•  
  • 文殊の剣・下

    第三部「竜宮編」



  •  大介が傷だらけの姿で福南藩江戸上屋敷に現れた。
    「うう」
     ふらつく大介。
    「大介」
     石之伸が大介の体を支えた。
    「どうしたんだ。一体全体、何があったんだ?」
    「竜宮城が・・・襲われた」
    「なに?」
    「遠い宇宙からやってきた敵に襲われ・・・竜宮城は破壊され・・・乙姫様は連れ去られた」
     こんなことが。天の川銀河の中で最も高度な科学力を有し「平和な星」であるはずの竜宮が襲われただと?
    「とにかく治療をしよう」
     石之伸は大介を屋敷の中に入れた。

     布団の中で横になる大介。意識はあるが、体は動かさない方がいい状態だ。
     大介の周りには石之伸ほか、澄、長七郎、中山がいた。
    「お前が知っていることを、なるべく詳しく話してくれ」
     大介は話し始めた。
    「敵はエルライスという。今から8年前に突如として出現した軍事国家で、天の川銀河全域の征服を目論んでいる。そして遂に竜宮が支配する星域にも侵略の手を伸ばしてきたのだ」
    「それで、乙姫様は?」
    「乙姫様とその側近たちは最も安全な場所、王宮に置かれた無量宝珠の中に避難した。蘇我城にあった奴をより巨大にしたものと考えればいい。奴らは宝珠を外部からは容易に破壊できないと知るや、自分たちの星へと持ち去ったのだ」
    「で、敵の星の場所は判っているのか?」
    「敵の星の正確な位置は判らない。だが、宝珠が敵の本星に持ち去られたのであれば、その場所はいつでも判る。宝珠からは特殊な電波が発信されているからだ」
    取り敢えず、乙姫を取り戻すことはできそうだ。
    「・・・いや無理だ」
    「何故?」
    「宇宙船がない。奴らの星に行くには宇宙船が必要だ」
    「竜宮城にないのか?」
    「全て破壊されたか、或いは持ち去られた」
    「なんてこったい」
     ここで澄が話に入ってきた。
    「でも、もしかしたら一隻くらいは残っているかも知れないわ」
    「とにかく竜宮城に行って宇宙船があるかどうか探してみよう。それには大介、お前がまずは健康になることだ」
    「だったら急がねば」
     大介が起き上がろうとした。
    「まだ動くな」
    「急がねば。でないと竜宮城にすら行けなくなるかも知れない」
     石之伸は「ハッ」と思った。そうだ。地上と竜宮城を行き来できるのは竜宮城にある転送装置による。それが破壊されれば江戸と竜宮城との往来は不可能になる。
    「済まない大介」
    「大丈夫だ」
     大介は起き上がった。人は気さえ張っていれば多少の無理は利くものだ。
     一行は上屋敷内にある池の傍までやってきた。水が溜まっている場所であれば、どこでも竜宮城の入り口になり得る。無論、まだ転送装置が破壊されていなければの話だが。
     石之伸が池を見つめる。
     池が金色に輝き始めた。大丈夫だ。転送装置は生きている。
    「よし、いくぞ。みんな」
    「おっと待って。私たちも行くわよ」
    「お前たちは!」
     石之伸たちを呼び止めたのは蘇我馬知子女王と平放蕩将軍。
    「どうしてここに?」
    「久しぶりに会いに来たのよ。ずっと表で待っていたけれど、出てこないから塀を跳び越えたのよ」
     頼もしい仲間が一気に二人増えた。
    「そうだ。妖精たちも呼ばないと」
     澄は妖精の鈴を鳴らした。
    「渡部、見参」
    「樋口、見参」
    「鶴夕、参りました」
     妖精の鈴は瞬時に妖精たちを招集することができる実に便利な道具だ。
    「これで全員『揃った』ということだな」
     石之伸、澄、長七郎、馬知子女王、放蕩将軍、中山、渡部、樋口、鶴夕、そして大介。
    「よし、行こう」
     大介を先頭に全員が池に飛び込んだ。池の輝きが消え始める。
    「待ってー!」 
     そこへ何者かが飛び込んだ。

     石之伸たち10名が竜宮城に到着した。
    「きゃあ」
     そこへもうひとり。
    「いててて」
     腰を撫でるその者の正体は。
    「阿綺羅!」
     それは阿綺羅だった。石之伸が福南藩から戻ってきたので上屋敷に会いにやってきた時、皆が池に飛び込むのを見て、自分も後に続いたのだった。
    「ここはどこ?」 
     阿綺羅は大介の話を聞いていないから、ここがどこか判らない。
    「竜宮城だ」
    「まさか」
    「本当だ」
     阿綺羅は最初「まさか」と叫んだのだったが、すぐに自分の認識を改めた。その理由は建物の外に出た瞬間、本来であれば空があるはずの頭上に「海がある」のを認めたからである。
     だが今、認めるべきは「地上の光景」の方だった。認めたくはないが、かつての美しい町並みも今や廃墟と化していた。
     その中を一行は王宮へと向かった。
     王宮もまた廃墟であった。銅鐸の塔は上半分が吹き飛び、さながらバベルの塔を思わせる状態と化していた。しかし下半分はどうにか原形を留めており、中に入ることは可能だった。
    「何か残っているとすれば、この地下だ」
     大介を先頭に地下へと向かう。
     地下には秘密の通路があった。その通路の先には広大な空間が。
    「どうやらここが宇宙船の格納庫だったらしいな」
     だったらしいと言うのは何も残っていないからだ。全て持ち去られたようだ。
     やはり何もないのか?石之伸は五感を働かせて格納庫の中を確認する。
    「まだこの下に階がある」
    「なんだって?」
    「この下にも大きな空間がある。どこかに降りられる仕掛けがあるはずだ」
     石之伸の言葉を信じて必死に探す。だが見つからない。
    「仕掛けはない。だが、空間はある。ということは・・・」
     石之伸は草薙剣を抜いた。
    「はあっ」
     石之伸は草薙剣を床に向けて振り下ろした。床が崩れ落ちる。
    「うわあ」
     皆で落下。竜宮は地球よりも重力が弱いので、落下しても大怪我には至らない。
     果たして石之伸の言う通り、地下の空間は秘密の格納庫だった。
    「やはり竜宮城の人々は賢いな。『秘密の仕掛け』なんて、どんなに仕掛けを工夫しても結局は見破られるものだ。だから破壊しなくてはここには至れないように完全に封印していたのだ」
     格納庫には全長300mに及ぶ紫色の宇宙空母が一機。しかもその姿は海亀そのもの。「紫色の亀」というのは珍しいが、それはこれが乙姫専用機であり、紫は「最も高貴な色」だからである。
    「これは『一眼の亀』!」
     大介がそう叫んだ。
    「以前に乙姫様から聞いたことがある」
     「一眼の亀」というのは仏教に登場する亀で、眼がひとつしかないため水面に浮かぶ浮き木を目指してもなかなか辿り着くことができないことから「非常に困難な事業の譬え」として用いられる。
    「これが一眼の亀なら、この中には乙姫様専用のコスモパペットもあるはずだ」
     コスモパペット?
    「人型の戦闘用大型機械だ」
     要するにロボット兵器である。
    「取り敢えず、中に入ろうではないか」
     そう言ったのは石之伸。
    「そうだな」
     ということで全員、一眼の亀に乗船した。
     空母だから艦内には巨大な格納庫がある。カタパルトデッキ=発進口は頭の付け根の左右に一つずつ。
    「凄いな」
     格納庫には予想通りコスモパペットが十機、装備されていた。
     大介がタブレットを持ってきた。それを見ながら皆に説明を開始する。ここでは竜宮城に長く暮らしている大介が一番の博学だ。
    「一眼の亀が装備するコスモパペットは全部で十機。種類は五種類。こいつは『ジャンダル』。モチーフは『甲冑を纏った女兵士』で剣と盾とライフルを装備する多目的パペットだ。で、あっちにある一つ目の見るからにロボット的なやつは『スピル』。戦艦に装備される主砲に匹敵する威力を持つ強力なビームキャノン砲を装備し、アカエイの姿に変形することで飛行速度を飛躍的に高めると同時にレーダーに発見されにくいステルス性能を持つことができる」
     場所を移動する。すると、ひときわカラフルな色のコスモパペットが出現した。
    「これが乙姫様の専用機『ドリアン』だ。デザインは見ての通り『蝶の妖精』。精神エネルギーによって操縦と攻撃を制御するサイコパペットだ」
     数はジャンダル五機、スピル二機、ドリアン一機、そして残りの二機はそれぞれジャンダルとスピルの試作機である。
    「実際の戦闘に使えるのはジャンダルとスピルの七機ということか」
    「ブリッジ(艦橋)に移動だ」
     全員でブリッジへ。ここで役割を決める。艦長は迷うことなく長七郎に決まった。
     さて、問題はパイロットだ。
     五機のジャンダルはすんなりと石之伸と妖精たちに決まった。問題は二機のスピルだ。大介と放蕩将軍できまりかと思いきや。
    「私たちはどうなるのよ」
     女性三人が文句を言い出したのだ。つまり、自分たちもコスモパペットに乗って「敵と闘いたい」というわけだ。
     そこで石之伸はスピルの、大介はジャンダルの試作機に乗ることにした。性能が未知数の試作機を女性陣に任せるわけにはいかないからだ。
     というわけで、ジャンダルとスピル二機の席を三人の女性で争うことになった。こういう場合は大抵、ジャンケンだ。
     最初に抜け出したのは馬知子女王。
    「わらわはスピルがいい」
     こうしてアカエイは女王と将軍のコンビと決まった。
     残るは女戦士一機。
    「じゃんけんぽん」
     勝ったのは澄。だが、ここで阿綺羅が駄々をこね始めた。
    「私には柳生の頭として、澄姫様をお護りする義務があります」
     この意見に対し。
    「私も同意見だ。姫が危険な戦場に飛び出すのは宜しくない」
     何と長七郎が阿綺羅の意見に賛同してしまったのだ。
    「やったあ」
     その結果、最後の席は阿綺羅のものとなり、澄は一眼の亀の操舵手と決まった。
     準備は整った。いよいよ発進だ。完全密閉の秘密の格納庫からの発進口などないから、壁を爆破することで作る。
    「今から壁を爆破する」
     現時点で唯一、コスモパペットの操縦法を知る大介がスピルに乗り込む。スピルのビームキャノン砲を用いて破壊するためだ。スピルがカタパルトデッキに立つ。
    「発射」
     正面の壁が爆破された。その奥には平地が広がる。
     大介がブリッジに戻ってきた。
     長七郎が叫ぶ。
    「一眼の亀、発進!」
     澄が復唱する。
    「一眼の亀、発進します」
     前足の中に装備されたバーニアがジェットを激しく噴射する。一眼の亀が腹の甲羅を地面に擦りながら動き始めた。
    「なんだ?この音楽は」
     艦内に突然、音楽が流れ始めた。艦内のムードを盛り立てるレクリエーション機能が自動的に作動したのだ。この機能、コンピュータが現在の艦の状況を分析、最適な音楽を流す仕組みになっているのだ。今は「発進」に相応しいBGMが流れているが、「敵襲」のときには緊迫感のあるBGMが、戦況が不利なときには不安感の漂うBGMが、戦況が有利なときには勇壮なBGMが流れることで気分を高揚させるというわけだ。車で長旅をするときに音楽やラジオを流すのと同じで、宇宙航海によって生じるストレスを減らすためには、こうした機能が必要なのだ。因みにこの機能はコスモパペットにも搭載されている。勿論、音を消すことは可能だ。
     一眼の亀が地面から浮いた。それに合わせて一気に速度が増す。目の前に海底の山が接近。それに合わせてBGMが緊迫感のあるものに変わった。澄が操縦桿を引いた。一眼の亀は機種を上に向け、山をどうにか回避した。
    「海に突入します」
     そのまま海に突入。その中を、見る見る高度を上げていく。
    「あと10秒で海を突破します。5,4,3,2,1」
     一眼の亀が海を突破した。その後は地球同様、大気圏を突破することになる。
     竜宮は青くて美しい水の星だ。陸地には宇宙観測用のレーダー施設や通信施設がある程度で、人が暮らす都市はない。陸地は全て自然保護区域なのだ。
     大気の密度が薄くなるにつれて外が暗くなってきた。青空は夜空となった。地上では決して見ることができない多くの星が煌めく宇宙。大気によって星の輝きが失われない宇宙は「こんなにも明るいのか」と驚かずにはいられない。光子は素粒子であるから、その生命境涯は「菩薩界」。だから星の煌めきには人の心を浄化する力がある。
    「あれは何?」
     澄が宇宙空間に浮かぶ無数の、鏡でできた羽を三枚持つソーセージ形の巨大な浮遊物体を発見した。
    「あれは『スペースコロニー』だ」
     大介が説明する。
    「竜宮の人々は王族をはじめとする一部の人々を除いて全員、宇宙で暮らしている。その理由は竜宮という惑星の自然環境を汚染しないためだ。またその方が、惑星が発生する波動の影響を受けない分、大宇宙が奏でる『仏界の波動』を容易に受信することができるからだ」
     この原理に従えば、地球人類もまた宇宙で生活するようになれば、地球が発生する修羅界の波動の影響を受けなくなることで、感受性に優れた一握りの特別な人間でなくても、大宇宙が奏でる仏界の波動を容易に受信できるようになるわけで、そうなれば全ての地球人類が生命境涯の高い新人類=ネクスト・ジェネレーションへと進化することができるに違いない。そもそも戦争・侵略は「土地や領土に対する執着」が引き起こすもので、それは大地の源である地球という惑星に対する執着であり、地球が発生する修羅界の波動に対する執着に他ならないのだ。だから土地や領土への執着を捨てることこそが「平和な世界」を実現する上で重要なことであり、未来の人類が「進むべき道」なのである。

     ところで、ネクスト・ジェネレーションとは「いかなる人類」のことをいうのか?
     妙と法ふたつの三相性理論からなる仏理学の観点からいえば、それは生命境涯が高く、容易に妙の世界に片足を踏み入れることができる人間ということになる。そういう人間であれば三世一帯の交流時間を知覚することで未来を容易に予測できるし、万有引力を知覚することで遠く離れた人との「心の繋がり」を感じることもできる。勿論、その場その場に応じた最適な智慧を引き出すくらいのことは訳もない。
     より具体的な話をいえば、道を歩いていて後ろから自転車が近づいてきたとき、その気配に気がつき、さっと横に避ける人間はネクスト・ジェネレーションである。逆に、真後ろにまで接近されても全く気がつかず、ベルを鳴らされるや「金縛りの術」に掛かってしまったようにその場で硬直してしまう人間はオールド・ジェネレーションだ。この場合は「後ろに目があると思えるくらい周囲の気配に敏感な人間」という意味になる。
     また散歩中、周囲を見ながら人や車の動きに絶えず注意を払い、鳥や虫の鳴き声を感じ、道端に咲く名もない花に目をやる人間はネクスト・ジェネレ-ションで、周囲など一切お構いなしでスマホを見ながら道を歩く人間はオールド・ジェネレーションである。この場合はテスト中などの特殊な状況下ではなく無意識のうちに「脳が処理している情報量が非常に多い人間」という意味になる。
     もうひとつ例を挙げれば、車をドライブ中、前を走る車の更に「前の状況」に警戒を怠らないのがネクスト・ジェネレーションで、前を走る車の後ろ姿ばかりを見ながら走ることで車間距離を詰め、赤信号の交差点に突っ込んだり、渋滞している道で横断歩道の上や病院・消防署の入り口で停車、歩行者や救急車・消防車の進路を妨害するのがオールド・ジェネレーションだ。
     つまり無意識のうちに「他人や社会に配慮した正しい行動がとれる人間」がネクスト・ジェネレーションなのだ。逆に言えば無意識のうちに「他人や社会の迷惑になる行為」を平気でやっている人間がオールド・ジェネレーションである。
     自分の「やりたい行動」をしているけれども、それが決して「他人の迷惑」とはならない。それどころか多くの人々の「興味を惹くもの」となる。孔子が言うところの「心の欲するところに従えども」の境地に到達している人間。それがネクスト・ジェネレーションなのだ。

    「だが、ここから見える限りでは全て破壊されている。エルライスめ」
     見た目は無傷でも、どこかに穴が開いていれば、そのコロニーは空気が漏れて、中の人々は窒息死だ。
     その時。
    「む」
     大介が何かを発見した。
    「敵のコスモパペットだ。全部で三機いる」
    「なんだって?」
     一同が叫ぶ。
    「どうやら我々の存在にはまだ気がついていないようだ。何か『別のもの』を追っている」
     大介がモニターを拡大した。
    「あれはコロニーを結ぶ路線シャトル。まだ生き残りがいるんだ」
     大介が走る。
    「何処へ行くんだ」
    「コスモパペットで出る。シャトルを救助しなくては」
     大介がブリッジを飛び出し、格納庫に走る。
     そのあとを石之伸がついて行く。まさかコスモパペットを操縦する気じゃないだろうな。
     大介がコスモパペットのコクピットに乗った。
     その時。
    「何?」
     何と、石之伸が乗り込んできたのだ。
    「お前、何で?」
    「後学のために、お前が操るところを見学させて貰うよ」
     そう言うと、石之伸はシートの後ろに回り、大介が座るシートの左右に掴まった。シートの右横から顔を出す石之伸。
    「ほら、早く発進しろ」
    「大介、発進する」
     こうして大介と石之伸がジャンダルの試作機である「あゆみ」で出撃した。あゆみはパペットを開発した技術者の娘の名前で、その名の通り外見を塗装によって「少女風」に仕上げてある。銀色の鎧兜を黒いおかっぱ頭に、銀色の鎧を緑のチェック柄のジャンパースカートに、バーニアを装備する背中のランドセルを赤色にといった具合だ。
     ブリッジでは残りの者たちが必死にマニュアル本を読み合う。
    「俺たちも急いでコスモパペットの操縦を覚えなくては」
    「こんなことなら発進する前にコスモパペットの操作を覚えるべきだったな」
     今更、そんなことを言ってもしょうがない。
     一方、あゆみのコクピット内では。
    「やっぱり乗って良かったぜ。思っていたのと大分、違う」
    「大分って?どんな風に」
    「パペットっていうから、十字に組んだ木の棒に糸がいくつも結んであって、それを指に挟んで操るものとばっかり」
    「そんなわけないだろうが」
     そうこう言っている間に、あゆみは敵をビームライフルの射程距離内に収めた
    「よし、撃つぞ」
     大介が左のグリップのトリガーを引いた。勢いよくビームが発射された。
     だが。
    「くそ、当たらねえ」
     何しろ、今まで密封状態の格納庫の中にあった未整備の機体である。照準が甘いのだろう。
     それを石之伸が茶化す。
    「単に、お前が下手糞なだけだろう」
    「黙れ」
     ビームライフルの光線を目撃した敵のコスモパペットがあゆみに気が付いた。三機のうちの二機が標的をシャトルからあゆみに変えたらしく、あゆみに向かってくる。
    「こっちに来るぞ。早く撃ち落とせ」
    「わかってるよ」
     ビームライフルを撃ちまくる。だが、やはり当たらない。
    「おい、目の前に来たぞ。しかも『光る剣』を持っていやがる」
    「くそう」
     バーニアをふかし、その場を離脱。再びビームライフルを撃ちまくる。
     そうこうしているうちに。
    「エネルギーが尽きた」
     ビールライフルのエネルギーが尽きたのだ。
    「他に武器はないのか」
    「確かサーベルがある筈だ」
     大介は右手にレーザーサーベルを手にした。
    「行くぞ」
     大介がレーザーサーベルで敵に切りかかる。だが、思うように操れないようだ。
    「ええい、じれったいなあ」
     石之伸が後ろから乗り出してきた。
    「右の操縦桿を俺に貸せ。俺の方が剣の腕は上だ」
    「こら、勝手にいじるな」
    「何もしないで、お前と一緒に死ぬのは御免だ」
     あゆみの戦闘ぶりをブリッジから眺める他のメンバー。明らかに「危険な状況」にあるとわかる。
    「おい。このままだと大介と石之伸、やれちまうぞ」
     その時、澄が突然、叫んだ。
    「みんな、椅子に座って」
    「何をする気だ、澄?」
    「行くわよ。エンジン全開!」
     一眼の亀が敵のコスモパペットめがけて突撃を敢行した。
    「大ちゃん、避けて」
     大介の乗るあゆみが急上昇した。そこへ一眼の亀が。一眼の亀は左右の前足でそれぞれ敵のコスモパペットを一機ずつ破壊した。
     それを、シャトルを追う敵のパイロット・ミズコイが目撃した。
    「なに、ダシキとガスがやられたのか」
     ミズコイの目にあゆみと一眼の亀が映る。一機で闘うのは不利だ。
    「この場でふたりの『敵討ち』といきたいところだが、このことを司令に報告せねば」
     ミズコイはこの場を撤退した。
     当面の危機は去った。
    「大ちゃん、大丈夫?」
    「ああ、助かったよ。ありがとう」
     大介と石之伸がシャトルを伴って一眼の亀に帰艦した。あゆみに続いてシャトルがカタパルトデッキに着艦。中から竜宮の生き残りである妖精たちが次々と降りてきた。
    「我々も参加させて下さい」
     実はこのシャトル、竜宮城から一眼の亀が発進したのを知り、はじめから「合流するつもり」で敵に発見されるのを覚悟でここへやってきたのだった。
    「判りました」
     大介は「心強い仲間が増えた」と思った。宇宙航海には通信士や航法士、パペットを整備する整備士、また料理人や医師といった人々も必要だ。シャトルの妖精たちはそれらの全てをカバーしていた。
    「私たちのコロニーへご案内します」
    「まだ生き残っているコロニーがあるのですか?」
    「はい。航海のために必要な物資をそこで補給しなくてはなりません」
     確かに、現在の一眼の亀ではとても長い日数を航海することはできない。
    一眼の亀は唯一残ったというスペースコロニー「ビッグフェイス」へと向かった。その名の通り、通常のコロニーが直径6,5㎞、全長30㎞であるのに対し、ビッグフェイスはその10倍、直径65㎞、全長300㎞もある巨大なものである。その巨大さ故に引力バランスを保つために竜宮から最も遠い位置に配置され、しかも密閉型コロニーであることから光を外に出さないため、敵にその存在を知られなかったのだ。
     スペースコロニーと一口に言っても、いろいろなタイプがある。最も一般的なミラーでできた羽が三枚あるタイプは「島三号」と呼ばれ、窓ガラスを介して太陽光を居住エリアに直接取り入れる開放型コロニーである。この場合、居住エリアとなるシリンダーは半分が窓ガラス、残り半分が大地となる。それに対しビッグフェイスは「密閉型」と呼ばれるもので、太陽光を取り入れる窓ガラスがシリンダーにない。そのためシリンダーの内壁の全てを大地として利用することが可能である。そのおかげでビッグフェイスは元々の大きさもあって、その土地面積は60㎞×240㎞×3,14=45216㎢ある。それは関東七都県32330㎢、スイスの国土41000㎢を上回る。だが、このタイプのコロニーの場合、外から太陽光を取り込むことができないため、内部に人工太陽を設置する必要がある。人工太陽は遠心力による重力の発生しないコロニーの中心部を貫くレールを串に刺さったお団子のように発光しながら12時間かけてシリンダーの右端から左端まで移動し、その後、消灯状態で8時間かけて元の位置まで戻り、4時間のメンテナンスを経て再び発光しながら動く。
     たかが1気圧とはいえシリンダーの中には気圧が存在するため、シリンダーの両端には圧力隔壁の機能を持つ半球形の構造体がつく。その中にはコロニー内の空調や温湿度を管理、またコロニーの自転運動を制御する生命維持のための装置があり、重力のない臍の部分には出入口となる空港がある。通常のコロニーの場合にはここからシャトルが発進、コロニー周辺に停泊する艦船との往復をするが、超大型コロニーのビッグフェイスでは直接、艦船が空港内に侵入することが可能である。
     一眼の亀はそこから入港した。

