中にタイヤがバーストしても安全に停車することができる特性もまた車の安全にとって重要なはずである。
※
H社のニューセダン「ウォーターサン(水と太陽)」には1980年代にニッポンを一世風靡したハイソカーでお馴染みの白い塗装が施されている。リアの丸形テールランプは見るからに「走り」をイメージさせる。丸形ランプといってもフェラーリやいっときのスカイラインとは異なり、丸形ランプの間に四角いバックランプを挟むことで「差別化を図っている」ところが、いかにも個性を重んじる風信子らしい。
- だが、やはり何といってもまず目につくのはリアガラスの造形だ。まるでランチャ・ストラトスのフロントスクリーンのように大きくUの字に湾曲している。こうしたリアガラスはかつてベルトーネに在籍したフランコ・スカリオーネが得意としたもので、初期のランボルギーニがその代表例である。この点について碓氷充馬氏曰く「Cピラーの位置とリアガラスの先端部の位置をずらすことでトランクを長く見せる効果」を狙ったのだとのこと。なるほど、確かにリアガラスの中央部分のトランクは短いが、Cピラーの付け根の位置のトランクは長く、全体としてトランクは短く見えない。碓氷氏によれば、セダン衰退の原因の一つに「1990年になってからトランクを短く見せるデザインに移行したこと」があるという。その結果、セダン特有の伸びやかさが失われたというのだ。
確かに「一理ある」かもしれない。ミニバンとタメを張る様にホイールベースを伸ばし「室内長を伸ばす」ことで室内の居住性を改善しようとした結果、セダンはセダン本来の伸びやかで美しいスタイリングを失ってしまったのだ。
そこで今回、碓氷氏は、ホイールベースは長いままでトランクが長く見えるデザインを採用したのである。
後部座席に乗ってみる。思ったほど窮屈ではない。大人3人が充分に座ることができる。リアを絞り込むボディデザイン上、リアシートの座席幅は狭いはずだが、1800mmを超えるボディサイズのおかげだろう。足元に広がるフロアは広く、実に快適な空間が用意されている。居心地は3列シートのミニバン中間席よりも明らかにいい。背後に広い空間がない分「背中を守られている」という安心感があり、エアコンの効きも当然、速い。
トランクを長く見せる効果は確実に「サイドシルエット」の美しさに繋がっている。1980年代までのセダンが持っていた「セダンの美」がこの車には備わっている。それをさらに引き立てているのが「4ライトウインドウ」即ちリアガラスにサッシがないことだ。それに対し、例えば現行クラウン。Cピラーにクラウン初となる「ジャガーXJもどき」のクォーターウインドウを配し、おまけにリアガラスにサッシがあることからサイドガラスが4分割された「8ライトウインドウ」なのだ。見るからに「古臭い」と感じられる部分で、デザイナーの技量の低さが端的に表れてしまっていると言ったら厳しい意見だろうか。低価格車ならば仕方がないが、高級車でこれでは正直、酷い。デザイナーにはもっと真面目に仕事をしてもらいたいものだ。
ダッシュボードはセンター上部に大型ディスプレイを配置する今では当たり前のものだが、運転席正面のフェイシアがリアガラス同様、Uの字に湾曲しているのが面白い。しかもそれは横長の液晶パネルで構成されており、液晶パネルの左右部分に表示される計器類は運転席から見ると真円だが、助手席など横から覗くと縦に潰れた楕円形に見える。ホルバインの名画「大使たち」の足元に描かれた髑髏をおもわせる「アナモルフォーズ」の手法であり、スマホ用ディスプレイの技術で世界をリードする韓国ならではのアイデアだ。
ウォーターサンの外形寸法は「全長4875mm、全幅1820mm、全高1450mm」。これは現行クラウンの「全長4910mm、全幅1800mm、全高1455mm」に近い。現行クラウンが直接のライバルであることは明白である。
だが一方で大きく異なる点も。それは最低地上高が「200mm」あることだ。つまり、この新型セダンは「セダンの皮を被ったSUV」なのだ。実際、駆動方式は全車種4WDである。「SUVを選択する前に今一度セダンを考えてみては?」という声が聞こえてくる。
というわけで、想定されるライバルとしてはメルセデスベンツC&EクラスやBMW3&5シリーズだけでなくメルセデスベンツGLEやBMW Ⅹ4といったSUVも含まれることになる。
グレードは「イーター」「スリーパー」「プレイヤー」の三つ。クラウンで言うところの「アスリート」「ロイヤルサルーン」「デラックス」に該当する。エンジンはイーターにはエターナルから移植した500馬力エンジンが搭載され、スリーパーには280馬力、180馬力、108馬力の三種、改造車の母体となるだろうプレイヤーには180馬力のみがそれぞれ搭載される。売れ筋となるモデルはやはり108馬力エンジンを搭載した「スリーパー」だろう。外装も内装も280馬力モデルと全く変わらない。価格は純粋に「エンジンの違い」である(ちなみに価格はプレイヤーと同じ。エンジンを採るか、装備を採るかという選択になる)。国産車のように「充実装備が欲しければ高性能エンジン車を買え」といった商売をしないところは良心的だ。イーターは当然、メルセデスAMGやBMW Mシリーズがライバルとなる。シームレスエンジンならではのメンテナンスフリーが売り物。そして何よりも値段が安い。AMG C63S(510馬力)の1426万円、M3コンペティション(450馬力)の1280万円に対する808万円はバーゲンプライスであり、イーターはその名の通り、これらのハイパーセダンを「食ってしまう」に違いない。或いはより上級モデルであるAMG E63S4マチック(612馬力・1858万円)やM5(600馬力・1737万円)を購入候補に挙げているユーザーにも検討を促すかもしれない。
- 後日、我々スタッフはウォーターサンを実際に走らせる機会を得た。用意されたグレードは売れ筋の108馬力スリーパー。ということで絶対的な動力性能よりも乗り心地やエンジンの吹き上がりなどが主な確認点となる。
電気モーターがサポートしているからだろう、スタートは108馬力とは思えないほど素早い。そして乗り心地はニッポン車に近い、つまり「柔らかい」。絶対性能を求めていない、実用域での乗り心地を重視したセッティングだ。
エンジン音は静かだ。室内の防音がしっかりしているのだろう。だがアクセルを踏み込んだ時のエンジン音は決して小さくない。といってもその音は実に「シルキー」なもので決して耳障りではない。これは直6エンジンゆえのメリットで、V6エンジンではこうはいかない。
改めて説明するまでもないが、直6エンジンのメリットは完全な「バランス型エンジン」であること、そしてV6のようにピストンが傾斜していないため、ピストンリングの「片摩耗がない」ことだ。その結果、長期間、初期性能を保証できる。近年はV型エンジンが流行りであるが、全てのピストンが地球の重力に対して垂直に動く直6エンジンはエンジンの構造として「理に適っている」のだ。
タウンライド(街乗り)では不満点は見つからない。今や4WDといってもハンドルの切れは2WDと変わらない。外観こそ1980年代セダンだが、室内はずっと広く快適だ。軽乗用車の合理的パッケージングが活かされている。室内の質感もいい。かつてはダッシュボードやシートをエグい「ワインレッドカラー」や「マリンブルーカラー」にすることで高級感を装い、数年もして日焼けするとたちまちチープになってしまったものだが、この車はそんなインチキはしていない。スイッチ類も繰り返し押したら文字が消えてしまうような代物ではなく、夜間には文字が光る様になっている。
一般道をそれて山道を走る。ボディ剛性は「さすがセダン」で、いかなる凸凹にもボディは軋み音ひとつあげない。この日は雨上がりで未舗装道路はぬかるんでいたが、通常の4WDモードでも走行不能になる心配はまるでない。走行モードは「SUVセダン」を自認するだけあってセンターコンソールにダイヤル式のグリップコントロールを備え、脱輪時の脱出の際には4輪を完全にロックすることも可能だが、それを使用する機会は最後までなかった。
先行する形で、私たちは放送予定の「CM」を見せていただいた。そこでは後方から大型トラックが突っ込んでくるテスト映像が用いられ、それでも後部座席の安全が確保されている点を主張するもので、乗員保護に対する「セダンの優位性」を強調する内容であった。
確かに、現代はミニバンやSUVが人気で、セダンは低迷である。が、セダンにはセダンならではの長所があり、それを改めて人々に知らしめるCMには我々も心から賛同するものである。特に最近のニッポンでは「あおり運転」が大きな社会問題となっており、リアガラスの後ろにトランクのあるセダンは、仮に後ろからあおられても、後ろの車に接近されることによって生じる恐怖感が「より少ない車」なのであるから。
3月号
風信子から2台の全く性格を異にするスポーツカーが発表された。
一方は重量級かつ1点物のフォリゼリエ。もう一方はライトウェイトの量産品。エンジンの搭載位置も前者はフロントで後者はリアだ。
2台を同時に見ると、その大きさはまさに「大人と子供」だ。全く性格の異なるモデルを同時期に仕上げるとは、実に驚きの仕事である。
フォリゼリエの方は、かねてから話に上っていたブガッティ・シロンを母体とするものである。発注者の名前は「最重要機密」扱いで公表されていない。価格もまた謎だが「4億円!」というのが専らの噂である。まあ、母体となっているシロン自体が3億円の超高級スーパーカーなのだから、当然と言えば当然だ。
その外観は「端正」の一言に尽きる。
リアに収まるW16気筒エンジンをフロントに乗せ換えた結果、エアインテークを大幅に少なくすることに成功している。フロントマスクとフロントアンダーインテークから冷気を取り入れ、フロントホイールの後方に設けられたスリットから暖気を抜くだけの、実にすっきりとしたものに仕上がっている。オリジナル・シロンの、レーシングカーまがいの仰々しいエアインテークに塗れた姿はここにはない。フロントやリアから眺める限り、この車は並々ならぬ高級感を別にすれば「普通の車」とさほど違いはない。
- しかしながら横から見た時、この車が「普通ではない」ことがわかる。フラッシュサイド(プレーンなボディサイドのこと。現代の車の主流)を完全に放棄したフロントフェンダー後半部からリアフェンダーに至る立体的かつ流線的な造形は、まさに1930年代に流行したデザイン。しかもリアホイールは完全にリアフェンダーカバーによって覆われ、外からは見えない。このように風信子は21世紀のスーパーカーにあえてクラシックカーのデザインを採用したわけだが、その効果は極めて絶大だ。この車には「クラッシックカー」と「未来の車」両方の雰囲気が備わっている。思えば、ランボルギーニ・カウンタックやシトロエンBXといったガンディーニ作品もリアタイヤを部分的に隠すことで「未来感」を巧みに表現していたものだ。
色は2トーンに塗り分けられており、下は黒、上はグレー。ただ色分けしているだけでなく、グレーの部分には革が貼られている。ハードトップであり開閉はしない。個人的には、この車の魅力は屋根を取っ払ってオープンカーにしたときに最も発揮するのではあるまいか。もしも屋根がなければ、かつてのDSのような美しいオープンカーになるに違いない。
運転席を覗き込む(乗車は許されていない)。平面木目パネルにアナログ式メーターを嵌め込んだプレーンなダッシュボードの雰囲気はシルバースパーが主力モデルだった頃のロールスロイスのようだ。正直、現代のロールスロイスよりも遥かに感じがいい。個人的な意見を言わせていただくと、現代の高級車のダッシュボードの高級感は1970年代の小型車、たとえばバンデンプラ・プリンセスにさえ劣るものだ。現代の車はあまりにもデザインに凝り過ぎており「素材の良さ」がストレートに伝わりにくい。超高級車のインテリアは、これくらいすっきりした造形の方が似合っている。
ドアの開閉音も見事だ。アルミあるいはカーボンのはずだが、軽量素材の安っぽさはない。ドスンと重たい音がする。
リアにもシートが備わる点は、オリジナル・シロンには望むべくもないフロントエンジン車ならではの「利点」だ。あるとないとでは大違い。ひとりの時にはここに手荷物やコートを投げ込み、いざという時には人も乗せられるのだから。
リアガラスは固定式。したがってトランクは完全な独立式で、これはボディ剛性にこだわった結果であろう。2名分のゴルフ用具を十分に詰めるだけの広さがある。これまたオリジナル・シロンには期待できない芸当だ。オリジナル・シロンは純粋に走りを楽しむ車、あるいは所有欲を満たすための車だが、フォリゼリエ・シロンは目的地がゴルフ場だろうと高級ホテルだろうと安心して乗っていくことのできる実用車である。
エンジンを始動してもらった。マフラーを大きくしたのだろう、エンジン音はスーパーカー級の「爆音」ではない。まさに高級リムジンと同じ、実に静かなものだ。振動も見事にシャットアウトされている。時速100km時の騒音は51㏈とのこと。60㏈以下であれば高級車と定義するならば、これは文字通り「超高級車」だ。といっても、その動力性能は明らかにスーパーカーのそれなのだが。
動力テストは当然ながら許されなかった。大型マフラーによる出力ダウンを考慮しても元々1500馬力を誇るエンジンである。1000馬力のヴェイロンが時速400kmの壁を超えるのだから、400kmオーバーは間違いない。
※
かたや、こちらはライトウェイトのミッドシップカー。名前は「ポニーランド」という。
ポニーといえば、言うまでもなく1970年代を代表する韓国の国民車の名前(ちなみにデザインはジュジャーロ)だ。その名前の一部を借りたポニーランドにはミッドシップスポーツとはいえ当然ながら「国民車」となるべき使命が科せられている。
ボディ寸法は全長3868mm、全幅1690mm、全高1138mm。ミッドシップに搭載される直4エンジンは排気量1000cc、最高出力は100馬力で、フォリゼリエ・シロンの1/10にも満たない。
- しかし侮ってはいけない。1トンを切る車体重量が、この車に、実に魅力的な運動性能を与えているのだ。
コンセプトは明らかに「フィアットX1-9」。だが批判を受けるにはあたらない。少なくともニッポン人からは。マツダ・ロードスターとて「ロータス・エラン」のコンセプトをそのまま流用しているではないか。
ボディデザインには「ポニーランド」の名に相応しいアクセントが施されている。フロントフェイスしかり、ロールバーの鬣(たてがみ)しかり。この鬣、後付けの飾りかと思っていたら、ロールバーと一体のもの。塗装による色分けによってロールバーと区別しているのだ。その証拠にリアガラスはロールバーと鬣の境目ではなく、鬣に嵌め込まれている。その結果、リアガラスは究極の「クリフカット」を形成している。ここまで逆反りのリアガラスは、かつて存在しなかった。外の微粒子や雨の水滴が付着しない半面、室内の微粒子は付着しやすいだろう。これは一長一短である。
ボディパネルはプレーンの一言に尽きる。高級感とは無縁だ。といっても安っぽさはない。「走りに徹した結果」として十分に受け入れられる範囲内。屋根は手動で取り外しが可能なタルガトップ。外した屋根はフェラーリ・レインボーのようにシートの後ろに立てかけて収納する。鬼才マルチェロ・ガンディーニが編み出した、外観を損なわず、リアトランクの容量も減らさない最も合理的な収納法。リアガラスとの干渉がなく、後方視界を妨げない点もよく吟味されている。
手動といえば、この車のキーワードは「全手動」。何でも自動が当たり前の昨今、意識的に「それに逆らった」のだという。
屋根の取り外しも手動なら、窓の開閉も手動。ドアには昔懐かしい回転式ハンドルが装備されている。このハンドル、海中に転落した時にも窓を開けられるため安全装備としては有難いものだったりもする。
ミッションは当然のようにマニュアルだ。いずれはオートマチックも揃えられるのだろうが、取り敢えずはマニュアルのみだという。ハンドルにはパワーステアリングさえ装備されない。
オーディオはラジオのみで、カーナビはない。その代わりに地図を収納する大型のポケットが備わる。「カーナビになど頼らず地図を見て走れ」ということのようだ。
エアコンにも自動で温度を調節する機能などはなく、マニュアルだ。
その一方で「現代の車」を匂わせる部分もある。自動ブレーキやエアバッグといった安全装備だ。やはり外せなかったのだろう。
ミッドシップに収まるエンジンに別段、変わったところはない。ごく普通の1000ccロングストロークエンジンである。エンジンの肉厚に余裕があり、必要とあればボア・アップできる。これは将来的には、より大排気量のエンジンにできることを意味する。またエンジンルームの隙間も多く、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなどを後付けで装備することも容易だ。レース用に改造されることも多い車には、こうした要素も重要である。メーカーも当然「ワンメイクレース」などを積極的に奨励するに違いない。
ということで、ポニーランドはかなりマニアックな「走りが好きな人のための車」あるいは「走りを好きになってもらうための車」である。
こちらの方は、フォリゼリエ・シロンとは異なり、大いに走らせることができた。
走りはまさに「ミッドシップスポーツの入門車」だ。面白いようにコーナーを駆け抜ける。ミッドシップであるだけでなく、ホイールベースが短いことが功を奏している。最小回転半径が小さいので、どんなタイトコーナーでも確実に曲れる。絶対的なエンジンパワーが少ないこともあってコーナーでの「お尻の滑り出し」は緩やかだ。
マニュアルシフトの操作感は上々。パワーステアリングでないハンドルもダイレクト感があっていい。ペダル配置も適切で「ヒール&トゥ」がやりやすい。
室内装備が貧弱なのだから当然と言えば当然だが、価格はずばりニッポンの軽乗用車並みだ。装備充実の軽自動車か、それともポニーランドかという選択肢になる。
筆者としては俄然、ポニーランドに魅力を覚える。欠点は「二人しか乗れない」ことだけだ。それゆえに子持ちの夫婦は食指を動かされないだろう。
メーカーは「月1000台」の販売を見込んでいる。勿論、国際商品であり、ライバルは、価格帯は大きく異なっているものの、やはり「マツダ・ロードスター」ということになるだろう。機械としての完成度や高級感はロードスターが上だが、スタイリングの個性や格安感ではポニーランドの方が上だ。モデルチェンジのたびに高級感を増していったロードスターはもはやヨーロッパやアメリカの裕福な人々には買えても途上国の人々には手が届かない「高嶺の花」だが、ポニーランドはそうした人々にも「スポーツカーを所有する喜び」を提供することだろう。
4月号
風信子といえば、我々車好きには「スーパーカーデザインのエキスパート企業」というイメージが強い。それらのイメージがエターナルやスーパースポーツカーなどによって築かれてきたことは言うまでもない。
そんな風信子のイメージを根底から覆す大事件が起きた。何と風信子による「ミニバン」が発表されたのだ。
- 風信子がミニバン?正直、我々にとってこれは「青天の霹靂」である。ミニバンと言えばスーパーカーの対極に位置するファミリーユースの「箱車」に他ならない。まさか今後、風信子は大衆車ばかりをデザインするようになってしまうのか?確かに大量生産とは無縁のスーパーカーのデザインは「儲けが少ない」と聞く。我々はスーパーカーデザインの風信子を失ってしまうのか?
これは何としても「事の真相」を明らかにしないわけにはいかない。我々、拳骨スタッフは直ちに取材を申し込んだ。
※
―ずばり今回、ミニバンを開発した意図は?
碓氷(以下省略)「2019年にトヨタ自動車から『2020年にエスティマの販売を終了する。後継車は開発しない』という発表があった。我々は直ちにエスティマからの乗り換えユーザーを獲得するミニバンを開発することに決めた。『アルファード&ベルファイアは嫌い!』というユーザーの声に応える製品の開発をね」
―エスティマユーザーを「そっくり頂戴する」ということだね。
「『月産1000台』程度の販売台数の車はトヨタのような大メーカーにとっては利益が少ない魅力に乏しい製品なのだろうが、OME供給によって月100台にも満たない販売台数しか確保できていない小型車専門メーカーにとっては実に美味しいものだ。しかも今まで独自のミニバンを製造していなかったメーカーにとっては強力な『フラッグシップ』にもなる」
―これはメーカーからの提案?
「いや、自分たちからアプローチした」
―ミニバンの開発はスーパーカーとは「勝手が違った」のでは?