  • 次回予告

  • 竜宮を破壊したのはエルライス軍に所属するアシベ艦隊であった。二機のコスモパペットを破壊された彼らは残り六機のコスモパペットで戦闘を仕掛けてきた。そのうちの一機は巨大なガスボンベを運んでいた。毒ガスによってビッグフェイスの住民を全滅させようというのだ。それを迎え撃つ一眼の亀のコスモパペットは「素人の集まり」である。果たして阻止できるのか?
    「毒ガス作戦」
    次回5月17日(土)19:30~
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  •  ひとつの戦いが終わり、一眼の亀の艦内には穏やかな音楽が流れる。
     ビッグフェイスの空港から着陸誘導灯が点灯され、同時に誘導電波が発信された。
     操舵手である澄が現在の状況を声に出す。
    「ILS電波確認。グライドスコープ、ローカライザー共に正常範囲内。このまま真っ直ぐ侵入します。メインエンジン停止。補助エンジン推力1%」
     こうして一眼の亀は無事、ビッグフェイスの空港に入港した。

     竜宮から100万㎞ほど離れた宇宙空間。戦艦パンジャを旗艦とする巡洋艦2隻、駆逐艦4隻から成る総勢7隻の艦隊がいた。エルライスが竜宮討伐のために派遣したゾウン・アシベ中将を指揮官とする艦隊である。一眼の亀が、竜宮が開発した空母らしく海洋生物の外観を持つのに対し、こちらはいかにも軍事国家のものらしく旧日本軍の軍艦のスクリュー部分にロケットエンジンを装備した様な外観を持つ。
     ブリッジ。
    「提督。竜宮の残党狩りに向かわせたコスモパペット隊が帰艦しました」
     副官のミズコイ少佐が報告にやってきた。提督というのは海軍少将以上の名称である。ゾウン・アシベは中将だから提督である。
     正直、名称に関してはややこしい。艦隊を率いる指揮官は階級で呼ばれるときもあれば提督、更に旗艦の艦長であれば艦長とも呼ばれる。
    「よし、すぐにブリッジに上げろ」
    「いや、待って下さい。戻ってきたのは隊長機だけです」
    「なに?」
    「どうやら残りの二機は撃墜された模様です」
    「撃墜?妙だな」
     ブリッジにコスモパペット隊「ひかり三連結」の隊長であるミズコイ少佐がやってきた。
    「二機、やられたそうだな?」
    「はい」
    「何故、仲間の仇もとらずに、のこのこと戻ってきたのだ?」
    「それは、どうしても指揮官殿にご報告すべきことがありましたので」
    「実に上手い口実だな」
     アシベ提督は暗にミズコイ少佐の「臆病さ」を仄めかせた。
    「まあよい。聞こうではないか」
    「はい。敵にはまだ宇宙空母とその艦載機と思われるコスモパペットが残っております。そのことを何としてもご報告せねばと、急いで戻って参りました次第で」
    「ということは、今から『敵討ちに戻る』ということだな?」
    「あ、いえ、それは・・・」
    「まあよい。そいつらには機密戦隊をあてがわせる。お前はもう下がれ」
     何という屈辱!ミズコイは直ちに返答した。
    「私も一緒に参ります」
     機密戦隊は五機のコスモパペットからなるパイロットチームであり「アシベ艦隊の懐刀」であった。それと一緒に行動するのであれば「心強い」と思ったようだ。
    「わかった。とにかく休め。機密戦隊の戦闘準備が完了したら呼ぶ」
    「はっ」
     ミズコイはブリッジを退出した。
    「まったく・・・副官」
    「はい」
    「艦隊を50万㎞まで前進させろ」
    「それは危険では」
    「心配ない。既に破壊した竜宮のコロニーの残骸の中に艦隊を紛れ込ませるのだ」
    「成程。全速前進」
     アシベ艦隊が前進を開始した。

     ここで宇宙船のサイズについて説明しよう。
     通常、260m級の戦艦はコスモパペットを五機、搭載している。200m級の巡洋艦は三機、150m級の駆逐艦はゼロだ。「少ない」と思うかも知れないが、これらの艦船は主砲を装備しているため、コスモパペットを収容するスペースが不足しているのだ。因みに主砲は戦艦が三門、巡洋艦が二門、駆逐艦が一門である。そしてエルライス軍では通常、戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦4をもって一艦隊とする。従ってコスモパペットの総数は十一機である。
     それに対し空母は主砲を装備しない分、空母一隻だけで一艦隊に匹敵するコスモパペットを搭載することができる。一眼の亀が十機であることは見た通りである。しかも一眼の亀に至っては対空砲すら装備されていない。一眼の亀は兵器を装備しないことで機体に「余計な穴を開けない」ようにして甲羅の被弾力を究極まで高めた機体であり、反撃能力は全てコスモパペットが担っているのである。

     一眼の亀・ブリッジ。
     長七郎艦長が主なメンバーを集めた。今後の旅の説明を皆にするためだ。
    「ビッグフェイスの管理センターからの情報によれば、乙姫がいる無量宝珠のある位置はどうやら天の川銀河の中心核の裏側らしい。我々のいる位置からだと12万光年ほど離れた場所のようだ」
    「ここから先は自分が」  
     ということで、ここから先は長七郎に変わって大介が説明をする。
    「12万光年の彼方へ行くためには光の速度でも12万年かかる。そこで光よりも早く移動する『ワープ航法』が欠かせない。その原理は『三相性理論』、今回の場合は『相対性理論』と同義だが、粒子と時間の関係性は相対性にあるから、粒子の性質を究極まで弱め、時間の性質を強めることでワープ航法が可能となる。ワープしている時間そのものは1分程の短いものだ。さて、ここで問題がある。それは1回のワープでせいぜい300光年までしか飛行できないことだ。そして再びワープをするためには24時間待たねばならない。加熱したエンジンを冷やさねばならないからだ」
     これにはちょっとした事情があった。本来はひと月ほどで行く予定だったのだが、先の戦闘で行った体当たり攻撃によって前足に装備されたメインエンジンが大破してしまったのだ。その結果、一眼の亀は後ろ足の補助エンジンのみで飛行するしかなくなったのである。だが、これは仕方があるまい。あのときは「ああしないこと」には大介と石之伸は敵にやられていたのだ。
    「ここで修理はできないのか?」
    「ここは只の空港だから修理用ドックはない。修理専用のドック艦というのもあるらしいが、どこにも見当たらないそうだ。敵に奪われたのかもしれん」
    「では仕方ないな」
    「ということは、旅は最低でも400日かかるわけだ」
    「そういうことだ」
    「それも無事に行けば、だ」
    「当然、敵の妨害があるだろう」
    「面白い。受けて立つさ」
    「ということで、物資の補給が完了するまでの間、我々全員、コスモパペットの操縦訓練をする。いつ敵と遭遇しても戦えるようにしなくてはならない」 
     現在のところコスモパペットを完璧に操縦できる者はひとりもいない。大介さえもマニュアル本に一通り目を通しただけなのだ。

    「ジャンダル、発進します」
     まずは阿綺羅から訓練スタート。
     一眼の亀のカタパルトデッキからの発進。勿論、本番同様カタパルトを使用する。
    「くっ」
     かなりのGが全身に掛かる。一般の女性ならば気絶は必至だ。だが、阿綺羅はまだ10代の娘とはいっても仮にも「忍」だ。気絶することなく耐えることができた。
     そのまま真っ直ぐ飛行、ビッグフェイスの空港発着口から一気に宇宙空間へ飛び出す。
    「えっ?」
     竜宮の開発したコスモパペットのコクピットには360度全方位のプラネタリウムモニターが装備されている。それは初心者に操縦席がそっくりそのまま宇宙空間に飛び出したような錯覚を与えるものだ。その点では、エルライス軍のコスモパペットが使用するバスタブ型(普通の戦闘機のそれ)のコクピットの方が下に死角があるものの宇宙に放り出されているような恐怖感を感じない事は確かだ。
    「面白い。まるで宇宙遊泳しているみたい」
     だが、阿綺羅は宇宙に放り出された恐怖よりも宇宙空間を漂うことの楽しさを感じていた。そんな阿綺羅の楽しそうな声は無線を介して大介にも届いていた。大介は「これならば、なんとかなりそうだ」と思った。というのも先の戦闘では大介自身が恐怖を感じたからだ。もしも石之伸が同乗していなければ意地を張ることもできなかっただろうほどに。
    「どうやら『ご満足』のようだな?阿綺羅」
    「ええ、ご機嫌よ」
    「それでは、今から自分が言う通りに操縦するんだ」
     その一言で阿綺羅は自分のすべきことを思い出した。今から自分はコスモパペットの操縦を覚える訓練をするのだと。
    「了解」
    「まずは左のグリップを、手首を使って前後左右に倒してみろ」
    「はい」
     言われた通り、前後左右に動かしてみる。機首の方向を変えながら前後左右に飛行する。
    「そうだ。今度は右のグリップだ。同じように前後左右に倒してみろ」
     これも言われた通り、前後左右に動かしてみる。今度は機体の向きはそのままに、機体は前後左右に横滑りするように移動した。
    「どうだ。違いがわかったか?左は操縦桿で、右は水平移動桿だということが。近い敵を追いかけるときは左を、遠くの敵からの砲撃を避けるときや、遠くの敵を砲撃するときは右を使うんだ」
    「はい」

     ここで「コスモパペットの操縦席」について解説しよう。といってもこれはあくまでも竜宮のコスモパペットの話であり、エルライス軍のコスモパペットは「異なる」ことをお断りしておく。
     先程説明したとおり、竜宮のコスモパペットは操縦席を取り巻くように360度全周モニターが備わる「プラネタリウムモニター」だ。ジャンダルの場合、頭部のメインカメラ以外に乳首と後頭部、更に脹脛の合計五カ所にサブカメラがある。
     操縦席には右、中央、左といった具合に三つのハンドルが備わる。機能は左ハンドルが飛行に関するもの、中央ハンドルが地上歩行に関するもの、右ハンドルが戦闘に関するものだ。
     操縦の基本は左右のレバー・グリップ・ジョイスティックが一体となったハンドルである。
    レバーは機体の「前進・後退」を、グリップは「上下・左右」を、ジョイスティックは「腕の動き」を制御する。
     まずは左ハンドルから。
     その構造を簡単に言えば「スロットルレバー」の上に「グリップ」が乗っかったものだ。レバーは奥から縦にD、N、Rの三つ。そしてNの左にはPがある。PからNでエンジンが始動。DとRはフレキシブル可変式で、一番奥でD全開、一番後ろでR全開となる。グリップは操縦桿で、右旋回、左旋回、上昇、降下、斜め上昇、斜め降下が可能だ。グリップの上にある親指一本で操作するジョイスティックもグリップ同様、前後左右斜め全ての方角に動かせるが、その機能ついては右レバーの時に説明する。
     お次は中央ハンドル。
     中央ハンドルは前後左右に動かすことが可能で、地上にいる際の歩行に使用する。進む、止まる、下がる、座る、足を揃えるが可能。グリップは固定式で、上には左右にのみ動くジョイスティックがあり、歩行する方向を左右に変えることができる。
     最後は右ハンドル。
     左ハンドルが「スロットル」であるのに対し、こちらは「アクセル」。スロットルは奥からD、N、Rだが、アクセルは奥からR、N、D。そしてスロットルが手を離してもその位置をキープするのに対し、手を離せばNに戻ることだ。そしてNの位置はスロットルの位置によって決定される。スロットルがメインボリューム、アクセルがサブボリュームと考えると判りやすい。スロットルがDであればアクセルのニュートラルはD、スロットルがRであればアクセルのニュートラルはRになるわけだ。
    従ってコスモパペットを前進飛行させる方法は「ふたつある」ことになる。ひとつは左のスロットル
    をPからNにしてから、そのまま前へ押す方法。もうひとつはスロットルをNにしたあと右のアクセルを手前に引く方法。スロットルのみを使用するか、アクセルと併用するかは操縦者の思い次第だ。
     グリップは左レバーのそれが操作の度に機体の向きが変わるのに対し、右レバーのそれは「水平・垂直」移動を可能とする。つまりコスモパペットの向きを変えることなく瞬時に左右、上下に移動できるのだ。これは例えば遠距離の敵をビーム兵器で狙撃するときや敵のビーム攻撃を回避するときに有効だ。因みに足元にも、足の裏で操作する十字架型のフットペダルが左右にあり、機能はグリップと同じである。
     そしてジョイスティックだが、これは「腕の動き」を制御するもので、操作によって腕だけでなく手首を回すこともできる。これによってレーザーサーベルでの格闘戦が可能となるわけだ。右のジョイスティックは右腕を、左のジョイスティックは左腕を制御する。
     便宜上、右腕の説明だけをするが、動作が対称になるだけで左腕も基本は同じだ。中央はニュートラル。手前に引くと腕が上がり、押すと下がる。右に傾ければ右に動き、左に傾ければ左に動く。左に傾けてから前に押すと手首が時計回りに回転、手前に引くと反時計回りに回転する。右に傾けてから手前に引くと肘を引き、前に押すと肘を突き出す。かなり複雑な腕の動きが可能である一方、自在にコントロールできるようになるには「慣れ」が必要である。
     グリップにはトリガーが装備されており、勿論ビームライフル・ビームキャノン砲を撃つためのものだ。その照準は自動で行われる。その仕組みはセンターモニターの上部にあるパイロットを撮影するカメラによってパイロットの視線を常時、計測することで行われる。その精度はパイロットの視線に比例するため「3回に1回は命中する」程度である。またこのカメラはパイロットの頭の動きも監視しており、コスモパペットの頭がパイロットの頭と常に同じ向きにあることで、額に装備された機銃の照準を正確にしている。
     中央のモニターの左右にはレバー式のダイヤルがあり、指の開閉を制御する。モニターの下には四つのスイッチがあり、レーザーサーベルとビームライフルのオン、オフスイッチだ。
     中央モニターと中央レバーの間にあるキーボードは右の数字キーが通信機で、複数の通信を一元管理できる。他のキーボードについてはレバーやグリップでは再現できない、より細かな動きを行うときのものだが、戦闘時に使用することはまずないだろう。

    「では、こちらから支持した通りに飛行しろ。まずは機首を右45度に変えろ」
    「機首を45度変えるということは・・・左のグリップを右に傾ける」
    「そうだ。では次は左に水平に動け」
    「今度は右のグリップを左に傾ける・・・と」
    「飲み込みが早いじゃないか。では、後ろに敵がいる場合はどうする?」
     今度は具体的な状況で指示してきた。
    「右や左旋回ではつまらないわね」
     阿綺羅は右レバーを前に押し込んでからグリップを手前に引いた。
     阿綺羅のジャンダルは急加速。「宙返り」しながら後ろを向いた。
    「よし。では、最後にレーザーサーベルだ」
    「これね」
     正面モニターの下に並ぶ四つのグリーンに光るスイッチの一番右を押す。スイッチの色がオレンジに変わると共に、右手にレーザーサーベルが握られた。
    「サーベルを45度の角度で構える」
     右のグリップ左に傾けたから手前に引く。拳が反時計回りに回転。45度の位置で前に戻す。レーザーサーベルは45度の位置で固定した。
    「左から右に水平斬り」
     再び手前に引きレーザーサーベルが水平になったところで前に戻し、ニュートラル(中央)を通り越して一番右まで素早く傾け、更に手前に引く。
    「そうだ。それが水平斬りだ。では、今度は上にジャンプしてから真下に唐竹割りだ」
     阿綺羅はグリップではなく、フットペダルを用いる。右のフットペダルの手前を踏んで急上昇しながら同時に右のジョイスティックを手前に引く。その後、左のフットペダルの前を踏んで機首を下に傾けながら右のジョイスティックを前に倒した。
    「よし。まずまずだ」
     阿綺羅は合格。
     続いて妖精たち。彼らも妖精だけあって飲み込みが早い。とはいえ、レーザーサーベルの扱いに関してはやはり難しそうだ。
     それは馬知子女王や放蕩将軍も同様で、彼らの戦術は視線によって敵に照準を合わせるビーム兵器が「基本」となりそうだ。
     そもそもコスモパペットの操縦は難しい。腕や足がある分、戦闘機とは比較にもならぬくらい複雑な操作が要求されるのだ。だからこそドリアンのような複雑な操作を必要としない、頭で考えただけで手足が自在に動くサイコパペットが開発され、そうしたコスモパペットを操縦できるパイロットがあらゆる星の軍隊で求められているのである。特にその分野に関する研究が進んでいるのが軍国主義に傾斜するエルライスであることはいうまでもない。

     エルライス軍・アシベ艦隊。
    「提督。ミドミンジャーから、かなり大型のスペースコロニーを発見したという連絡が入りました」
     アシベ中将は敵の宇宙空母(一眼の亀のこと)の捜索のために機密戦隊の五機を発進させていた。そのうちの一機がビッグフェイスを発見したのだ。
    「よし。ミドにはその位置から動くなと伝えろ。残りの機密戦隊をそこへ集結させろ」
    「はい」
    「それと、ミズコイも発進させろ。機密戦隊と合流させるんだ」
    「判りました」

     巡洋艦チグマヤ。
    「ミズコイ少佐。戦艦パンジャから出撃命令が出た。場所は機密戦隊が集合する場所だ。そちらのコンピューターにデータは送信されているな?」
    「方位座標はバッチリだ。ミズコイF-16、発進する」
     F-16というのはミズコイが乗るコスモパペットの名称である。正確に言えば量産型とは異なるひかり三連結専用の「0系」である。腕や足は同じだが、胴体と頭部が微妙に異なり勿論、塗装もオリジナル。通常はグリーンがメインカラーだが、こちらはその名の通りスカートの色が青い。
     エルライス軍のコスモパペットは名前を用いず全て数字である。Fは勿論「戦闘機=ファイター」の頭文字だ。F-15は戦艦クラスのビームキャノン砲を装備する大型コスモパペット、F-16は通常のコスモパペットで、ステルス性能はないが、どちらも高い性能を有する機体である。F-15がスピル、F-16がジャンダルに相当する。ミズコイと撃墜された二機の仲間が乗る機体がF-16で、機密戦隊がF-15である。

     ここまででアシベ艦隊は一眼の亀の突撃によって撃破された二機を含め、八機のコスモパペットを出撃させたことになる。ということは、あと三機のコスモパペットがいるはずだが、発信する気配はない。
    「こちらミズコイ。マジノクオオ、聞こえるか?」
    マジノクオオというのはチグマヤと並ぶ、もう一隻の巡洋艦である。
    「ああ、よく聞こえる。例のものはカタパルトブリッジに置いてあるぜ」
    「確認した」
     ミズコイが乗るF-16が巡洋艦マジノクオオのカタパルトデッキに着艦した。
    「貰っていくぞ」
     ミズコイはカタパルトデッキの上に置かれた巨大なガスボンベを手にすると再び離陸した。
    ミズコイがマジノクオオから受け取ったガスボンベ。それは猛毒ガスが充填されたガスボンベであった。今回、ミズコイがアシベ中将から受けた命令。それは毒ガスによってスペースコロニー内にいる竜宮の生き残りを全滅させることであった。どんなに「中が広い」とはいってもスペースコロニーの中は密室の空間である。そんな場所に毒ガスを散布すれば、いくら空気清浄機が稼働しているといっても中は忽ち毒ガスによって満たされてしまう。
     これで残り三機のコスモパペットが発信しない理由がわかった。マジノクオオはコスモパペットの代わりにガスボンベを運搬していたのだ。コスモパペットを搭載しないのであれば、整備用の装備品も不要となる。マジノクオオは文字通り格納庫内にガスボンベを大量に満載していた。
     ガスボンベを運ぶミズコイが既に集合が完了している機密戦隊と合流した。
     機密戦隊の隊長であるアカミンジャーの異名を持つ大佐がミズコイに命じた。
    「我々は囮となってコロニーの裏側に敵を誘う。その間に、お前はコロニーの外壁にガスボンベを設置するのだ」
    「わかった」
    「仲間の仇を討つ気持ちでやれ。いいな」
    「判っております」
    「よし。我々の姿がコロニーの裏に消えたら、ここを発進しろ」
     機密戦隊の五機のF-15がビッグフェイスに向かって進軍を開始した。
     
     一眼の亀・ブリッジ。
    「コロニーから連絡が入りました。敵のコスモパペットがこちらに向かっているとのことです。その数、全部で五機」
     長七郎艦長が叫ぶ。
    「よし。直ちにコスモパペット隊を出撃させろ」

    「何、敵だと?」
     焦る大介。なぜ?その理由はまだひとり訓練が残っているからだ。他でもない石之伸である。
    「石之伸スピルマ。今から敵を撃退する」
     石之伸が敵に向かって発進した。
    「待て、お前はまだ」
    「大丈夫。お前が操縦するところを1回見た。なんとかなる」
     スピルマというのは石之伸が乗るスピルの試作機の開発時のコードネームであり、その名前が量産型のスピルに受け継がれた。実際、人型の時のスピルマとスピルは非常に良く似ている。異なるのは足の形と背中の黒いパーツだけで、頭、胴体、腕は同じである。
    「飛行形態に変形する」
     その一方で、飛行形態の時の姿は似ても似つかない。スピルはアカエイだが、スピルマは二枚の直角三角形と一枚の二等辺三角形から成る幾何学的な「三角錐」である。
     石之伸はこの機体が気に入った。まさに「自分のための機体」だと思ったのだった。その理由は機体の底となる二等辺三角形の部分は黒だが、他は全てオレンジ一色に塗られ、そのため飛行形態時の姿はノズルから噴射されるジェットが緑色ということもあって、まるで「渋柿」のように見えるからだ。
    「駄目だ。追いつけない」
     あゆみでは飛行形態になったスピルマを追いかけることは無理だ。スピルもだが、飛行形態になったコスモパペットは通常、3倍の速度で飛行することができるよう設計されている。そうでないと、わざわざ故障の原因となり得る複雑な構造や重量増しを覚悟してまで変形機能を持たせる意味がないからだ。あゆみが時速90㎞の在来線だとすれば変形時のスピルマは時速270㎞の新幹線である。

     一眼の亀。
    「コスモパペット隊、発進せよ」
     次々と一眼の亀からコスモパペットが発進する。
     まずは阿綺羅が率いる妖精たちから成るジャンダル隊から出撃。その後、女王と将軍のスピル隊が続く。
    「艦長、全機発進しました」
     直ちに長七郎艦長がコスモパペット隊に指示を出す。
    「ジャンダル隊は敵のコスモパペットを迎え撃て。スピル隊は敵艦隊を捜索しろ。恐らく破壊されたコロニーの残骸を隠れ蓑にしているに違いない。その辺を探すんだ」
     これで全機、発進した。数的には有利だが、何分にも初心者の集まりである。戦いは「五分五分」といったところだろうか。
     機密戦隊の五機のF-15はそのままビッグフェイスに接近するのかと思いきや、遠回りをしてビッグフェイスの裏側に回った。当然、阿綺羅たちもそのあとを追ってビッグフェイスの裏側に回る。それを確認してからミズコイは毒ガスボンベをビッグフェイスに向けて運び始めた。
    「よし、到着したぞ」
     直ちにガスボンベをコロニーの外壁に取り付ける作業に入る。
    「これだけ大きなコロニーだと、何回必要かな?」
     コロニーの外壁に向かってビームライフルを連射する。徐々に穴が深くなり、やがて穴が貫通した。その穴の上にガスボンベを乗せる。
     あとはボンベのコックを捻るだけだ。

     あゆみ。
    「敵は五機だ。ジャンダル五機で戦えるな?石之伸には戦わせるなよ。あいつはまだ訓練していないんだ」
     大介はジャンダル隊全機に通信を入れた。この通信は勿論、石之伸にも届いているだろうから、石之伸はきっと「おせっかいな奴め」と思っていることだろう。
    「それにしてもおかしい。やっこさん、何でわざわざコロニーの裏側に回ったんだ?まるでこちらを誘っているような動きだ。ひょっとして陽動作戦か」
     敵の動きに疑問を感じる大介。
    「数的にはこっちの方が多い。自分がいなくても大丈夫だろう」
     大介は阿綺羅たちとの合流を止め、あゆみを引き返させた。
    「む」
     大介はコロニーの表面に突起物があるのを発見した。プラネタリウムモニター上に拡大表示する。
    「あれは敵のコスモパペット?それに隣の大きなタンクは何だ?・・・まさか!」
     大介はそれが毒ガスボンベであることに気がついた。
    「やらせるか」
     大介は全速力で毒ガスボンベに向かってあゆみを飛ばした。
    「くそう。見つかったか」
     ミズコイもあゆみに気がついた。かくしてコロニーの裏側よりも先にここで戦闘が始まった。
    「来させるかよ」
     ミズコイのF-16があゆみに照準を合わせる。
    「これでも食らいな」
     F-16のビームライフルがあゆみを狙って発射された。あゆみの頭部に当たった。だが、あゆみは見た目こそ少女だが、基本はジャンダルと同じ鎧を纏った女兵士。頭は兜によって堅くガードされている。ビームライフルの一発くらいでは貫通しない。
    「当たれえ」
     お返しとばかりに、あゆみがビームライフルを撃つ。
     当たった。前回の反省から照準を微調整していたのが功を奏した。F-16のビームライフルを持つ左腕を吹き飛ばした。
    「まだまだあ」
     もう片方の腕にレーザーサーベルを握るF-16。
    「いくぞお」
     ミズコイが大介に格闘戦を挑む。「相打ち」を狙っての突撃だ。
    「ダシキとガスの仇。討たせてもらうぞー」
     F-16がレーザーサーベルを振りかぶって接近してくる。
    「冗談ではない」
     あゆみがビームライフルを三点バーストに切り換え連射。そのうちの一発がF-16を破壊した。
    「む、無念」
     あゆみに接近する前にF-16が爆発した。
     確かに、今回の戦闘はミズコイ少佐にとってははなはだ「不本意」なものだったに違いない。「ひかり三連結」というチーム名を持つくらいだから、もしも三機揃っていれば「とてつもない大技」が見られたのかも知れないが、一機ではどうしようもない。
    「あとはこいつだ」
     三点バーストの状態のままビームライフルを毒ガスボンベに向けて連射。ボンベは大爆発した。
    「これでいい」
     かくしてビッグフェイスの住民1000万人の生命は大介の活躍により無事、守られたのだった。

  • 次回予告

  • 大介の活躍により毒ガス作戦は阻止された。次は石之伸の番だ。敵は「Jストームアタック」で石之伸に迫る。だが、こんなところで負けるわけにはいかない。まだ竜宮の空域すら出てはいないのだ。乙姫を救う旅はこれから始まるのである。
    「旅立ち」
    次回・5月31日(土)19:30~
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  •  その間に、ビッグフェイスの裏側でも戦闘が進んでいた。
    「我らは『機密戦隊ジミンジャー』。お前たちの命は貰ったあ!」
     訓練空域にいた石之伸はこの場に存在せず、先に敵と遭遇したのはジャンダル隊であった。
     そのジャンダル隊にとって、最初のお相手ははっきり言ってあまりにも「手強い相手」だった。何しろ「機密戦隊」である。そんな名称を持つ戦闘部隊なのだから「それ相応の実力を持っている」ことは容易に想像できる。
     集団戦法を得意とする機密戦隊だったが、ここでは一対一の「サシの勝負」を挑んできた。そしてジャンダル隊はそれにまんまと乗ってしまった。五機のジャンダルはそれぞれバラバラの状態となり、戦闘が不利になっても「援軍を期待できない状態」に陥った。そして、戦闘に慣れた敵を相手に大いに苦戦することになったのだ。
     渡部の相手は黄色いF-15。
    「我輩はキミンジャー。お前の命、頂戴するばってん」
     樋口の相手は桃色のF-15
    「私はモモミンジャー。行くわよ」
    中山の相手は緑のF-15。
    「拙者はミドミンジャー。いざ勝負」
    鶴夕の相手は青いF-15。
    「俺の名はアオミンジャー。可愛がってやるぜ」
    そして阿綺羅の相手は・・・。
    「お前は運がいい。私は機密戦隊ジミンジャーの隊長、アカミンジャーだ」
     仲間の危機が迫る!とてもではないが「大介の命令」に従うことはできそうにない。急げ、石之伸。

     早速、阿綺羅が危機に陥った。
     F-16のスタイルが全体的に丸っぽくてずんぐりしているのに対し、F-15は直線的ですらりとしている。そして、どことなく西部劇に登場するガンマンのようなイメージがある。シェリフのバッジを思わせる左胸の排気バルブしかり、踵の拍車しかり。カウボーイハットを深く被った顔は口元しか見えない。何とカメラアイは顔ではなく帽子にあるのだ。そして手にするビームライフルは戦艦の主砲クラスの威力があるからだろう。両手で握られるようにグリップがふたつある。
     そしてジミンジャーの機体は色が違うだけではなく、それぞれに装備する武器が異なる。アカミンジャーの武器はエレキワイプ(電気鞭)。敵の機体に巻き付き、高圧電流を流す。
    「きゃあああ!」
     グリップに流れる高圧電流に苦しむ阿綺羅。
    「たとえ機体そのものは電流に耐えても、中のパイロットはそうはいくまい」
    「くうう」
     両腕に腕に流れる高圧電流に耐えて、必死にグリップを握り続ける阿綺羅。
    「負けるもんか。こんな罰ゲームみたいな技なんかに」
     左グリップのトリガーを引いた。
    「食らえ」
     ジャンダルの左手に握られたビームライフルが火を噴いた。
    「なに」
     ビームライフルがエレキワイプを切断した。
    「なかなかやる」
    「はあはあはあ」
     敵の武器を破壊したとは言え、高圧電流を浴びた阿綺羅の体は衰弱していた。
    「もう一撃」
     再びトリガーを引く。
     ビームライフルが発射される。
    「あたらない」
     もともと、パイロットの視線を検知して照準を合わせる仕組みであるから、阿綺羅の衰弱した体では視線を敵に正確に向けることも儘ならないのだ。
     だが、敵は「そうは感じなかった」ようだ。
    「全部、俺の機体を掠めやがる」
     阿綺羅の射撃は結果的に敵を本気にさせてしまった。
    「よし。ならば、こいつでとどめを刺してやろう」
     こいつというのはF-15が装備するビームキャノン砲のことだ。背中に背負うビームキャノン砲を両腕で構える。
    「さらばだ」
     アカミンジャーが阿綺羅のジャンダルに必殺の一撃を加えんとしていた。
     その時。
    「やらせるか!」
     石之伸が乗った飛行形態のスピルマがギリギリ間に合った。赤いF-15はスピルマを躱すのに手一杯。
    「大丈夫か、阿綺羅?」
    「ええ」
    「お前は仲間たちと合流するんだ。バラバラに戦っていたら勝てないぞ」
     その後、石之伸はスピルマの高速飛行能力を活かして、次々とジャンダル隊を救援した。救援したといっても敵を倒したのではなく、単に戦闘の中に飛び込んで攪乱しただけではあったが。
     だが、この攪乱は敵の関心をスピルマ一機に向けさせるのには充分だった。何しろ通常のコスモパペットの三倍の速度で飛翔するのだから当然だ。
    「何だ、あのニンジンみたいな戦闘機は?」
     機密戦隊の五名は石之伸の乗る飛行形態のスピルマを見て唖然とした。オレンジ色の機体に後部から噴射される緑色のロケット噴射。確かに「人参」だ。渋柿と思っている石之伸にとっては、これは不本意だろう。
     それより、機密戦隊の五名が何より驚いたのは、その色が宇宙空間では非常に目立つ「発見されやすい色」だったからだ。地球でも救助隊の制服といえばオレンジ色が用いられるが、それは緑に囲まれた山の中や火災で充満する煙の中でも非常に目につきやすいからだ。勿論、これは試作機だからで、テスト中に異常が発生した際にすぐに機体を発見、回収できるためである。
    「こいつ、俺たちをバカにしているのか?」
    「それとも『絶対に落とされない』という自信の表れなのか」
    「あの飛行速度。確かに侮れない相手だ」
     機密戦隊の五機がスピルマの周囲に続々と集まってきた。
    「よし。ここらで更に驚かせてやるか」
     石之伸はスピルマを飛行形態から人型に変形させた。エルライスには変形するパペットはまだ存在しない。
     下半分が黒かったプラネタリウムモニターが360度全周囲を見渡せるようになった。スピルは飛行形態時だろうと人型形態時だろうと常時360度の視界を確保するが、飛行形態時のスピルマは下が死角となって見えないのだ。
    「よし、ビームライフルをお見舞いしてやる」
     正面モニターの左下にあるスイッチを押す。だが、スピルマはビームライフルを左手に構えない。
    「どうなってんだ一体?」
     何度もスイッチを押す。だが、スピルマはビームライフルを構えようとはしない。
     当然である。スピルマはビームライフルを初めから「所持していない」のだ。コクピットはジャンダルやスピルと同じものを流用して使っているため正面モニターにビームライフル用のスイッチはあるものの、それは機能していないのだ。流石は試作機である。その点を改良して機体の後方に尻尾型のビームキャノン砲を装備させたのがスピルなのだ。
    「まじかよ」
     となれば、レーザーサーベルで戦うしかない。
     正面モニターの右下にあるスイッチを押す。スイッチがグリーンからオレンジに変わる。その直後、スピルマの右手がレーザーサーベルを自動で手にした。
    「よし行くぞ」
     レーザーサーベルで五機のF-15相手に斬り込むスピルマ。
    「単機で向かってくるとは」
    「いい度胸だ」
    「褒めてやろう」
    「だが俺たち五人を相手に」
    「無謀だぜ」
     赤、青、黄、桃、緑に色分けされた五機のF-15がブランチする。その展開は速い。瞬く間にスピルマを五方向から取り囲んだ。F-15は元々、格闘戦用ではなく艦船狙撃用の大型コスモパペットであり、遠距離にいる敵に速く接近するために股間には強力なバーニアが三つも装備されているのだ。
    「よし。こいつに我らの恐ろしさを教えてやるぞ」
     五機がビームキャノン砲を構えた。
    「いつもの通りだ。テンポ良くやるぞ」
    「了解」
    「了解」
    「了解」
    「了解」
    「よし。Jストームアタック、スタート」
     Jストームアタックとは赤い隊長機から青、黄、桃、緑と順番に2秒間隔でビームキャノン砲を発射。敵の機体を破壊するまで、それを延々と繰り返す技である。敵が躱す余裕は2秒しかないが、攻撃する側は五機いるので1回発射したあと次までに10秒の余裕がある。それはビームキャノン砲がエネルギーを充填する時間に他ならない。戦艦の主砲クラスの破壊力を持つビームキャノン砲はビームライフルのような連射ができない。これはその欠点を補う戦法なのだ。しかもビームは五方向から飛んでくる。後ろに目でもない限り避け続けられるものではない。
     JストームアタックのJはいうまでもなくジミンジャーの頭文字のJだ。それにしてもJという頭文字には「不吉な匂い」がついて回る。「兵士」を意味するジャックもJ。偶然かも知れないがJは軍国、或いは右翼を意味するモノの頭文字として用いられていることが多いのだ。
    「この技から逃れた者はひとりもいない」
    「お前も例外ではない」
    「ここで死ぬのだ」
    「我々の手にかかってな」
    「ひひひひひ」
     2秒間隔で強力なビームがスピルマめがけて飛んでくる。それに対しスピルマがまるでフラメンコでも踊るかのようにして避ける。
    「こいつ」
    「小癪な真似を」
    「だが」
    「いつまで」
    「避けられるかな」
     攻撃から1分が経過。
    「こんなバカな」
    「我々の攻撃に1分以上耐えるなどあり得ん」
    「何故、墜ちないんだ」
    「まさか、こいつは後ろに目でもあるのか」
     驚く機密戦隊。
     その通り。石之伸には「後ろに目がある」のだ。
     石之伸は阿綺羅たちに無線を入れた。
    「お前たち、どれでもいい。一機だけを狙って一斉に攻撃しろ。一機倒せば、こいつらは崩れる」
     今、機密戦隊はスピルマという惑星の周りを周回する五機の衛星のように五カ所にブランチしている。しかも全機のパイロットの意識がスピルマに集中している。今ならば一機だけを狙うことは容易い。
    「判ったわ」
     今度は阿綺羅が妖精たちに無線を入れる。 
    「黄色い奴を一斉に襲うわよ。他の機体には一切目もくれない。いいわね」
    「了解」
    「了解」
    「了解」
    「了解」
    「よし、行くわよ」
     ジャンダル五機が青いF-15めがけて一斉に襲いかかった。
     スピルマに意識が集中していたイエローのF-15はジャンダルの一斉攻撃に気がつくのが一瞬遅れた。
    「うわあ、隊長ーっ」
     黄色いF-15が爆発した。
    「キミンジャーッ!」
     隊長のアカミンジャーが叫ぶ。
     黄色いF-15の爆発が残りの四機に動揺を与えたことはいうまでもない。そうなればもはや石之伸の敵ではない。
    「そこ頂き」
     今までは踊るように避けていたスピルマが緑のF-15めがけて突撃を開始した。ミドミンジャーの胸にレーザーサーベルを突き刺す。
    「こ、こんなばかな」
     アカミンジャーの顔に汗が流れる。
     既に二機が倒された。残るは三機。
     黄色を撃墜したジャンダル隊は、今度は桃色めがけて突撃を開始していた。そして更に後方からは、漸く到着した大介が乗るあゆみが青色に向かって攻撃を開始していた。どちらも倒されるのは時間の問題だ。
    「ミズコイ。そっちの作戦はどうなっている?」
     アカミンジャーはミズコイに無線を入れた。
    「返事をしろ」
     返事はない。
    「くそう」
     アカミンジャーは毒ガス作戦が「失敗した」ことを悟った。
    「ならば、中から破壊してやるまで」
     アカミンジャーは戦線を離脱すると一眼の亀が停泊する空港とは居住区を挟んで逆の位置にある空港からビッグフェイスの中へと侵入した。
    「あいつめ」
     石之伸もまた赤いF-15に続いてビッグフェイスの中へ入った。
     初めて入ったスペースコロニー。自分の周囲を森が、川が、田圃が、そして都市がぐるりと取り囲んでいる。そしてコロニーを構成するシリンダーの中央を貫く金属の支柱の奥に人工太陽が輝く。
    「凄い。これが未来の人口都市か」
     倒すべき敵のことも忘れて、呆然と目の前に展開される風景を眺める石之伸。それも仕方あるまい。何といっても石之伸は17世紀の人間なのだ。いや、21世紀の地球人類だって、この光景を目撃したら、うっとりと見とれるはずだ。
    「未来の地球の周りにも、こんなコロニーが浮かんでいるのだろうか」
     そんなことを考えてしまう。
    「いかん、今は奴を探さなくては」
     アカミンジャーの捜索に入る。プラネタリウムモニターには先程から赤い囲みで敵の位置が表示されている。
    「そこか」
     アカミンジャーに接近する。アカミンジャーはビームキャノン砲で応戦してきた。右のグリップを使って機体の向きはそのままに横にスライドして避ける石之伸。だが、石之伸が避けたことでビームキャノン砲のエネルギーが五番町地区を直撃。八棟が並ぶマンションとその隣にある小学校が吹き飛んだ。そこに暮らす大勢の人々と小学校に通う数百人の子供たちの命が一瞬で消えた。
    「貴様あ!」
    「お前が避けるからだ。避けるお前が悪いんだ」
     何て言い草だ。この時、石之伸はエルライス軍の軍人たちの、民間人の命を何とも思わぬ鬼畜のような「人間性」をはっきりと理解したのだった。断じてこんな奴らに負けるものか。
     敵の戦い方がわかった以上、ビーム攻撃を避けることはできない。だが、スピルマはジャンダルとは違い盾を持っていない。仮に盾を持っていたところで相手が戦艦クラスのビームキャノン砲では1発受けただけで盾は粉々になるだろう。
    「そうかい。だったら避けなければいいんだろう」
     それでも石之伸は正面から全速力で敵に向かって突撃した。
    「バカめ。まんまとこちらの挑発に乗りやがった」
     ビームキャノン砲の銃口がスピルマを捉えた。
    「死ねえ」
     ビームキャノン砲がスピルマめがけて発射された。
     だが。
    「バカな。戦艦の主砲に匹敵するビームキャノン砲を受け止めただと?」
     理由はこうだ。スピルマは瞬時に飛行形態に変わると機首を上に向け、黒い床面でビームライフルを受け止めたのだ。
     人型のスピルマは背中に黒いパーツを二枚背負っている。それは飛行形態の時にスピルマの底を覆う耐熱パネル。その性能はスピルマに大気圏突入能力を与える。大気との摩擦によって生じる3000度の高温にも耐えるパネルである。ビームキャノン砲のエネルギーを受け止めるくらいわけがない。スピルマが飛行形態時に下が見えないのは大気圏突入能力を与えるために下にカメラを設置していないためだ。因みに大気圏突入能力を持つコスモパペットはスピルマとドリアンのみ。ドリアンは仰向けになることで後頭部の髪と蝶の羽によって熱から機体が高熱から護られる仕組みになっている。
    「くそう、くそう」
     ビームキャノン砲を撃ってくる赤いF-15。だが、効かない。スピルマはそのまま赤いF-15に体当たりした。両機は密着した状態のまま何と人工太陽に飛び込んだのだった。
    「うわああああ」
     赤いF-15は爆発する余裕もなく一瞬のうちに高熱によって蒸発して消えた。一方、スピルマは耐熱パネルのおかげで無事、脱出に成功。
    これで敵のコスモパペットは全滅だ。
     それにしても、石之伸のスピルマを操作する動きは既にベテランパイロットを思わせる。これこそが石之伸の会得する「文殊の智慧」に他ならない。石之伸は「一度見たもの」を直ちに自分のものにできるのだ。つまり、大介があゆみを操縦する姿を見ていたおかげで、その操縦法を完璧に理解し「自分のもの」として身につけていたのである。

     その頃、馬知子女王と放蕩将軍のスピル隊は「大将首」を狙ってスペースコロニーの残骸が浮かぶ空間を懸命に捜索していた。
     宇宙での闘いの基本は「前方にコスモパペットを、後方に軍艦を」だ。軍艦を失えばコスモパペットが帰艦できなくなるばかりか宇宙航海そのものができなくなるからだ。故に強力な主砲を装備しているにも拘わらず戦艦や巡洋艦が「戦闘の表舞台」に出ることはまずない。「ならば空母で充分」ということで、竜宮では空母を積極的に開発していたわけだ。一方、軍事国家であるエルライスでは政治における軍人の発言力が強く「今や宇宙戦争はコスモパペットが主力であり戦艦など必要ない」という発想ができず、今も「大艦巨砲時代」を引きずっているのだった。
    「いた」
     女王と将軍が敵の艦隊を見つけた。ステルス性能を有するスピルだけあって敵はまだこちらの接近には全く気がついていないようだ。砲撃はない。ぱっと見、最も大きそうな奴に狙いを定める。
    「こうも近づけるとは思わなんだ」
    「コロニーの残骸のおかげでしょう、女王様」
     スペースコロニーの残骸は我が方の艦隊の「隠れ蓑」になると同時に、相手の隠れ蓑にもなる。
    「よし、変形じゃ」
     スピルがアカエイから人型に変形した。この時点で敵のレーダーに捕捉される。反撃される前にビームキャノン砲による攻撃を速やかに行わねばならない。
     だが、そこは初実戦。そう上手いこと事は運ばない。
    「どうなっておるのじゃ?獲物は目の前だというのに」
    「どうやらこの兵器は、すぐには発射できないようですぞ」
     その通り。何しろ戦艦の主砲クラスの破壊力を持つ兵器である。発射の前にエネルギーを充填する作業が必要なのだ。そこはF-15が装備するビームキャノン砲と同様である。そして両手で握らねばならない点も。尻尾の付け根にあるグリップを右手で、尻尾の中程に生える棘を左手で握る。 
     そうしている間に、目の前の軍艦が対空砲で攻撃してきた。
    「うわあ!」
     敵の攻撃に慌てる馬知子女王。
    「落ち着きましょう女王様。ここは冷静に対処しないことには」
     だが、悠長なことは言っていられない。当たれば一発で撃墜だ。
     そうしている間に、エネルギーゲージが臨界に達した。
    「お喜び下さい。どうやら撃てそうですぞ」
    「助かった」
    「しっかりとお狙い下さい」
    「判っておる。その方こそ外すでないぞ」
     狙いを定めて。
    「発射ーっ」
    「発射―っ」
     スピルのビームキャノン砲が発射された。一発は主砲を破壊、そしてもう一発は何と軍艦の急所とも言える艦橋を直撃した。
     女王と将軍が撃沈したのは巡洋艦のチグマヤだった。残念ながら大将首=戦艦パンジャではなかった。とはいえ大金星だ。
    「やったあ」
    「やりましたな、女王様」
     
     戦艦パンジャ。
    「なんということだ」
     巡洋艦チグマヤが爆発する姿はその後方100㎞に位置するパンジャのブリッジからも目視できた。
     機密戦隊ジミンジャーが全滅したことは既に報告を受けていた。それだけでも驚きなのに巡洋艦まで撃沈されたのだから、アシベ提督が動揺したのも無理はない。しかもこのままでは自分の船が沈められるかも知れないのだ。
    「引け。体勢を立て直さねば。この場は引くのだ」
     アシベ艦隊は後方へワープして退却した。
     こうして初戦の戦いは文字通りの大勝利に終わった。勿論、これは「運がよかった」のだ。いずれはもっと酷い損害が、場合によっては死者が出るかも知れない。

    「一眼の亀、発進」
     補給を完了した一眼の亀がビッグフェイスの空港を発進した。
     ブリッジには新たに三人のオペレーターが加わった。「藻魚(はた)三姉妹」である。今は乙女だが、やがては・・・などという心配はいらない。この三人、成長と共にいずれは男に性転換するはずである(笑)。
     ビッグフェイスの知事室からは現知事のキャプテン・サワーが出航する一眼の亀を見つめていた。「必ず無事に戻ってきてくれよ」と祈りながら。
     そして。
    「竜宮のコロニー空域を脱出」
     一眼の亀は破壊されたスペースコロニーやその残骸が浮かぶ空間を脱した。そしてスペースコロニーの浮かぶ空間を通り抜けた一眼の亀の目の前には「無限」ともいえる大宇宙が広がっていた。いよいよ長い航海の「旅」が始まったのである。