「勿論。だが、新しい分野に取り組むのは実に愉快なものだ。同じような内容の仕事の繰り返しなど、つまらない限りだ」
―外観を見る限り、背こそ高いものの鼻先が低い。そして最近の主流である「厳ついフロントマスク」とは異なり、フロントに大きなグリルはない。
「販売の動向次第。売れなければフロントの造形を変更して厳ついグリルを取り付けることになるだろう。個人的には好みではないがね」
―厳ついフロントグリル即「高級」ではないと。
「個人的には、そう信じたいね」
―シルバー加飾が施されたCピラーのデザインは、この車が風信子以外の何ものでもないことを示している。
「『シトロエンDSコンセプト』でも採用したもので、リアガラスを下まで下げられる点が気に入っている」
―リアガラスを下まで下げる関係から、この車のリアガラスはハードトップタイプだ。
「セダンのようにサッシがあると、窓を開けて顔を外に出している時に誤ってドアを開き、サッシとCピラーの間で首が挟まれる危険があるが、ハードトップならばそれはない」
―でも、ハードトップだと「雨避けバイザー」が付けられないため雨の日に窓を開けることができない
「『どちらがいいか』ということだね。我々は晴天時にリアガラスを全開にできる方を選択した」
―リアのテールランプが「丸形」というのが、この車の特性を物語っている。
「丸形テールランプ即スポーティーというのはいかにも単純な発想だが、ニッポン人は単純だから、こうした記号が重要な意味を持つ」
- ―スポーティミニバンということだが、車高は1745mmに達し、着座位置や姿勢も決してスポーティーとはいえない。きみらの狙い通り、外観同様「エスティマ的」だ。
「スポーティミニバンと呼べるのは『どのあたりまで』なのかを定義することは難しい。私たちは『ひとつの基準』として現行オデッセイを考えた。その全高は1695mm。僅か50mmの違いだよ」
―先代オデッセイくらい車高が低ければ、明らかにスポーティミニバンを名乗れたと思うが。
「確かに、先代オデッセイは売れた。だが今の時代に同様のコンセプトで、果たしてユーザーが『購入したい』と思うのかどうか大いに疑問だ。先代オデッセイの事実上の後継車であるジェイドはほとんど売れていない。多人数乗車が可能なSUVであるマツダCX8の車高は1730mmで、こちらはヒットしている」
―車高を下げたくないと。
「構造的な問題もある。低床構造のフレームと座席の間にモーターを駆動する電池を敷き詰める必要があったんだ。今の時代、もはや電気駆動は避けられない」
―実際に運転した感じでは、現行オデッセイとさほど変わらないシャープな走りを実現している。
「『200km巡航』も可能なように開発したんだ。1800mm以下だったからこそ可能な目標さ」
―コーナーでのロールも少ない。意図的にロールを出そうとしても、その前に後輪がスリップする。
「前と後ろの両方にスタビライザーを入れてあるんだ」
―とはいえ峠を積極的に攻め込みたいタイプの車ではない(笑)。一般的なミニバンよりは操縦性に優れるが「GTカー」の域を出ていない。
「純然たるスポーツカーと比較してもらっては困る。あくまでもミニバン同士の対決での話だ」
―ハンドルの切れは、確かにスポーツカー並みに速い。この車のハンドルは「片手12時ハンドル」での運転を拒む。
「だからこの車は安全上、11時~1時の間で10秒以上ハンドルを握っている場合には警報音が鳴り響くようになっている。このアイデアは風信子が特許を持っているから自由に使うことができる」
―リアゲートのオープニングラインがサイドに回り込んでいる。
「量産車では確かジュジャーロデザインのフォルクスワーゲン・シロッコが最初だった(1974年)と思う。その後、いすゞピアッツァやルノー21など、ジュジャーロのアイコンとなったものだけれど、最近は見かけないデザインだ。というのもやはり『違和感がある』からで、今回は非常に上手くいった稀なケースだ」
―そのリアゲートだが、リアスポイラーを兼ねている。
「フロントエンジンのFF駆動だからリアが軽い。高速域ではリアのダウンフォースを上げる必要があると判断した」
―リアゲートについてもう一つ。リアガラスをクリフカットにした理由は?
「3列目シートに座る人にもシートを寝かせてリラックスした状態を確保するためだ。いうまでもなくリアスペースの最大容量はリアゲートを完璧に垂直に立てた場合なのだが、それだと後部の剛性確保が難しい。そこでクリフカットとし、その下にバンパー機能を付加した。さすがに大型トラックでは駄目だけれど、乗用車であれば後部からの追突にも十分に耐えられるように設計してある」
―クリフカットといえば、きみらの作品としてはポニーランドが思い浮かぶ。
「正直、クリフカットはかっこいい造形が難しい。人間の美意識は基本的に車を横から見た時に、前後がなだらかに下がることを欲する」
―最近の高級セダンは、まるで5ドアハッチバックであるかのように後ろのなだらかな造形を見せるものが増えた。今やクラウンでさえ「6ライト(8ライト)ウインドウ」だ。
「その結果、みんながみんな『ポルシェ911』みたいなお尻をしている。自分としては食傷気味。だから敢えてクリフカットを選んだ。その結果、このミニバンは鼻先のシャープさと相まって、的に向かって飛んで行く『矢』のような造形になった」
―ニッポンでクリフカットといえば、初代マツダ・キャロルが有名だ。
「間違っているかもしれないが、おそらくクリフカットの最初の例は1961年発表のシトロエンAMIだ」
―ある書籍には「フィアット600ベルリネッタ2+2がクリフカットの元祖」と書かれているが。
「それは違う。その車はクリフカットではない。斜め前からの写真だと、そのように見えるかもしれないが、斜め後ろからの写真で確認したら違っていた」
―このミニバン、名前が実に洒落ている。
「『MINIVAN』ではなく『MINIBURN』。このミニバンを運転するときはドライビングに燃えて欲しいという願いから命名した」
―走りにもこだわったミニバンならではの名前だね。
「発進時はモーターアシストによって、かなり強烈なダッシュ力を見せる。ゼロヨンは14秒を切り、最高時速は250kmに達する」
―1970年代のV8エンジンを搭載したスーパーカー並みだ。
「電気自動車時代ならではの高性能だよ」
―ニッポンの場合、ミニバンは2・2・3の7人乗り、或いは2・3・3の8人乗りが主流だが、この車は3・3・3の9人乗りだ(8人乗り、7人乗りの設定もあり)。
「ニッポン人はカタログ数値を非常に気にする民族だ。実際には9人乗る場面などめったにないはずだが、それでも乗車人数が『1人多い』というのはライバルの多いミニバン市場での販売競争に勝つための強力な武器になるだろうと考えた」
―SUV市場では先程も名前の挙がったマツダCX8が「7人乗れる」という理由から販売台数を伸ばしている。
「SUVが7人乗車の時代ならば、ミニバンは9人乗車でなくてはミニバンを積極的に選ぶメリットがない」
―4WDは?
「勿論、用意してある。ヒルディセントコントロールなどの機能を持つ本格的なものだ」
―デリカD5のライバル出現だ。
「近年は省エネや安全性とともに『災害時に強い車』が求められる傾向にある。『路上にある障害物を乗り越えられるだけの性能』が必要ということで、そうなると4WDは当たり前だ」
―ミニバンも将来的には「4WDが必須になる」と。
「街乗りSUVとはいっても、SUV人気の根底に『4WDなら雪道や悪路も走れる』という発想があることは間違いない。となるとミニバンもそうならないと商品価値が上がらない」
―かつて東京近郊で、雪の日に坂道で多くのミニバンが立ち往生しているのを見かけた。
「軽乗用車だったら上れる坂も、ボディが重たいから2WDだと上れないんだ」
―SUVは多人数シートとなりミニバンは4WDとなれば、両者の違いはなくなる。
「将来的には、そうなるだろう」
―いろいろな車がある方が楽しい。
「自分も同感だが、経済システムがそれを許してくれない。デザインひとつとっても、どこかの車がヒットすると『雨後の筍』のようにそれに似た車ばかりが登場する。トレンドと言えば聞こえはいいが、早い話が『パクリ』だ」
―あれれ、MINIBURNはエスティマのパクリじゃなかったっけ(笑)。
「エスティマが生産終了になるからだよ。生産され続けるならば開発などしなかった。ミニバンとはいえ『箱車ばかり』では寂しいじゃないか」
―アルファード&ベルファイアのパクリはやらないと?
「やらないね、絶対に」
―トヨタではさらに大きなミニバン「グランエース」を開発したけど。
「政治家御用達車。まさに『ミニバンのセンチュリー』。際限なき贅沢趣味を追求するニッポンの悪徳政治家連中の趣味ではあっても自分の興味ではないね」
―こういう車は「開発しない」と。
「金欠の時にはやるかもしれないがね(笑)」
※
ミニバンと聞いて我々は当初、大きな不安を抱いたわけだが、やはり風信子は風信子であった。ファミリーユースの車であっても走りやスタイリングにこだわる姿勢がこの会社には備わっていることを改めて実感することができた。碓氷氏の「アルファード&ベルファイアは嫌い!」というひとことが全てを物語っている。碓氷氏がこうした気持ちを持ち続けている限り、我々は安心していいだろう。風信子は今後も決して高級感や実用性だけが売りの箱車など作らない。今回、それを確信した次第である。
5月号
現在、ニッポンはコロナウイルスの感染拡大の真っただ中。新車の発表も軒並み延期となっている一方、お隣の韓国では5月からプロ野球やプロゴルフが開幕ということで、新車の発表も花盛りになる気配。その先陣を切るのが、今回の車。いずれはニッポンにも輸出されるだろうが、今のところは韓国内のみの販売となる。2シーター軽スポーツという特殊なカテゴリーの車で、名前は「ベタ(betta)」。筆者は詳しくないが、熱帯魚の名前なんだそうだ。ベタは「闘魚」と呼ばれる種類の魚で、オス同士の縄張り争いでは相手を殺すまで戦う。その過激さからスポーツカーに相応しいネーミングとして採用されたようだが、ニッポン人の私には「ベタ塗り」のベタをイメージしてしまう。
- 2シーター軽スポーツといえば、ニッポンでは現在はホンダ「S660」とダイハツ「コペン」の二車種が販売されている。そして過去にはホンダ「ビート」、スズキ「カプチーノ」、マツダ「AZ-1」などがあった。いずれも高く評価された車であったが、販売実績はお世辞にも良くない。というのも軽自動車にしてはあまりに「高価格」だったからだ。カプチーノを除いていずれもミッドシップ(ビートはリアエンジン)を採用、フロントエンジンのカプチーノにしても凝った造りの全自動式開閉ハードトップを採用するなどしていた。
こんな特殊なカテゴリーの車を開発するところといえば当然、風信子以外には有り得ないと思っていたら、やはり風信子デザインであった。
2シーター軽スポーツの開発を決めた時、彼らは「少しでも低価格なものにしたい」と思ったに違いない。そのため屋根は固定式ルーフ、エンジンも通常のフロントエンジンを採用している。だが、デザインは徹底して「スポーツカーらしいもの」に吟味されている。それも1960年代風にだ。
どこが1960年代風かといえば、それはロングノーズ&ショートデッキのプロポーションに尽きる。この古典的スポーツカーを思わせるスタイルはドライバーズシートを通常の軽自動車のリアシートの位置に配置することで実現された。そうなると当然、エンジンルーム内はスカスカになる。そこで風信子はエンジンと室内の間に縦650mm、幅1250mm、深さ500mmのトランクを設置した。これは買い物袋6個を飲み込むことのできる大きさだ。ボンネットの中央に横一文字にキャラクターラインが入っているのはエンジンフードとトランクフードを別々に開閉できることを意味している。オープンボタンを一つ余計に増やすだけの話で、わざわざ「そんなことしなくてもいいのでは」?と思うのだが、これには訳がある。トランクとエンジンの間には当然、断熱材が貼られ、エンジンの熱がトランクに伝わらないようになっているのだが、フードが繋がっていると熱伝導によって熱が伝わり、上からトランク内部を熱してしまうのだ。
トランクの下にエンジンの熱が籠らぬようフロントタイヤの後方にはエアスリットが設けられており、外観上のスポーティーさにも貢献している。機能とデザインを高度に融合させる技は、さすが風信子だ。このトランクは当然、正面衝突の際のクラッシャブルゾーンにもなる。
エンジンは普通の横置き3気筒(もちろんターボ付き)で、フロントタイヤを駆動。リアにはモーターが備えられているので事実上の4WD。ジムニーのような縦置きエンジンでリアを駆動するようにしたら面白いと思うが、コストの関係から見送ったそうだ。残念。屋根は一見すると開閉可能な革製の幌のように見えるが実際は固定式のハードトップ。リアガラスは風信子のもはや「お家芸」といっていいだろうクリフカット。エンジンルームへ空気を導くフロントグリルが「本物の金網だったら」と思うが、そこは歩行者安全を考慮した設計が要求される21世紀の車であるから当然プラスチック素材。ニッポンが世界に誇る高級ブランド・レクサスのスピングリルにも言えることだが、お世辞にも「高級とは言えない」部分で、もう少し質感の向上を望みたいところだ。テールランプも含め所々に配された赤色のアクセントがスポーティーさを醸し出している。ベタには鰭の先端部分が赤色の種がいるそうで、そのイメージだという。
※
運転席に乗ってみる。視界は実に良好で、鼻先までフロントボンネットがはっきりと見える。所詮、軽であるから直6エンジン搭載車のように長くはないが、それでも直4エンジンを搭載する普通乗用車並みの長さがある。
- 先に挙げた2シーター軽スポーツと明らかに異なるのは着座位置。もちろん、昨今流行りのハイトワゴンのように高くはないが、道路に手が届くレーシングカー的な感覚とは皆無。全高はコペンが1280mm、S660が1180mmであるのに対し、ベタは1400mmもあるのだから当然だ。ちなみにアルトラパンは1525mm、タントは1750mmである。着座位置をもっと下げればロングノーズと相まって「ロータス7」のような感覚になっただろうにと思うが、21世紀の車はハイブリッド駆動が必須。この車も当然、床下にモーター駆動用の電池を搭載しており、それが車高を下げなかった理由でもあるに違いない。そのおかげで座席後方に若干のスペースがあり、まさかこの車でゴルフ場に行く人はいないだろうが、ゴルフバッグの一個くらいは寝かせられる。フロントトランクと相まって実用性は2シーター軽スポーツの中では「群を抜く」といえる。
本来リアシートのある位置にドライバーズシートを配置する走りの感覚は、やはり独特である。ミッドシップ2シーターが自分の体を中心にクルクルと回るとすれば、これは鼻先を軸に自分の体が左右に振りまわされるような感じだ。先に挙げたロータス7ほど過激ではないが、本質的には似ている。一般的な車でリアタイヤを滑らせた時には「自分の体を軸に背中の後ろが横に流れる」感覚なのだが、この車の場合には「自分の体そのものが横に振られる」感覚(リアタイヤとドライバーのお尻がすぐ傍にあるのだから当然だ)であり、これは一種の恐怖体験である。風信子の開発した車は大なり小なり「じゃじゃ馬」的傾向を示すが、これはその最右翼である。だが、それはあくまでもコーナーを限界まで攻めた場合のことで、普通に走っている分は全く意識することもない。また、慣れてくると結構楽しくもある。ホイールベースの長さは一般的な軽と同じであるため、ニッポン製ミッドシップカーよりも直進安定性に優れ、明らかに高速道路における運転時の疲労は少ない。ABSや自動ブレーキなどの安全デバイスがひと通り装備されていることは言うまでもない。
※
さて気になる価格だが、エンジンを始め、数多くの部品を普通車と共用することで、スタンダードで143万円、最上級モデルでも177万円と一般的なターボ付き軽自動車と同価格帯に抑え込んでいる。コペンのスタンダードモデルが185万円(最上級モデルだとで212万円)、S660に至っては198万円もする(最上級モデルは何と285万円!)ことを思えば破格である。個人的にはロングノーズを生かしてフロントのトランクを撤去、昔のカローラ・レビンやシルビアあたりの直4エンジンを搭載してみたら面白い車になりそうな気がしている。
6月号
近年は世界中でSUVが大流行である。かつてはジープやローバー、ベンツGクラスといった具合にかなりマニアックなオフローダー車だったものが、「街乗り四駆」という概念が誕生して以降、次から次と普通車のように乗ることができるSUVが登場。そして今ではランボルギーニ、マセラティといったスーパーカーやロールスロイス、ベントレーといった超高級車まで存在する。
かつて碓氷氏はこうした状況を踏まえて「SUVは好きではない。およそ車好きが選択する類の車ではない」と述べていた。こうした発言から、我々は「風信子デザインのSUVは登場しないだろう」と思っていた。
しかし、それは「間違い」であった。企業であるからには、クライアントから要求されればデザインしないわけにはいかないのだ。日頃、付き合いのないクライアントであれば「お断りします」といえるだろう。だが、エターナルやポニーランドといった仕事を一緒に行ってきた親密な関係にあるメーカーからの要求では、さすがに断るわけにはいくまい。
かくして我々は今、ここに「風信子デザインのSUV」を目撃することとなった。
- そのSUVの名前は「パレス」。英語で「宮殿」。この名称からも、このSUVがオフロードを走る車ではなく街乗り四駆、それもかなり「セレブリティな人々」のための車であることがわかる。実際、外形寸法は「5060×1980×1840mm」という巨大さを誇る。勿論、中国や北米を中心とする「輸出専用モデル」だ。ちなみに価格的に見て直接のライバルと思われるランドクルーザーの外形寸法は「4950×1980×1870」である。参考までに他のライバル車の寸法をここに記す。
BMW・X5 4910×1940×1760mm
ポルシェ・カイエン 4918×1983×1696mm
ボルボ・XC90 4950×1960×1775mm
マセラティ・レヴァンテ 5000×1985×1680mm
ランドローバー・レンジローバー 5005×1985×1865mm
テスラ・モデルX 5052×1999×1684mm
アウディ・Q7 5070×1970×1735mm
レクサス・LX 5080×1980×1910mm
ランボルギーニ・ウルス 5112×2016×1638mm
ベントレー・ベンテイガ 5150×1995×1755mm
キャディラック・エスカレード 5195×2065×1910mm
ロールスロイス・カリナン 5341×2164×1835mm
全長5060mmはレンジローバーとLXの間に位置するもので、決して「法外に大きい」わけではないことがわかる。それにしても、ざっと挙げただけでもこれだけの「超高級SUV」があるとは驚きだ!
次に、これらの車の価格を表示する。ランドクルーザーのみ最上級仕様で、残りは全て最廉価仕様である。
トヨタ・ランドクルーザー 683万円
BMW・X5 992万円
ポルシェ・カイエン 976万円
ボルボ・XC90 789万円
マセラティ・レヴァンテ 986万円
ランドローバー・レンジローバー 1409万円
テスラ・モデルX 1041万円
アウディQ7 812万円
レクサス・LX 1115万円
ランボルギーニ・ウルス 2779万円
ベントレー・ベンテイガ 1994万円
キャディラック・エスカレード 1260万円
ロールスロイス・カリナン 3894万円
私などには到底、手が届かない車ばかりだ。そして、いかにランドクルーザーが「お買い得」であるかがわかる。道理で世界的なベストセラーになるわけだ。ボルボ、アウディがそれに続く。
で、今回の主役であるパレスの価格は「749万円」である。ライバル車よりも安い設定ながらも、ランドクルーザーより敢えて高く設定してあるのは「ランドクルーザーよりも車格として上の車」ということを意図的に表明しているのだろうか?