  • 次回予告

  • 一眼の亀は惑星・キンナーンに到着した。その惑星もまた竜宮同様、破壊の限りを尽くされていた。
    そしてそこにはアシベ艦隊の巧みな戦術による罠が待ち構えていた。
    「戦略合戦」
    次回6月14日(土)19:30
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  •  地球そっくりの青く美しい「水の星」。だが、見た目の美しさに惑わされてはいけない。この星では現在、先住民族へのジェノサイドが繰り広げられているのだ。
     この星の名は「エルライス」。竜宮を攻撃した敵の星である。
     この星、かつては「チナパレス」と呼ばれ、この星に元々暮らしていたチナパレス人が平和を営む星であったが、突如、宇宙からやってきたエルライス軍による無差別攻撃によって今では絶滅の危機にある。それは古墳時代、垂仁天皇によってはじめられた「倭国統一戦争」によってアイヌ民族が北へ北へと追いやられたのと非常に良く似ていた。

     この星の首都・イセサレムではこの日、ヤネニフタ総統による国民向けの演説が行われていた。言葉巧みな独裁者にとって演説は思想統制の実に有効な手段である。会場となったドーム球場に8万人の軍人たちが集まる。この模様は天の川銀河全域に向けて配信されていた。それは言うまでもなく天の川銀河全域に艦隊が派遣され、侵略の魔の手が伸びていることを示していた。
    「諸君。我々が気の遠くなるような長い流浪の旅路の果てに、遂にこの星に定住、エルライスと定めてから既に8年の歳月が流れた」
     今の言葉から判るようにエルライスは今から8年前に建国された若い国家だ。
     ヤネニフタ総統は、元々はヤダユ人という大宇宙をさすらう「流浪の民」の将軍であった。彼はそうした民族の宿命に逆らい、住み心地の良い惑星を見つけてそこに定住することを王に進言した。だが王はそれを拒否した。そこで将軍は自分と行動を共にする者たちを率いてヤダユの船団を離れた。そして辿り着いた安住の地が、今の星であった。
    「これを見るがいい」
     総統の後ろにある巨大スクリーンに天の川銀河を真上から見た図が映し出された。そこに映し出されたのは、雪だるまのように大小二つの渦巻き銀河が縦に並ぶ図であった。
    「見ての通り、天の川銀河は大銀河と小銀河の二つから成る二重銀河である。そして我々の新たなる故郷となったエルライス星はここ、小銀河の中にある。そして、我々はこの星に居を定めてから僅か1年のうちに小銀河の全てを征服した」
     小銀河の色が征服を示す赤色に変わった。ここでわーっという歓声が沸く。
    「それから7年、これを見るがいい」
     巨大スクリーンに現在の勢力図が映し出された。
    「8年のうちに我々は勢力をここまで拡大することに成功したのだ」
     ここで再び歓声が沸き上がる。
     それはそうだろう。その図によれば、赤い部分は小銀河から一気に広がり、大銀河の3割に達していた。その中には当然、竜宮も含まれている。
    「我々の勢力は見ての通り、既に天の川銀河の3割を制圧するに至った。残りの7割を制圧するのも、もう間もなくだ。このほど制圧した竜宮の超科学力を用いて我々の軍隊はより強力なものとなるだろう。その力によって我々は一気に天の川銀河を制圧するのだ」
     ここでひときわ大きな歓声が沸き上がった。
     なんと恐ろしいことだ。およそ軍事国家というのはこういうものだ。自分たちだけが「正義」であると思い込み、国防強化・侵略戦争に明け暮れるのだ。
     因みに地球もエルライスの支配地域内にある。だからこそ、彼らは雄兵衛を連れ去ったのだ。そして地球が無事であるのは、地球が科学力の貧弱な「原始人の星」だからであった。何しろこの時代の地球の周りにはスペースコロニーどころか人工衛星の一つも存在しないのだから。地球人類など「滅ぼすにも値しない」と判断されたのだ。
     演説を終えたヤネニフタ総統は王宮に戻った。
     そこへ警察庁長官がやってきた。というよりヤネニフタ総統が呼んだのだ。
    「ザガの連中はどうなっている?」
     ザガというのはチナパレス人が組織したエルライスに対する抵抗勢力、いわゆるゲリラである。
    「抵抗激しく、未だ全滅させるまでには至っておりません」
    「こざかしい連中め」
     ヤネニフタ総統は演説後の満足感から一転、いらだち始めた。
    「我らの方が戦力は圧倒的に上なのだ。さっさと始末せい。ザガの連中を皆殺しにしてしまうのだ。女子供とて容赦はするな」
    「はい」
     長官がオドオドしながら退出した。
    「全く、使えない奴め」

     戦艦パンジャ。
     副官が報告する。
    「艦長。エルライス星から補給艦・シカノイインが到着しました」
    「よし来たか。直ちに補給を開始しろ」
     補給艦シカノイインはゾウン・アシベ提督からの連絡を受けて、三機のパペットとそれを操縦するパイロットを運んできたのだ。
    「アシベ提督。『三本の矢』参りました」
     三本の矢というのは「ウリ」「モモ」「ナトリ」の三名から成るパイロットチームの名前である。
    「ご苦労」
    「早速ですが、敵の情報をお教え下さい」
    「長旅だっただろうに、随分と熱心だな」
    「それはもう。我々は敵のパイロットの噂を聞きつけて、ここへ勇んでやってきたのですから」
    「そうか。『休息を』と思ったが、ならば今すぐ説明しよう」
     アシベ提督は交戦した敵について説明を始めた。
    「敵の軍艦は一隻。どうやら空母のようだ。外観は海亀で、海亀らしく一回のワープで300光年しか飛行できない」
    「それはまた、随分と足の短いオンボロですな。まさに呪いの亀(鈍いの亀)ですな」
    「それはそうだろう。竜宮城にあった最新の兵器は全て私が本国へ送り届けたからな。残っていたのがこのボロ船だけだったのだろう」
    「で、コスモパペットの方は?」
    「女性兵士タイプとその試作機らしいのが6機。アカエイに変形するタイプが2機。そしてキャロットに変形するタイプが1機」
     最後のコスモパペットを聞いて、三人の瞳がきらりと光った。
    「最後のタイプについて、詳しい情報をお教え下さい」
    「キャロットに変形するコスモパペットは飛行速度がずば抜けて速い。通常のコスモパペットの三倍だ」
    「三倍ですと」
     三人はこの言葉を聞いて耳を疑った。
    「私も同感だ。だが事実なのだ」
    「やはり本当だったのですね」
     成程、これがエルライス軍の間で噂になっていたのか。
    「そうだ。だから補充した。本当は八機欲しかったのだがな」
    「お任せ下さい。我々三名は普通のパイロットとはわけが違います。八機、いや十機分の活躍をしてご覧にいれます」
    「お前たちの噂は聞いている。頼むぞ」
    「はっ」
     それから三人は次の作戦に備えて休息に入るのだった。
     翌日。
     アシベ提督が作戦を発表する。
    「今回の作戦はあくまでも敵のコスモパペットを少しでも減らすことにある。三本の矢は『キャロット』を倒すことに専念しろ」
    「了解」
    「幸運を祈る。作戦開始だ」
     アシベ艦隊による新たなる作戦が発動された。
     それにしても、石之伸の願いも空しくスピルマは敵に渋柿ではなく完全に「人参」として認識されてしまったようだ。

     一眼の亀。
    「飛行物体発見。どうやら敵のコスモパペットの模様。その数三機」
     長七郎艦長。
    「コスモパペット隊、発進せよ」 
    「石之伸スピルマ、発進する」
    「大介あゆみ、出撃する」
     一眼の亀から次々とコスモパペットが発進する。但し、前回とは異なり一機少ない。鶴夕のジャンダルの修理がまだ終わっていないのだ。

     パイロットチーム「三本の矢」。
    「判ってるな。まずはオレンジ色の奴だけを狙う。残りは雑魚だ」
    「判ってるさ」
    「そのためにここへ来たんだぜ」
     やる気満々の三名。何か「策」があるに違いない。
     そこへ。
    「来たぞ。オレンジ色の奴だ」
    「よし」
    「やるぞ」
     三機のコスモパペットがブランチした。
    「よし、攻撃」
     三方向からのビーム攻撃が始まった。スピルマの周囲を旋回しながらビームライフルを撃つ。
    「間合いを詰めろ」
     三機はビーム攻撃を行いながら徐々に間合いを詰めていった。
    「よし、今だ」
     三本の矢が金属製のワイヤーをスピルマめがけて発射した。それらはそれぞれ、スピルマの右腕、左腕、左足に巻き付いた。
    「やたっぞ。これであいつは終わりだ。高圧電流放射!」
     金属製のワイヤーを伝って三本の矢から高圧電流がスピルマに流される。このままだとスピルマは爆発してしまう。今まで、この戦法で倒せなかった敵はいない。
     だが。
    「なに?」
     突然、スピルマは人型から飛行形態に姿を変えたかと思うと、全力噴射で飛行を始めた。
     ワイヤーでスピルマと一つに繋がった三本の矢の機体が引っ張られる。三機の機体は互いに猛スピードで接近を始めた。
    「拙い!」
     だが時、既に遅し。三機は猛スピードで激突した。スピルマが全力飛行を開始したことで、三機のコスモパペットは「クラッカーボールの玉」となったのだ。
     衝突後、三機の間合いは広がり、再び激突。
     そして三回目の激突の時、遂に三機は大爆発を起こした。それを見届けてから再び人型に変形するスピルマ。
    「ふう。ギリギリの勝負だった」
     そう呟いたのは石之伸。
    「あと5秒、電流を流されていたら、こちらが爆発していた」
     コクピット内に高圧電流によって焦げた部品が発する煙が漂う。そう。スピルマも正直、危なかったのだ。だが、今回の戦いは石之伸に運が味方したのだった。
     
     戦艦パンジャ。
    「折れないはずの三本の矢が折られた」
    「提督」
    「退却だ」
     三本の矢を折られたアシベ艦隊には「退却」以外の選択肢はなかった。



  •  一眼の亀の旅は続く。
    「ワープ終了」
     短距離ワープが終了した。
    「前方に惑星発見」
     惑星キンナーンである。
    「惑星の表面をモニターに映せ」
     そこに映し出されたのは廃墟と化した都市であった。いわずもがなアシベ艦隊の仕業である。
    「酷い」
     震えるクルーたち。
    「惑星に降下する」
     長七郎艦長が指示した。
    「もしかしたら生存者がいるかも知れない」
     それに対し、クルーからは次のような声が上がった。
    「時間が惜しいです。一刻も早くエルライス星に行かないと」
     だが、長七郎艦長は反論した。
    「どうせこの船は今から24時間、ワープすることはできない。その間、捜索する分は問題あるまい」
     かくして一眼の亀は惑星キンナーンに大気圏突入した。
    「対流圏に突入。高度60000フィート」
    「捜索開始。コスモパペット隊、発進」
     修理を終えた鶴夕のジャンダルを含めコスモパペット全機が発進した。

     戦艦パンジャ。
    「報告します。敵は惑星キンナーンに降下したようです」
    「フフフ」
     不敵に笑うアシベ提督。
    「必ず『そうする』と思っていたよ。竜宮城の連中は『人情に篤い』からな。愚かな奴らよ」
     一眼の亀に気付かれぬよう、寒帯は惑星の裏側に隠れていたのだ。
    「これで我々の勝利は確定だ」
     勝利宣言をするアシベ提督。
     今回、コスモパペットの補充はない。「コスモパペット抜き」でどうやって闘うというのか?
    「コスモパペット隊などなくても『戦い方はある』ということを奴らに教えてやる」
     入隊後、直ちに提督になどなれるわけがない。アシベ提督が「百戦錬磨の軍人」であることは間違いない。
     果たして、アシベ提督は「いかなる戦い方」を仕掛けてくるのだろう?

     石之伸と大介がとある廃墟に着陸した。コスモパペットから降りる。
    「見ろ。まだ死体が腐っていない。どうやら虐殺はつい最近、行われたようだ」 
    「ということは、まだ近くにエルライスの艦隊がいるかも知れないぞ」
    「拙い。戻るぞ」
     全機、一眼の亀に帰艦した。果たして間に合うか。
    「一眼の亀、発進。直ちに大気圏を離脱する」
     一眼の亀が宇宙へ向けて離陸を開始した。
    「敵艦隊発見。我々の頭上100㎞の位置にいます」
    「しまった。遅かったか」
     頭上に敵の艦隊が。このまま離陸すれば離陸中に主砲の餌食に遭う。まさに、これが「敵の狙い」だったのだ。一眼の亀は完全に頭を抑えられたのだ。
     
    「『他人への情けが我が身を滅ぼす』ということを覚えるんだな。ははははは」
     勝利を確信。高笑いをするアシベ提督。
     一眼の亀は大気圏脱出を断念。再び降下した。
    「バカめ。大気のある地表と大気のない宇宙空間では、宇宙空間にいる我らの方が断然、動きが速いわ」
     その通り。
    「全艦、砲撃開始」
     高度100㎞から一眼の亀めがけて主砲を発射する艦隊。勿論、この距離ならばあたることはまずないが威嚇にはなる。
     その時。
    「レーダーから一眼の亀が消えました」
    「なに?」
    「間違いありません。消えました」
    「ということは『撃墜した』ということか?」
    「判りません」
    「望遠カメラで残骸を探せ。撃墜したのなら残骸があるはずだ」
     艦隊は必死に一眼の亀の残骸を探した。

     その頃、一眼の亀は。
    「成程。こういう手がありましたか艦長」
    「こいつは海亀だからな。このまま海を潜行。惑星の裏側に移動する。海から出たら直ちに惑星を影に全速力で大気圏を離脱だ」
     どうやら一眼の亀の方が「一枚上手」ということらしい。百戦錬磨という点では長七郎も負けてはいないということだ。
    「惑星の裏側に出ました。頭上に敵艦隊の反応なし」
    「一眼の亀発進!」
     補助エンジンを最大にして一眼の亀は浮力を用いて海中から一気に離陸。そのまま大気圏を脱出した。
    「コスモパペット隊発進。敵艦隊を惑星の左右から挟み撃ちにしろ」

     戦艦パンジャ。
    「どうした。まだ残骸を発見できないのか?」
     アシベ艦隊はまだ一眼の亀の残骸を捜索していた。
     その時。
    「レーダーに機影確認。コスモパペットです。コスモパペットが惑星の裏側からこちらに向かって飛んできています。その数九機」
    「何だと?」
     アシベ提督は「しまった」とおもった。「敵に一杯食わされた」事を悟ったのだ。
    「探せ。海亀は既に宇宙に出ている。敵のコスモパペットがいるということは、どこかに海亀の奴もいるはずだ」
    「レーダーに反応なし」
    「ばかな。そんなはずはない」
    「ですが、レーダーには反応ありません」
    「それでは『攻撃できない』ではないか」
     どんなに強力な主砲を装備していようが、敵艦を発見できなければ意味はない。
    「敵コスモパペット、接近。あと10秒で遭遇します」
    「くそう、海亀の野郎はどこにいるんだ!」
     アシベ提督は完全に取り乱していた。ちょっと考えれば、自分たちがそうだったように「惑星の後ろに隠れている」とすぐに気が付くだろうに。「勝利の美酒」に酔いしれるのがあまりにも早かったばかりに、作戦が狂った瞬間から思考回路までもが狂ってしまったのだ。
    「敵コスモパペット。来ます」
    「対空砲で応戦しろ」
     必死に応戦する艦隊。
     だが、軍艦とコスモパペットでは機動力が違いすぎる。高速移動するコスモパペットにとって軍艦など「止まっている」のと同じだ。
    「駆逐艦・レク、撃沈」
    「駆逐艦・ニクワイ、撃沈」
    「駆逐艦・マヤクト、撃沈」
    「駆逐艦・キセノモシ、撃沈」
    「巡洋艦・マジノクオオ、撃沈」
     次々と仲間の軍艦が撃沈されていく。
    「あああああ」
     残すは戦艦パンジャのみ。 
     コスモパペットの集団運用による集中攻撃は艦隊が最も恐れるものだ。たとえ強力なビームキャノン砲を装備していなくても、ビームライフルを接近された状態でエンジンやブリッジに撃ち込まれれば、たとえ戦艦であっても簡単に撃沈されるからだ。
     そして、今まさにその時がやってきた。
     渡部と樋口が乗るジャンダルが戦艦・パンジャの両サイドに接近したのだ。
    「いくぞ」
    「せーの」
     呼吸を合わせて左右から連射する。
     左右に5発、合計10発、撃ち込まれた。ビームが弾薬庫とエンジンに命中。
     ブリッジではアシベ提督が「悲痛な叫び」をあげていた。
    「そんな、そんな。私は英雄だ。竜宮城に最初に乗り込み、全ての最新兵器を奪い、本国へと送ったーっ!」
     エルライス国内では英雄かもしれないが、そんなものはここでは全く通用しない。こいつに破壊された竜宮の人々の、そして滅ぼされた惑星キンナーンの人々の怒りを今こそ受けるがいい。
     ここで戦艦パンジャの索敵が「最後の仕事」をした。
    「レーダーに反応。一眼の亀です」
     一眼の亀が惑星キンナーンの後ろから出てきた。「アシベ提督の最期」の見届け人となるために。
     その姿をアシベ提督は恨めしそうな目で見た。
    「私は祖国の英雄ぞーっ!」
     アシベ提督がこの言葉を発した直後、戦艦パンジャが大爆発した。

     イセサレム宮殿。
     総理大臣がヤネニフタ総統のもとにやってきた。
    「も、申し上げます」
    「なんだ?何をそんなに震えておる」
    「はい。それが」
    「なんだ。早く申せ」
    「はい。ゾウン・アシベ中将が戦死いたしました」
    「なに?アシベ提督が」
    「はい」
    「そうか。ならば国葬せねばなるまい」
    「さようですな」
    「生きているときは『戦争の道具』として使い、死してもなお『国威発揚に利用する』ことができる。軍人とは権力者にとって実に便利な代物よ。そうは思わぬか?総理大臣」
    「さようですな」
    「しかし、なぜ戦死したのだ?」
    「通信によれば、竜宮城の生き残りが超兵器を用いて攻撃してきたようです」
     今まで冷静だったヤネニフタ総統の顔色が変わった。
    「竜宮城にはまだ兵器が残されていたのか」
     しばらく思案する総統。
    「総理大臣。こうなれば一刻も早く竜宮城の技術を用いた新型コスモパペットを開発する必要がある。それと、竜宮城の生き残りを早急に始末する必要もな」
    「といいますと?」
    「チンプー。プラトン。インフラ。この三名を直ちに戦地から呼び戻せ」
     彼らはいずれも自らの艦隊を指揮する提督である。
    「この三名はそれぞれ別々のエリアにおいて侵略戦争を進めております」
    「それは後回しでよい。今はまず竜宮城の生き残りを始末することが重要だ」 
    「わかりました。すぐに帰還命令を出します。ですが、三名が前線から戻るまでにはひと月ほどは掛かるかと」
    「なるべく急げよ。それから、あいつはどうなっている?」
    「はい。何分、体がバラバラでしたから、回復までに時間が掛かりました。ですが大丈夫です」
    「よし。ならば三名に同伴させ、戦闘に参加させるのだ。但し無理はさせないように。あくまでも『宇宙での戦闘』というものがどのようなものかを学ばせるためだからな」
    「はっ」
     その後、ヤネニフタ総統は軍の研究所へと出向いた。
    「どうだ?」
    「ダメです。びくともしません」
     そこには竜宮城から運び込まれた無量宝珠があった。
    「乙姫。小癪な真似を」
    「いかがいたしましょう」
    「何としても割れ。私の願いはそれだけだ」
    「はい」
     総統は宝珠の置かれた部屋を出た。
     実はヤネニフタ総統は一度、過去に乙姫と会ったことがあるのだ。
    (乙姫よ。私はあの日以来、一度としてそなたのことを忘れたことはない。必ずやそなたを我が妻としてくれようぞ)
     研究所の廊下を歩きながら、総統はそのようなことを考えていた。

  • 次回予告


  • 一眼の亀に次々と襲いかかるエルライス軍の艦隊。今度の敵は資金力にものをいわせて自分専用の戦艦やコスモドール(コスモパペットの一種)を開発する大富豪ハンザイ大佐率いる成金艦隊。
    「戦争は『金を掛けている方が勝つ』ということを教えてやる」
    果たして、戦いの行方は?
    「恐怖!機動テンバイン」
    次回6月28日(土)19:30
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  • 「石之伸ドリアン、発進する」
     石之伸がドリアンで発進した。将来の戦闘のことを思えば、やはりドリアンも「計算できる武器」にしておく必要がある。というのもマニュアル本によれば、ドリアンにはスピルのビームキャノン砲を遙かに上回る威力を秘めた強力な武器が装備されているからだ。
    「石之伸、聞こえるか?まずは通常の武器から始めよう」
    「・・・・・・」
    「どうした?」
    「全然反応がない」
     ドリアンの通常兵器はその形状からタンバリンと呼ばれる20機のコスモドローン。ドリアンの四枚ある羽根に内蔵されている。
     だが、それが全く「作動しない」のだ。
     ドリアンは乙姫専用機として開発され、乙姫の精神力によって全てをコントロールする「サイコパペット」として設計されている。従って通常の操縦装置は搭載されていない。文殊菩薩の智慧と能力を受け継ぐ石之伸ならば操縦できるのではと思ったのだが。
    「駄目か」
    「ああ駄目だ」
    「じゃあ、それは後回しにして、肝心の超兵器を試そうか」
    「判った」
     石之伸は仮想敵である浮遊隕石の前でドリアンを大の字にした。
     肝心の超兵器というのは「ハート砲」といい、ドリアンが内蔵する最も強力な兵器である。破壊力がマニュアルに書かれている通りならば、その威力は敵艦隊を一発で消滅させられるだろう。戦艦ではなく艦隊を、である。
    「駄目だ」
     ハート砲の砲門=パネルは鳩尾にある蝶を象った大きなクリスタルブローチ。だが、どんなに念じてもパネルが輝く気配はない。
    「大介。俺では無理だ。この機体は使いこなせない。闘うどころか普通に飛ばすだけでも一苦労だ」
    「判った。戻ってこい」
     この機体は、やはり乙姫でないと駄目ということなのか。

     ハンザイ大佐のもとにアシベ艦隊全滅の報が伝えられた。ハンザイ艦隊は現在、最も一眼の亀に近い場所に位置する。
    「これはまたとないチャンスだ。アシベ艦隊を撃滅した敵を我らで殲滅すれば『二階級特進』ものだぞ」
     ハンザイの階級は「大佐」であるから提督の地位にはない。そしてエルライス軍では大佐が率いる艦隊は「巡洋艦三隻」が基本である。当然、ハンザイ艦隊も本来ならば巡洋艦三隻から成る。だが、自身が社長を務めるリサイクルショップとは名ばかりの高額転売屋によって巨万の富を稼ぎ出した経済界の大物である彼は自ら巨費を投じて全長400m級の豪華客船を改造した戦艦を建造、自らの旗艦としていた。元々が豪華客船であるから外観も見るからに絢爛豪華。しかも船体を金色に塗っているから尚更だ。
     言うまでもなくハンザイ大佐は「提督=少将以上」になることを願っていた。だが流石に、その地位だけはいくら金を注ぎ込んでも手に入れることができないでいた。
     ハンザイが受話器を取った。格納庫に通話するためである。

     格納庫。
    「いいぞ、いいぞ、走れ、走れ」
     そこではレイカー少佐が今、コスモパペットの整備をそっちのけで「ギャルピッグ」というゲームを楽しんでいた。このスマホゲームは女性を競争豚に見立てて自分で調教、レースに出走させて勝利を狙うというもので、男尊女卑もいいところの内容ではあるが今、エルライス国民の間で大人気なのだ。
    「レイカー少佐はいるか?」
     いきなりのハンザイからの艦内電話。レイカーは慌ててしまい、うっかりスマホを落としてしまった。コスモパペット前の作業台の現在の高さは10m。落下したスマホは勿論、粉々になった。
    「あちゃあ」
    「どうしたレイカー。返事をせんか」
    「何でしょう?艦長」
    「今からアシベ艦隊を撃破したという敵を追う。ここからだと三日とはかかるまい。コスモパペットの整備をしておけ。念入りにな」
    「はっ」
     レイカー少佐はハンザイ艦隊直属のコスモパペット隊「暴壊夷SHOW(ぼうえいしょう)」の隊長である。
    「タカコ。聞いた通りだ」
    「聞いた通りでありますー。カズ少佐どのー」
     タカコはレイカー少佐の右腕である。階級は軍曹。
    「しっかり整備しておけよ。作戦は恐らく二日後にある」
    「ハイイー、わかりましたー」
    「その返事、なんとかならんか。耳が痛くてたまらん」
    「ハイイー、気をつけまーす」
     一方、格納庫への指示を終えたハンザイは直ちに次のように命じた。
    「直ちにアシベ艦隊を撃破した敵を追え」
     戦艦オークションとゴマスリーン、コシギン二隻の巡洋艦が発進した。

     戦艦一隻と巡洋艦二隻のハンザイ艦隊。普通であれば、いくら「二階級特進」とはいっても、そこに駆逐艦四隻を加えた艦隊を撃破した敵をわざわざ迎え撃つなどということはしない。「勝つ見込みがある」からこそ迎え撃つわけで、その根拠の一つは先に挙げた自ら建造した戦艦の能力であり、もうひとつはコスモパペットにあった。
     ハンザイ艦隊にはまだ実戦配備間もない最新鋭のF-35が配備されていたのである。勿論、財力を活かして優先的に回して貰ったものだ。
     F-35はF-16の後継機である。最大の特徴は飛行形態に変形することでステルス性能を有することだ。上腕・太腿を太く、下腕・脹脛を細くすることでカメラの三脚のように腕と足を引き込み、四枚の巨大な三角形の板で機体を覆うことでレーダー波を受信レーダーに戻らない方向に反射するのである。こうした特徴の結果、人型のF35は正直「不格好」である。スピルやスピルマほどの洗練度がないのはエルライス軍の技術力が竜宮には「遠く及ばない」からに他ならない。
     そしてカメラアイはF-15同様、顔ではなくヘルメットに装備されている。今までの水平とは異なり「×字状」に動くことで視界を大きく拡大している。とはいえ、可動式カメラアイを採用している以上、死角が生じることは避けられない。その分、360度プラネタリウムモニターのようにパイロットが宇宙に放り出される恐怖感を感じないため、初心者でも扱いやすい事は確かだ。

    「飛行物体発見、大型です。海亀と思われます」
    「遂に見つけたぞ。皆の者。戦闘準備だ」
     カタパルトデッキ。
    「レイカー、発進する」
     赤いF-35が発進する。隊長機らしく頭に角を生やし、胸に「Aマーク」を施す。彼は少年の頃から「ムスタングのチャー」に憧れており、自分の乗るコスモパペットの外観を「同じ」にしている。チャーというのはムスタングの名が示す通り、いち水兵の身分から軍司令官にまで出世した伝説のエースパイロットの名前で、ヤダユ人ならば誰もが知る「英雄」だ。
     続いて。
    「タカコ、発進します。ハイイー」
     迷彩塗装のF-35が続く。迷彩塗装は本来、地上用のパペットに施される塗装だが、彼女は好んで使用していた。彼女?そう、タカコは女性である。それもやけに声がバカでかい。
     その後は部下たちの五機が続いて発進した。
     そして。
     ハンザイ大佐もまた格納庫に現れた。
    「私のコスモドールの準備は?」
    「はい。できております」
     コスモドールはコスモパペットの一種で、人型ではないタイプのものを指す。この機体の場合は背中やスカートの中ではなく巨大なショルダーの中に複数のバーニアを装備し「腕がない」のでコスモドールということになる。
     どうやらハンザイ自ら出撃するらしい。全身を金色に塗装した機体。「成金」が金色を好むのは、いかなる星の知的生命体も同じらしい。それは当然だろう。存在する元素が宇宙によって変わるわけではないからだ。「水兵リーベーブック」でおなじみの元素表は全宇宙共通である。
    「既に乗っているな」
     ハンザイ専用機の中には既にふたりの大尉がパイロットとして登場していた。このコスモドール、操縦士、砲撃手、そして指揮官の三名で操縦する仕様になっているのだ。
    「大尉。テンバインを発進させろ」
     ハンザイが操縦士に出撃を命じた。
    「了解。テンバイン発進します」
     テンバインと命名されたコスモドールが発進した。
     テンバインはまず、その大きさに圧倒される。通常のコスモパペットの身長は15~20mの中に収まるが、テンバインは2倍以上ある。しかも頭には大きな角が生えているから、それも含めると3倍以上だ。道理で専用の戦艦を開発する必要があったわけだ。これでは通常の巡洋艦の格納庫に収まるわけがない。

     一眼の亀。
    「敵艦隊発見。敵のコスモパペットを確認。一機だけです」
     一機というのは「テンバイン」のことで、残りの七機のF-35はレーダーでは確認できない。
    「よし。ならば石之伸だけを発進させよう」
     長七郎艦長はそう判断した。
    「待って」
     澄が長七郎艦長の判断に異議を唱えた。
    「おかしいわ。美蕾さん、本当に一機なの?」
    「はい。間違いありません」
    「怪蕾さんは?」
    「私も一緒です」
     だが、澄は言下にふたりの判断を否定した。
    「でも、間違いだわ。私の目には全部で八機見える」
    「何だと?」
     驚く長七郎艦長。
    「本当か?澄」
    「ええ」
     勿論、敵との距離を考えれば目視などできるわけがない。澄は直感によって敵のコスモパペットが全部で八機であることを確信していたのだ。
    「わかった。コスモパペット隊全機、発進だ」 
    「私の言葉を信じてくださってありがとう」
     澄は長七郎に礼を述べた。 
    「なあに。昔からお前は直感力に優れていた。だから信じたまでだ」
     そう。意外な発言でも「過去の実績」があれば信じることができるのだ。「信頼」とは凡そそういうものだ。信頼は「過去からの積み重ね」によってしか得られない。
     美蕾と怪蕾のふたりは不服そうだが、間もなくふたりも澄に敬服することになる。
     最初に発進した石之伸から連絡が入った。
    「敵を確認。全部で八機。そのうち、レーダーに捕捉できるのは一機のみ。どうやら敵さんもスピルのようなステルスパペットを開発したようだ」
    「ステルスパペットか。わかった。こちらもカメラ探知機で確認する」
    「自分は今から敵と戦闘に入る。以上」
     石之伸は言わずもがな、テンバインに狙いを定めた。この時点ではまだ、その巨大さには気がついていない。

     やがて、残りのコスモパペット隊もやってきた。まずは大介率いるジャンダル隊である。スピル隊が遅いのは発進の順番が最後であることと、この時はアカエイ型ではなく、すぐに一発目のビームキャノン砲を発射できるように人型で飛行しているからだ。
    「阿綺羅、お前は妖精たちを率いて左へ移動しろ」
    「大介さまは?」
    「俺は右へ行く。恐らく敵の隊長が誘いに乗ってくるはず。そいつは俺がやる、お前は残りを妖精たちと仕留めるんだ」
    「了解」
     最初、阿綺羅は大介の言う通りに動いた。妖精たちを引き連れて左へ移動する。
     一方、それを見た暴壊夷SHOWは。
    「タカコ、見ろ。敵は二手に分かれた。それも一機と五機だ。一機は隊長機の俺を誘っているんだ」
    「ハイイー、どうやらそのようですねえ」
    「ならば誘いに乗ってやろうではないか。ただし、こちらは二機と五機だ」
    「ハイイー」
    「聞いた通りだ。タカコ以外は右の五機を襲え。一対一だ。頑張れよ」
     敵もまた二手に分かれる。但し、大介が乗るあゆみ一機に対しレイカー少佐とタカコ軍曹の乗る二機が向かう。
    「二対一とは卑怯な連中。中山。後はお願い」
     そうした敵の動きを見た阿綺羅が妖精たちを中山に任せて大介のカバーに向かった。
    「阿綺羅」
    「大介さま。敵は二機います。ですから私もご一緒します」
    「お前は妖精たちを率いて戦え」
     だが、そんな命令に従う阿綺羅ではない。
    「邪魔だ、阿綺羅」
    「足手まといにはならないわ」
     そうこうしている間にレイカー少佐の乗る赤いF-35とタカコ軍曹が乗る迷彩塗装のF-35がふたりに接近してきた。
     戦闘開始だ。もう大介は阿綺羅とタッグで戦うしかない。
    「わかった。お前は迷彩塗装を相手にしろ」
    「了解」
    「まったくう。このお転婆め」
     迷彩塗装のF-35に阿綺羅のジャンダルが挑む。
    「これでも食らえ」
     左手のビームライフルを発射。
    「当たった」
     迷彩塗装のF-35の背中の三角板を一枚、弾き飛ばした。無論、致命傷ではない。
    「やったなあ」
     タカコ軍曹の反撃。F-35のビームライフルが炸裂。
    「当たったあ」
     こちらもヒット。しかもこちらは明らかにジャンダルの胸を直撃した。
    「ば、バカな。直撃の筈よ」
     驚くタカコ軍曹。
    「も、もう一度」
     今度は臑にヒット。
    「そんな。ビームライフルが効かない?」
     変形コスモパペットであるスピルマやスピルは骨格を構成するパイプフレームに核融合炉、バーニア、ガーダーなどのパーツを後付けする構造で、防御能力はお世辞にも高くない。それに対しジャンダルはそうしたメカを全てボディに内蔵するモノコック構造を採用する。しかも頭部や胸部など場所によってはモノコックのボディの上に更に鎧を被せている。従って、鎧の部分の強度は戦艦の主砲ならばともかく、コスモパペットの常備するビームライフル程度ならば充分に耐えることができるのだ。
     ジャンダルの防御力の高さに驚くタカコ軍曹。それが隙を生んだ。
    「うわあ」
     阿綺羅の放ったビームライフルがF-35の左腕を吹き飛ばした。
    「しまった。左腕を飛ばされた。だが」
     迷彩塗装のF-35が飛行形態に変形。戦線を離脱する。その動きは「退却」に見えた。
    「待て」
     阿綺羅は迷彩塗装のF-35を追った。

    「よし。これくらい離れればいいか」
     迷彩塗装のF-35が再び人型に戻る。
    「私の得意技はビームライフルじゃないのよ」
     そこへ阿綺羅の乗るジャンダルがやってきた。
    「どうやら観念したようね」
    「それはどうかしら。それ」
     迷彩塗装のF-35から「何か」が無数に放たれた。何かがジャンダルの周りを取り囲んだ。
     そして、何かの一つがジャンダルに触れた瞬間。
    「何?」
     ジャンダルの左手に握る盾の上部が吹き飛んだ。
    「こ、これは地雷?」
     タカコ軍曹が笑う。
    「これは『宇宙機雷』よ。私はもともと機雷の扱いの方が上手なのよ」
     そして更に。
    「そーれ」
     迷彩塗装のF-35が右手で宇宙手榴弾を投げた。爆発。それに合わせて宇宙機雷が誘爆する。
    「きゃあああ」
     ジャンダルの周囲で多数の宇宙機雷が爆発した。
     宇宙機雷自体は小型爆弾に過ぎない。だからジャンダルのボディそのものは爆発に耐えることができる。だが、衝撃による内部の破損は免れない。
     ジャンダルのコクピット内に警報が鳴り響きはじめた。
    「空気が漏れている?」
     宇宙機雷によってジャンダルのコクピットを包む球状の外壁のどこかに罅が入ったのだ。
    「このままでは窒息してしまう」
     迷彩塗装のF-35が再び宇宙機雷をジャンダルの周囲に散布する。
    「一か八か」
     阿綺羅はバーニアを吹かすと、ジャンダルを迷彩塗装のF-35めがけて突撃した。宇宙機雷がジャンダルに次々と接触、爆発する。
     それを見ていたタカコ軍曹が高笑いを発した。
    「ハハハ、バカな奴。自分から死におったわ」
     だが、煙の中から現れたのは。
    「そ、そんな」
     それはジャンダル。盾と鎧を全て失った「裸のジャンダル」だ。
    「うおおおお」
     ジャンダルがレーザーサーベルを抜いた。
    「しまったあ」
     ジャンダルの一撃が迷彩塗装のF-35を一刀両断した。上半身と下半身に分断された迷彩塗装のF-35。
    「隊長、タカコはやられちゃいましたー」
     迷彩塗装のF-35が爆発した。
    「急いで戻らなくては」
     迷彩塗装のF-35の爆発を見届けた阿綺羅はジャンダルを一眼の亀に向けて飛ばした。

     こちらは一対一の格闘戦を繰り広げる大介とレイカー少佐。
     ジャンダルのレーザーサーベルに対し、赤いF-35が手にするのは「レーザー銃剣」である。銃剣とはライフル銃の先端に短剣を取り付けたもので、銃としての機能と剣としての機能を兼ね備えた武器である。一見「便利」なように思えるこの武器だが。
    「そんな武器を使っている時点で貴様の負けだ。レイカー」
    「何だと?」
    「その証拠にほら、お前の胸はさっきからずっとガラ空きだぞ」
     銃剣道は剣道の基本である「利き腕の拳を自分の胸の中心から外さない」という型を崩す。銃剣道を極めれば極めるほど剣道は「弱くなる」のだ。旧日本軍が陸戦で「弱かった理由」はここにある。旧日本軍では弾を全て打ち尽くし、只の重荷でしかなくなっても戦場で「ライフル銃を捨てない」ことを美徳としたが故に、先端に短剣を取り付けることで武器としての使用も可能としたことが、兵士の戦闘力を弱める結果となったのだ。
     そしてレイカーがわざわざレーザー銃剣を自分の武器として使用しているのは勿論、伝説のパイロット・ムスタングのチャーが「ビーム銃剣の名手」だったからだ。
    「もういいな」
     大介がガラ空き状態の赤いF-35の胸に輝くAマークの中央にレーザーサーベルを突き刺した。エースパイロットを気取っていても、自分の戦闘術を確立することを怠った「気取り男」など所詮、大介の敵ではなかった。
    「阿綺羅は?」
     大介は阿綺羅を探す。見当たらない。まさか。
     その時、一眼の亀から無線が入った。
    「阿綺羅が戻った?了解」
     頭痛の種から解放された大介は迷わず妖精たちの援軍に向かった。その後、劣勢だった妖精たちが一転、優勢になり敵を掃討したことは言うまでもない。

    「なんだ、こいつは?」
     テンバインの出現に驚く石之伸。その大きさといい、全身金色の塗装といい、頭や上半身に生える角といい、このコスモドールのパイロットは一体全体「何を考えている」のか皆目、見当もつかない。
     だが、ハンザイ大佐の思考は一貫している。それは「成金趣味」である。
     巨大さや金色は言わずもがな、ボディに角が生えているのは、テンバインのモデルが「ダイコクコガネ」だからだ。そしてコガネムシはいうまでもなく「金持ち」の象徴である。
     カメラアイのデザインもユニークだ。基本は十字だが、先端が曲った鈎十字である。カメラは当然、この形で動く。動いているときの姿は結構、ユニークである。
    「こいつか。オレンジ色のニンジン野郎は。よし、仕留めるぞ」
     ハンザイが左右のグリップを握る。それに合わせてテンバインの両足が背中に背負ったレーザーサーベルと盾を握った。テンバインの足は飛行時には腕としての機能を持つのだ。右足のレーザーサーベルの長さはスピルマの二倍。左足の盾も巨大だ。そして盾のデザインもまたコガネムシの羽を思わせる。
     そして両足に挟まれた股間には唯一、黒色に塗装されたビームキャノン砲が装備されていた。
    「大尉。操縦とビームキャノン砲はお前たちの判断で使え。私は両腕の動きに専念する」
    「判りました」
     コスモパペットを操縦する「難解さ」をテンバインは三名のパイロットを乗せることでカバーしているのだ。
    一方、石之伸は。
    「面白い。受けてやろうではないか」
    スピルマも右手にレーザーサーベルを握った。
     その時、スピルマに無線が入った。スピル隊からである。
    「石之伸、下がれ」
    「こいつはわらわが仕留める」
     蘇我馬知子女王がビームキャノン砲を構えた。
    「大きければいいってもんじゃないよ」
     馬知子女王の乗るスピルのビームキャノン砲が発射された。戦艦クラスの強力なビームがテンバインめがけて進む。
    「くたばれ、でかぶつ」
     だが。
    「なに。ビームが曲がった」
     馬知子女王が放ったビームはテンバインに命中する直前、大きく曲ったのだった。ビームはあさっての方向に飛んでいった。
    「こんなバカな」
     驚くスピル隊。
     何故ビームが曲ったのか?石之伸は冷静な分析を行った。
    「そうか。五本の角が強力な磁界を放っているんだ」
     強力な磁界がある場所ではビームは直進することができない。これは磁界を利用したバリアーなのだ。無論、このようなバリアーには大量の電気が必要。テンバインの巨大さは磁界バリアーを使用するための強力な発電機を搭載するためだったのだ。
     その時、スピル隊めがけてテンバインの股間のビームキャノン砲が火を噴いた。
    「うわあ」
     ビームがスピルを掠めた。
     しかも、時を待たずに再びビームキャノン砲が発射された。今度は平放蕩将軍の乗るスピルを掠めた。巨体だけあって連続発射が可能なのだ。最終的に連続5回ビームが発射された。まるで「射精」のように。幸い、スピル隊に被害はなかったが、それは単純に敵の射撃の腕が低かったからに過ぎない。
     石之伸がスピル隊に叫んだ。
    「下がれ。こいつはただ大きいだけのコスモパペットじゃない。攻防一体の恐るべき相手だ」
     スピル隊がビームキャノン砲を発射した。今度は放蕩将軍の分も含めた二発だ。
     だが、やはりビームはテンバインの直前で方向を変えた。
     ビーム兵器が通用しないことが明らかとなった。こうなれば接近戦でやっつけるしかない。
    「やってやるぜ」
     レーザーサーベルを手にスピルマが突進する。そこへテンバインのビームキャノン砲が攻撃を仕掛けてくる。
    「おっと危ない」
     右手のグリップを動かし、機体の向きを変えることなく上下左右にビームを巧みに躱す石之伸。
     どうにか接近に成功。
    「もらったあ」
     だが、その時、テンバインの左足の盾がスピルマの侵入を阻止した。そしてすかさず右足のビームサーベルが振り下ろされる。ハンザイ自ら操るテンバインの足の動きはなかなかのものだ。何といってもパワーが段違いだ。サーベル同士の打ち合いでは明らかにテンバインの方が優っている。石之伸がいくら押し込んでも、テンバインの足はびくともしない。
     そしてテンバインとスピルマの格闘戦が始まった以上、スピル隊は遠方からそれを傍観するしかなかった。ビームキャノン砲は磁界バリアーによって曲げられているし最悪、スピルマに当ててしまう可能性もあるからだ。
    「女王様。我々は別の目標に向かいましょう」
    「そうじゃな」
     スピル隊は艦隊を目指し飛行を開始した。
    「見えたぞ。あれじゃな」
    「これまたゴールドですな」
     戦艦オークションとその左右に二隻の巡洋艦。スピルはステルスパペットだから、まだ発見されてはいない。
    「駆逐艦はいないようじゃ」
    「三隻ならば、我らだけで、いけますな」
    「やるか将軍」
    「やりましょう女王様」
     スピルが左右に展開。それぞれ戦艦オークションと巡洋艦の間に入った。
    「人型に変形」
     アカエイから人型に変形。ここで敵のレーダーが作動した。
    「敵のコスモパペットを確認。真横にいます」
    「真横だと。急いで翼を収納しろ」
     戦艦オークションの主砲は船体の左右にある可変後退翼の上部に左右それぞれ二門ずつ装備されている。この可変後退翼が大きく広がることで四門の主砲が正面の敵を一斉砲撃できる仕組みになっているのだ。そして既にその状態にしてあったのだが、真横の敵の場合、これだと主砲が二門、使えないことになる。
    「ほれほれ、真横だと主砲が半分しか使えんぞ」
    「翼を閉じ始めましたぞ」
     オークションが可変後退翼を閉じ始めた。完全に閉じたところで砲塔が旋回を始めた。
    「ちゃーんと狙えよ」
     砲門が光り始めた。
    「今じゃ」
     女王のスピルは急上昇、将軍のスピルは急降下した。その直後に主砲が発射された。オークションが放った主砲のビームが左右にいる二隻の巡洋艦ゴマスリーン、コシギンに命中した。
    「やったあ」
     オークションは自ら二隻の巡洋艦を撃沈してしまった。
    「今度はこれじゃ。いいか将軍。狙いとタイミングを正確に合わせるのじゃ」
    「大丈夫です。いきますよ。せーの」
     真上と真下から発信器の信号を頼りに互いの機体を狙ってビームキャノン砲を同時に発射。二つのビームがオークションの船体の中央でぶつかり拡散。オークションの船内を駆け巡った。強力なビーム兵器は強力ゆえに軍艦の船体を貫通してしまう。だが、それだと威力は半減する。旧日本海軍の戦艦大和が装備していた46㎝主砲がアメリカ空母の船内で爆発せず貫通してしまったように。だが、この方法ならばエネルギーの全てを破壊に用いることができる。
     全長400mを越える巨艦も、これではひとたまりもない。オークションもまた先の二隻の巡洋艦のあとを追った。
    「やりましたな、女王様」
    「初めて試してみたが、これほどの威力とはな」
    「これならば発射回数を減らせますから、より多くの軍艦を沈められます」
    「わらわの頭脳もなかなかのものじゃ」
     馬知子女王は自分のアイデアに大満足するのだった。

    「こいつは強い。だが、恐れるな。俺の心」
    「ふはははは。このテンバインには通常の戦艦一隻分の金がまるまる掛けてあるのだ。そんなちっぽけなコスモパペットなんぞで敵うものか。アタック、アタック、アターック」
     いくら強力な磁界バリアーを持つテンバインとて、レーザーサーベルを直接、突き立てることができれば倒せる。テンバインの弱点は「下半身」。武器を装備する関係から下半身には磁界バリアーはない。しかも武器の向きを変える必要から可動部分が多く、どうしたって防御は脆くなる。そこさえ狙えれば。だが、そのためには相手のビームサーベルと盾、そして股間のビームキャノン砲をどうにかしなければならない。しかし、どうやって。
    「そうだ」
     石之伸の頭に「文殊の智慧」俗に言うグッドアイデアが閃いた。
    「変形」
     石之伸はスピルマを飛行形態に変形させた。
    「よし。いくぞ」
     テンバインの周囲をジグザグに飛行する。飛行形態になったスピルマの移動速度は人型の三倍ある。しかも飛行形態時のスピルマにはステルス能力があるため、レーダーでの追尾はできない。
     テンバインのレーダースクリーンからスピルマを示す光点が消えた。テンバインはカメラアイが計測する目視情報のみでスピルマを追跡する以外にはない。そしてエルライス軍のコスモパペット(ここではコスモドール)は一個のカメラアイを上下左右に動かす事で広範囲の視界を確保するシステムであり、360度全方位を常時カバーするプラネタリウムモニターは実用化されていない。
    「小癪な」
     必死にレーザーサーベルと盾で下半身を防御するハンザイ。大尉もまたカメラアイに機影が映る度にビームキャノン砲を発射する。操縦士もまたバーニアを操り、スピルマを下に回り込ませまいとする。だが、スピルマの素早い動きはそれを上回る。
    「よし、今だ」
     スピルマが遂にテンバインの股間に飛び込んだ。
    「変形」
     直ちに人型に変形。
    「やああああ」
     レーザーサーベルでビームキャノン砲の砲身をぶった切る。
     更に。
    「二度と射精できないように去勢してやる」
     レーザーサーベルを短くなったビームキャノン砲の砲身に突き刺した。直ちにテンバインから離れるスピルマ。ビームキャノン砲が爆発した。その爆発の影響で両足も破損した。足を動かせなくなったためビームサーベルも盾も、もはや役には立たない。
    「くそう、やりやがったな」
     悔しがるハンザイ。
    「男の弱点はやはり『逸物』だったようだな」
     勝利を確信する石之伸。
     次々と誘爆するテンバイン。磁界バリアーも切れた。
    「こんなバカな。あんなちっぽけなコスモパペット一機に、この無敵のテンバインがやられるなど」
     だが、これは紛れもない事実だ。事実は直視しなければいけない。
     誘爆がコクピットにも及び始めた。
    「うわあ」
    「ぎゃあ」
     次々と大尉を吹き飛ばす誘爆。自身の目の前でふたりの大尉が死ぬのをハンザイは見た。 
    「俺は戦死?」
     これがハンザイ大佐の「最後の言葉」となった。
     その直後、テンバインは大爆発した。