※
外観を眺める。何よりもまず目につくのはフロントの造形だ。「大口&釣り目」という最新流行の「おらおら、早くどけえ!」と言わんばかりの厳ついマスクとは正反対を行く「グリルレス&垂れ目」。亀甲形のプレートには控えめに「くの字」のスリットが明けられているが、そのデザインはまるで1970年代のマスタングのリアのようだ。亀甲形はリアのデザインでも繰り返され、これまた1970年代のリンカーン・コンチネンタル風(向こうは半円形だけれども)だ。どうやら意図的に1970年代デザインを取り入れているようだ。Cピラーを目立たせるアルミプレートの採用もそうした流れの一環と見ていいだろう。実際、ライバル車は全てAピラーからDピラーまでのサイドガラスを一体に見せるデザインを採用しており、今日、Cピラーを目立たせているSUVといえばランドローバー・ディスカバリーくらいしかない。そしてリアのテールゲートは風信子のお家芸であるクリフカット。風信子は意図的に「流行に逆らっている」のだ。おそらく後発車として「個性を目立たせるため」であるに違いないが、これは冒険でもある。「流行の衣装でない」ということは目立つ一方で「全く売れない可能性」も内包している。
- 中に入ってみる。中は文字通り「宮殿」の名に恥じない豪華さだ。
本革、本木目、本アルミといった具合にあらゆる高級素材が奢られ、果ては瑪瑙まである。かつてインフィニティQ45というニッポン製高級車にオプションとして「ココン(漆に金粉をまぶした装飾パネル素材)」というのがあったが、それを凌駕している。瑪瑙は自然の素材だから1台1台、模様が違うはずである。我々の試乗車には朱色と黄色のものが用いられていた。ダッシュパネルの造形は直線基調の保守的なもの。碓氷氏によれば「セレブリティな人々はエルゴノミックな造形は好まない」とのこと。そしてさらに「セレブリティな人々は最先端のシステムにうるさい」とのことで、大型の液晶パネルが「正面メーター用」「ナビゲーション用」「ルームミラー用」「操作パネル用」といった具合に、何と4面もある。バックミラーは装備されているが、実際はルームミラーに左右のカメラ映像が表示されるため、実質「ウインカーのための装備」である。自動運転技術にも力を入れていることは言うまでもない。駐車は全て自動でできるのは勿論、高速道路での車線変更もウインカーを入れるだけで自動的に車線や他車の動きを計測して行われ、その方が下手なドライバーが手動で車線変更を行い、後ろから接近してくる車を見落とすなどという事態が起きない分、遥かに安全である。ちなみに車が渋滞などの理由から「車線変更は不可能」と判断した場合はウインカーが切れ、そのまま走行する。
リアシートはシートというよりもソファであり、1980mmの幅が効いて大人3人が座っても左右に余裕があるほどだ。勿論、足元の広さは言うに及ばずで、どんなに伸ばしても前席には届かない。センターコンソールがないかわりに、シートの中央には電動マッサージ機が装備されている。肩こり症の人には重宝だろう。
トランクもクリフカットだけあって、バカでかい。高級車の最低ノルマである「ゴルフバック4個」どころか、これならば10個だって余裕で収納できるだろう。
エンジンは、基本はエターナルと同じだが専用の調整が施され、最高出力は50馬力ダウンの450馬力に落とされているものの、低速トルクを分厚くしている。勿論、電気モーターも装備され、総出力は650馬力を誇る。したがって動力性能に不足はない。車重は2tを超えるが、発進は鈍いどころかスーパーカーのそれだ。お世辞にも空力的に優れているとは言えないボディだが、それでも最高時速は280kmに達するという。大型SUVであるためホイールが大きく、強力なディスクブレーキが装備されているため、ブレーキ性能は申し分なし。走行時の騒音も「時速100kmで走行中に最もうるさいのが車内の時計の音」という、かつてのロールスロイスの神話を見事に再現している。乗り心地も車というよりは荷物を満載した「大型トラック」の様で、いかなる凸凹でも何事もないかのようにフラットに走るし、この日は風が強く、トンネルを抜けるたびに強い横風に襲われるのだが、自動運転の技術によって横揺れは全く感じられなかった。それこそ軽乗用車などでは風に煽られて「車線一つ分」も横に流されることがあり、これは非常にありがたい技術である。いずれは全ての車種に展開されることを期待したい。
※
多くのライバルが犇めく高級SUV市場に颯爽と乗り込んだパレス。最新流行のスタイルとは異なる個性的なデザインを身に纏うことが、果たして吉と出るか凶と出るか?車としての完成度は申し分がないだけに「早くも半年後にマイナーチェンジ」などとはならないことを祈りたい。
7月号
1970年代の美学と21世紀の技術が見事に融合「21世紀にデザインされた最も美しいスーパーカー」といわれるエターナル。ランボルギーニ・アヴェンタドールの刺々しさやフェラーリF8トリビュートの毒々しさはここにはない。初代カウンタックLP400を思わせるクリーンなデザインこそがエターナル最大の魅力である。
そのエターナルの限定バージョンが発表された。今回は限定だが、これが将来、レギュラーモデルになることは間違いない。
- エンジンはツインターボの装着によって実に250馬力アップの750馬力となり、遂に700馬力マシンの仲間入りを果たした(ちなみにアヴェンタドールは770馬力、F8トリビュートは720馬力)。ギアシフトは7速から8速に。それらに合わせてブレーキも強化。そのブレーキを収めるためにタイヤもまた17インチから20インチとなった。だが、何といっても驚きは、そのタイヤを収めるためにオーバーフェンダーが装着されたことだ。さらには高速域の空力を改善するためにフロントスポイラーと電動式のリアスポイラーも装着。
筆者がまだ小学生だった頃の「スーパーカーの王者」といえばランボルギーニ・カウンタック。そのランボルギーニ・カウンタックがLP400からLP500Sにスイッチした時、筆者はそこにクリーンさとは違う別の「アグレッシブな魅力」を感じたものである。だが、この歳(50歳)になって、その時と同じ感動を再び味わうことになろうとは正直、思ってもみなかった。
クリーンさが売りだったエターナルは今回のマイナーチェンジによってアグレッシブさを身に纏ったのだ。「どちらがいいか」と言われれば正直、甲乙つけがたい。現在のカウンタックの市場評価を考えれば、将来的にはアクササリー類の一切ない現行モデルが最も「貴重」かつ「高額」で取引されるようになることは間違いないのだろうが(笑)。
「エターナル・フォー・ウスイ」。これが今回発表された限定モデルの名前である。バイではなくフォーである点がミソだ。今回の限定バージョンこそが「碓氷氏自身が理想とするエターナルの姿」であるという。色はブルーメタリック一色のみ。エターナルというとイエローがイメージカラーとして思い浮かぶが、碓氷氏はメタリックブルーがお気に入りだという。
「昔、『プジョー406クーペ』という車があったのだが、ブルーメタリックがとても似合っていたんだ」とは碓氷氏。その時の印象がとても強烈だったとのこと。
色といえば、エンジンのエアチャンバーやカムカバーの色が変更されている。ノーマルはオレンジだが、フォー・ウスイはパープルである。そしてエンジン真上のリアガラスをアルマジロに変更している。結果、エンジンは外からは見えなくなってしまった。「紫のエンジン」を拝めるのはエンジンフードをオープンする資格を持つオーナーのみとなったのだ。
「エンジンパワーをアップした結果、エンジンの騒音が大きくなり、エンジンが発熱する熱の量も増えた。そのため、音と熱を効率よくリアに逃がすためにアルマジロにしたんだ」
- アルマジロ部分の開閉だけだとエンジンの整備性に問題があるのだろう、開口部が左右に拡大した。あと細かいところではリアのナンバープレートをリアランプと同じ高さの位置から下に移動させてある。そしてナンバープレートがあった場所には「U・SU・I」の文字が装備されている。碓氷氏の苗字なのだが、何かの記号のように見える点がユニークだ。
「1000馬力オーバー、400kmオーバー」のモンスターは別格として、エターナルも遂にイタリアンスーパーカーと同じだけのポテンシャルを有するに至った。正直、500馬力はベビーランボ・ウラカンの640馬力どころか、GT-Rニスモの600馬力にさえ劣るものであり、かつてのロータス・エスプリ同様、オーナーの大いに不満とするところであった(注、ロータス・エスプリはカッコいいスタイリングの半面、エンジンのパワーが貧弱だった)。エターナルはようやく、そのスタイリングに相応しい強心臓を手に入れたと言えよう。その結果、販売価格は一気に2倍近く跳ね上がり2328万円になってしまったが、それでも同等の性能を有するF8トリビュートが3328万円(ピッタシ1000万円高!)、アヴェンタドールが4157万円、マクラーレン・720Sが3530万円、アストンマーチン・DBSスーパーレッジェ―ラが3567万円であることを思えばバーゲンだ(人によっては2631万円で手に入る4シートが売りのフェラーリ・ポルトフィーノに食指が伸びるかもしれないが)。とはいえ、我々しもじもが購入できる類の車ではない。いや、仮にあなたがお金を持っていたとしても購入することはできない。なぜなら既に全ての車のオーナーが決定しているからだ。エターナル・フォー・ウスイの販売台数は715台。715人の幸運なオーナーたちは皆、世界に名だたる大富豪たちなのだ。
※
まさかエターナル・フォー・ウスイをテストできるとは思ってもみなかった。何故ならオーナーが既に全員決まっているのだから、テストに供される車など「用意できるはずがない」と思われたからだ。予想外の出来事に我々スタッフ一同は歓喜。現在、我々の仕事車となっているMINIBURNに機材一式を詰め込み、試験場へと向かった。最大の興味は、やはり最高速度だ。初代モデルの最高速度299kmを果たして、どれ程、超えるのか?
我々を待っていたのは、チーフデザイナー碓氷氏とブルーメタリックに輝くエターナル。
「これは自動車メーカーから私にプレゼントされた車だから、いくらでも回して構わない。何ならぶっ壊したっていい。どうせ自分は乗らないから」
テスト車両が用意できた謎が解けた。テスト車両は碓氷氏本人のものだったのだ。ポニーランドを日常の足にする碓氷氏にとってエターナルは「高価に過ぎる」ようだ。
「ぶっ壊したっていい」といわれたものの、さすがに気が引ける。壊さないようにテストするつもりであることを告げる。
コクピットに乗る。ダッシュボードもまた現代風に変更されている。木目は廃され、黒皮のダッシュボードに白皮のシート。本物のアナログメーターはアナログメーターを表示する液晶モニターに変わり、ギアシフトもパドルシフトとなった。これらは全て「オーナーからのクレームによるもの」という。よく見ると、ハンドルには「自動運転モード」なんてものまである。
だが、この車独特の着座感覚は相変わらず不動である。フロントスクリーンが頭上まであることによる解放感。それはまるで戦闘機のコクピットに着座しているような錯覚をドライバーに与える。今は見慣れたものの、実のところエターナルの巨大なフロントスクリーンは「スーパーカーの常識」から完全に逸脱している。
だが、オーナーからのクレームで最も多かったのは、やはり「パワーが足りない」というものだったという。「500馬力、最高時速299km」は決してローパワーではないが、やはりエターナルのオーナーはエターナルでランボルギーニやフェラーリと直接対決したかったのだ。
「エターナルのオーナーの大多数は単に他よりも『安いから』ではなく純粋に『スタイリングの良さ』で選んでくれていた。これは私たちにとっては意外であると同時に、とても嬉しいことだった」
エンジンを始動する。室内の音はパワーアップしているにもかかわらず以前よりも「静かになっている」と感じた。やはりアルマジロが効いているのだろう。そのアルマジロから眺める後方視界は思いのほか良好である。
室内は旧モデルよりも前後方向で広くなった。シートの後方には大人がひとり横に寝そべるだけの広さがある。屋根も若干だが高くなった。というのもタイヤを17インチから20インチにアップしたことからホイールベースが2500mmから2650mmに延長され、延ばされたホイールベースが室内の延長に用いられているからだ。その結果、ただでさえ大きなフロントスクリーンがより大きくなった。
走り出す。ホイールベースが延びたからだろう、過敏なハンドリングはややマイルドになった。これは、より高速化した車の特性にマッチしていると言える。乗り心地も、やはりホイールベースの延長が効いていることがわかる。直進安定性自体が高まっている。
しかし、だからといってスポーツカーとしての走りの楽しみが減少したわけではない。ホイールベースだけでなくトレッドも拡大され、タイヤがよりファットになったことで左右のグリップ力も増大しているからだ。つまりドライバーが本気になってブン回せば、いくらでも右に左にスラロームする。エンジンのパワーアップも手伝って、本格的なサーキット場でアタックすれば、タイムはこちらの方が確実に上のはずだ。0km~100km加速は3秒とかからない。
- あっという間に200kmをオーバーしてしまった。挙動は新たに装着されたフロントスポイラーとリアの電動スポイラーのおかげで実に安定している。
そして、いよいよエターナルにとっては今までは「未知の領域」であった300km超えの世界へ!
310、320、330、340、そして
「350km!」
あくまでもメーター直読みではあるが350kmに達したのだ。
ここで「自動運転モード」を試してみる。入らない。「300km以下で作動」となっている。300kmに減速する。すると自動運転モードが作動した。
おお、本当に走っている。時速300kmをキープした状態でエターナルはテストコースを周回しているではないか。勿論、筆者はハンドルから手を、アクセルペダルから足を完全に放しているのだ。
さらにオーディオにある「騒音消去スイッチ」を入れる。車内はエンジン音のほとんどしない実に静かな空間に変わった。だが、依然としてフロントガラスを流れる景色はこの車が時速300kmで走っていることを証明している。まさに「異次元の体験」である。これが「21世紀の自動車テクノロジー」。もはや新幹線に乗っているのと同じである。
自動運転モードをオフ。300kmからの制動テストを行う。
背後から巨大な手で鷲掴みされるような強力なブレーキ。見る見るうちに速度が下がる。性能的には申し分ない。当然、ABSが装着されているのだが、足に伝わるショックから、初めからポンピングするのではなく、最初は一発ブレーキングでタイヤをロックさせ、可能な限り減速させてからポンピングを開始するようセッティングされているようだ。こうしたプロのレーサーが用いるテクニックをそっくりそのままセッティングしてしまうところが風信子である。
※
スーパーカーが最も光り輝いていた1970年代の香りを放つ21世紀のスーパーカー・エターナル。その身にオーバーフェンダーやスポイラーを纏うことで洗練が獰猛へと変わっても、その魅力は全く色褪せることがない。我々はここに1970年代が如何に輝いていたかを目の当たりに見る。1970年代の人々の未来は実に多くの「夢」に溢れていた。当時の人々には「21世紀には宇宙旅行が実現している」と本気で信じられたし「一般家庭の車は全てスーパーカー」と真面目に思われていたのだ。それに比べて現代世界の何とつまらないことだろう!温暖化、自国第一主義、そしてパンデミック。現代を生きる人々にとって未来は夢どころか不安だらけではないか。その様な時代の中にあって碓氷氏は1970年代の香り漂う「夢のある車」を次々とデザインする。なぜ、そのようなことが可能なのか?それは碓氷氏が「夢追い人だから」ではないだろうか。現代の人々の多くは夢を捨てた、或いは夢を持ちたくても持てない。だが、碓氷氏は夢を持ち続けているのだ。こんな「先行き不安な時代」にあっても1970年代の人々のように輝ける未来を信じているのだ。
「夢工房」。こんな言葉をふと思い出してしまった。風信子こそがその名に最も相応しいと思うのは私だけではないだろう。夢とは名ばかりの「現実逃避の避難小屋」のような、ただ「手作り」であることだけを売りにする、そんな代物にばかり用いられた結果、今や古臭さしか感じられないこんな言葉さえも美徳に変えてしまう。それが風信子だ。
そんな碓氷氏の音楽の好みは「1970年代のハードロック」だという。思えばハードロックに限らずニッポンの歌謡曲も含めて音楽が最も輝いていたのもこの時代だった。
「エターナルの車内にポップソングなんかちっとも似合わない。『ハイウェイ・スター』や『デトロイト・ロック・シティ』を聴きながら走るのが一番さ。まあ『マシン・ハヤブサ』や『グランプリの鷹』でもいいけどね」。
8月号
今月号では、以前に募集した第1回「拳骨杯・カーデザイン大賞」の結果と授賞式の模様を掲載します。
※
受賞式会場となったソウル市内にある○ッテホテルの大会場には、栄えある受賞者をはじめ入賞者、審査委員長の桃部 光(とうぶ ひかる)編集長、審査委員を務めた風信子チーフデザイナー碓氷充馬氏など関係者一同が集まる。さらには賓客として世界中の自動車会社の関係者が参加。手前味噌で誠に申し訳ないが盛大に盛り上がる式典となった。
会場前方、黄色い垂れ幕の前に桃部審査委員長が立った。
「発表します。第1回『拳骨杯・カーデザイン大賞』大賞受賞作は、樋口佳子さんの『カシマシーン』に決定いたしました」
盛大な拍手が会場を包み込む。会場と隣の部屋を遮る黄色い垂れ幕が上がると、中からメタリックピンクが眩しい受賞作「カシマシーン」が現れた。
- 「受賞者の樋口佳子さんは前にお越しください」
会場内に用意された幾つもの丸テーブルの周りに座る人混みの中から、色白で目の細いポッチャリ系の女性が立ち上がる。彼女が樋口佳子さん。佳子さんが歩いて行く。佳子さんに桃部審査委員長から賞状とトロフィーが手渡される。ここでも盛大な拍手。
その後、受賞理由が碓氷氏から語られる。「この度の受賞、おめでとうございます」と挨拶をした後、碓氷氏は淡々と話し始めた。
「第一に、まだ十代の学生とは思えない完成度の高い設計技術。エアインテークの配置など、すぐに量産化できるだけの煮詰めがしっかりとなされている。第二の理由としては『若い女性が3人で乗れるカジュアルでオシャレなスーパーカー』というユニークなコンセプト。そして第三の理由は、今回の課題は『500馬力エンジンを搭載したスーパーカー』だったわけですが、カジュアルでオシャレなデザインながらもエンジンパワーに負けていない、500馬力エンジンを搭載する車としての風格や獰猛さが十分に備わっていること」
しかしその後、碓氷氏からは厳しい「注文」が。
「見るからにリフトが大きそうであり、この車で時速200km以上のスピードを出すならば、リアウイングは必須だろう。そしてこの車の特徴となっているサイドガラスとデザインを統一したアーモンド形のスプーンカットについては『とってつけた感じ』が払拭しきれておらず、結果的に量産車ではなくコンセプトカー的な雰囲気をこの車に与えてしまっている」
碓氷氏の言葉は辛口だが、これも将来の成長を期待してのこと。唇をきっと噛み締めて碓氷氏の話を聞く佳子さん。
実のところ、ふたりはここで初めて対面するのではない。
今回の拳骨杯は1/10スケールモデルでの審査であった。審査後、スケールモデルを元に風信子の工房で実物大の実走可能なモデルが製造された。その時、ふたりは一緒に作業を行っているのだ。
碓氷氏は辛口だが、それでもカシマシーンが街中でひと際「注目を浴びる車」であることは間違いない。いにしえのポルシェ928の横幅を拡げて、さらにずんぐりとさせたような丸い図体、そしてその色などから筆者的には「ピンクの豚」といったイメージなのだが、これも辛口批評の類に入るのかも?