  • 次回予告

  • 一眼の亀の行く手に突然、大規模な艦隊が出現した。それはエルライス国家建設の野望に燃えるヤネニフタ総統が生まれ育った「ヤダユ船団」であった。エルライス撲滅の旅を続ける石之伸とエルライス建国の志士たちに同情を寄せる王。両者の出会いは「運命」のなせる業か?
    次回・文殊の剱
    「流浪の民」
    7月5日(土)19:30
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  •  竜宮城の船である一眼の亀には「仏間」が設えられている。
     石之伸は毎朝晩、ここで正法時代の本尊である銅鐸に向かい唱題をする。「必ずや乙姫を無事に救い出す」という誓いを立てているのだ。
     ここは宇宙空間。一眼の亀の周りには仏界の波動が満ち満ちている。しかも文殊師利菩薩の継承者である石之伸の生命境涯の基底部は菩薩界であるから、唱題に入るやたちまち仏界=妙の世界に片足を踏み入れることができる。だから石之伸にははっきりと見える。それは今日、エルライス軍によって迫害、虐殺されている人々は、まさにそうした責め苦を受けることで自身の過去世の悪業を消滅させ、再び人として生まれ変わるのを。一方、他民族を迫害、虐殺して楽しむエルライス軍の連中は死後、その悪業によって未来永劫、生まれ変わることなく苦しみ続けるのを。
     戦争という行為に「価値」を見出すとするならば、まさにこの点以外にはない。だが、やはりこうした、どちらか片方が修羅界に堕ちる野蛮な行為によってではなく、全ての人々が生命境涯を高められる方法、例えば常不軽菩薩の礼拝行や地涌の菩薩の折伏行の方がより「価値的である」に決まっている。従って理想は「外交=話し合いによる解決」だ。だが、石之伸にはそれは限りなく不可能なことに思われるのだった。
     そもそも法華経は積極的に「極悪と戦う宗教」である。相手がどんなに強大であっても悪には決して屈しない。
     過去の竜宮は現在のニッポン同様、災害を引き起こす祟り神に進んで媚び諂い「貢ぎ物」や「祭り」を捧げることで災害を起こさないように懇願する修羅の世界だった。それを文殊師利菩薩が祟り神と「戦う勇気」を人々に説いたことで竜宮は平和の楽土に生まれ変わることができたのである。
     それはそれとして、この旅の果てには「何が待っている」のだろう?
    それについて石之伸は皆目、見当もつかなかった。それを知りたくて必死に唱題しているのだが。或いは「判らない」ということ自体に何か重要な意味があるのだろうか?
     時間が来た。唱題を終えた石之伸が仏間を出る。
     入れ替わりに長七郎艦長、大介、阿綺羅の三人が入ってきた。みんなで集まって唱題できれば楽しいのだが、いつ敵が攻めてくるか判らない戦時態勢にある今は、それはできない相談だった。少数で入れ替わり立ち替わりに唱題するしかない。
    「え」
     仲良く仏間に入る三人の背中を見た石之伸は一瞬だったが、なんとも言えない「嫌な予感」を感じた。
    「三人の身に何か良くないことが・・・まさか。この船には俺がいるんだぜ」
     石之伸はスピルマの整備をするために格納庫へと向かった。

     丁度、その頃。
     エルライスの首都イセサレムにあるパワースポットではヤネニフタ総統が執拗に鈴を鳴らしては柏手を打っていた。
     そんなヤネニフタの脳裏に、あの日の光景が思い出されていた。
     それは今から10年も昔の話。

    「レーダーに反応あり。どうやら遭難船のようです」
    「よし。回収しろ。まだ生存者がいるかも知れない」
     ヤダユの船団が一隻の宇宙船を回収した。その船は竜宮から発進、アンドロメダ大星雲にある友好星へ向かう途中、エンジンが故障して宇宙を漂流していたのだ。幸い、中の乗組員と乗客は全員無事だった。ヤダユ王は彼らを丁重にもてなし、無事に竜宮まで送り届けることを約した。その任務を命じられたのは当時、ヤダユ軍の将軍であったヤネニフタだった。
    「将軍、頼むぞ」
    「了解しました」
     天の川銀河にあるという竜宮を目指し、一隻の戦艦がヤダユ船団から離脱した。
     道案内役は鋒鋩という名の新米航法士官であった。
    「頼むぞ」
    「お任せあれ。ブイブイー」
    「面白い奴」
     これがきっかけとなってヤネニフタと鋒鋩=雄兵衛は関係を持つようになったのである。俗に言う「馬が合う」という奴か?悪党同士、波長が合ったのだろう。
     だが、鋒鋩の道案内によって戦艦は完全に位置を見失い、宇宙の迷子になってしまった。一旦、停止する。
    「申し訳ありません、チチチー」
    「貴様という奴は」
     現在位置を計測。戦艦は再び動き出した。だが、計測したのは鋒鋩だ。果たして大丈夫なのか?
     その時、一隻の白い宇宙船が戦艦に接近してきた。大きさはおよそ150mの駆逐艦サイズ。その姿は頭にリングを巻いた全身真っ白の象である。牙が二本ではなく六本あるのが何とも特徴的だ。
     その白象から通信が入る。
    「お前たち、何をやっている?そのまま進むとブラックホールに飲み込まれるぞ」
     それを聞いて肝を消したヤネニフタは直ちに停止命令を発した。
    「どうやら道に迷ったようだな?」
    「情けない話だが、その通りだ」
     幸い、白象を操るパイロットは竜宮を知っていた。その後、戦艦は白象を先頭に竜宮へと向かった。
     それから数日後。
    「この先が竜宮だ。ここからならば、さすがに迷子にはなるまい」
     別段「竜宮に用はない」と見えて白象が機首を転換。この空域を去る。
    「別れる前に名前をお聞かせ願いたい。そなたは我々の命の恩人だ」
    「私の名はYOU。そして船の名はWE」
    「ユウ。ウイ。その名、覚えておく」
    「運があったらまた会おう」
     やがて戦艦は竜宮の空域に入った。
     まずは数百基の島3号型(開放型)スペースコロニーがお出迎え。
     そして。
    「これが竜宮。何て美しい星だ」
     流浪の民であるヤネニフタにとって、それはまさに「宇宙に浮かぶオパール」に見えた。
    (こんな美しい星に我が民族も暮らしたいものだ)
     戦艦が大気圏に突入した。
    「何、都市は海の底にあるだと?」
    「そうです。チチチー」
    「そんなバカなことが」
    「私は嘘を吐くのが大好きではありますが今回は、嘘は言っていません。シュイーン」
    「では、どうやって降りるのだ?この戦艦は海底には潜れない」
     その時。
    「これは!」
     突然、静かだった海が大きな渦を巻き始めた。そして渦の中央に「大型台風の目」を思わせる海水の全くない空間が出現したのだ。
     戦艦は渦の目の中を降下した。
    「これが竜宮城」
     渦の目を通過した戦艦の眼下に竜宮城が出現した。宇宙一の科学力を持つ未来都市である竜宮城の何と荘厳な姿よ。
     戦艦は空港に着陸した。タラップから続々と降りてくる竜宮の民たち。
    「皆さん、お帰りなさい」
     民たちを出迎えたのは現在の竜宮城の女王、竜王タツノオトシゴと王妃ウメイロの間に生まれた長女オトヒメベラこと乙姫王女だった。この頃の乙姫はまだ13歳の少女。だが、竜宮王室の血を引く女性だけあって、その姿にはやはり威厳がある。王女の出迎えに民たちは感激。
     最後にヤネニフタがタラップから降りてきた。
    「あなたが我が国の民をここまでお送りくださったのですね。本当にありがとうございました」
    「い、いえ。わたくしはヤダユ王の命じるままに行動しただけです」
     ヤネニフタはおどおどしながら乙姫に親書を差し出した。
    (なぜ、私はこうも、おどおどしているのだ。こんな少女に)
     その後、ヤダユの一行を歓迎する宴が行われた。そこには竜王、王妃、そして乙姫の三つ年下の王子トラウツボも出席した。鯛や平目の舞い踊りが披露される。
    「これは」
     そしてここで乙姫が登場。自ら舞いを舞った。「蝶の舞い」である。乙姫のために開発されたコスモパペットそっくりの衣装を纏い、舞台を駆け回る。
    何という美しさだ。とても現実のものとは思えない。まるで夢でも見ているようだ。ヤネニフタは我を忘れてじっと見入っていた。
     そこへトラウツボが人参の着ぐるみを身につけて突然、乱入した。
    「ボクも踊るぞ」
     蝶の妖精と人参の妖精の乱舞。これはこれで愛らしいものがあった。
     そしていよいよ別れの時が来た。戦艦がヤダユの船団目指して発進する。
     再び渦の目の中を通過。竜宮の大気圏を離脱し、スペースコロニーの中を通過。
    「乙姫」
     とっくに竜宮は見えなくなっていたが、ヤネニフタはずっと乙姫のことばかり考えていた。
     ヤネニフタは乙姫からヤダユ王への親書と数々の土産を受け取っていた。珊瑚の置物や真珠飾り。その中に「さくら貝」があった。ヤネニフタはそれを密かに自分のものにするのだった。

     ここで読者は「疑問」を感じないではいられないだろう。そう。なぜ王子トラウツボが竜王に即位しなかったのかということだ。その理由は、竜宮の人類は猿ではなく魚から進化したからである。魚の世界では子どもを産む雌が雄よりも「体が大きい」ことが普通で、そこから竜宮では「王女の婿が王を継ぐ」というシステムが出来上がったのだ。このシステムの利点は王の息子が虚弱、或いは愚昧であった場合に政治が乱れるのを防ぐことができることにある。屈強で聡明な男を王女に娶らせ、その者を王にするならば王は常に「屈強で聡明な男」であり、政治的混乱は生じないというわけだ。そして、このシステムは地球の古代エジプトにも採用された。古代エジプトでは元々、王女の婿がファラオに即位するのが習わしであった。虚空会の空に浮かぶ多宝如来の宝塔を思わせる巨大ピラミッド。睡蓮を「聖なる花」とする思想。ナイル川を挟んで東に町を、西に墓地を配置する都市設計。アブシンベル大神殿に見られる四菩薩を思わせる四体の入り口の巨像に、これまた二仏並座を思わせるラムセス二世と太陽神ラーが並んで座る神殿の奥。古代エジプトには竜宮から受け継がれたものが多数、存在する。それ故に「竜宮は古代エジプトのことだ」とする学説さえあるほどなのだ。

     一眼の亀。
    「レーダーに反応。正面の空域に宇宙船です。うわっ」
    「どうした?美蕾」
    「次から次とレーダーに宇宙船の反応が。もの凄い数の船が前方にいるようです。何百どころではありません。何千、いいえ何万という宇宙船がいるようです」
    「敵か?」
    「判りません。が、こちらには向かってきてはいないようです。左から右へ移動しています」
    「そうか」
    「ですが、このまま直進した場合、船団の中に突っ込んでしまいます」
    「海尊枝蕾、通信回線を開け。船団の下を通過するが、敵ではないと」
     下を通過という言葉を耳にした澄は艦長から命令される前に操縦桿を押した。
     その直後、海尊枝蕾が相手からの返信内容を告げた。
    「返信がありました。そのまま直進。船団の中で停止せよと」
    「停止だと?どういうことだ」
    「続きがあります。王自らこちらの船に表敬訪問がしたいと言っています」
    「王様が表敬訪問?どうも怪しいな。どう思う、大介」
    「罠かも知れませんが、本当かも知れません」
    「というと?」
    「これだけの船団なら、小細工なんて必要ないからです」
    「成程。石之伸はどう思う?」
    「同感だな」
    「よし。このまま直進。言われた通りにしよう」
     一眼の亀はそのまま直進した。
     そして船団の中に入った時。
    「これは凄い」
     何十基もの自力航行が可能な密閉型スペースコロニー。それらを護るため周囲に展開する無数の軍艦。これらがもしも一斉に砲撃でもしかけてきたらひとたまりもない。
    「どうやら、あれが王の船らしいな」
     石之伸がフロントスクリーンの外を指さした。その指の先には一眼の亀の約四倍、全長1.2㎞の巨大な戦艦の姿があった。旗艦ゼーモである。その姿は二基のカタパルトデッキと八つのダミー煙突を持つコスモパペット用の格納庫を中央に配し、その上にブリッジを乗せ、左右に三連装主砲五門、二連装副砲四門を装備する船体を持つ双胴戦艦である。
    「停止命令が来ました」
     澄は停止した。
     ゼーモからシャトルが発進するのが見えた。
    「誘導灯点灯。カタパルトデッキに着艦、どうぞ」
     シャトルが一眼の亀に着艦した。
     シャトルの扉が開き、中からSPと思われる者数名と、頭に朱い鳥の羽根飾りを付けた銀色のターバンを被り、鼻の下に大層、立派な髭を生やした老人が降りてきた。
     こちらは長七郎艦長、石之伸、大介、澄の四名で一行を出迎えた。
    「私が船団の長を務めているヤダユ王である」
    「私は一眼の亀の艦長、松平長七郎です」
     ふたりが握手を交わす。
     その後、全員ブリッジに上がった。

    「私たちは竜宮を出発。我らの女王である乙姫がいると思われる星に向かって航海をしているところです」
    「エルライス星ですな」
     この時、はじめて目的地の名前を知ったのだった。
    「それが私たちの目的地ですか。ですが、どうしてそのことをご存じなのですか?」
     ヤダユ王は懐から一通の手紙を取り出した。
    「読み給え」
     その文字は竜宮文字であった。大介が読み上げる。その手紙は今から十年前に乙姫がヤダユ王に宛てた親書であった。
    「私たちヤダユの民はその手紙の通り、十年前より竜宮とは親しく交流していたのです」
    「この手紙には『流浪の旅を止めて竜宮に暮らしてはどうか』という提案が書かれていますが」
    「実に有り難いお申し出でした。私たちも考えました。ですが、丁重にお断りしました」
    「なぜです?」
    「流浪の旅は我が民族の宿命だからです」
     その後、ヤダユ王はヤダユ民族が宇宙を旅する「流浪の民」となった理由を説明した。
    「私の祖先は元々、ヤダユ王に仕える貴族の家柄でした。今から一千年以上も前の話ですが本来、ヤダユの王となるべき人物を磔の刑にして殺し、王位を奪ったのです。その結果、祖国の星を追われ、永遠に宇宙を彷徨う『さだめ』を背負うこととなったのです」
     脇で聞いていた石之伸は「神に選ばれた唯一の民族」といった類いの話同様、この手の話は「どこにでもあるのだな」と思った。無論、石之伸はどちらも「ばかばかしい迷信」と感じていた。とはいえ、定住せず、宇宙を永遠に旅するなんて「ステキなことだ」とも感じていた。それこそが「野蛮性」の源である惑星が発生する修羅界の波動の軛から解放された自由な人類の姿に他ならないからだ。およそ修羅界の波動に縛られて「国の名誉」や「領土」に固執することほど、人として愚かなことはない。
    「大宇宙聖書にはこうあります。ヤダユ王が病に倒れ没したとき、王妃は王の子を身籠もっていた。側近のデロヘは王妃の殺害を試みた。だが王妃は難を逃れ市内に紛れ込み、そこで王子を出産した。この機会に王に即位したデロヘは市内の全ての赤子を虐殺した。だが、その中に王子はいなかった。王子はやがて大人となり、一般人として暮らしていた。しかしデヘロ王に身分を突き止められ、無実の罪で死刑に処せられた。すると突如、宇宙から異星人が飛来した。デヘロ王は民族共々、星を逃れる以外に術はなかった」
     ここから話は「現代」に戻る。
    「ですが、そうした民族の宿命と真正面から戦うことを決意するひとりの人物が現れました。ヤネニフタ将軍です。自分たちの国家を夢見るその者たちは彼を支持し、彼と共に船団を離れました。そして理想とするひとつの惑星を見つけ、そこに建国しました」
    「まさか、その星が」
    「そうです。エルライス星です」
    「なんということだ」
    「ヤネニフタ将軍はエルライスを建国すると総統に就任しました。そして建国以上の野望を抱くようになりました。今まで多くの民族から迫害を受けてきたことへの復讐とばかりに、近隣の惑星を次々と征服。天の川銀河全てを支配することを目論んだのです」
     ここで大介が話に入ってきた。
    「で、あなたたちは今からそいつらを『懲らしめ』に向かっているところなのですね?これだけの大船団。反乱軍などひとたまりもないですね」
     大介の言葉にヤダユ王は顔を曇らせると、大介の予想に反し、首を横に振った。
    「いいえ。そうではありません。私たちは流浪の旅を続けているだけです」
    「なんですって」
     大介が激昂した。
    「あなたたちの仲間が今、天の川銀河を殺戮の恐怖に陥れているんですよ。なのに呑気に旅だなどと」
    「言い過ぎだぞ、大介」
     大介の話を石之伸が諌めた。
    「流浪の民の旅は決して物見遊山の呑気な旅などではない」
    「自分たちの仲間が悪いことをしているときに、それを『止めさせようとしない』というのは気に入らないね」
     ここでヤダユ王が、それに対する「弁明」を始めた。
    「おっしゃる通りです。私たちの態度は外から見たときには『無責任なもの』と映るでしょう。ですが中から見たときには、違う面も見えるものです」
    「といいますと?」
    「勿論、大多数の人々はエルライスの蛮行を支持していません。ですが、エルライスを支持する人々もまた大勢います。なぜならエルライスの建国自体は『我が民族の悲願』だからです」
    「そんな、バカな」
    「今回のエルライス建国に立ち上がった人々の中に『自分の家族や友人がいる』という者も少なくありません。そんな人々にとってエルライスは『夢』であり『理想』なのです」
    「それじゃあ、あなた方は自分たちの夢さえ叶えば、他の星の民族のことなんか『どうだっていい』というのですか?」
    「それに現実問題、私が『エルライスを討て』と号令を発したならば、船団は忽ち賛成・反対で二分することでしょう。私にはどうすることもできないのです」
    「なんということだ」
     大介は憤懣やるかたない。
    「民主主義も結構だが、王様ならば言葉を尽くして民を説得するのが仕事だと思うがね」
     大介の非礼極まる言葉の直後、美蕾が叫んだ。
    「謎の艦隊を発見。こちらに接近中」
     今、接近してきている艦隊についてはヤダユ王がよく知っているようだった。
    「これはエルライスによって星を滅ぼされ、我々を『仇』として憎む種族のものです」
     ということは、一眼の亀にとっては「同じ境遇の者」ということになる。
    「ビームを撃ってきました」
    「通信機を貸してくれ」
     長七郎は首を縦に頷いた。海尊枝蕾が自分の通信マイクをヤダユ王に渡した。
    「全艦、いつもの通りだ。距離は8光年」
     ヤダユ王の命令直後、ヤダユの船団が次々とワープを開始した。短距離ワープである。一眼の亀も自ずとその動きに従うことになった。
    ワープが終了すると、そこにはもはや敵の艦隊の姿はなかった。
    「もう大丈夫です。相手にはこちらの位置は正確にはわかりません」
     戦闘開始の危機は去った。恐らくは数千はあるだろう軍艦。それらに「反撃を許さない」だけでも、王は充分に指導的立場を発揮していると言えよう。
     ここで大介に変わり、石之伸が王に話しかけた。
    「で、このまま逃げ続けるのですか?自分たちを憎む相手と出会う度に」
     王は目を閉じ、顔を上に向けた。その表情には苦悩が滲み出ていた。
    「『同じ民族だから戦えない』という気持ちはわかります。ですが『説得』を試みることはできるのではありませんか?」
     石之伸がこのようなことを言ったのは、先の唱題で自分自身が「そうした悩み」を抱いたからに他ならない。果たして王はどう返答するのか?その内容によっては自分のモヤモヤした気分が晴れるかも知れない。石之伸はそう感じたのだ。王が「それは不可能だ」と言ってくれれば、自分も気持ちが軽くなり「今後の戦い」に専念できると思ったのだ。
    「既に8回、使節団を送っております。結果は思わしくありません。もうじき9回目の使節団を送るところです。話し合いによる解決こそ私たちが最も願うところのものです」
     なんてこった。石之伸は内心、がっかりした。自分としてはその策は「捨てたい」ところだったのに。やはり、それが最善の策なのか。だが、それが成就するまでに一体全体、どれほど多くの「罪のない人々の血」が流されてしまうのか。それを思うと、やはり戦わねばなるまい。
    「どうやらあなたも『話し合いによる解決』を模索したことがおありのようですね?」
     心を見抜かれたか。
    「ええ」
    「ですが、それは不可能だとも感じておられる」
    「人の心を読むのが得意なようで」
    「私も王に即位する前は軍人でしたから。沢山の戦役に参加し、沢山の敵を殺しました。その果てに待っていたのは今の地位と、そして『空しさ』だけでした」
     戦いの果てに待っているものは「空しさ」だというのか。
    「戦いの果てに待っている空しさを覚えたからこそ、私は今、こうして王でいられるのです。如何にして戦いを避けるのか。私はそればかりを考えています。そしてそれがヤダユの民を守る『最善の方法』であると確信しています」
    「あなたと話ができて良かった」
     石之伸は心からそう思った。戦いの果てに待っているものが空しさであってもヤダユ王はその結果、王に即位した。自分にもきっと「同じような道」が待っているに違いない。勿論、権力者になりたいわけではない。争いを好まない「心穏やかな境涯」に到達できることを願うばかりだ。今の自分はあまりにも争いに塡まり過ぎている。
     そして最後にヤダユ王は乙姫の親書の内容について、一つだけ感想を漏らした。
    「ここには『さくら貝』のことが記されています。が、乙姫から贈られた品の中にさくら貝はありませんでした」
     無論、誰もその理由など知る由もない。
    「そうですか」
     ヤダユ王は「寂しさ」と「厳しさ」を兼ね備えたような難しい顔をした。
     ヤダユ王がシャトルで自分の戦艦に戻った。
    「一眼の亀、発進」
     一眼の亀がエルライス星を目指し航海を再開した。

     ブリッジ。
    「9回目の使節団だって?8回も断られているのなら、暗殺団でも紛れ込ませろってんだ。その方が絶対に早い」
     ヤダユ王とは相性が悪いと見えて大介の発言は過激だ。だが、大介の言うことにも一理ある。そして大介がこのようなことを言うのには彼の境遇が影響している。彼は忍だ。忍の世界では裏切り者には「死あるのみ」だ。
    「大介、そう怒るな。彼らが『戦いたくない』心情は理解できる」
    「俺には判らないね」
    「彼らは天の川銀河の中では『お尋ね者』だ。なのに、よその銀河へ行かないのはなぜか。『エルライスの行く末』を最後まで見届けるつもりなのさ」
    「で、エルライスが天の川銀河を全部征服した暁には、自分たちもエルライス星人になるんだな」
    「それは違うな。むしろエルライスが『儚い夢に終わる』のを見届けるためではないか?その証拠に彼らは我々を攻撃しなかった」
    「あ」
    「俺たちは彼らの同胞が建国したエルライスを滅ぼしに行くんだ。そんな俺たちを見逃してくれたのは、他民族に対する慈悲の心を持たないエルライスに『未来がない』ことを薄々感じているからなのかも知れない」
     そうだ。彼らにとって自分たちは「敵」とはいわないまでも、最初から決して「快い相手」ではなかったのだ。そんな我々にヤダユ王は自ら面会を申し出て、常に礼儀正しい対応をした。それは他でもない、我々が乙姫を救うために旅をしている一行だからだ。このことに気が付いたとき、大介は自分の振るまいが急に恥ずかしいものに感じられてきた。
    「ま、もっとも『あんな海亀一匹に何ができるものか』と見くびられたのかも知れないがな」
     後ろから攻撃してくる気配はない。やはりこのまま行かせてくれるようだ。自分たちの身内や友人を殺すかも知れない我々を。
    船団はみるみるうちに小さくなり、やがて見えなくなった。
    「よし。ワープだ」
     一眼の亀がワープ航法に入った。

  • 次回予告

  • 7月15日19:30からは
    「文殊の剱スペシャル」と題し、豪華二本立て。

    一眼の亀はヤネニフタ総統を本気にさせた。エルライス軍が誇る三人の提督が一体となって迫る。
    しかも数だけではない。知将・チンプー率いる敵艦隊は今までの敵とは違った。その戦略は一眼の亀を窮地へと追い込む。
    「悪魔復活」
    宇宙では賢い者だけが生き残る。





  •  首都イセサレム。
    「総統閣下。チンプー、ナラクウイ戦線より参りました」
    「総統閣下。プラトン、ライン戦線より参りました」
    「総統閣下。インフラ、マルビ戦線より参りました」
     エルライス軍が誇る三人の中将=提督が総統の宮殿にやってきた。黄金の柱頭飾りを持つ孔雀石の巨大な円柱が林立する「謁見の間」。その豪華さたるや、まさに地球にあるベルサイユのようだ。どこの世界でも独裁者とはこういうものなのか。くだらない人間ほど「贅沢な暮らし」を志向するのだ。ニッポンのテレビ局が自分たちの口を潤すことを第一の目的に「絶品グルメ番組」の制作に明け暮れているようなものだ。
     三名を招集すると決断してから既にひと月が過ぎていた。全く異なる場所の戦線から呼び戻したのだからある意味、当然である。
     早速、本題に入る。
    「さて、お前たちを集めたのは、お前たちにやって貰いたい仕事があるからだ。ずばり、ある敵を倒して貰いたい」
     三名の中で最も癇癪持ちであるプラトンが語り始めた。
    「我ら三名を招集したということは勿論『それなりの強敵』ということでしょうな?でなければ、たとえ総統閣下であっても、このような急な呼び出し、許しませんぞ」
    「獲物は一隻の空母だ」
     一隻の空母?だと。
     プラトンの脳の血管が切れ始めた。
    「総統閣下。ご冗談はおやめ下さい。我ら三名で一隻の空母を『沈めろ』ですと?」
     プラトンは今にもこの場を退席しそうな素振りを見せる。そうしたプラトンの振る舞いに対し、執事が直ちに反応した。
    「立場を弁えろ、プラトン。貴様などヤネニフタ総統の『靴磨き』なのだぞ!」
     プラトンはそう言われて顔の半分を赤く、半分を青くした。恥を掻かされて怒り半分、ヤネニフタ総統の怒りへの恐れ半分と言ったところか。だが、執事の言うことはもっともだ。戦艦カメリアの艦長など、エルライス総統の前には「靴磨き」「肩揉み」「リムジンの運転手」程度の存在に過ぎない。
    「まあ、そう怒るな。では一つ教えよう。その空母はアシベ提督率いる艦隊を撃破した」
    「な、何ですと。あのアシベ提督を」
    「どうだ?これでもまだ、世がそなたたちを『揶揄っている』と思うのか?」
    「で、ですが、我ら三艦隊で一隻の船を迎え撃つなど、我々にも軍人としての面子というものがあります」
    「ならば、もうひとつ。その空母は我らが手に入れ損なった『竜宮城の秘密兵器』なのだ」
    「りゅ」
    「竜宮城の」
    「秘密兵器?」
    「そうだ。だからその戦闘力は未知数だ。一隻だからといって決して侮れない相手だ。だからお前たち三名を呼んだのだ」
     竜宮城の秘密兵器と聞いて、三人の目の色が変わった。
    「判りました。そういうことでしたら」
    「我ら三名で必ずや」
    「その空母を撃沈してご覧に入れます」
     三人は謁見の間を出ていった。
     三艦隊となれば、その戦力は戦艦三隻、巡洋艦六隻、駆逐艦十二隻である。そしてコスモパペット二十四機という文字通りの大艦隊だ。
     その大艦隊が「一眼の亀撃沈」を目的にエルライス星を発進したのだった。

     一眼の亀。
     こちらも最後の戦闘からひと月以上が経過していた。その間、何事もなく航海を続けていた。
    「こうも静かですと逆に不気味ですね、艦長」
    「そうだな。警戒は怠るなよ、怪蕾」
    「了解」
    「今日の艦長の衣装、オシャレですね」
     突然、美蕾がそのようなことを言いだした。
    「そ、そうか?」
    「はい。とっても」
     今日の長七郎の着物は上が紫で下が白色。家紋は金糸による刺繍である。
     いい気分の長七郎に海尊枝蕾が茶々を入れる。
    「ふふふ。揶揄われてるんですよ艦長は。だってこの船と『同じ色』じゃないですか」
     言われてみれば一眼の亀も背中が紫で腹は白。そしてカタパルトデッキからは金色の明かりが漏れている。
    「こいつう。人がせっかく気分良くしているというのに余計なことを」
     突然、怪蕾が叫んだ。
    「レーダーに反応あり。敵艦隊のワープ・アウトと思われます。うわっ」
    「どうした?」
    「数が尋常ではありません。敵軍艦の数、全部で・・・全部で二十一隻です」
    「二十一隻だと!」
     ブリッジにいた大介が次のように呟いた。
    「今まで静かだったのは、このためだったのか」
     ここで美蕾。
    「敵艦からパペットが発進した模様。その数二十三機」
    「まじかよ。こっちは九機だぞ」
    「倍以上の戦力差だな。どうします、艦長」
    「闘う以外あるまい。ここまで来たんだ。今更、逃げてどうなるもんでもない」
     石之伸がクールに話す。
    「ひとり二機が最低ノルマ。俺と大介で三機やろう」
     長七郎艦長が叫んだ。
    「総員、第一級戦闘配備。パイロットは全員、格納庫へ急げ」
     パイロットたちがブリッジから格納庫へと走った。

    「石之伸スピルマ、発進する」
     石之伸が飛び出す。その後はいつもの順番で発進。
     最初に飛び出した石之伸は、いつもとは異なる「違和感」を感じた。
    「レーダー。敵コスモパペットの動きは?」
     石之伸がブリッジの索敵に尋ねたのは、いつもならば敵と遭遇する時間になっても遭遇しなかったからだ。
    「敵のコスモパペットは全機、敵の艦隊の護衛についている模様」
    「何?それは妙だな。二十三機もいるのに」
     敵の艦隊の周囲にコスモパペットがいるということは、コスモパペットと軍艦の両方が同時に進軍しているということを意味する。それは軍艦を敵のコスモパペットの攻撃に晒すことを意味する。だが、それは逆に言えば、軍艦の主砲を戦闘に「有効に使える」ことを意味する。ということは、敵は主砲を用いて一眼の亀を「撃沈する気」ということなのか。
     確かに一理ある作戦ではある。一眼の亀は亀であるから全身、甲羅で覆われているようなもので、コスモパペットの主力兵器であるビームライフルでは「効果が薄い」と判断したのだろう。
    「艦長、聞こえますか?」
    「ああ、よく聞こえる」
    「一眼の亀を後退させて下さい。敵の軍艦の主砲が決して届かないように」
    「了解した」

     戦艦アシロ。
     今回の作戦において司令官に指名されたチンプーが乗る戦艦である。
    「チンプー司令官に申し上げます。敵の空母は前進せず、後方に下がっています」
    「こちらの作戦を見抜いたか。流石だな。おい聞いたか?ふたりとも」
     戦艦カメリア。
    「こちらプラトン。聞こえた」
     戦艦マーミャン。
    「こちらインフラ。はっきりと」
     プラトンとインフラの両中将は正直、不満タラタラだ。そのふたり、実は先程からチンプーには内緒で、ふたりだけで通信をやり合っている。中でも怒り心頭なのはプラトンだ。
    「おい、インフラ。なんで俺たちがチンプー如き野郎の指揮下に入らねばならんのだ」
    「総統閣下のご命令だ。致し方あるまい」
    「くそう。俺の方がずっと『賢い』というのに、あんな奴の部下に成り下がるとは」
     そこへ戦艦アシロから通信が入った。
    「まずは10秒間、艦隊の一斉放射を浴びせてやろう。別にあたらなくてもいい」
     二十一隻の艦船が一斉に主砲を発射した。それを目撃した一眼の亀のパイロットたちはその威力の凄まじさに動揺せずにはいられなかった。
    「こんなのを食らったら一眼の亀はイチコロだぞ」
    「なら、そうさせなければいい」
     そこで石之伸が採った作戦は。
    「コスモパペットはいい。全機で敵の軍艦を沈めるんだ」
    「了解」
     かくして一眼の亀から発進したコスモパペット九機全てが敵艦隊の懐深くまで侵入してしまったのだった。

     戦艦アシロ。
    「若いな。我々の『罠』にまんまと填まったぞ」
     チンプー司令官は名軍師で、小賢しいところもある。
    「全コスモパペットに告ぐ。敵のコスモパペットが全てこちらにやってきた時点で、お前たちは我々には一切構わず、海亀に向かえ」
     そう。これは罠。一眼の亀を護衛するコスモパペットを全て一眼の亀から遠ざけるための作戦だったのだ。主砲の一斉射撃は相手にそうさせるための「心理作戦」であった。それに石之伸はまんまと引っかかってしまったのだ。
     石之伸をはじめ、全てのコスモパペットが敵艦隊への攻撃態勢に入ったそのとき。
    「なに?」
    「敵のコスモパペットが」
    「離れていく」
     敵パペットは命令に従い、艦隊の護衛を離れ、一眼の亀へ向かって飛行し始めたのだ。敵のコスモパペットはF-15が十二機に、F-16が十一機。だが、ただのF-15やF-16ではない。強力なロケットブースターを装備していたのだ。その結果、通常よりも1,5倍速く飛行することができるのだ。
    「しまった。これは罠だ。全機、引き返せ。敵のコスモパペットを一機たりとも一眼の亀に近づけるな」
     だが、それは難しかった。ロケットブースターを装備する敵を追跡できるのはスピルマとスピルの三機だけなのだから。それでも取り敢えずスピルマとスピルが飛行形態で敵を追跡する。この時、ひとつの問題が発覚した。それは飛行形態時にはスピルマはレーザーサーベルを、スピルはビームキャノン砲を使用できないことだ。飛行形態時において使用できる武器は頭部のバルカン砲のみ。
    「女王、将軍、聞こえるか?F-15を狙え。F-15のビームキャノン砲は危険だ」
    「判っていてよ」
    「了解」
     F-16が先に一眼の亀に到着してしまうのは避けられない。今はとにかくF-15を全滅させることだ。
     スピルマが二人に「お手本」とばかりに後ろからバルカン砲で狙う。
    「喰らえ」
     スピルマのバルカン砲がF-15を撃墜した。
     それを見た女王と将軍も試すが。
    「当たらないじゃない」
    「難しいな」
     それはそうだろう。敵だってジグザグに飛行するし、狙いを定めるときには飛行速度を敵と合せる必要もある。それは敵に反撃の機会を与えることでもある。案の定、女王が狙いを定めたF-15が反転、スピルに迫る。それをスピルマが撃墜。
    「油断は禁物だぞ、女王」
    「わ、判ってるわよ」
     その後は慣れたのだろう。女王も将軍もF-15を撃墜できるようになった。
    「くそ」
     F-15の隊長は焦った。
    「もう少し接近したかったが仕方ない。全機、ブランチ」
     F-15が散開した。この距離からビームキャノン砲を発射する気だ。
    「やらせるか」
     スピルマが前に回った。直ちに人型に変形。レーザーサーベルを振りかざした。
     一機撃墜。
     だが。
    「発射」
     F-15のビームキャノン砲が一斉発射された。

     こちらは一眼の亀。
    「ビーム接近」
    「澄」
    「面舵いっぱい」
     一眼の亀が回避行動を取る。だが、ビームの数は全部で八発。しかも適度にばらけている。どの方向に避けても当たってしまう。
     結果、三発のビームキャノン砲の直撃を受けた。
    「被害は?」
    「いずれも軽微」
     全て背中の甲羅であったおかげで、表面が擦れる程度の傷で済んだ。
    「敵のコスモパペット、来ます。F-16十一機」
     F-16に取り囲まれてしまった。
    「甘いわよ」
     澄が一眼の亀を急上昇させた。澄お得意の「体当たり攻撃」だ。
    「うわあ」
     不用意に一眼の亀の真上に接近していたF-16三機が甲羅の餌食となった。
    「愚か者め」
     F-16の隊長が呟く。
    「離れて攻撃しろ。エンジンを狙え。動きを止めるんだ」
     勿論、澄も判っている。右に左に上に下に必死に操縦する。亀とは思えない機敏な動きで、エンジンを巧みに狙わせない。
     そこに二発目のビームキャノン砲が来た。それは一眼の亀の左後ろ足を直撃した。
    「しまった」
     左後ろ足が爆発した。一眼の亀の動きが格段に鈍くなった。
    「よし、今だ」
     それまで傍観していたF-16の隊長機が一眼の亀に急速接近してきた。狙いはブリッジのフロントスクリーン。
    「これで終わりだあ」
     運命のビームライフルが一眼の亀のブリッジを直撃した。フロントスクリーンに穴が空く。
    「よし、もう一撃食らわせてジ・エンドだ」
     F-16の隊長が一段と一眼の亀のブリッジに接近する。
    「隊長、敵のコスモパペット三機が戻ってきます。一機は例のキャロットです」
    「くそう。もう戻ってきやがったのか」
    「我々も早くここから離れませんと」
    「判った。全機、大きく迂回しながら艦隊へ戻るぞ」
     三機が戻った時、まさにF-16が逃げ出しているところだった。
    「逃がすかよ」
     F-16を追いかけるスピルマとスピル隊。
    「一機も逃がさんぞ」
     とは息巻いたものの、敵は数も多く、しかもバラバラに離れて逃げているため、それは無理そうだった。取り敢えず、最も纏まって逃げている敵を追い、それを仕留めた。

     戦艦アシロ。
    「ふふふ。敵は大分、混乱しているな。副官、ではそろそろ出すか。使えるのかどうかは知らんが」
    「総統閣下ご推薦の人物ですぞ」
    「そうだ。だから出さないわけにはいくまい」
    「聞いての通りだ。F-8発進せよ」
     F-8?初めて耳にするナンバーだ。
    「準備はいいか?」
    「ブイブイ-」
    「F-8発進せよ」
    「ハッチマン発進する。ピピピー」
     F-8、通称「ハッチマン」が発進した。F-35同様、四角錐を構成する四枚のパネルによりステルス性能を有するステルスパペットである。

  • 次回予告

  • 戦況が明らかとなった。それは一眼の亀にとっては致命的とも言えるものであった。
    長七郎が宇宙に散る。そして大介も。その危機的状況の中、遂に「天翔る蝶」が羽ばたいた。
    次回・文殊の剱
    「ドリアン起動」
    引き続き、お楽しみください。





  •  一眼の亀。
     F-16の隊長が放ったビームはブリッジの後方の壁を直撃した。壁が吹き飛ぶ。後ろからの爆風がブリッジ内を襲った。
    「きゃあ」
    「うわあ」
    「くうう」
    「ううう」 
     シートに必死にしがみつく美蕾、怪蕾、海尊枝蕾。操縦桿で体を支える澄。
     その中で唯ひとり、長七郎だけが前に吹き飛ばされてしまった。艦長席はブリッジの中央にあるため、爆風をもろに後ろから喰らってしまったのだ。長七郎の体がブリッジ正面の操作パネルに激突した。
    「爺!」
     澄が床に仰向けに倒れた長七郎の傍に駆け寄る。
    「爺、しっかりして!」
    「私のことより・・・早く空気漏れを・・・」
     それを聞いた海尊枝蕾は艦内の至る場所に置かれている消化器のようなタンクを手に取るとビームライフルによって生じた穴に向かって噴射した。中からはネバネバした取り持ち状の物質が噴射され、間もなく空気漏れは収まった。
    「爺」
    「澄・・・私は一足先に江戸のまちに戻っているぞ」
    「爺!」
     松平長七郎、永眠。
    「爺ーっ!」
     澄は長七郎の体をひしと抱きしめた。
     そして。
    「澄さん?」
    「どちらへ?」
     美蕾、怪蕾が澄に声を掛ける。
    「私も出撃します。ブリッジはあなたたちに任せます」
     そう言い残して澄はブリッジを後にした。
     澄は敵が許せなかった。爺を殺したにっくき敵をどうして殺さずにおくものか。澄は格納庫へと走った。
     格納庫にはまだ一機だけコスモパペットが残っていた。ドリアンである。澄はそのドリアンに乗り込んだ。ドリアンは他のコスモパペットとは操縦席の構造が大きく異なる。左右のレバーは完全固定式で、両手でグリップを掴むだけの単純な構造だ。
     澄はグリップを掴んだ。
     その瞬間。
    「何、この感触は?」
     グリップを握った瞬間、澄は自分がまるでドリアンと一体となったような感触を覚えた。ドリアンの操縦席に座っているという感じではなく、文字通りドリアンの眼が自分の目に、ドリアンの腕が自分の腕に、ドリアンの胸が自分の胸のような感触を覚えたのだ。
    「行ける。操縦できる」
     澄はそう確信した。
    「澄ドリアン、行きます」
     澄はドリアンで発進させた。「天駆ける蝶の妖精」が遂に宇宙に飛び立った。腕を八の字に広げ、足をピタリと閉じ、顔を上げた状態で飛翔するドリアン。
    「爺の仇。逃がさないわ、絶対に」

     F-15が二発目の射撃を終えた直後。
     F-15が次々と爆発し始めた。
    「来たか」
     あゆみとジャンダル隊が到着したのだ。
    「よし。女王、将軍。俺たちは先に戻るぞ」
     スピルマとスピル隊は一眼の亀に向かった。
    「かかれ、一機も活かして戻すな」
     ジャンダル隊が残るF-15の始末に掛かる。F-15は格闘戦には向かない大型機ということもあって戦いはジャンダル隊に有利に運んだ。
     残すはあと二機。隊長機と副官だ。
     大介が無線を放つ。
    「妖精たちは一眼の亀に戻れ。敵の残りは二機だ。ここは俺と阿綺羅で仕留める」
     妖精たちのジャンダルは一眼の亀の護衛に向かった。
    「よし。俺は右を狙う。阿綺羅は左を狙え」
    「了解」
     F-15が逃げに入った。この直前、二機には「海亀の攻撃に成功」の一報が入っていたのだ。
     二機はそれぞれバラバラに逃げる。大介と阿綺羅もまたバラバラになった。
    「逃がさないわよ」
     副官が乗るF-15を追跡する阿綺羅。
    「おっと」
     苦し紛れのビームキャノン砲を放つ。だが、ジャンダルのような機敏に動く小さな標的には当たりはしない。
    「覚悟」
     逆に、ジャンダルのビームライフルがF-15のカメラアイを貫通した。爆発するF-15。
    「やったわ」
     敵を倒し、喜ぶ阿綺羅。
    「なに」
     突然、操縦席に警報が鳴った。新たなる敵が出現したのだ。
     それはF-8であった。飛行形態から人型に変形したのだ。より正確に言えば「スズメバチのような人型」に。四角錐を構成する四枚のパネルが背中の羽となり、お尻にはオレンジと黒のゼブラ塗装を施された大きな壺。ハッチマンという愛称の由来がこの外観にあることは言うまでもない
     阿綺羅の操縦席に通信が入った。
    「久しぶりだな、阿綺羅」
     かつて耳にしたことがある声が響く。
    「ま、まさか」
    「おまえの旦那さんだよー」
     その声は間違いない。雄兵衛だ。
    「お前を捕獲しに来た。覚悟しな。チチチー」
     その時。
    「逃げろ、阿綺羅」
     やってきたのは大介が操縦するあゆみ。隊長機をあっという間に撃墜、ここへやってきたのだ。
    「ふっ、邪魔しに来たか小僧」
    「阿綺羅を殺させはしないぞ」
    「殺しはしない。飼い慣らすだけだ。私の可愛いペットとしてな。ははははは」
    「貴様あ」
     大介がビームライフルを発射した。だが、あたらない。スピルマ並みの機動力を見せるF-8。大介はエネルギーを使い果たしたビームライフルを捨てると、レーザーサーベルを手にした。
    「ふん」
     雄兵衛もまたレーザーサーベルを手にした。
     大介と雄兵衛の格闘戦が始まった。お互いにレーザーサーベルを手に斬りかかる。
    「蘇我城での『借り』を今、返させて貰うぞ」
    「落ちろ、雄兵衛!」
     剣と剣の戦いでは大介が優勢だった。
     だが。 
    「お前に『いいもの』を見せてやる。ついて来られるか」
     F-8のお尻が上下に割れ、中から八つのミサイルが飛び出した。ミサイルはあゆみには向かわず、あゆみの周囲にブランチした。 
    「食らえ」
     八つのミサイルから、あゆみに向かってビームが発射された。
    「何?」
     ビームがあゆみを直撃。あゆみの右腕が吹っ飛んだ。
    「何だ?今のは」
     次々と襲ってくるビーム。八方からのビーム攻撃を受けて、あゆみは戦闘不能になった。
    「これは新兵器か?」
    「今のはコスモドローン。名前は『フィグ(fig)』」
    「フィグ?」
    「通常のドローンは空気のある場所でしか動かないが、これは真空でも動くように設計されている。それも私の脳波によって動くように。忘れたか?今の私が豹紋蛸の体を持つことを。私の脳は頭だけでなく各足にひとつずつ備わっている。だから本体以外に一度に八つの武器を遠隔操作で操ることができるのだ。」
     何て化け物だ。さすがは雄兵衛だ。
    「逃げろ、阿綺羅」
     大介が阿綺羅に叫ぶ。
    「逃げるんだ、阿綺羅」
     だが、阿綺羅は逃げようとしない。
     近年「男女平等」がやたらと叫ばれているが、こういう状況下での女は実に愚かだ。すぐに言われた通りにしないことで男の死を無駄にしてしまう。
    「さらばだ、大介。浣腸!」
     フィグから発射される8つのレーザーがあゆみを貫いた。フィグとはもともと「イチジク」のことで、コスモドローンの形が似ていることからこう呼ばれる。
     あゆみが大爆発した。
    「大介ーっ!」
     大介は死んだ。さすがにもう復活することはないだろう(ここは笑う場面ではない)。
    「うう」
     大介の死を悲しむ阿綺羅。だが、悲しんでいる暇はない。
    「邪魔者は消えた。次はお前を浣腸してやる」
     一機のフィグが阿綺羅の乗るジャンダルの真下に入り、バーニアが集中するお尻に向けてビームを発射した。その一撃よってジャンダルの下半身が爆発。
    「あああっ!」
     もはやジャンダルは動けない。
     コクピットの入り口がこじ開けられる。そこからF-8の腕が中へと伸びる。
    「嫌、離して!」
     F-8の指が阿綺羅の体を掴み、表へと引きずり出した。
    「お前はもうボクのものだ。一緒にエルライス星へ行こうね。毎日可愛がってあげるよ。ブイブイブイー」
    「いやあああああ!」
     阿綺羅を拉致したF-8は戦艦アシロ目指して飛び去っていった。