その後は入選者5名の発表および授賞、そして最後に審査委員長を務めた桃部 光編集長のスピーチが行われた。
こうして授賞式はつつがなく終わり、その後はカシマシーンの周りを自動車関係者が取り囲んでのレセプションとなった。佳子さんの周りにも自動車関係者が集まる。盛んに質問を繰り出す関係者たち。中には仕事を依頼している者までいる。
それも当然だろう。実現不可能なイメージイラストをカッコよく描く若手デザイナーは沢山いるが、初めから製作可能なデザインのできるデザイナーは少ない。佳子さんはカシマシーンを設計するにあたってイメージイラストではなく「四面図」から始めたという。かつて碓氷氏も「ジウジアーロもガンディーニも四面図から始める。イメージイラストはクライアントが求めない限りは描かない」と同様のことを述べていた。これは勿論、四面図と立体図を頭の中で組み合わせてイメージできる卓越した幾何能力があってこそ可能な業である。
さて、カシマシーン。写真で見ての通り、女性の手で生み出されたとは俄かには信じがたいほど実にド迫力な車だ。この車にド迫力を与えているのは碓氷氏が「とってつけた感じ」と手厳しい批評を行ったアーモンド形のスプーンカットで造形されたフロントヘッドライトに他ならない。アーモンド形の両端の尖りが「ピンク色の大福餅」のような車にシャープさを与えているのである。リアのアーモンドもまたエンジンクーリング用のエアダクトとして機能しており、単なる飾りではない。
- スプーンカットといえば、我々ニッポン人にはフーガの登場によって消滅した日産セドリック&グロリアの最終モデルが思いされる。ジウジアーロ・デザインで、スプーンカットによるリアの造形が非常に印象的な車だったが、せっかくのスプーンカットもボディ寸法の小ささからその魅力を活かせず、また当時、最新鋭のトランスミッションであった「エクストロイドCVT」の完成度が低くシュルシュルと不快な音を発するなどの結果、ライバルのクラウンとは販売台数で大きく水を開けられる格好となってしまったのは残念だった。
おっと、話が横道に逸れてしまった。話を戻さなくては。
デザインの統一はアーモンドだけではない。フロントボンネット、フロントスクリーン、リアスクリーンの形もまた六角形で統一されており、一見目立たないものの、これまた秀逸なデザイン処理といえる。
また、サイドガラス内のサッシの造形もセンスを感じさせる部分で、まるで葉脈や蝉の羽のようだ。これはドアの高さが低いことでガラスが下がらないことに対する苦肉の策であるはずだが、見事に「災い転じて福となす」を実現している。佳子さん曰く、この部分は「カウンタックのオマージュ」だそうだ。
ここから先は内装を見ていくことにしよう。
車内は3人乗りということでシートが横一列に並ぶ。フェラーリ365Pベルリネッタ・スペチアーレ・3ポスティ、ビッザリーニ・マンタ、マクラーレンF1同様、真ん中がドライバーズシートとなる。
ふたりしか乗れないのと3人乗れるのとでは、やはり大違い。企画書通りに若い女の子が3人で乗り込むのもいいし、若い夫婦と子供の3人で乗ることもできる。或いはイケメン男性が中央に乗り、左右に美女を侍らせることだって可能だ(笑)。スーパーカーでありながらも実に「実用的な車」なのである。
ダッシュボードの基本は「水平」。アルミパネルにエアコン用ダクトと交互に縦19,4mm×横34,4mmのプラズマパネル(ノートパソコンのディスプレイと同じ大きさ)が三枚嵌め込まれている。中央には当然、メーター類が表示されるが、両サイドはカーナビやテレビになる。どちらかをカーナビにという使い方もできれば二つともテレビという使い方もできる。左右のパネルは手前に開き、右のパネルの奥にはCDチェンジャー、左のパネルの奥にはブルーレイディスクチェンジャー(共に50枚入る)がある。
ダッシュボードの色はブラウン。部分的に赤い加飾が入る。近年、世界的にスポーティーさを狙った赤い加飾が人気で、ニッポンにはオレンジや青や黄緑といったものまであるが、ほとんどはブラックとの組み合わせであり、ブラウンとの組み合わせというのは珍しい。四角形の赤いパネルは全部で六つあり、上段の二つはダミーだが下段の四つには機能があり、三つがドリンクホルダー、のこりのひとつ、左から二つ目はUSB電源ソケットとなっている。ソケットは全部で3個あるから、3人分のスマホを一斉に充電できる。ダッシュボードが水平横長なので充電中のスマホは全て並べて置くことができる。
ハンドル付け根の左右にあるインジェクションボタンとハザードボタン以外にダッシュボードにスイッチ類は一切ない。エアコン、オーディオを操作する機能は全て自動運転用の車載カメラを収めるボックスを延長した天井に配置されているのだ。天井にスイッチを配置する手法はDS5という先例があり、決して目新しいものではないが、それでもやはり珍しい手法であることは事実である。左右いずれかの座席の正面のダッシュボードに配置することは可能だったが、3列座席の結果、グローブボックスの幅が狭く容量確保からグローブボックスをふたつ装備したかったために「こうした」のだそうだ。
エアコン、オーディオの操作系が天井にあることによる不便は避けられず、そのため主な機能はハンドルで操作・変更可能になっている。ハンドルの形は最近流行りの縦棒がアルミV字のT形。スイッチは左下からエアコン・オーディオ切り替えスイッチ、エアコン・オーディオON/OFFスイッチ。その上が、エアコンの場合には横が温度で縦が風量、オーディオの場合は横がCD/FM/AMセレクトで縦が音量になる十字スイッチ。右はクルーズコントロール関係で、下がスピードで、上がON/OFF。安全上、このスイッチのみONの際にはオレンジ色に点灯する(メーター内の上部にも「AUTO DRIVE NOW」の文字が右から左に電光掲示板のように繰り返し流れる)。勿論、12時ハンドル防止装置付き。今までのものは10秒後に突然、大きな警告音を発したが、今回から目覚まし時計のように徐々に音が大きくなっていくタイプになった。
ギアシフトはフロアにもダッシュボードにもなく、パドルシフトのみである。とはいえ基本ドライブはあくまでも「普通のオートマチック車」。エンジンをかけると最初はP。左のパドルを引くことでR、N、D、Lに入る。戻す時は右のパドルを引く。マニュアル操作を可能にするには停車時にブレーキを踏んだ状態で一旦、両方のパドルを手前に引く(N、D、Lで可能)。マニュアルからオートに戻すのも同じである。マニュアルの場合N~8までシフトできる。走行中の安全性確保からマニュアルではRには入れられない。
スーパーカーというと「後方視界が悪い」のが定石だが、この車の後方視界は悪くない。というのも天井のルームミラーが左右に一つずつ、合計二つあるからだ。中央にドライバーズシートがある車ならではだ。ひとつは通常の位置に、もうひとつは「バニティミラーとして使う」などという手もある。余談だが、時々、女性ドライバーが運転する車で、後ろから見ていると、目元ではなく太腿や腹が映っているルームミラーを目撃することがあるが、ルームミラーをバニティミラー代わりにして後方を全く見ていない証拠である。
床と天井の色は肌色で室内の明るさを演出。シートとドアはタン。タンはシルバーパネル同様1960~70年代のスーパーカーに好んで使用されたカラーで、てっきり碓氷氏のアイデアかと思いきや佳子さんのものだという。碓氷氏曰く「外装、内装共に全て彼女のオリジナルアイデアであり、色も含めて自分は何も助言していない」とのこと。
※
かつて、ベルトーネが才能ある若手デザイナーの発掘を目的に開催していたデザイン・コンペティション「グリフォ・ドーロ賞(黄金のグリフォン賞)」の魂を継承すべく企画、開催された第1回拳骨杯・カーデザイン大賞。正直、上手くいくかどうか不安な面もあったのだが、カロッツェリア・風信子の協力によって無事に成功することができた。今回受賞された佳子さんには是非とも世界を代表するカーデザイナーとしての飛躍を期待したい。実のところ、我々スタッフは「碓氷氏を脅かす仕事上のライバル」を探している。「ライバルがいないと仕事がダレてくる」のは、いかなる世界でも同じであり、碓氷氏をダレさせないためにも次々と有能な才能が登場する必要があるのだ。スポーツだって、ひとりだけ「ずば抜けた実力」があり毎回、その選手が優勝するような状況は「つまらない」ではないか。今日、自動車離れが著しい若者たちに再び「自動車への憧れ」を!そのためにも魅力的なデザインを生み出す活きのいい若手デザイナーが次々と登場、互いに鎬を削る群雄割拠が切望されているのである。
9月号
今やエターナルといえば「フォー・ウスイ」が俄然、注目されているが、フォー・ウスイ発表と同時にマイナーチェンジを受けたノーマルモデルも棄てたものではない。今回はそのノーマルエターナルについて伝える。
※
最大の変更点は予てより「(ライバルに比して)プア」と指摘されていたエンジンの強化。150馬力アップの650馬力はランボルギーニ・ウラカンの640馬力、GT-Rの600馬力に勝る。これはツインターボの装着によるもので、チューニングの違いはあるもののフォー・ウスイと同じものだ。
そして外観上の最大の変更点はリアのホイールハウスがスパッツ状から現代風に改められたことだ。これはエンジンのパワーアップに伴い、より幅広いタイヤを装着する必要があったからだ。サイズ自体も17インチから19インチにアップした(フォー・ウスイは20インチ)。このように変更の理由はパワーアップに伴う必然だったのだが、個人的には「この方がカッコいい」と思う。エターナルは遂に外観上の唯一の欠点を改善。「画竜点睛」を入れ終えたのだ。
- ギアシフトはマニュアル、セミオート共に6速から8速に一気に2段増えた。
8速シフトを採用したことで、ひとつの問題が生じることになる。マニュアルギアの場合の「シフトパターン」だ。縦四列となるためシフトの「入れ間違い」が起きる可能性があるのだ。事実、8速マニュアルを先行採用するポルシェ911やアストンマーチン・ヴァンテージなどではデリケートなシフト操作が要求される。
エターナルはそれを見事に解消している。横のゲートを1本とはせずに5・6速で僅かにズラすことで、4速からいきなり7速へ入るのを防いでいるのだ。そのためNは通常「3・4速の間」に一つあるが、エターナルは「5・6速の間」にもある。
実際に操作してみたが、操作感覚に左程の違和感はない。むしろ4速から5速へ勢いよく入れられるので実に気持ちがいい。
とはいえ「ギアの多段化」もマニュアルに関しては「これが限界」だろう。縦のゲートが増えればゲート間の距離は詰まり「横への操作」はシビアなものとなるからだ。9速を用意するとなれば、縦のゲートは最低でも5本になってしまう。
室内もマイナーチェンジを機会に変更、高級感がぐっと増した。とはいえ相変わらず「70年代家電」のイメージは継承されている。今まではローズウッドだけだったが、今回からセンターコンソールにバーズアイメイプルが用いられるようになった。レーシーなフォー・ウスイに対する「GTカー的なエターナル」という区分を明確にしたのだ。
- エアコンダクトが大きく変わって助手席側はベントレー張りのクロームメッキを施した円形タイプに変更、そしてドライバー側は何とメーターコンソールの中にある。その意図について伺ったところ「助手席からもメーターが見えるようにするため」ということだ。確かに今までのエターナルだとメーターはエアコンダクトに隠れてドライバーにしか見えなかった。それが助手席からも見えるようになったのだ。細かいところでは家庭用エアコン同様にスイングルーバーも装備された。
運転席正面のメーターパネルはフォー・ウスイとは異なり、依然としてアナログメーターが配置される。但し、オプションでフォー・ウスイと同じ液晶パネルに変更できる。大富豪の方の中には「正面パネルにナビ、センターパネルにメーター類を表示したい」という方もいるそうだ。
驚くべきはシート調整が手動から電動に変更されていることだ。故障したら動かなくなる実に不便な代物だが、大富豪の方にはやはり自動の方がいいのだろう。
※
実際の走行感覚は「熟成」が進んだ結果だろうか、或いはGTカーとしての特徴をより強く出すことを狙ったのか、かなりマイルドなものとなった。タイトコーナーでもリアが滑ることがなくなり、かなり粘る。アマチュアドライバーでも容易に操れるようになった。エンジン特性もターボ装着によってがらりと変化。高回転域でいきなりドッカーンといった特性は影を潜め「トルクフルなエンジン」に生まれ変わった。
それはテスト結果でも明らかとなった。0~100km加速は、以前は3,9秒だったが、今回は2,9秒と100馬力違うにも拘らずフォー・ウスイと0,1秒しか違わない数値を記録したのだ。
そして最高速だが、こちらは期待したほど(340kmを予想)には伸びず328,88kmにとどまった。これらのデータからターボをスーパーチャージャー的に低速域で活用していることが判る。
最高速が伸びなかった理由は他にもボディがフォー・ウスイと同じロングホイールベースを採用したことが挙げられる。その結果、ボディだけで以前よりも50kgほど重くなった。ターボ装着などもあり全体としては200kg増加しているのだ。
しかし、サイズアップは室内空間に余裕をもたらしている。車内での快適度は確実に増した。
最後に気になる値段だが1288万円から1688万円にアップした。この「400万円アップ」をどう見るか?400万円といえばニッポンなら、ちょっとした高級車が1台買えてしまう。しかしながらフォー・ウスイが2328万円だから、やはり「バーゲン」と呼んで差し支えあるまい。もっとも我々スタッフには、それでも夢物語なのだが。
10月号
風信子から一本の電話が入った。
「見せたいものがある」
何だ何だ?我々は直ちに韓国へ飛んだ。
伝説のシャークマシン、復活!
我々が風信子本社の開発ブースで目撃したのは、あの伝説のシャークマシンであった。
しかしなぜ?シャークマシンは破壊されたはず。
説明すると、シャークマシンは韓国の自動車メーカーが新型エンジンのテスト用に開発した車両で、テスト終了後にデータ収集のために分解され「現存しない」とされている幻のマシンのことである。我々取材班はその走行する姿をラ・フェラーリの取材時にたまたま目撃したのだった。
「メーカーに問い合わせたところ、バックヤードにバラバラではあるが全ての部品が放置されていることが判明したんだ。で、それらを全てもらい受けて、レストアしたのさ」
レストアの結果、いくつもの謎が判明したという。
「こいつのエンジン。何とヴァンケル・ロータリーだった」
直列6気筒ターボとかV型12気筒スーパーチャージャーといった感じで説明するならば、さしずめ「縦置き8ロータリーターボ」ということになるだろうか。「縦置き」というのは何と4ローターターボエンジンを二基、上下に載せて配置しているのだ。シャークのリアセクションがなぜ一直線に真っ直ぐ後ろへと伸びるのか?その答えがこれだ。
- 今回、風信子から透視図が提供されたので、それを参考に詳しく見ていくことにしよう。この手の透視図は我々取材者側にとっては非常にありがたいものだが(これだけでページを確保できるのだから)描くには時間を必要とするものだ。
今回、我々が提供を受けた透視図。見ての通りの「手描き」。実は碓氷氏が自ら描いたものだ。「プロなのだからこれくらい描けて当然」などと思うことなかれ。昔のカロツェリアは大概、専門のイラストレーターに外注していたし、現在ではコンピュータに3Dデータを入力してイラストを自動的に作成するのが普通なのだ。碓氷氏が画家としても非凡な才能を持っていることは話には聞いていたが今回、実際にそれを確認する機会を得たわけだ。マエストロ・ジュジャーロが美大卒の画家で実に美しいイラストを描くことは知られているが、碓氷氏にも同様の天分が備わっているのだ。
でも、なぜ自分で描くのだろう?
風信子。実はスタッフが社長・チーフデザイナー・秘書の三人しかいないのだ。ゆえに幾つもの仕事をひとりの人間がこなしているのだ。社長の仕事は営業マンと被り、秘書はアパレルデザインの担当でもある。そしてチーフデザイナーである碓氷氏はデザインだけでなくクレイモデルの制作も自分でこなす。碓氷氏によれば「最短3日で完成できる」という。
3日!いかにメーカー専属のデザイナーが「ダラダラ仕事をしているか」が判ろうというものだ。
「初日に粘土をつけて乾かし、2日目に外形を整え、3日目に細部を整えて完成」
成程、確かに3日でできる。
とはいえクレイモデル制作専用の職員を雇用する気はないのだろうか?その方が自身の負担が軽減するだろうに。ひとりのチーフデザイナーの下に多くのデザイナーが補助として関わっているのがカロッツェリアの常識だ。
「ニッポンにいた頃、自分はいろいろな人間と付き合ってきたが『これをやっておいてくれ』と頼んで自分が期待した内容に仕上げてくれる人間は実に少なかった。本質的にニッポン人は口が達者の『評論家』であり、他人の仕事にケチはつけても自分では何もできない能無しばっかりなんだ(怒)。で、そうした信頼できない他人にやらせるよりも全部『自分でやってしまった』方が結局は質の高い仕事になることが判ったんだ。幸い、今は韓国企業が主なクライアントだから自分は図面だけ描いてクレイモデルは向こうで作ってもらうという手もあるがね」
話を戻すと、上下に載せられた4ロータリーエンジンは上下さかさまの状態で縦置きされている。といっても同じエンジンではなくローターの回転が逆のエンジンを合体させている。エンジンを真後ろから見ると、まるで「鏡富士」のように上下が対称になっているのがわかる。これは無論、遠心力を相殺、ハンドリングの違和感を無くすための配慮だ。
その副産物としてエンジンルーム内の配置も吸気管と排気管を左右に分離した実に効率のいいものとなっている。後ろから見ると、エンジンの左側上にラジエーター、下に排気管があり、右側上にエアクリーナーと吸気管(実際には下にも伸びているが)、下にバッテリー(青いボックスがそれ)などの補器類がある。リアバンパーの真裏には横置きにされた巨大なマフラー。燃料タンクはリアタイヤの前部にふたつ。容量は60×2=120ℓ。給油口はエアインテークのすぐ前にある。
吸気管は右側上部にあるフィルターボックスから上下2本に分かれて伸び、更にエンジンの手前で上下に分岐する。透視図で見ると、上管が奥のローターに、下管が手前のローターに繋がっている。常識的には「上管を上のローター、下管を下のローターに繋げる」と思うのだが、碓氷氏に伺ったところ「この方が絶対にいい」という。エンジンの手前で別のパーツを用いて上下に分岐した方が配管の中央部分で手前と奥に分岐するよりもメンテナンス上、有利なのだという。確かにその通り。これならば分岐から先、下へ延びる管を供用できる。しかも破損した際に一本の直線的な管を交換するだけ、外す個所も前後の二カ所で済むのだ。上下完全分離にすると上下で管を専用設計しなくてはならず、破損した際にはエアフィルター側と二つのエアチャンバー側の三カ所を外さなくてはならない。
吸気管が繋がるエアチャンバーからは更に左側面にあるターボチャージャーまでエンジンを包み込むように管が伸びる。ターボチャージャーは透視図にある通り2ローターにつき一基の合計四つ。
二基のエンジンからの動力は一つに合成されたのち、室内側に飛び出した6速ギアへと送られる。そして驚くべきことに、更にそこから前にドライビングシャフトが伸びる。後ろへ延びるシャフトは見当たらない。つまり、こいつはFF(前輪駆動車)なのだ。
「恐らく、エンジンが高くなりすぎるからだろう」
ドライビングシャフトを後ろへ伸ばそうとすれば、その分、エンジンを上げなくてはならない。V型エンジンであれば排気管を避けてクランクシャフトの脇を通すこともできるが、ロータリーエンジンでは不可能だ。
ではミッドシップV12気筒エンジンのような「エンジン・デフ・ミッション」という通常の配置では搭載できなかったのだろうか?
4ローターの全長はV12よりも長い。2ローターの全長が直4の全長とほぼ同じ。ということは、4ローターの全長はV16エンジン並みということだ。そして二階建てということになると、通常の配置だとドライバーの頭の真後ろにエンジンがあることになる。さすがにそれは拙かったのだろう。
特徴的なのはエンジンの周りを3本の金色の金属ベルトで締め上げていることで「エンジンの繋ぎ目を圧着する効果」と「エンジンの剛性をアップする効果」を狙っていることだ。これは形が競馬場のトラック状をしたロータリーエンジンだからこそできる芸当と言えよう。
「測定器で計測したら、実に2000馬力を叩き出していた」
2000馬力!ラ・フェラーリをいともあっさりと抜き去るわけだ。1991年ルマン王者・マツダ787Bに搭載されていた4ローター「R26B」が700馬力だったことを考えれば、同等の能力を持つエンジンが二基でしかもターボ過給ということで、2000馬力は順当なところだ。
ハイパワーエンジンを搭載するFFであるから、なるべく重心を前に持っていきたい、ということでギアとデフはフロントにある。「逆トランスアクスル」とでもいうべきか。そのおかげで重量配分は50対50を確保しているが、理想は60対40だろう。
ピコーンピコーンという電子音についても理由が判明した。
「エンジンにトラブルが生じたときに発する警報音さ」
つまりこいつは鈴鹿でエンジンがトラブルを起こしていた状態のまま走行していたのだ。
「ギア比からの計算値では、こいつの最高速度はエンジン回転数6500の時に時速500kmに達する」
やはりシャークは「とんでもないモンスター」であった。
そして最後の謎。「3台製造された」というのは?
「やはり1台だけだった。同じシャシーにいろいろなエンジンを載せて試していたんだ。バックヤードには違うエンジンが何台も野晒しになっている。私たちは最も『パワフルで魅力的』と思われるエンジンをオーバーホールしたんだ(※注 実際はもう1台あり、ニッポンの幕張にある)」
しかし、まさかロータリーエンジンとは。
「ロータリーエンジンの特許を取得したメーカーは何もマツダだけじゃない。特許権の大元であるNSUヴァンケル社を吸収したフォルクスワーゲンは当然のこと、スズキやシトロエンなども特許を取得している。韓国メーカーも遠い昔に特許を取得していたのさ」
でも、実用化には至らなかった。
「独自開発とはいっても細かい部分で、やはり先行する『マツダの技術』と被る部分があったのだろう。『8ロータリーエンジン』なんて実に魅力的ではあるけれどもね」
※
果たしてこいつは「計算値通りのパフォーマンス」を発揮するのか?やはり試さないわけにはいくまい。
遅ればせながら「シャークの外観」について説明すると、真横から見た図は「ロータス・エリート」のようにフロントスクリーンの上端から後ろまで一直線にフードが伸びる。これは背高エンジンを収納するためのデザインであるが、空力的にも優れている。翼断面でないため、リフトが発生しないのだ。そのため、シャークのリアバンパーにはエターナルのような空力的対策は施されていない。そしてリアバンパーに空力的対策がない最大の理由は、やはりこの車がFFだからだ。高速走行時になるべく駆動輪である前輪に重量をかけたいのだ。
フロントとリアのライトの造形は碓氷氏に伺ったところ「携帯電話の電波強度を示す棒グラフ」なのだそうだ。そしてフロントボンネットの上には、この車のネーミングの元となっている「鮫の鰭」を見立てたマスコット。ドライバーに先端の位置をわからせるためのものだ。
碓氷氏は「リアデザインに苦慮した」という。
「綺麗にまとめてしまう、例えばリアガラスとテールランプを合体させて横一列に並べるとデザインとしての完成度は高まるが、他の車と似たものになってしまう。だからデザインの完成度が下がるのは覚悟の上でリアガラス、エアダクト、テールランプを全てバラバラに配置したんだ」
リアホイールアーチは初期エターナル同様のスパッツタイプ。
「自分はDS19のデザインを気に入っている」
碓氷氏のデザインにたびたび登場するスパッツタイプのリアホールアーチの源はカウンタックではなくDS19である。
リアのエンジンカウルはF40のようにBピラーにあるヒンジから後ろが全てガバっと大きく開く。エンジンメンテナンスを容易にするためで、テスト車両ならではだ。そのカウルの上部には「鮫の鰓」のようなエアダクトがある。
今回のテストにあたり碓氷氏所有のエターナル「フォー・ウスイ」にもご賛同願った。言うまでもなくエターナルはシャークを元に開発された車であり、この二台はいわば「双子の兄弟」である。
こうして眺めると、単体では未来の車にしか見えないエターナルが如何に「現実的なデザイン」であるかがわかる。シャークはそれだけ「未来的」なのだ。
- 縦横の寸法は両車とも同じ(オーバーフェンダーは除く)であるが、シャークの方がスリムに見える。逆にエターナルはどっしりしている。理由はフードの横幅の違い。シャークはサイドスクリーンの傾斜が強く、フードの横幅が狭いため、スリムに見えるのだ。
後ろから眺めると更に違いは顕著で、エターナルの方が幅広で低く、シャークは随分と背高のっぽに見えるが、実際はエターナルの方が若干、背が高い。こうした違いは「デザインの違い」によってイメージが大きく変わることの証明でもある。
兄弟車だからボディ構造は両車とも同じ。カーボン製のバスタブ型シャシーにアルミ製の外皮を被せている。サスペンションがダブルコイルであるのも共通。ブレーキシステムもどうやら同じようだ。信頼のブレンボ製。
シャークの室内に乗り込む。内装は「ランチャ・ストラトス並み」といえばわかってもらえるだろうか。はっきりいってスパルタンだ。至る所にボディ材であるカーボンが剥き出しになっており、運転席の正面には計器類の代わりに市販のタブレットがそのまま装着されている。
エアバッグすらないハンドルだが、しっかりと「12時ハンドル警告装置」が搭載されている。しかし、その仕組みはエターナルのピエゾ素子による圧力センサー方式ではなく、テレビのリモコンのような赤外線方式だ。そのためハンドルの上部に幾つもの丸い穴が開いている。
シートはこれまた信頼のスパルコ製。エターナルとは異なりシャークは社外部品を多数、利用している。シャークを開発している時点では自社製部品はまだ開発途上だったのだろう。リクライニング機能はないが、基本的な形状に優れておりドライバーの体を確実にホールドする。シートベルトは4点支持タイプ。
サイドドアに装備されている自転車のグリップとブレーキノブはサイドウインドウを開閉するための仕組みである。ブレーキを握り上下にスライドさせることでサイドウインドウの一部を開閉することができる。つまりサイドウインドウは普通の車のように水平に上下せず、コンパスのように軸を中心に回転しながら上下するのだ。その軸はドアの後方にある。
エアコンが装備されているのは幸いだ。それもかなり強力な奴で、エンジンパワーが強力無比だから「この程度の装備は足枷にならない」ということだろう。
エンジンをかける。ロータリー独特のトルク変動を感じさせるエンジン音。昔、サーキットで耳にしたロータリーエンジンは「ビイイー」といったかなり甲高い音だったと記憶しているが、こいつはレシプロ並みに「ボオーン」といった音を発している。それもレーシングカー並みに大きい。
いよいよ計測に入る。
今回、我々は新兵器を導入することにした。
計測器といえば、昔は車後方バンパーを取り外し、そこに車輪式の計測器を設置していた。現在は車の加工はせず、主に赤外線センサーで外部から計測する。だが、これらは誤差が大きいとされている。
そこで今回、私たちは「ジャイロ式加速度計測器」を導入した。
この装置の原理は基本的には宇宙ロケットや民間旅客機で用いられている「自動航法装置」のものと同じだ。高速回転するジャイロが作り出す水平面に加わる加速度を三方向から測定、そのデータをコンピュータで積分することで移動距離や移動速度を精密に割り出すものだ。地球の自転運動から来る微かな誤差までも補正できるため、文字通り究極の測定が可能である。
今回、この装置を使用することができたのは、この装置が非常に小型であり、シャークの助手席に載せても左程、重くならないからだ。開発したのは韓国のPIPIRUMA技研。その名からもわかるようにニッポンのPIPIRUMAグループの一員だ。
テストコースの周囲には数100mおきにアサルトライフルを手にした韓国軍が配備されている。これだけ小型だと容易に軍事転用、たとえば弾道ミサイルや誘導ミサイル、さらには偵察用ドローンにさえ搭載できるため、この装置は国の重要機密扱いなのだ。
こんな物騒な代物を今回、借り受けることができたのには理由がある。どうやらシャークの開発にはPIPIRUMAの技術が用いられているらしい。1/100000mmの加工精度を誇るシームレスエンジンはPIPIRUMAの技術によるものだったのだ。ちなみに今回使用する計測器の小型化を可能とした豆ジャイロの加工精度は原子レベルと言われている。こうした自動車メーカーとPIPIRUMAグループとの関係から今回、拝借できたというわけだ。
こうした物物しい環境の中で、まずは加速測定を行う。従来通り、赤外線測定装置も併用する。両者の測定誤差が楽しみでもある。
0~100km加速はジャイロ、赤外線共に2,8秒を記録した。ちなみに1800馬力のSR-71は2,3秒、500馬力も劣る1500馬力のブガッティ・シロンでさえ2,5秒なのだから正直、寂しい感じもする。
だが、このデータにはちょっとした「説明書き」が必要である。
シャークに搭載されているロータリーエンジン、実は「休止機能」が装備されている。つまり通常モードでは4ローターで駆動、必要な時だけ8ローターに切り替わるのだ。そして上記のデータはいずれも4ローターでのデータなのだ。
それはそうだろう。こいつは4ローターでも900馬力の出力を発揮するモンスターなのだ。切り替え時にはメーター内のランプが点灯するのだが結局、最後まで点灯することはなかった。
で、今度はレースモードに切り替えて計測することに。レースモードはシャークのロードクリアランスをグループCカー並みの50mmに下げ、アイドリング状態から全てのローターを作動させる。サスペンションは勿論、ガチガチに固くなる。
再び0~100km加速の計測を開始。アクセル全開。
- ミッドシップは発進時にリアタイヤに大きく重量がかかる。シャークはFFなので「発進加速は苦手」かと思われたが、フロントタイヤは思いのほか空転せず、車体は一気に加速した。
すると、直ちにピコーンピコーンという警報音が鳴り始めた。
この警報音はギアに強度を超えるトルクがかかった状態の時に鳴る。つまり「いつギアが壊れてもおかしくない」ということだ。風信子の許可は取ってある。警報音鳴りまくりの状態で加速を続ける。
計測の結果は何と1,88秒!まさか100kmに加速するのに2秒を切るとは。幸い、ギアは壊れてはいない。しかもこのデータはいずれの計測器でも全く同じ。従来の計測器の精度もバカにできないということだ。
そして、最高速テスト。
メーカーのテストコース。外周の総全長11,14km。周囲に「かまぼこ型」の格納庫が幾つも建つ、有事の際には空軍基地としての使用も想定されているという全長4kmの長さを持つ2本のストレートコースを有する陸上トラック形周回路。両サイドにある半径500mの曲線部分の最大カントは80度。計算上は時速1000kmでの走行が可能で、しかもドライバーはハンドルを切ることもアクセルを緩めることなく、まるで直線道を走行している感覚でコース内を旋回走行することができる。
シャークをテストする前に、エターナルがまず先に周回路を走行開始。今日のエターナルはエンジン快調で、最高時速370kmを記録した。
お次は、いよいよシャークの番だ。
今回、シャークに乗り込むのは何と碓氷氏本人。メーカーの職員が必死に止める。シャークの最高速度はエターナルを100km以上も上回ることが予想されている。碓氷氏は自動車界のレジェンド。万が一のことがあったら大変だ。だが、碓氷氏は自身がデザインした車の性能をどうしても「自分の手で確かめたい」と主張した。
「この車は私の処女作なんだ」
この言葉にハッとさせられた。そう。シャークは碓氷氏の処女作なのだ。処女作にして既にこれだけ独創的なデザインを生み出していたとは今更ながら驚きだ。デザイン学校に通う学生の作品が、なまじっかデザインの基礎やトレンドを学ぶがゆえにどれもこれも没個性で似たり寄ったりであるのとは大違いである。
いざ、スタート。
まずはおもむろに走り出す。数秒後、タイヤがスリップしない程度に加速してからアクセル全開。途轍もない爆音とともに見る見るうちに後ろ姿が小さくなっていく。
それはそうだろう。こいつは0~400mを走るのに10秒かからないのだ。0~400km加速も20秒以下でこなす。10秒ほどでシャークは周回路に姿を消した。遠くで爆音が響いているのが聞こえる。
爆音が我々の右横から後ろへと移動する。そして爆音が最も小さくなった頃、再びシャークが直線道の反対側から姿を現した。こちらめがけて猪のように突進してくる。それとともに爆音が大きくなる。爆音が最大になった時、シャークはスタート地点を猛スピードで通過していった。しかも先程は10秒ほどだったが、今度は4秒ほどで周回路の彼方に姿を消した。
シャークは1分ほどで戻ってくるだろう(時速500kmで走る距離は1分間で約8,33km)。大急ぎで計測器の数値を確認する。その時、我々は我が目を疑った。そこに表示されていたデータは何と520,05km!この数字は量産車であるSR-71は当然のこと30台限定生産のブガッティ・シロン・スーパースポーツ300+の490,48kmさえも凌駕するものだ。しかもそれらの車はパワーを路面へ伝達するのに有利な4WD車である。
2度目の周回でも同様のデータが計測された。
シャークが戻ってきた。碓氷氏の遊び?シャークは我々の前で途轍もない急ブレーキを披露した。タイヤの焦げる匂いが周囲に立ち込める。シャークはブレーキ開始から僅か120mほどで停止した。これまた凄い能力だ。
早速、ジャイロ式計測器のデータを確認する。そのデータは508,88km。赤外線式よりも遅い。おそらくはこちらが正解なのだろう。とはいえ、これだって世界最速であることに違いはない。
やはりこいつは我々の期待通りの、掛け値なしのモンスターマシンであった。
11月号
Cセグメント。全長4200mm~4500mm程度の5ドアハッチバックのメルクマールといえば、言うまでもなく「フォルクスワーゲン・ゴルフ」。20世紀最高のカーデザイナー、ジョルジェット・ジュジャーロが「ビートルの後継車」として1974年に発表して以来、その地位は文字通り「不動」。今まで、いかなる強敵が出現しようともその地位が奪われたことはなく、今後も「ない」であろう。その絶対的地位を脅かすべく広島が「マツダ3」を開発したことは本誌の読者であれば知っていて当然。勿論、それはいいことで、そういうライバルがいることでゴルフもまた、さらに進化するのである。
その後を追って、我らが風信子も遂にこの「激戦区」で戦う車を開発した。その名は「SOUL=ソウル」。ソウルはゴルフ(そしてマツダ3など)に対する「風信子からの挑戦状」である。ソウルとはニッポンでは一般的に「魂」と訳されることが多いが、精髄や手本といった意味もあり「コンパクトカーの精髄」という意味と思われる。ソウルは無論、彼らの首都の名前でもあるから、この名前を使用したこの車に賭けるメーカーの意気込みが如何に凄まじいものであるかがわかる。
- 全長4390mm、幅1760mm、高さ1490mm。これがソウルの外寸だ。対するゴルフは全長4265mm(ヴァリアントは4595mm)、幅1800mm、高さ1480mm。ソウルの方が幅で4cm狭く、高さは1cm高い。長さはゴルフとヴァリアントのちょうど中間で、1台で両方を相手に戦うことを示唆させる。ちなみにホイールベースはゴルフと同じ2635mmだ。ソウルが横幅を1700mm台に収めたのは、1800mmは「やはり大きい」と感じる顧客に対するアピールとして機能し、高さを1cm上げて1500mmに近づけたのは「より荷物を積める」ことを印象付けるための戦略である。全く同じことをやっていたら顧客は「ゴルフを買う」に決まっているわけで、これは正しい判断と言える。そして意識的に「大きな差を設けなかった」ことも。ホイールベースが同じであることは「とり回しが同じ」であることを意味し、それは顧客に「乗り換えても変化はない」という安心感を与える。
エンジンはハイブリッドエンジンを主軸に、最上級モデルにはエターナル用V8エンジンの「方側バンク」をそっくり利用した直列4気筒300馬力エンジンが搭載される。ちなみにエンジンは全て横置きだ。
まずは外観をチェック。
真っ先に目につくのはバックドア、いわゆるテールゲートだ。これほど奥行き幅の厚い立体的な造形を持つテールゲートは今まで存在しなかった。テールゲートといえば一枚の大きな薄い板であるのが当たり前。しかしそれは当然、ボディ剛性にとってマイナスとなる要素に他ならない。そのため、走りにこだわるハッチバック車の場合、テールゲートをなるべく小さくする。だが、それだと荷物の出し入れに難が生じることは避けられない。
風信子は果敢にも、こうした「マイナス要素の克服」を試みたのだ。
- ソウルのテールゲートには逆U字状にフレームが入っている。即ち下を除く左右と上に補強材が入っているのだ。そのため左右の板は厚く、上はダックテールになっている。しかもソウルのロック機構は左右のフレームの中央に1カ所ずつ、計2カ所ある。その2カ所のロックによってフレームはボディ本体のフレームと合体、Cピラーの役割を果たすのだ。上のフレームと結合するヒンジも通常の2カ所から倍の4カ所に増やされている。
こうした複雑な構造の結果、ソウルのボディ剛性は飛躍的に向上している。テールゲートの剛性は文字通り「史上最強」で、リア全体が大きく開くにも拘らず、どんなに乱暴な走りでも決して歪まない。
テールゲートの独特な形の理由は判った。しかし、これは明らかな「冒険」だ。スーパーカーとは異なり大量販売が絶対条件の大衆車で、これほどの冒険をしてもいいのだろうか?
「安全策で行くならばクリフカットだった。我々には豊富なノウハウがあるからね(碓氷氏)」
ではなぜ、安全策をとらなかったのだろう?
「はじめは『ゴルフに勝てる車を作ろう』なんてメーカーも『バカなことを考えるもんだ』と思ったよ。でも、引き受けたからには『よーし、やってやろうじゃないか』という意欲が沸いてきた。で、やるからには徹底的に『新しいことをやってやろう』と思った。今までのハッチバック車の常識を一から見直してやろうとね。で、まずは『ハッチバックのテールゲートは小さくて当然』という常識を打ち破ってやろうと思った。そのためにはテールゲートの中に強固なフレームを入れなくてはならないわけだが、そうすれば当然、ボディが重くなる。そこで思い切ってボディ側の補強を排除したのさ。普通の人間には『考えられない』非常識極まりないアイデアだと思う。だが自分は『やれる』と思った。ボディとテールゲートとを合体させるロック機構さえ頑丈にすることができれば可能だとね」
サイドスクリーンはリアクォーターガラスのある、やや長めのアーモンド=杏仁形。杏仁形は飛鳥時代の仏像の目に用いられたもの。カシマシーンのスプーンカットに影響されたことは間違いない。杏仁形のモチーフはエクステリアの至る場所に散見される。
「一緒に仕事をしたのだから影響を受けるのは当然さ」
同様にヘッドランプも杏仁形。目を引くのは、ヘッドランプの下にある車幅灯が涙滴型であること。つまり、この車の顔は「泣き顔」なのだ。一体、何を泣いているのだろう?
「これだけ頑張ったけれど、やはり『ゴルフには勝てない』ことを泣いているのさ」
碓氷氏はそう言って笑った。だが、果たして本当にそうだろうか?人は勝ったときにも泣くものだ。本当のところはともかく、泣いている顔の車というのは世界初だろう。よく見ると、リアにも同様のモチーフが。バックランプの形もまた涙滴である。
フロントボンネットが、これまたユニーク。「二重ボンネット」とでも言おうか。内側の線はダミーで、フロントフェンダー最上部を走る線が本物。フロントフェンダーを盛り上げ、ボンネットを低くしているのは1960年代風だ。
口を表すフロントグリルは上下にふたつあり、下は笑い、上は怒る。結果、笑っているんだか、怒っているんだかよくわからない顔に仕上がっている。
「最近は『厳つい顔』が主流だけれど、それは自分の好みではない。かといって笑った顔にする気もなかった。無表情を狙った結果、口を二つにしたのさ。BMWのキドニーグリルのような、今後のブランドイメージとなり得る顔だと個人的には思っているよ」
※
室内に乗り込む。エクステリア同様、杏仁形のモチーフが採用された世界がそこにある。
ナビ画面の左端がメーターパネルに食い込んでいるのは完全にデザイナーの遊び。機能的には問題ない。メーターパネルの左にはオートクルーズコントロール用のオン・オフスイッチと速度調節用のダイヤルがある。
ナビ画面の手前にはDENONの円盤型ターンテーブル風にスイッチが並ぶ。これらはナビを操作するためのもので、一番左端はハザードスイッチ。タッチパネルは採用されていない。
「タッチパネルは爪の長い女性には不向き。Cセグメントは主婦が日常的に使用する車だから女性に優しい車でなくてはならないと考えた」
この考えはセンターコンソールにあるスイッチの配置にも表れている。上から順番に「エアコンダクト」「エアコン風向きスイッチ」「エアコンオン・オフ、オート・マニュアル切り替え、デフォッガースイッチ」「温度表示パネル」「温度・風量調節ダイヤル」。操作を誤ることがない、わかりやすい配置になっている。結果、女性だけでなく高齢者にも優しい車に仕上がっている。
そしてボタンには全て自発光式の透明スイッチが採用されている。文字が裏側から掘られているため、指で頻繁に押されても鍍金のように文字が剥げることがない。
メーターパネルの表示にも碓氷氏ならではの人間工学的配慮がなされている。基本は三つの円形メーター。中央にタコメーターを配し、左に速度計、右には各種警告灯。注目すべきはリング状のタコメーターの内、最も見やすい位置に燃料計と水温計を配置していることだ。通常、中央にタコメーターを配する車は、その中にデジタル式の速度計を配置するが、碓氷氏は見落とされがちな燃料計と水温計を配置したのだ。勿論、これらはデジタル表示で、燃料計の場合、通常は青色だが、走行可能距離100km以下で黄色、50km以下で赤色に変わる。タコメーターを見るたびに必ず目に入る場所にあるため、見落とされる危険がない。
「速度計はドライバーによって最も頻繁に『意識的に見られるもの』だから左側でも大丈夫と判断した」
残った空き地に適当に配置されがちな警告灯も右側の一画を大きく占めており、点灯時に視認しやすくなっている。
今時、珍しくこの車のハンドルには操作スイッチがない。オートクルーズコントロールもエアコンもナビもハンドルから手を放して操作しなくてはならないのだ。
それどころかハンドルにはエアバッグすらない。これは一体全体どういうことなのか?
エアバッグはAピラーに装備されているのだ。
「シートの下から餅が膨らむように膨らむアイデアも考えたが、ロングスカートの女性だと無理があることが判り、断念した。実はこの方が胸や腹でも吸収するから、顔へのダメージが少ないのだけれども」
そのため、この車はハンドルを市販品に自由に付け替えることができる。革の感触を嫌い、ウッドハンドルを好む碓氷氏ならではのアイデアである。だからハンドルにはいかなる操作ボタンも装備されていないのだ。
「女性の指は繊細で、しかも掌の大きさも男性より小さいから、人によっては細いグリップを好む可能性がある。オプションとしてそうしたハンドルを用意する予定になっているんだ」
センターコンソールに生えるシフトノブ。ジグザグゲートなどの複雑なものは意識的に避け、L字形のオーソドックスなものを採用。真っ直ぐ引けば終点はDレンジ。右に倒せばL。パドルシフトはスポーツモデルでも装備されない。女性ドライバーへの配慮を徹底しているのだ。無論、マニュアルもない。少なくとも今のところは。
シートは撥水加工を施したモケットが基本で、上級モデルにはカーフレザー(子牛の革)が用意されている。
助手席のシートバックを倒すためのノブが通常とは異なりセンター側にある点はユニークだが、何故なのだろう?まさか昔のプレリュードのような「デートカー」を意識したわけではあるまい(注、プレリュードの助手席は運転席からシートバックを倒せるようになっていた。助手席の彼女を男性の意思で寝かせるためだ♡)。この点を窺ったところ「ひとりで買い物をした際、反対側に回らなくてもシートを倒せれば、長物を載せるのに楽だ」と回答を得た。つまり「ハッチバック車ならではの装備」ということだ。
ナビ周りやセンターコンソールに施される装飾パネルは、一般グレードは黒いプラスチック、上級モデルは本木目でスポーティモデルはシルバー。近年はカーボンパネルが人気だが用意されていない。
「ボディにカーボンが使用されていないのに内装にカーボンを使用するのは顧客を騙すのと同じだ」
内装にカーボンを使用することができるのはボディにカーボンを使用する車だけだという碓氷氏の主張は理に適っている。碓氷氏の口ぶりから、もしかしたら将来的にはボンネットやテールゲートをカーボンにして内装にカーボンパネルを使用(その時には当然、パドルシフトやマニュアルも採用されるだろう)するモデルが登場するかもしれない。
※
私たちがテストに駆り出した車は真っ赤なボディの最上級モデル「RS(レーシング・スピリット)」。アクセントとしてバックミラーとテールゲートが白い。見た瞬間「かっこいい」と思ってしまった。だが、それはあくまでも自分の感想。ヨーロッパの人々がこのスタイルを「どう思うか」は正直、わからない。
RSの室内。加飾パネルはシルバーだが、廉価モデルの黒の方が「似合っている」と思うのは私だけだろうか?パドルシフトは装備されていないので嫌でも「Dレンジ」のみで走行することになる。Dレンジのみでスポーティーな走りを楽しめるかどうかが今回のテストの狙いだ。無論、Cピラーの補強材を無くしたボディの剛性もチェック項目だ。早速、いつもの浅間山山麓をグルリと走らせてみる。
300馬力のパワーが急な山坂をモノともせずにボディを引っ張る。この程度の坂ではシフトダウンしない。勿論、意識してアクセルを思いっきり踏み込めば即座にシフトダウン、一気に加速を開始する。シフトチェンジのパターンはノーマルとスポーツの二種類で、手動で切り替えるスイッチはなく、それらはコンピュータがアクセルの踏み込み状況から自動判断する。「無駄なスイッチは無くし、操作手順を少なくする」という姿勢が貫かれている。
タイトコーナーではフルタイム4WDが実によく粘り、スリップとは無縁。これは前後のトルク配分だけでなく左右のトルク配分も自動制御するためだ。ナビ画面に表示することで、その様子をつぶさに確認できる。上り坂の直線時のトルクは前が15・15の30で、後ろが35・35の70。ハンドルを右に切った場合、前が20・10で、後ろが47・23に変わる。下りになると今度は前が35・35の70で、後ろが15・15の30。これはハンドルの切れ角ではなく「重量がかかるタイヤにトルクを振り分けている」ことを意味する。試しに停車時にハンドルを目いっぱい回してみたところ、左右のトルク配分に変化は生じなかった。こうした制御は雨天時や雪道でも威力を発揮するものであり、脱輪時の脱出の際にも有効だ。
ということから当然、ひとつの疑問が浮かぶ。このソウル、ひょっとして「ラリー用のベース車」ではないのか?
これについては、メーカーは「NO」と回答したのだが、ワークスとしてはともかく、プライベートチームが「ソウルで参戦」ということは十分にあり得る。性能的には「スバルWRX」に匹敵するだけに個人的には期待したいところだ。
テールゲートに補強材を入れ、Cピラーの補強を排除したボディの剛性については申し分なしだ。捩じれ感は全く感じず、軋み音もない。エンジン音も高回転まで実に静かで、滑らかに回る。
今ではあまり使われなくなった言葉だが、こいつはまさしく「ホットハッチ」である。
※
ゴルフの強力なライバルとなり得るか?その答えは実際のところ販売されてみなければわからない。だが、個人的には「なり得る」と思う。性能的に同じで、スタイリングの個性では上回る。価格も割安だ。ただゴルフも進化しており、新型ではソウルとは正反対に先進技術満載の、日頃からスマホを使い慣れている人ならば操作しやすいだろう未来的なインテリアを採用している。果たしてユーザーがどちらを好むか?その答えは1年後にはわかるだろう。
12月号
カロッツェリア風信子といえば「スーパーカーデザインのエキスパート」というのが一般的な見方で、ミニバンやSUV、軽乗用車であっても「スポーティーなデザイン」といったイメージが付きまとうのだが、時にそうしたイメージとは全く異なる車も手掛ける。今回、紹介するのはそうした車の1台。ジャンルとしては「営業用のライトバン」である。
※
「VANBOO(バンブー)」という、いかにも風信子的なダジャレのネーミングを持つ、このライトバン(オリジナルのスペルは勿論、BAMBOOだ)のデザイン上の特徴はまず、ボディ側面の造形を見ての通り「竹」である。
- 本当ならば、真ん中を膨らませて、より本物の竹が持つ丸いイメージを出したかったのだろうが、全幅1695mmという制約から垂直の平面パネルとなってはいるが、それでも雰囲気は十分に出ている。リアのテールランプもよく見れば「竹の葉」をモチーフにしている。
だが、私が真っ先に注目したのはドアの湾曲とデザイン上の統一感を出すために湾曲させたフロントボンネットだ。私はこれを見た瞬間、思わず笑ってしまった。というのも、どう見ても「お尻」にしか見えないからだ。フロントマスクの造形にしても明らかに「動物系」の顔である。
リアゲートはクリフカットではなく垂直に立たされ、収納性を優先させているのは営業車ならでは。開いた際に後方への突き出しを縮小する必要からヒンジ部はL字型に食い込んでいる。
この車の特徴である竹のモチーフを用いたサイドスクリーン。実は単なる「デザイン上の遊び」ではない。サイドスクリーンが下まで降りた時にわざと「ガラスの上部が残る」ようにしてあるのだ。
「車の運転を舐めている奴は人生そのものを舐めている。そういう奴は仕事でも舐めたことをするに決まっている。だから車を運転中に肘をドアの上につけない、ドアの外に出せないようにしたんだ」とは碓氷氏の弁。
そしてよく見ると、リアクォーターガラスの下にもドアノブがある。
そう。このVANBOO。全部で7つのドアを備えているのだ。一番後ろのドアは勿論、荷室と繋がっている。
「車の横からでも荷室に搭載した荷物を取り出せるようにしたのさ」
こうしたアイデアは過去に何度も発表されているが、それらはクォーターガラスのみがガルウイング状に上がるものだったり、リアゲートが無かったり、決して使い勝手に便利なものとは言えなかった。
だが、これは違う。普通のリアゲートも備え、なおかつ左右にもドアがある。その場の状況に応じてリアゲートと使い分けができるのだ。たとえば牛乳配達で「数本の瓶を入れ替える」といった作業ならばリアゲートをいちいち開けるよりもずっと「楽である」ことは間違いない。
唯一の難点はリアタイヤを収めるホイールアーチが少々邪魔であることだ。ホイールベースを短くすれば、もっと使い勝手は向上するだろう。
ボディ寸法は4495mm×1695mm×1500mmでニッポン製の一般的なライトバンと同じサイズ。ライバルは当然プロシード。3枚目のドアによって使い勝手では確実に上回る。外観もオシャレであり「若者のお遊び車」にも使えそうだ。実際、展示モデルの荷室にはサーフボードが載せられている。竹の湾曲が海の波をイメージさせる。
こうした目立つ部分を無視して外観を眺めてみると、この車は実に「古典的」なシルエットを持っている。Aピラーやフロントスクリーンが立ち、おまけにフロントホイールハウスとフロントドアの間のスペースが広い。25cmくらいある。かつてはスカイラインがそこに「GTバッジ」を装着するなどしていたものだが、最近は詰めるのが主流である。
ではなぜ、このような造形を?その意図するところはインテリアを見れば一目瞭然だ。
- 黒とグレーを基調とする、見た目にも営業車らしいインテリア。最上位モデルであってもダッシュボードの見てくれは、お世辞にも陳腐だ。しかしながら営業車としての機能は「至れり尽くせり」である。メーターパネルは実にオーソドックスなもので、左右に速度計、回転計、中央上に燃料系と温度計、そして下に警告灯。最近は凝ったメーターパネルが流行りだが、実際これだけあれば十分。自発光式でないのは単に安上がりに仕上げるだけでなく、日没後や日の出前の暗い時間帯にメーターが暗くなることでドライバーに「ヘッドライトの無灯火」を認識させるためでもある。
営業車だから「地図検索」や「交通情報」用のカーナビ&オーディオは必需品だ。しかも操作はタッチパネル式ではなく、専用のスイッチを用意してある。タッチパネルは泥などで汚れた手や手袋をしている手だと反応しにくく、長い爪の女性にも操作しづらいという短所があるからだ。
その下にハザードスイッチを挟んでエアコンの操作ボタン。その下には引き出し式の棚がある。昼食時には弁当や飲み物などを載せられる。素材はプラスチックで作りは「やわ」だが、シフトレバーがPの時にトレーの真下に入ることで「支え」となるため、実際にはかなりの重量物でも載せられる。ライバルのプロシードは2kgだが、これは5kgでも大丈夫だ。
トレーの下には蓋つきの小物入れ。さらにその下に「ゴミ箱」が用意されている。コンビニでいろいろ購入すると何かとゴミが出るもので、それを一時的に入れておける大きなゴミ箱は必需品と思われるが、なぜか、ほとんどの車に装備されていないのが実情だ。これは路上へのポイ捨てを忌み嫌う碓氷氏ならではの発想である。
注目すべき装備は助手席側のドリンクホルダーの下にあるテンキー。これは助手席正面にある大型収納ボックスの扉をロックするためのものだ。ここには営業マンが通常使用しているサイズの鞄を収納できる。開錠すると蓋が二つ折りになって上に跳ね上がる。通常ではグローブボックスがある下部は固定式。昼食時など車から離れる際には、ここに鞄を入れておけば安心だ。この大きなボックスを実現するために助手席のエアバッグはAピラーに内蔵されている。
センターアームレストの下は小物入れ。そこにスマホ充電用のUSB端子がある。蓋の底には消火剤が充填され、中でスマホが発火した場合、炎で袋が破れて消火剤が落下するようになっている。
天井には車載カメラとルームミラーとティッシュ収納ボックスが一体となったコンソールが装備されている。ティッシュ箱はさかさまにして収納する。実際、使用してみると非常に使いやすい。ピラピラが「気になる」という人は押し込むべし。
運転席のシートは何とレカロだ。長時間の運転が想定される営業車ならではの装備だ。
そのシートに実際に座ってみる。座り心地は多少硬いが、さすがレカロ。背中やお尻にかかる圧が実に適切で心地いい。
ダッシュボードの奥行きが短い。計測してみたら軽トラック並みの20cmほどしかない。ミニバンなどはそれこそ奥行き60cmも当たり前になっているから、これは驚くべき短さだ。Aピラーとフロントスクリーンを立て、フロントホイールハウスとフロントドアの間を25cm設けた理由は、まさにこれを実現するためだ。
ダッシュボードの奥行きの短い車が、どれほど安心して運転できることか。営業車には、これは絶対に必要な条件だ。営業車を運転するドライバーが「免許取りたての入社一年目の新人さん」といったことだってあるのだから。上から目線を否定「優れたアイデアは庶民目線でなければ見つけられない」というポリシーを持つ風信子はこうした点にも配慮を欠かさない。「プロのデザイナーの仕事」とはこういうものを言うのだ。最近のデザイナーの仕事は「見てくれの奇抜さ」のみを追求する三流レベルであることが多い。デザイナーといえば一般の人々から見れば「憧れの職業」であり、多くのデザイナーが今日「上から目線のタカビー」になっている。デザイナーは風信子の仕事を大いに学ぶべきである。
グローブボックスがないので車検証は助手席側のドアポケットに入っている。運転席側には通常はメーカー純正の地図が入っており、メーカー車検であれば車検毎に最新刊に交換してくれるそうだ。また最近では珍しくなったドアグリップが備わる。碓氷氏によると、ドアグリップがあると「丸めた新聞」を挟んだり、何かと重宝するとのことだ。
シフトをRに入れた際にナビ画面に映る後方の映像。普通はひとつのカメラによる映像だが、VANBOOはハの字に設置した二つのカメラ映像をデジタル技術によって一つに合成している。そのおかげで視野が広いだけでなくパノラマ写真のように画面の左右の歪みが非常に少ない。
まだある。「車上荒らし防止機能」は、あらかじめ「営業車モード」に設定しておくと、鍵を持っている人間が近くにいない状態でドアが開かれた場合、車上荒らしと認識、警報ブザーがけたたましく鳴り響くという機能。これはエンジン停止、ドアロックが開錠状態でも機能する。荷物の配送や集金といった「短時間、車から離れる」といった場合に非常に有効な機能だ。
エンジンは1,8リッター直列4気筒エンジンで出力は100馬力。それに35馬力の電気モーターが二基装備される。燃費はWLTCモードで29,0kmという営業車としては有難い数値が出ているが満載時には当然、落ちるだろう。それでも、ただのガソリン車よりは優れていることは疑う余地はない。日曜日にしか長距離走行をしない一般家庭の車よりも使用頻度の多い営業車こそハイブリッドであるべきで、これは理に適っている。
レカロシートやハイブリッドなど「価格高騰の要因」があるにもかかわらず、VANBOOは直接のライバルであるプロシードと同価格である。これは「ダッシュボードの造りの安っぽさ」などに反動として表れているのだが、必要なところにお金をかける姿勢を高く評価したい。
※
VANBOOは「ライトバンの常識を変える」かもしれない。今は5ドアが主流だが、今後は「7ドアが主流」となるのではあるまいか?ドアが3枚あるにもかかわらずBANBOOはデザイン的に何ら破綻をきたしていない。デザイン的な破綻がないのだから、例えば3列目シートを備えるミニバンにも応用できそうだ(但し、セカンドドアをスライドドアにはできない)。現在のミニバンは3列目シートへの乗降は実に不便極まりないものがある。
新春1月号
12月号に掲載したVANBOOのテスト走行写真の中に映り込んでいた謎のスーパーカーに関して多数の問い合わせが出版社にあった。今月はその回答をお送りする。
結論から先に言ってしまえば、その車こそが「エターナルの後継車」のプロトタイプである。メーカーでは既に次期エターナルの開発が着々と進められているのだ。エターナルのマイナーチェンジが行われてまだ日も浅いというのに、だ。
- これは世界的にノーカーボンが叫ばれ「2030年にはガソリン自動車は販売できなくなる国」が多数、登場することが予想されるため、メーカーとしては早期にエターナルの後継車を開発する必要があったからである。そして、そこから「電気自動車開発のノウハウを手に入れ、他の車へと応用していく」という意味合いもあるに違いない。
ということで、エターナルの後継車は当然「電気自動車」である。
気になるスペックだが、最高時速は400kmを超えるという。電気自動車の最高時速は既に500kmを超えており、これは左程、驚くような数値ではない。
そしてこちらも気になる名前だが、どうやら「エターナル」にはならないようだ。スタイリングが変わるのに「同じ名前ではおかしい」ということで、これは正しい判断といえる。そして現時点ではまだ正式名称ではないが、開発コードは「ホライズン」である。「永遠から地平の彼方へ」ということか?
デザインは当然、風信子によるものである。完成度は正直、高い。このまますぐに市販化できるレベルにあるといっていい。
- 実車を見ていくと実に多くの示唆に富んだ特徴がみられる。
エターナルとは異なり、ドライバーの上部にフロントスクリーンはなくフードが覆う。「普通の車らしくなった」ということだ。ということは当然、タルガトップも開発されるに違いない。北米ではオープンが必須条件だからだ。
フロントボンネット上にエアダクトがある。これはディフューザー。フロントバンパーから吸引した空気をここから排出する。リアバンパー下のディフューザーと合わせて、強力なダウンフォースを発生する。
リアボンネットを開くと、オレンジ色に塗装されたV12気筒エンジンが鎮座しているように見える。が、これはダミー。プラスチック板をエンジン模様にプレス加工したもので、お正月に飾る鏡餅を入れたプラスチック容器のようなもの。非常に軽い素材でできている。この蓋を開くとその下に4本の大きなバッテリーが鎮座している。一本の容量が50kWhだから合計で200kWh。航続距離は一回の充電で500kmという。
そして、手前にはゴルフバッグが2個入るトランクスペースがある。中にはクリムゾン色のベルベットが敷き詰められ、非常にゴージャスなつくりだ。ミッドシップ・スーパーカーにリアトランクが果たして「本当に必要なのか」という議論はともかく、60年・70年代のスーパーカーは大概、リアにトランクを持っていた。無かったのはフェラーリBBくらいである。それがいつしかトランクレスが主流となったのであり、これは原点回帰といえる。エターナルのオーナーの最大の不満は「ゴルフ場へ行けないこと」らしいから、これは必須の改良条件だったのだろう。
モーターは各タイヤに装着。したがって4WD。各450馬力を発生。総出力は1800馬力。最高時速400km越えを可能とする。
ブレーキシステムが独特だ。「モーターブレーキ」と呼ばれるもので、直流モーターの特性を利用して、ブレーキを踏むとアクセルとは逆方向に電流が流れる仕組みだ。電流の向きが逆になれば当然、モーターは逆に回る。その特性をブレーキに利用するというアイデアである。ディスクパッドなどの消耗部品がないのがメリットだが、まだ実験段階。効きに関しては、いかなるディスクブレーキをも凌駕するという。但しデザインはいただけない。アルミホイールからの眺めは、まるで昔の「ドラムブレーキ」を思わせる。
全体のスタイリングはエターナルのスマートさから一転、グラマラスである。ベルトラインはフロントとリアのフェンダーの2カ所でぐっと盛り上がる。しかも、そのラインは「女性的」である。筋肉質のマッチョな男性とは違う。敢えて言えば、ワンピースを着たナイスボデーの女性のラインだ。
このデザインについて「ある一通の手紙からこのデザインは生まれた」とは碓氷氏。どういうことなのか。
「風信子のデザインする車はランボルギーニ的なものばかり。きっとフェラーリ的なデザインは苦手なんだろう」といった内容の差出人不明の手紙が届いたんだ。あったまに来てね。『やってやろうじゃないの』ということで今回、このデザインを仕上げたってわけ。で、まずは『フェラーリ的』とはどういうことなのかを検討した。結論すれば、それは『ピニンファリーナ的』ということ。それも1990年以降のものではなく、アルド・ブロヴァローネやレオナルド・フィオラバンティが活躍していた時代のピニンファリーナ」
碓氷氏はそう発言したが、ホライズンはその時代のフェラーリには似ていない。キャビンフォワードを基本とするスタイリングは、やはりカウンタックに代表されるランボルギーニ的なものだ。しかもこの車のリアは尻下がりで丸みを帯び、凡そダックテール&コーダ・トロンカを基調とする当時のフェラーリとは似ても似つかない。それにリアランプも丸くない。
にも拘わらず「フェラーリ的」な雰囲気があることも事実だ。フロントマスクはどことなく「デイトナ」を思わせ、フロントボンネットのエアダクトは「BB」、左右のインテークに施された鰓は「275GTB4」、そしてリアのエンジンカウルは「308・328」に通じる。リアボンネットの全体的に丸っこい造形もF40のリアスクリーン的といえなくもない。
「そうした細かい部分よりも、真上から見た時に『四角い』ことが当時のフェラーリ的なんだ」
上から見たホライズンはコークボトルではない。サイドは真っ直ぐに伸びている。
「これが60・70年代スーパーカーの造形さ。現代はコークボトルが当たり前。それとキャビンの横幅が小さいことも。この車は違う」
最近のスーパーカーはレーシングカーのスタイリングをそっくり用いたものが大勢を占めるが、碓氷氏のデザインするスーパーカーは違う。
「極限性能を追求するのであれば、最新のレーシングカーと同じスタイリングが最も適しているが、その結果、街中を走っている姿に『違和感を覚える車』では意味がない。しかも、そうしたレーシングカー的スーパーカーはメーカーが違うだけでどれも皆『同じスタイリング』になる。自分の眼にはV8フェラーリも、マクラーレンも、パガーニも、ケーニグセグも全て『同じ車』に見える。それと、せっかくだから、昨今流行りの『戦闘機のイメージ』についても言っておこう。初代NSX、ランボルギーニ・レヴェントン、8代目コルベットなど戦闘機のイメージを借りてきたことをメーカー自らが公言するスーパーカーは少なくないが、自分は大いに疑問だ。車に『軍国主義の衣』を被せることに何の意味があるというのだろう?自分には到底、理解しがたい。スーパーカーは『平和な道を走る車』だと思うがね」
電気自動車にしてはエアダクトが多い。その理由はもともと、この車が「ピストンエンジンを搭載する」ことを前提に開発されていたことを示唆する。
「元々、この車はピストンエンジン車として開発していた。その『名残り』だよ。1000馬力を超えるピストンエンジンを搭載する予定だったから、熱を逃がすために沢山の穴を開ける必要があった。フロントボンネットのエアダクトも、もともとはエンジンのパワーアップを想定してクーリング性能の向上からラジエーターをフロントに移動するためのものだった。結局、ラジエーターは装備されず、純粋にディフューザーとしての機能だけになったけれどもね」
ピストンエンジンから電気モーターに変わったとはいっても、オーディオに詳しい人ならわかると思うが、出力の高い電気回路はやはり大量の熱を放出するため、これくらいのインテーク&ダクトが必要になる。大出力のパワーアンプには必ず熱を放出するためのヒートブロックがある。ホライズンの場合もクォーターウインドウ後ろのインテークの中にある。
フロントボンネット下には充電用のガソリンエンジンがある。空冷2気筒、排気量800cc。電池だけだとバッテリーが上がってしまったら、アウトだ。やはりガソリンエンジンは搭載せざるを得ない。
ドアミラーがない。後方確認は全てカメラによって行われる。左右と中央にある3つのカメラ画像はデジタル技術によって一つに合成(VANBOOに用いられた技術と同じものだ)され、本来であればルームミラーがある天井中央のワイドモニターに表示される。その画像は自分の顔やピラーなどの遮蔽物が一切映り込まない「死角なき画像」であり、まるで後ろを向いてリアスクリーンから直接、眺めているかのようだ。ニッポンでも左右のAピラーに小型のバックモニターを設置するタイプのものが採用されているが、こちらの方が格段に使いやすい。但し、市販化にあたっては法規上、やはりドアミラーは装備することになるだろう。空力的には「ない方が望ましい」のだが。
こうした装備を始め、室内のデザインもエクステリア同様、既に完成の域にある。
ダッシュボードの上にはメーターナセルがない。かつてのフィアット・ティーポのようにダッシュボードに穴を掘り、その中に全てのメーターを埋め込んでいるのだ。その結果、前方視界は良好だ。直射日光を浴びても見えにくくならない輝度の高い液晶パネルを採用しているがゆえに可能となった造形だ。
室内にカーボンは見当たらない。ボンネットを開ければもちろんカーボンが見えるし、ドアのサッシ部分もしかり。しかし、ひとたび乗り込んでしまえば、そこはレザー&モケットの世界だ。エクステリアだけでなくインテリアでも今時のスーパーカーのような「レーシーさを廃したい」と考えた結果である。
ランボルギーニはグラマラスなミウラからスタイリッシュなカウンタックへと進化したが、風信子はスタイリッシュなエターナルからグラマラスなホライズンへと進化した。どちらも「進化」である点が面白い。どちらかが「退化」というわけではないのだ。
進化といえば、ボディの素材も進化している。エターナルは「カーボンシャシー&アルミパネル」だったが、ホライズンではシャシーとリアパネルがカーボンで、フロントパネルはアクリル。これは接触事故の際に歩行者を保護するため、フロントセクションにはバンパー同様、柔らかく変形する素材が求められたからである。スタイリングこそ60・70年代だが、中身は21世紀の車である。
我々は今回、試乗の機会を得ることに成功した。
停止状態でアクセルを吹かす。エンジン音が全くしないのは電気自動車ならではだ。
次にオーディオの「E N(ENGINE NOISEの略)」と書かれたボタンを押す。するとエンジン音が聞こえ始めてきた。この音は人工的に作り出されたエンジン音で室内のスピーカーから出ている。BMW初の電気スーパーカー「BMWi8」と同じ仕組みだ。勿論、車速やアクセル開度に連動して音はリアルに変化する。
この話をすると碓氷氏は少々、気を悪くする。というのも、このアイデアは碓氷氏が高校生の頃(即ち1980年代半ば)には既に考え出していたものだからだ。
「当時、中学時代の同級生とふたりで、このアイデアについて意見し合ったものだ。というのも当時は結構、暴走族がいて、爆音を響かせて走っていたから『マフラーを改造せず、カーオーディオのスピーカーから排気音を出すようにして、周りに迷惑をかけずに自分だけ楽しんで走ればいいじゃないか!』と憤慨していたんだ」
当時、学生であったがゆえに実現できなかった「自分のアイデア」というわけだ。
電気モーターだから低速トルクが凄まじい。ピストンエンジンでは絶対にありえない加速が低速から始まる。体験したことはないが、おそらく「艦載機のカタパルト発進」のようなものではないだろうか。電気自動車は「つまらない」というが、これだけパワフルだと、そうとも言えない。スピードメーターの数字があっという間に300kmに達した。実際、0km~300km加速をこいつは僅か12秒でこなすのだ。
そして実際、時速400kmを突破して見せた。しかも旧態依然とした60・70年代スタイルの車なのに安定感は抜群。強力なダウンフォースを生み出す最新のエアロダイナミクスが効いているのだ。これは「レーシングカーに似せなくても、ダウンフォースを稼ぐことができるだけのデータがある」ということなのだろう。であるならば、むしろ、このスタイリングの方が「クール」というものだ。レーシングカーのスタイリングを持っていないのに性能はレーシングカー並みなのだから。室内の音も静かだ。隣同士での会話に苦労することはない。オーディオサウンドも楽しめる。タイヤが発するロードノイズが一番大きく、その次に風切り音。モーター音はそれらに掻き消されている。
そして直線道に入ったところで、時速400kmから例の「エレクトリックブレーキ」とやらを体験してみた。急ブレーキを踏み込む。その効き具合といったら、まさに後ろから大きな手で掴まれたかのように強力無比。そして驚くべきことは、全くブレーキ音がしないのだ。普通であれば「キキーッ!」という高周波音が耳を劈くのに、全くの無音。モーターの回転が遅くなる時の「ギューン」という音しかしない。タイヤがロックしないのも特筆すべき点だ。速度が0kmになった時点でフットブレーキは切れ、パーキングブレーキが作動。勿論、そこからアクセルを踏み込めばパーキングブレーキは解除される。
これは正直「使える」と思った。唯一の気がかりは「役所の認可」だ。電源が落ちれば、この強力無比なブレーキは作動しないわけで、やはりディスクブレーキも装備しないわけにはいかないだろう。
気になる「ホライズンの発売」はいつになるのだろう?それは同時に「エターナルが生産終了を迎える時」でもある。碓氷氏は明言を避けたが、2030年を迎える前に、その日は確実にやって来るのだ。そしてその時には、ホライズンは今以上に、さらに洗練されているだろう。勿論、今のままでも十分に魅力的なのだが。
2月号
移動販売を目的とする商用車。古くは「シトロエンH」。その後もフランスでは、こうした車が次々と生み出されてきた。今日、その代表的な車といえば、その筆頭はやはりルノー・カングー。ニッポンで外車と言えばドイツ車が人気だが、これは数少ないニッポンでも人気の高いフランス車だ。風信子は大胆にもそこへ食い込むための車を設計した。その名は「ギャバン」。スペルは「GAVAN」だ。VANは判る。だが「GA」とはどういう意味なのだろう?風信子からの正式なコメントはない。そこで、自動車評論家の間では、いろいろな推測が既に始まっている。いくつかを挙げると「GAIN(収益)」「GAME(遊び)」「GADGETRY(実用新案)」「GALA(祝日)」「GET ALONG(仲良く暮らす)」などなど。中には「GANG BANG(乱交パーティー)」なんてものまである。ここまで来ると「KISSはKIDS SATURN SERVICEの略だ!」と言い張るようなものだ。我々が直接、碓氷氏に訊いたところ「意味はない。あくまでもVANの方が重要で、ギャバンというネーミングを単に気にいっただけだ」ということであった。
- この車の寸法は次の通り。全長4400mm、全幅1650mm、全高1880mm。これは全長でカングーより120mm長く、全幅で180mm狭く、全高で70mm高い。ベルランゴの場合、全長はほぼ同じ、全幅で190mm狭く、全高で40mm高い。明らかに異なるのは「全幅の狭さ」だ。全幅が狭いという特徴は、やはり風信子がギャバンに「独自性を持たせることに拘った結果」と言えるだろう。リアの総容積は同じながらギャバンは、より幅の狭い路地を自在に走ることができるのだ。
ここでニッポンの代表的なミニバンのデータを見てみよう。
ステップワゴン 全長4690mm 全幅1695mm 全高1840mm
セレナ 全長4685mm 全幅1695mm 全高1865mm
ヴォクシー 全長4695mm 全幅1695mm 全高1825mm
NV200 全長4400mm 全幅1695mm 全高1850mm
このデータを見ていくと「トヨタの戦略」みたいなものが見えてきて面白いのだが、それは今回のテーマではないので置くことにして、この中でギャバンに最も近いのがNV200(日産・バネット)であることはすぐにわかる。そしてNV200はミニバンではなく商用バンである。つまりギャバンの直接のライバルはNV200なのである。当然だ。ギャバンは2列シートの車なのだから。
といっても、全幅はギャバンの方が狭い。この点について碓氷氏は「この車は全長3700mmの小型ハイトワゴンのリアを伸ばしたものだから」と答えてくれた。つまりミニバン派生ではなくスズキ・ソリオやダイハツ・トールといった小型車のリアを伸ばした車であり、だから幅が狭いのである。そして当然ながら着座位置もそれらの車と同じくらい低い。これは乗降を頻繁に繰り返す商用車にとって非常に価値のある特性である。運転席はVANBOO同様、レカロが奢られている。
- 屋根を見るとキャンバストップになっている。だが、この車は屋根を開けて走ることはできない。このキャンバストップ、実はオートフリートップなのだ。横に45度の角度で立ち上がり、縦2400mm、横1100mm、高さ950mmの三角テントになるのだ。大きさ的には「ふたりが寝る」には十分な広さだ。キャンバストップ以外の面を構成する生地は透湿防水素材となっており、雨でも使用可能である。その結果、この車はリアシートを倒し、荷室をフラットにすれば最大4名が普通に寝ることができる。キャンプ用の荷物はフロントシートの上や前に置けばいい。
「金属の屋根だと、どうしても頭が重たくなるからキャンバストップにしたんだ」とは碓氷氏。縦ではなく横に開くのも三角テントと同じ形状にしたかったから。かつてマツダが販売していたボンゴ・フレンディのオートフリートップとコンセプトは同じだが、中身はかなり違う。ともあれ、この機能のおかげで、この車は商用車としてだけでなくキャンピングカーとしても使うことが可能である。商用車ゆえに保冷庫用の電源ソケットなどもあるので、キャンプに使うには実に都合のいい車である。風信子はこの車を商用ユースよりもむしろファミリーユースに設定している。そうすることでVANBOOとの競合を巧みに避けているのだ。
フロントマスクはまるでロボットの顔のようだ。左右の丸いヘッドライトは十字に切られ、外側は上がウインカーで下が車幅灯。内側はハイ&ロービーム。昨今流行りの大きな厳めしいフロントグリルがない辺りは、流行など無視する風信子らしい部分だ。「トレンドセッターはトレンドに流されない」のだ。
外観上の特徴としては、他にも前後左右の全てに同じヒューズのようなモチーフがあしらわれていることが挙げられる。フロントのみエアインテークとフォグランプで、他はラバーバンパーと反射板である。路上駐車も少なくないだろう商用車だから「反射板によって視認性を高めた」とのこと。トラックの荷台部分にランプが設置されているようなものだ。
前後左右の全てに同じモチーフを用いるデザインといえば、言うまでもなくエンリコ・フミアのお家芸だ。フェラーリF90(イラストのみ)、Xタイル、チェリーS16、ランチャJ(ここまでは試作車)、ランチャ・イプシロン(量産)など数々の車でいろいろな形のモチーフを試みている。
「フミアというと『元ピニンファリーナのデザイナー』というイメージが強いが、彼を発掘したのはヌッチオ・ベルトーネ。つまり、彼もまたスカリオーネ、ジュジャーロ、ガンディーニと並ぶ『ベルトーネ一族の人間』なんだ」
ちなみに反射板というアイデアは碓氷氏独自のものだ。
「単なるパクリでは教科書や辞書に書かれていることを丸暗記して自慢しているだけの、昨今流行のニッポンのインテリ芸能人と同じで、あまりにも安っぽい。独自の発明や発見を成すのが学者であるように、デザイナーもまた独自のアイデアを生み出してこそ『価値ある仕事をした』と言えるんだ」
だが、この車の独自性はこうしたエクステリアよりも、むしろインテリアの方にある。
この車のドアは左右にそれぞれ3枚。そしてリアゲートは観音開きの2枚。つまり合計で何と8枚ものドアがある(だから当然、センタードアはスライドドアではない)。そして一番後ろのサイドドアとリアゲートにはフックを掛けられるように穴が開けられている。そしてその穴を利用して棚を設けることで、まるで冷蔵庫の扉のようになるのだ。勿論、棚は大きさや深さの異なるものが複数用意されており、牛乳瓶用もあれば植木鉢用もあるといった具合だ。更に後部座席を畳んでその上に専用の保冷庫とパーテーションを積むことでフロントシートと後部の荷室を完全に分離、荷室を簡易的な保冷室にすることも可能だ。4枚のドアを開いた時、そこはまさに売り物を販売する「商店」となる。
エンジンは1500ccのハイブリッドとオール電気の二種類が用意されている。先進性を感じるのはやはり後者だ。後者の場合、ボンネットを開くと、直列4気筒エンジンが横に置かれているように見えるが、これはホライズン同様、プラスチック製のダミーカバー。カバーを開くと下に電池がある。実用車だから、どちらも4WDである。前者は前がエンジン、リアがモーターで、後者は4輪モーターである。
気になる販売価格は先程、説明に挙げたソリオ&トールとほぼ同額であるから、これはやはり「割安」と言えるだろう。
そしてお隣・韓国では、この車は何と婦人警官が街中を巡回するための「パトロールカー」として使用されることが決まったという。電気自動車だから夜間でも音が静か、そして何より車幅が適切で、狭い住宅街の路地でも取り回しがよいことが採用の決め手となったとのことで「真面目に行われた仕事は意外な方面からも高く評価される」という好例である。
次回3月号では、ポルシェ・パナメーラ、フェラーリ・GTC4ルッソ、ランボルギーニ・ウルスのライバルとなる4シーター2ドアスーパーカーについてお送りします。
3月号
「4シータースーパーカー」というジャンルに該当する車は現在、フェラーリGTC4ルッソ、ポルシェ・タイカン&パナメーラ、ランボルギーニ・ウルスくらいしか思い当たらない。これはスーパーカーを開発するメーカーから見た場合「美味しい市場」と言える。今後、このカテゴリーの車が「増える」ことは疑いようがなく、先に手を付けることで「優位に立つ」ことができるからだ。
風信子もそう思ったのだろう。一台の4シータースーパーカーを披露した。
FINBACK(フィンバック)。意味は「ナガスクジラ」。名前の理由は車を見れば明白だ。
全長 4939mm
全幅 1818mm
全高 1342mm
ホイールベース 2900mm
このデータから、かなり細身で長い車だとわかる。その姿からナガスクジラと命名されたことは間違いない。ちなみに全幅が1818mmというのは70年代スーパーカーのデータである。これは全面投影面積を少なくすることで空力特性を上げるためである。というのも全高が1300mmを超えるからだ。ちなみに先に挙げたライバル車は全て全幅1900mmを超える。
- フィンバックは2ドアである。先に挙げたスーパーカーでは唯一、ルッソがそれに該当する。そして先に挙げた3台は全てフロントエンジンであり、フィンバックのみがミッドシップを採用する。そこには「安易にライバルの真似事はしない」という風信子のプライドが感じられる。GAVANにしてもカングーやベルランゴとは明らかにデザインの異なる車であった。
フィンバックの2ドアは斜め上方にあがるインセクトドアである。これはリアへの乗降性を考慮した結果である。リアの乗降を考えた場合、ドアは大きくするのが望ましい。だがドアを大きくすれば横への飛び出しが増える。それを解消するための理想はドアを上にあげることだが、この車はエターナル同様、サイドスクリーンの傾斜が浅いため、シザーズドアは使えない。その結果、斜め上方にあがるインセクトドアが採用されたのである。その結果、大きなドアを持ちながら横への飛び出しが少ないドアの開閉が可能となっている。
なら、4ドアにすれば?というのは愚の骨頂だ。タイカン、パナメーラ、ウルスは4ドアだが、彼らがスーパーカーなのは、あくまでも走行性能だけで、スタイリングはお世辞にもスーパーカーではない。風信子はスーパーカースタイリングに拘ったのだ。実際、ルッソ、タイカン、パナメーラ、ウルスと比べて、フィンバックのスタイリングは群を抜いてスーパーカー的であり、それこそがフィンバックの優位性なのだ。
- エターナルをイメージさせるフロントスクリーンの目的はリアの閉塞感を少なくするためである。実際、リアシートに座ってもかなり明るく、広々とした開放感がある。
全幅1818mmといっても、室内の横幅は全幅2000mmクラスの車と変わらない。フェンダーの張り出しがなく、ボディラインが一直線だからだ。そして、この全幅の狭さが全長4900mmを超えるこの車の運転のし易さに大きく寄与している。
とはいえ、ホイールベース2900mmというデータからわかる通り、この車はタイトコーナーを華麗に駆け抜ける類いの車ではない。高速道路を一定速度で快適クルージングする、悪い言い方をすれば「直線番長」的な使い方を強いる類いの車だ。ホライズンとは「異なる性格を与えよう」ということなのだろう。スタイリング的には、こちらの方がむしろ「エターナルの後継車」と呼ぶにふさわしい。
「元々、この車が『エターナルの後継車』だったのだが、メーカーから『エターナルからの飛躍が少ない』ということで没になったんだ。その後、4シーターを開発する話が持ち上がり、全幅を150mm少なく、逆に全長と全高を200mmほど増やしたんだ(碓氷氏)」
当時の4面図を見ると、そこには全長4700mmという記述が見える。
リアのアルマジロは電源を入れると同時に水平になり後方視界を確保。更に速度が200kmを超えると徐々に角度が上がる。すなわちスポイラーだ。アルマジロの奥にはガラス製のリアスクリーンがある。ヘッドライト周りはデザインこそ四角形だが、配列はGAVANと同じだ。フロントボンネット上にあるエアダクトはディヒューザーである。
定員2名のリアシートの座り心地はなかなかだ。形状はフロントシート同じで、+2ではない。碓氷氏によれば、直接のライバル車ではなく「ランボルギーニ・エスパーダ」を研究したのだという。
「エスパーダはよくできている。実に完成度の高い車で、恐らくルッソ(その前作であるFFも含めて)も参考にしているはずだ」
かつてフェラーリはウラッコを参考に308GT4を開発しているから、この言葉には説得力がある。
「電気自動車にすると決まった時点でミッドシップカースタイリングでのフル4シーターが可能になった」
この言葉の通り、フィンバックは電気自動車である。仕組みはホライズンに準拠。リアトランクはゴルフバック4個を飲み込む。そして最高時速はリミッターによって350kmに抑えてある。全長4900mmを超えるとはいえ、仮にリアにV8エンジンを載せた場合、やはり2+2にせざるを得ないだろう。この車のスタイリングは電気時代ならではのものだ。
実際に走らせてみる。驚いたのはスーパーカーとは思えないサスペンションの柔らかさだ。勿論、超高速域になれば電子サスによってサスペンションは締まるわけだが、時速100km走行におけるサスペンションの柔らかさは、まるで高級リムジンのようだ。
「リアシートのすぐ後ろにリアタイヤがあるから、硬くしてしまうとリアに乗車している人の乗り心地が極端に悪化してしまう。この車のサスペンションはフロントではなくリアの乗り心地を最優先してあるんだ」
リア最優先。今までこんなスーパーカーは実在しなかったに違いない。リアシートがあっても優先順位はあくまでも「フロントの乗り心地」であった。そういう意味で、このフィンバックは「スーパーカーの画期」である。
フィンバックは2ドアだから当然、スポーツカーである。しかし乗り心地は、あくまでもリアが最優先。こうしたコンセプトは今後、他のメーカーへも波及するのだろうか?
4月号
街乗り電動シティコミューターの理想形を求めて、風信子が開発した「MACHIKO」。
全長3250mm、全幅1300mm、全高1625mm。全長と全高は現代の軽乗用車に酷似しつつ、全幅のみ1952年に「国民車構想」として決められた軽自動車規格に準拠する。したがって外見は実にスリムで、ぱっと見、ボディの大柄なミニバンに見える。全幅の狭さが逆に「安っぽさ」を払拭しているのだ。まさに「碓氷マジック」である。
横幅が狭いとはいえ、初期軽自動車規格であるから当然、4人の大人が乗れるスペースが室内には確保されている。全長3250mmは現代の軽自動車規格と比べて僅か150mm短いだけであるから、後席の足元は広々としている。
- シティコミューターと言うと、全長3mを切るものを想定してしまうところだが、風信子は3mを超えるものを開発した。勿論、そこには明確な理由がある。それは派生モデルとして商用車が用意されているためだ。荷室を実用性のある広さのものにするため3mを切りたくなかったのだ。
その商用モデルは3人乗りである。1座席しかない前席は中央に置かれ、ホイールハウスによる足元の干渉がないので、4人乗りモデルよりも座席位置を前方に移動。荷室の容量を大幅に拡大している。まさにコロナウイルスの影響でデリバリーが増えている時代に対応した商用車なのだ。実に風信子らしい独創性に溢れた部分だ。
その一方でフロントフェイスは風信子らしくない部分である。フロントグリルが大きく、厳めしいイメージは明らかに時流に合わせたものだ。伺ったところ「メーカーからの要望だった」とのこと。今の時代、易しいマスクの車が売れないことは「フィットの苦戦・アルファードのバカ売れ現象」が証明する通りだ。事実、我が家の周りも「アルファードだらけ」。1980年代の「マークⅡ三兄弟ブーム」と全く同じ現象に「ニッポン人は変わらないな」と呆れる次第。
それはさておき、MACHIKOはシティコミューターとはいえ、実に豪華な車だ。スライドドアは電動式で、一見ドアノブに見えるそれはタッチ式のボタンである。
安全装備もぬかりなく、カメラは2眼。元より高速道路をかっとぶ類いの車ではないので、センサーは低速時の反応の速さに特化した設計になっている。後方にもカメラがあり、法規制に合わせてドライブレコーダーが標準装備になっている。
そして風信子は世界初の安全装備をこのシティコミューターに用意した。それは「音声認識誤発進防止装置」と呼ばれるもので、ギアをDに入れた際に「前、前進、フロント」、Rに入れた場合には「後ろ、後退、リア、バック」と正しいキーワードを叫ばないとモーターに電気が流れないシステムだ。例えばDの時に「後ろ」、Rの時に「前」と叫んだ場合には「キーワードが不正確」ということで、いくらアクセルを踏んでも車は全く動かない。いうまでもなくこれは昨今流行りの「誤発進」を防止するための装備である。「なにもここまで」という気もしないでもないが、高齢化が急速に進み、誤発進が社会問題化している現代にあっては、こうした装備が必要ということなのだろう。また、カロッツェリアとしては「新しいアイデアを提案する必要があった」ということかもしれない。
- 電池は床下にある固定式のものと後部座席下にある交換式の二種類。交換できる電池を装備しているのは電源が切れた際にフル充電の電池と交換、直ちに走行できるようにするための工夫だ。交換式電池はリアシートを上げてスマホの電池パックのように交換できるが、大きさはスマホのものよりも遥かに大きく(当たり前だ)それなりに重いので、交換作業は女性には難しいかもしれない。充電用のコンセントはフロントノーズにではなくフロントタイヤの上部左右にあり、左右どちらからでも可能になっているのは細かい配慮だ。
モーターは全てのモデルで前と後ろにあり、要するにすべての車種が4WDだ。2WDと4WDふたつのシャシーを開発するよりも採算性がいいということなのだろう。
※
今回、借り出したモデルは最上級仕様のミミ。上が白で、下がソリッドピンク。
- 乗り込むと、印象としては当然ながら「幅の狭い軽自動車」だ。質感は現代の軽自動車の水準に達するもので、チープさは見受けられない。ダッシュの上段に置かれるナビモニターが大きく感じられる。色はいろいろと用意されているのだろうが、今回のものは上がクリーム、下がタンで床は肌色。
走り出しは静かだ。フューンというモーター音以外は聞こえてこない。意図的に荒れた道を選んで走る。すぐに感じることは「ボディの堅牢さ」だ。ボディが軋む感じは皆無。これはボディそのものが小型であることによるものだ。そう。車は本来、小型である方が好ましいのだ。どんなに内装がゴージャスでも大型上級ミニバンの「ボディが悲鳴を上げている感覚」はお世辞にも気分のいいものではない。しかも、それを誤魔化すために足回りを軟らかめにセッティングしているところなどは猶更である。
左右に揺すってみる。幅が狭く、全高が1600mmを超える車である。さぞや左右に傾く感じが大きかろうと思いきや、実に安定している。床下に電池を搭載しているからだろう。かなり激しくハンドルを切り返したが、転倒の恐怖を感じることはなかった。小型で頑丈な車ゆえに足回りを硬めにすることができ、それが功を奏しているに違いない。無論、高速道路で高速走行中に強い横風を受けるような場面ではひやりとするかもしれないが、この車はシティコミューターである。高速道路を走るのはなるべく控え、どうしても走る時には一番左を法定速度で走るべきである。
そして当然、この車が本領を発揮するであろう、狭い路地の多い都心の下町の中を走行してみた。
横幅1300mmは、やはり軽自動車以上の機動力を持つ。この車ならば、バックで下がる以外にない突き当りのある路地でも、どんどんと入っていく勇気が持てる。今回は用意されなかったが、ぜひとも3人用の商用モデルを試してみたい。運転席が中央にあり、おまけに前方にせり出していることから察して、より細道で「運転しやすい」に違いないのだ。乗用モデルではダッシュボードの奥行きが結構あり、鼻先を掴むのに多少の慣れが必要(フロントクォーターウインドウを配する最近の車はどれもそうだ)なのだが、商用モデルならばそうした問題もないであろう。
※
翌日、3座モデルを借りることができた。
ボディは同色、バンパーも無塗装ではないので、ミラー形状などの違いはあるものの、ぱっと見、外見上は同じだ。
内装は当然、安っぽくなっている。鉄板剥き出しの部分が無数にある。だが、ボディと同色に塗られており、これはこれで「クーペ・フィアット」のようで、お洒落。個人的にはこちらの方が好みだったりもする。
フロントのダッシュパネルは4座モデルとは全く意匠が異なる。右手に速度計などを収めるフェイシアとエアコンの操作スイッチ。左手にナビモニターとオーディオの操作スイッチ。正面には何もなく、レバーが折れ、昆虫の触角のように上に延びる二つのレバーは、左がウインカー・ライト・ワイパーを操作する複合スイッチ、右はギアシフト。左にウインカーというのはニッポン人には慣れが必要だが、これが世界の標準である。
- 個人的な意見だが、やはりフェイシアは正面に、現在のフェイシアはグローブボックスにしてもらえると有難い。
後ろの荷室は広大だ。およそシティコミューターとは思えない広さがある。これは全長がほぼ軽自動車と同じで、運転席が前進していることが効いている。荷室長は実に1800mmに達する。これは床下にエンジンを搭載する国産軽バンに匹敵するもので、商用車として充分に「使える」ことを意味する。
実際に走らせてみる。狭い路地での取り回しは予想通り、軽自動車よりも断然、優れている。「軽自動車よりも200mm狭い横幅」は短所どころか立派な長所だ。
※
シティコミューターと言うと「ワングレード」というケースが多い中、風信子は最上級仕様のミミ、廉価仕様のマリーン、そして商用モデルのコムと3種類を用意する。シティコミューターが普及しているフランスなどへの輸出がメイン。触覚レバーというのも、なるほど確かにフランスで好まれそうなアイデアだ(確かDSがそうだった)。だが、ニッポンではどうだろう?ニッポン人は保守的だから、変わったアイデアを好まない。それにニッポンでは一般家庭が利用する実用車は軽自動車がメインであり、シティコミューターは「売れない車」である。過去、国産メーカーが開発したシティコミューターはほとんど売れていない。
果たしてMACHIKOはどうなるであろう?今まで売れなかったシティコミューターは全長を短くする手法を用い、全て2人乗りだった。それに対し、MACHIKOは横幅を狭めた4人乗りである。ちなみに風信子ではMACHIKOを「21世紀の2CV」と位置付けている。
5月号
車のEV化は進み、遂にタフな性能が要求されるオフローダーまでもがEV化した。技術進歩によって、もはや砂利道や川の中を走る車であってもEVで「大丈夫」ということなのだろう。
そんなEVオフローダーが韓国の自動車メーカーから発表された。
CARPET
そのまま訳せば「絨毯」になってしまうが、これはCARとPETを分解して読まないと正確な意味にならない。つまりは「ペット車」という意味である。
- 名前の由来はフロントフェイスを見れば一目瞭然!犬とも猫ともつかない顔がそこに表現されている。髭の穴がエアインテークとなっている。このフロントフェイス、実際には強化プラスチック製なのだが、塗装によって鉄板のように見える。その結果、過酷な使用条件に耐えるハードさを見事に演出。かつてニッポンの自動車会社が製造していた「パイクカー」になりそうなところを巧みに躱している。
大きさは全長3400mm、全幅1475mm、全高1710mm。これは完璧にニッポンの軽自動車規格だ。唯一違うのはモーターの発生する最高出力がニッポンの軽自動車の自主規制値である64馬力を大きく上回る85馬力に達することだ。これは勿論、意識的なものだ。外国メーカーがニッポンの自主規制値を守る理由はない。そこで大幅な馬力を与えることで、ニッポンの軽自動車よりも付加価値を高める作戦なのだ。
また、この馬力は同じモーターが普通自動車サイズの「CARPETワイド」にも採用されるためである。CARPETワイドの寸法は全長3755mm、全幅1695mm、全高1630mmである。
まずは軽自動車規格のCARPETを見ていくと、直接のライバルがスズキ・ジムニーであることは明白だ。ジムニーの寸法は全長3395mm、全幅1475mm、全高1725mmであり、ほとんど変わらない。そして、ジムニーより後に出ただけあって、当然ながら使い勝手はCARPETに分がある。
例えば、リアクォーターウインドウ。ジムニーは嵌め殺しだが、CARPETは下半分ではあるが下がる。これは後ろに乗る人の閉塞感を軽減、快適性を大いに向上させる装備だ。
室内長もジムニーよりCARPETの方が長い。ジムニーが縦置きガソリンエンジンを搭載するため、どうしても全長を喰われてしまうのに対し、CARPETがEVであること、さらにCARPETは後ろに交換用のタイヤを装備しないことが効いている。実際、後部座席に座れば、足まわりの広さはCARPETの圧勝だ。室内の広さに関する限りライバルはむしろハスラーである。ドアが3ドアなのは単純に装着されるタイヤがジムニー並みに大きなものだからに過ぎない。
ボディを支えるラダーフレームの素材もジムニーはボディと同じスチールだが、CARPETは何とカーボンファイバー。それによって無塗装であっても錆びない。これはオフローダーにとっては非常にありがたい特徴といえる。それでいて販売価格がジムニーと変わらないのは、韓国の方が圧倒的に「物価が安い」からで、ニッポンのA元総理大臣が「国の借金を減らす目的」から強引に実施した毎年2%の物価上昇の「ツケ」が来ているのだ。
2000年におけるGDPの世界シェア(世界に与える経済的影響力を表す指標)はニッポンが「14%」、その他のアジアが「7%」だった。それが2020年にはニッポンが「5,7%」、その他のアジアは「25%」と一気に逆転してしまった。2030年にはニッポンのGDPは「4%台にまで落ちる」ことが予測されている。つまりニッポンの国際的な影響力は着実に落ちているのだ。こうした現実をニッポン国民が知らず、今でもニッポンは「アジア有数の経済大国だ」と浮かれていることが恐ろしい。事実、有機ELパネルなどは韓国企業の圧勝であり、ニッポンの電機メーカーは軒並み「撤退」を余儀なくされている。昨今流行りの「強度データ偽装」「燃費データ改竄」などの品質の偽装・改竄にしても、もはや「品質の高い製品を作り出せなくなってきている」ことを証明している。ニッポン政府はさすがにニッポンが世界に与える経済的影響力が年々低下していることを知っていて「経済力はもうだめだ。これからは武力による威圧だ」というわけで、せっせと自衛隊を増強しているというわけだ。
- 国際問題はさておき、ワイドである。全長4000mmを切る小型車なのに、ぱっと見、まるでハマーのような印象を与える。これは「縦・横・高さの比率」が絶妙だからである。
よく見ると、髭の穴の数がCARPETとは異なる。横幅が広いため、それに合わせてフロントフェイスを微妙に変えているのだ。同じイメージではあっても、実のところCARPETとCARPETワイドの外壁パネルの間に共通する部品はひとつもない。それぞれ完璧に寸法が調整されているのである。これは当然、カネのかかる仕事で「絶対に売れる」という確信がなければ到底できることではない。
屋根は一見するとガラスルーフのようだが、これは太陽電池パネルだ。勿論、昼間の充電のためであるが、かつてのマツダ・センティアのように夏場に換気扇を回すことで室内温度を下げることもできる。
この2台の車をデザインしたのは、言わずもがな「風信子」だ。韓国メーカーは風信子の仕事に絶対の信頼を置いていることがわかる。
室内を見る。そこにもカーボンが奢られている。ラダーフレームがカーボンなのだから、これは正しい選択である。無論、高級感においてジムニーを上回る。そして、ジムニーのフェイシアがコンサバティブな丸型メーターを採用するのに対し、CARPETは液晶パネルである。マイナーチェンジ後のエターナルが液晶パネルであることを思えば、これは当然の選択といえよう。メーカーは液晶パネルに絶対の自信を持っているのである。
- そしてフェイシアの液晶パネルの表示が素晴らしい。まるで旅客機の操縦席のように中央に傾斜計を設置。その四隅に左上から時計回りにバッテリー温度計、バッテリー容量計、速度計、出力計が配置されているのだ。やはりオフローダーに傾斜計は必需品である。単なる「気分を盛り上げるための小道具」に過ぎないかも知れないが、それが遊び心というものだ。フェイシアの横にあるナビ画面の操作性も見事だ。独立した大型のプッシュボタンによって、グローブをはめた指でも確実に操作することができる。ジムニーの場合、エアコンダイヤルにはそうした工夫があるのだが、ナビは他の軽自動車と共通のものを装着しているため、こうはいかないのだ。
走りだが、そこはEV。実に静かだ。そして電気モーター特有の低速から働く分厚いトルクで実にパワフルかつスムーズな加速を見せる。モーターは勿論、4輪に備わる。
上りの時にはアクセルを離してもブレーキがかからず、下りの時にのみアクセルを離すと自動的にブレーキがかかるのは「傾斜センサー」の働きによるものだ。その結果、ヒルディセントコントロールスイッチを外すことが可能となった。つまり、わざわざスイッチを押さなくてもドライバーは自動的にアクセル操作だけで下りの速度を自在に制御できるのだ。スリップを検知するセンサーも装備されているので、雪道からの発進も普通にアクセルを踏むだけでいい。必要な時に正しく作動するのであれば、スイッチを沢山並べるよりも、この方がずっと「親切」である。
オフローダーであるから、やはりオフロードでの走行テストを試みた。結果は実に満足できるものだった。水深40cmの川中へ突っ込む。普通乗用車であれば排気管が水に漬かり、確実にエンジンストールする深さだ。
- かなりの水飛沫が上がる速度で何度も飛び込んだのだが、モーターが浸水によって機能を停止、走行不能に陥るといった事態にはならなかった。漏電対策は完璧である。そしてひとたび、それがわかるとガソリンエンジンではないため、排気管が水に漬かる不安がないのは心理的にも実に「快適である」ことがわかった。ガソリンエンジン車の場合には、いつエンジンストールするか、常に不安がつきまとうのだが、そうした心理的ストレスを一切感じないのである。
「水深80cmでも大丈夫」
この言葉、恐らく嘘ではないだろう。電気系統の水漏れ対策さえ完璧であれば、この車は一般的なガソリンエンジン車では到底不可能な水深を軽々と走行できるに違いない。考えてみればディーゼルエンジンを搭載する潜水艦はシュノーケルが届かない深海を走行する時には電気モーターでスクリューを回すのだから、EVが水の中を走るのに有利なシステムであることは既に判明済みなのだ。
CARPETはEVの新たなる可能性を私たちに見せてくれた。今後はCARPETをトレンドセッターとして、同様のコンセプトの車が世界中の自動車メーカーから多数発売されることだろう。勿論、その中にはニッポンの自動車メーカーも含まれているに違いない。
こちら拳骨編集部 完