    「見つけたわ」
     澄が一眼の亀のブリッジを攻撃した敵のF-16に追いついた。
    「死んで爺にお詫びしなさい!」
     ドリアンの羽根からタンバリンが放出された。20機のタンバリンから一斉にビームが砲が発射される。
    「うわああああ!」
     敵のコスモパペットはビームを浴びて爆発した。
    「爺、やりました。あなたの仇は弟子の澄が討ちました」
     敵を倒した直後、澄の心は興奮に包まれ、澄は大いに喜んだ。だが、そんな興奮や喜びはすぐにどこかへ消え失せ、澄の心は一転、哀しみに包まれた。
    「爺」

     戦艦アシロ。
    「状況報告。海亀の左エンジンとブリッジを破壊。その後、動いていません。敵のコスモパペットを二機撃墜。それに対し我が軍の消耗はコスモパペット十二機」
    「半分も落とされたのか。酷いもんだな」 
     酷いもんだなと言ってはいるが、目的を達成したことにチンプー提督は内心「満足」していた。
    「これで総統も安心なされることだろう。よし、後退だ。コスモパペット隊も適当なところで退却させろ」
    「F-8がこちらに向かってきます」
    「早いな。通信回線をこちらに回せ」
    「はい」
    「雄兵衛。随分早いな?まさか、恐れをなして逃げ帰ってきたのではあるまいな」
    「まさか。敵のパペットを二機撃墜した。そのうちの一機のパイロットを捕虜にして連れてきた」
    (先程の二機撃墜というのはこいつだったのか)
    「それは・・・ご苦労だった」
     チンプー司令官は正直「なんて奴だ」と思った。僅かな時間に二機撃墜とは。まさにエースパイロットの仕事ではないか。結局、コスモパペット同士の戦いでは自軍は「一機も撃墜できていない」ということになる。雄兵衛が出陣していなければ、結果はもっと悲惨なものとなっていただろう。
    「F-8、着艦します」
     その後、雄兵衛と阿綺羅はシャトルに移動。直ちにエルライス星に向けて発進した。

     戦艦カメリア。
    「むむむむむ」
    「艦長。落ち着いて下さい」
    「くそう」
     プラトンは手のグラスを床に投げつけた。
    「このままでは、チンプーの株が上がるだけではないか。なんとかせねば」
     そこでプラトンが採った行動は。
    「我が艦隊を全速力で前進させろ。我らの力で海亀にとどめを刺すのだ」
     プラトン指揮下の艦隊が突如、他の二艦隊とは逆に前進しはじめた。
     その一報を聞いたチンプー司令官は。
    「愚かな白豚め。功を焦るか。それが命取りになるかも知れないというのに」
     プラトンの愚行を口汚く罵るのだった。

     プラトン率いる艦隊が一眼の亀に迫る。これでもかといわんばかりに主砲を打ちまくっている。ブリッジを破壊された一眼の亀はその場に静止状態にある。このままでは撃沈されてしまう。
     敵のコスモパペット隊は澄の参戦により、その数を急速に減らしてはいた。だが、ジャンダルのビームライフルにしてもスピルのビームキャノン砲にしてもエネルギーは既に底をついていた。使える武器はレーザーサーベルのみだ。コスモパペットはともかく、レーザーサーベルで敵の軍艦を破壊することは容易ではない。
     このままでは全滅だ。
     現状を打開できるとすれば、それはやはりドリアンしかなかった。今こそドリアンが装備する「ハート砲」を使用する時だ。
     しかし。
    「駄目、発射できない」
     こればかりは澄も戸惑っていた。頭の中で性行為をイメージするだけでは発射体制に入ることが出来ないのだ。本来はこれでいいのだが、まだ慣れていないからだろう。
     石之伸のスピルマがドリアンとドッキングした。スピルマのハッチを開くと、石之伸はドリアンに飛び移った。ドリアンのハッチを開き、中に入る。
    「あなた」
    「ハート砲が撃てないって?」
    「さっきからやっているけれど全然だめなのよ」
    「お前はグリップをしっかりと握って『照準合わせ』だけやっていろ」
     そう言うと、石之伸は澄の両肩を握った。
    「澄」
     石之伸が澄を抱く。石之伸の愛に包まれて蕩けるような快感を覚える澄。するとドリアンの胸のクリスタルブローチがキラキラを輝き始めた。
     そして遂にハート砲が炸裂した。強力なエネルギー粒子が迫り来るプラトン艦隊めがけて放出された。

     戦艦カメリア。
    「何だ?この光は」
    「エネルギー粒子、接近。強力です」 
    「逃げろ」
    「駄目です。間に合いません」
    「うわあああああっ!」
     強烈なエネルギー粒子の中で戦艦カメリアの頑丈な船体がくの字に曲がり、やがて大爆発した。勿論、巡洋艦や駆逐艦はその前に既に爆発している。
     光が消えたとき、プラトン艦隊はそこにはなかった。

     戦艦アシロ。
    「前方に強力な光が見える。何が起こっているのだ」
    「プラトン艦隊の反応が消えました」
    「だから言わんこっちゃない」
    「司令官、ご命令を」
    「生き残っているコスモパペットを全機、帰艦させろ。退却だ」
    「わかりました」
     敵艦隊は戦闘空域を撤退した。
     宇宙に静けさが戻った。

     ドリアンのコクピット内。
    「やったぞ、澄」
     喜ぶ石之伸。
    「澄?どうした」
     澄の反応はない。澄は完全に意識を失っていた。
    「澄、おい澄、起きろ」
     反応はない。この意識喪失の原因がハート砲発射と関係していることは明らかだった。恐らく、ハート砲を発射した瞬間、全精力を使い切ってしまったのに違いない。
    「くそう、なんということだ」
     石之伸は急いでスピルマのコクピットに戻ると、ドリアンを抱えて直ちに一眼の亀に戻った。

  • 次回予告

  • プラトン艦隊に代わる新たなる補充艦隊が加わり、チンプー司令官はいよいよ総攻撃に出た。一眼の亀に絶体絶命の危機が訪れる。この窮地を救えるのはドリアン以外にはない。澄よ、目覚めてくれ。
    次回・文殊の剱
    「覚醒」
    7月26日(土)19:30
    宇宙の旅は続く。





  •  激闘から丸一日が経った。
     長七郎、大介、阿綺羅の姿が一眼の亀のブリッジから消えた。損害と呼ぶにはあまりにも大きなものがある。
     破壊された一眼の亀のブリッジと後ろ左足の修理は思うように進まない。戦闘以後、一眼の亀は一歩も前進できずにいた。幸いあれ以来、敵の攻撃はない。先の戦闘でコスモパペットを半減させたから、敵も再攻撃には時間が掛かるのだろう。その間に、なんとか動けるようにはしたい。
     そして澄。依然、意識は回復しない。やはりドリアンは「乙姫にしか使えない兵器」ということなのか?

     戦艦アシロ。
    「プラトン艦隊が全滅した原因はわかったか?」
    「それが、よくわかりません」
     戦艦アシロでは次の攻撃に備えてプラトン艦隊が瞬時に消滅した理由について調査分析を行っていたが、よくわからないのだった。
    「この破壊力。恐らく核ミサイルを発射したのではないかと」
     分析班はプラトン艦隊全滅の原因は一眼の亀から発射された核ミサイルによるものと考えたようだ。それも無理からぬことだ。まさか一機のコスモパペットがコロニービーム級のエネルギー粒子砲を備えているなどとは思いも寄らなかったのである。
    「核ミサイルか・・・」
     だが、チンプーは半信半疑だ。破壊力を考えれば合点がいくが、竜宮の民の生命境涯の高さを考えたとき、ダーティー・ウエポンである核兵器を保有しているとは到底、考えられなかったのだ。
     とはいえ、よくわからない以上、今の時点では「敵は核ミサイルを装備している」と考える必要があった。そうなると、こちらもコスモパペットを半減させている状態で迂闊に総攻撃は出来ない。
     その時、ひとりの兵士がブリッジに入ってきた。
    「司令。カシマシー艦隊が到着いたしました」
     カシマシー艦隊というのは消滅したプラトン艦隊に代わる補充艦隊である。
    「やっと来たか・・・待て。今、何といった?」
    「はい。カシマシー艦隊が到着したと」
     チンプー司令官は今にも激昂せんとばかりに顔を真っ赤にした。
    「何だと?私はタカビー艦隊を要請したはずだ」
     カシマシー艦隊はエルライス軍唯一の全員が女性からなる艦隊である。軍の中での評判はすこぶる悪い。
    「なんということだ。計算が狂った」
    「申し訳ありません」
    「もういい、下がれ。頭が痛くなってきた」

     黄色と黒の、まるで工事車両を思わせる塗装が施された軍艦が次々とチンプー艦隊に合流する。
     そのうちの一つ、戦艦ヤマトモ。カシマシー艦隊の旗艦である。
    「到着しましたね、准将」
     副官のケイコ大佐が艦隊指揮官にそう告げた。
    「艦長と呼びなさい」
     それに対し、マユコ准将はそう言い返した。マユコは准将という地位に満足していなかった。旗艦は戦艦で二隻の巡洋艦と四隻の駆逐艦も与えられているとはいえ、大佐と少将の間の階級である准将ではまだ「提督ではない」からだ。提督と呼んで貰えないのならば艦長の方がまだマシだ。そう思っていた。
    「判りました、准将」
     だが、ケイコ大佐はまたも准将と言った。この会話からふたりの関係が判る。ケイコはマユコが気に入らないのだ。自分の方が指揮官に「相応しい」と思っているのだ。自分の方が「賢く」て「美しい」のだと。ケイコに限らず、この船に乗る者は全員「自分が最も優秀」「自分が一番の美貌」と信じて疑わないブスブスバンバンである。無能な王が即位すると決まって「王権神授説」が叫ばれるように、自画自讃はその者の実力が欠如していることの何よりの証なのだ。



  •  エルライス星
     首都イセサレムにある軍の研究所では様々な実験が行われている。その中にサイコ能力の開発をはじめ「人間の精神」に関するさまざまな実験を行う研究所がある。

    40800号実験室。
    「うう、うう」
     リクライニングシートに「DP-65F」と呼ばれる実験用の人間が座っている。首、手首、足首の五箇所に決して自分の意思でそこから立ち上がることができないよう枷が嵌められている。目には視界を遮るゴーグルを装着、口には自殺防止用の猿轡が噛ませられている。そして腕には食事を摂らなくても大丈夫なように栄養剤を送り込むためのチューブが刺し仕込まれ、頭には幾つもの電極が装着されていた。
    「所長。脳波がレム睡眠を検知しました」
    「電流を流せ」
     電流のダイヤルが回される。
    「ううー」
     シートに拘束された実験材料が激しく暴れ出す。
    「脳波検知。目が覚めました」
    「絶対に眠らせるなよ。脳細胞をとことん疲弊させるのだ」
     ここでは実験材料に対し、脳の記憶を書き換える作業を行われていた。そこで、睡眠不足の状態を長時間に渡って強制することで脳細胞を疲弊させ、シナプスが切れやすい状態を作っているのだ。
    「うううー、うううー」
     脳に激痛を感じ、暴れるDP-65F。
     DP-65Fと命名された実験材料。歳は20頃の少女である。その姿はとてもチャーミングだ。きっと恋もしているだろう。まさに「青春真っ盛り」といった印象を全身から発している。
     この実験が既に1週間続いていた。つまりDP-65Fは1週間、一睡もしていないのだ。
    「そろそろ第二段階だな」 
     研究所長が注射器を取り出した。
    「さあ、お注射だよ。可愛いお嬢ちゃん♡」
     腕に注射を打たれるDP-65F。
    「この注射には脳細胞のシナプスを切断する効果がある。1週間、起きっぱなしだったキミの脳は、この薬の効果に耐えることができない」
    「うぐー、うぐー、うぐうーっ」
     暴れ方が増す。シナプスが切れていく脳に激痛が走っているのだ。
     シナプスが切れる度にDP-65Fの今までの記憶が消えていく。やがては全ての記憶が消えて無くなるのだ。これは記憶の上に新しい記憶を書き加えるのとは違い、過去の記憶を呼び戻すことは絶対に不可能である。この実験によってDP-65Fと名付けられた可愛い少女は今までの過去の記憶を全て失ってしまうのだ。
     その研究室へひとりの士官が入ってきた。なんと雄兵衛である。
    「所長。どうですか?」
    「見ての通り、順調です」
    「そうか」
    「今、脳のシナプスを解除する注射を打ちました。一日三回注射。三日で、このお嬢さんの脳のシナプスは完全に切断されます」
    「で、その後はどうするのだ?」
    「はい。その後はシナプスを繋がりやすくする活性注射を、やはり一日三回注射します。その間、このお嬢さんにはゴーグルに映し出される映像を見ていただきます。ご希望通り、あなたさまを熱烈に愛する場面や、かつての仲間たちに蹴られ、殴られ、殺されそうになる場面といった『偽の歴史画像』を。その結果、1週間後には間違いなく、このお嬢さんはかつての仲間たちを敵と認識し、あなたを心から愛するようになるでしょう」
    「今から楽しみだ」
     雄兵衛はシートの上で苦しみ藻掻くDP-65Fの姿を眺めた。
    「阿綺羅。お前はもうすぐ俺の欲望を満たす慰安婦に生まれ変わるのだ。ブイブイブイー」

     戦艦アシロ。
    「司令。タカビー艦隊がエルライス星を出発したようです」
    「よし」
     タカビー艦隊発進の報を聞いてチンプーはひとまず安心した。
    「当初の計画通り、我々はタカビー艦隊の到着を待つ」
    「カシマシー艦隊の方はどうされます?」
    「せっかく来たんだ。『初陣を飾らせてあげよう』ではないか。奴らにはプラトン艦隊を撃破した敵の兵器の正体を知る実験台になってもらう」
     チンプーはやはり「核ミサイル説」には疑問を抱いているようだ。
    「捨て駒ですか」
    「いいや、わからんぞ。華々しい戦果を挙げるかも知れないではないか」
    「そうですな」
    「じっくりと見物させてもらうよ。女尊男卑を声高に叫ぶ彼女たちのウーマンパワーというやつをな」

     戦艦ヤマトモ。
    「チンプー司令から連絡が来たわ。私たちが先鋒ですってよ」
    「やったあ。これで二階級特進は決まりだわ」
    「バカ。私たちは捨て石にされたのよ」
    「いいじゃない。相手を倒せば、私たちの大手柄よ」
    「でも、負けるかも知れないじゃない」
    「勝つわよ。既にチンプー艦隊とは一回戦闘しているというじゃないの。敵はもうボロボロよ」
    「じゃあ、なんで私たちを呼んだの。おかしいじゃない」
     「女、三人寄らば・・・」とはよくも言ったものだ。「口が休まることを知らない」とはまさにこのことである。何しろブリッジにはマユコ准将を筆頭に副官のケイコ大佐、索敵、通信、航法の各一名。更にはノリコ中佐、フミエ中佐、ヨシコ少佐、ミキ少佐の四名のパイロットがいるのだ。ここに残り四名のパイロット、カヨコ大尉、サヤカ大尉、アイカ中尉、ユウカ少尉がいないのは幸いだ。彼女たちまでいようものならば、ブリッジの中は常に騒音120㏈状態だ。
     そんなカシマシー艦隊の主力コスモパペットは「F-18」である。大型のF-15とスタンダードのF-16の中間の性能を狙って開発された機体で、開発時期が新しいことや徹底的に合理性を追求した結果、武装の破壊力はF-15並みでありながら、機体の大きさはF-16並みというまさに「両者のいいとこ取り」といった感じの高性能機なのだが、男性パイロットの間では非常に評判の悪い機体である。その理由としてはステルス性能が無いことから、新しいにも拘わらず近いうちに退役する運命にあること。そしてもうひとつは何といってもスタイルの悪さだ。その姿から「ジ・オンナ」という渾名が付けられている。テンバインに採用された磁界バリアーを装備するために足を無くし、大きなスカートの中に大容量ジェネレーターを装備。頭には磁界バリアー用の角が二本生える。そしてレーザーサーベルとビームキャノン砲は最初から右腕と左腕の先端に固定装備されているといった具合だ。ジ・オンナの由来が大きなスカートにあることは言うまでもない。
     だが、彼女たちがこの機体を採用するのは、まさに「そうした理由」からであった。誰もが採用しないシロモノを採用すれば、それが自分たちのトレードマークとなる。しかも渾名が「ジ・オンナ」となれば尚更だ。彼女たちは進んで自らを「ジ・オンナ隊」と名乗った。そして彼女たちはF-18に独自の塗装を施した。軍艦と同じ黄色と黒の縞模様である。
     その姿はまさに「鬼婆」である。カシマシー艦隊はこの機体を戦艦に四機、二隻の巡洋艦に各二機、計八機、装備していた。
    「とにかく出撃しましょうよ」
    「そうよそうよ」
    「戦ってみたら案外、楽かも知れなくってよ」
    「とかいって、あんたが最初に死んじゃったりして」
     各々言いたい放題を言いながら格納庫へと向かう。
    「発進」
     次々と発進するF-18。
     ダセーワ、ノックアウトと命名された二隻の巡洋艦からも発進する。
    「みんな、いくよ」
     隊長のノリコが叫ぶ。
    「蚯蚓飛行、開始」
     八機のF-18が隊長機を先頭に次々と後ろに並ぶ。正面からだと一機にしか見えない。これほど連携のとれた飛行ができるとは侮れない相手だ。

     一眼の亀。
     格納庫ではパイロットたちが整備士たちと一緒に各々の機体の整備を行っていた。
    「接触が悪いのかな」
     石之伸は自分の愛機であるスピルマのプラネタリウムモニターの映像が点いたり消えたりする症状の改善に苦慮していた。もし戦闘中に見えなくなりでもしたら命に関わる。
     ジャックを一回抜いて、差し込み直す。映像は綺麗に映っている。念のためワイヤーを揺すってみる。
    「どうやら大丈夫そうだな」
     そこへ艦内放送が流れた。
    「敵艦隊をキャッチ。戦艦1、巡洋艦2、駆逐艦4。コスモパペットも発進したようです。その数、八機」
    「遂にお出ましか」
     石之伸は正面モニターパネルの裏蓋を閉め、コクピットシートに座ると、入り口のハッチを閉じた。
    「石之伸スピルマ。いくぜ」
     まずスピルマがカタパルトデッキから発進した。
    「飛行形態に変形」
     向かう先は敵のコスモパペット隊だ。
     その後も次々と発進する。艦長がいなくても、既に発進の順番は判っている。
    「馬知子女王様の発進じゃあ」
    「女王様に続きます」
     続いてスピル隊。こちらはカシマシー艦隊の旗艦を狙う。
     残りのジャンダル隊も発進。これらは一眼の亀の周りを離れない。一眼の亀に接近する敵の邀撃が任務である。 
     スピルマがジ・オンナ隊を肉眼で捉えた。
    「一機だけ?いや違うな。後ろに隠れているのか。確か全部で八機だったな」
     石之伸は敵が一列に並んでいるのを直ちに理解した。
    「よし。このまま突っ込むか」
     ジ・オンナ隊もまたスピルマをキャッチした。
    「これが例のキャロットね。みんなニンジンサラダを作るわよ」
    「了解」
     スピルマが見る見る接近してくる。
    「こいつ、真っ直ぐに突っ込んでくる。私とぶつかるつもりか?」
     スピルマの動きに驚いたのは隊長のノリコ。
    「こいつ、やはり噂通りの曲者だわ。こんな戦術、並のパイロットにはできないわ」
     ノリコが全機に指令を飛ばした。
    「みんな、緊急回避よ」
     激突の恐怖から先に避けたのはジ・オンナ隊の方だった。石之伸の狙い通りである。
     先頭を行く隊長のケイコが避けたら、あとは芋づる式に避けていく。それまで縦一列に並んでいた編隊が瞬く間にバラバラになった。
     さあ。あとは旋回して立て直しに苦労している奴から撃墜するだけだ。石之伸は左のグリップを右に傾けた。
     その時、問題が発生した。何とプラネタリウムモニターの映像が乱れたのだ。
    「なに?こんな時に」
     その映像はおよそ通常のものとはほど遠い「砂のような画像」である。まるでVHF帯で放送していたアナログ時代の千葉県内で視聴するテレビ埼玉のようだ。明らかに高い稼働率と整備不良から来る故障である。特にスピルマは動きの速い石之伸が操縦するだけに機体に掛かる負担が大きいのだ。
     正直、これは拙い。
     だが、戻って整備し直す余裕はない。このままの状態で戦うしかない。取り敢えず一番近くのF-18に接近。
    「人型に変形」
     飛行形態から人型に変形したその直後、完全に画像がブラックアウトした。これでは両目にフォークを突き刺したようなものだ。
    「なんということだー」
     その直後、スピルマに衝撃が走る。自分が仕留めるはずだったF-18から攻撃を受けたのだ。
    「左足をやられたのか」
     この時、スピルマは敵のレーザーサーベルによって左足を失っていたのだ。
     更にその後、別のF-18によってレーザーサーベルを持つ右腕も切り落とされた。
    「何だ?この手応えの無さは。こんな奴に我が軍の男どもは負け続けたのか?」
     根っからタカビーな性格のノリコはこれが「スピルマの実力」と判断したのだった。
    「こんな相手、八機もいらないわ。ヨシコ。あんたは半分連れて海亀に向かいな」
    「了解」
     副リーダーである年配のヨシコが若手の三名、アイカ、サヤカ、ユウカを率いて一眼の亀に向かった。

     ジャンダル隊。
    「来たぞ」
     妖精たちと半数のジ・オンナ隊が激突。
     早速、敵のビームキャノン砲の洗礼を受ける。
     中山が叫ぶ。
    「みんな気をつけろ。こいつらの兵器は強力だぞ」
     大きなスカートを穿くジ・オンナ隊のF-18は出力が桁違いだ。ビームライフル並みの連射が可能な左腕のビームキャノン砲による攻撃によって防御力に優れるジャンダルとはいえ、ビームが近くを掠めただけで機体に罅が入る。

     一方、スピル隊も。
    「ビームキャノン砲、発射」
     戦艦ヤマトモの上と下から同時発射。だが、こちらも整備不良によって微妙にタイミングが狂ったのか。戦艦の中央でぶつかるはずのビームは左右に逸れ、あろうことか互いの機体に当ててしまったのだった。女王のスピルは右足を失い、将軍のスピルは左腕を失った。
     そこへ敵艦の弾幕が襲いかかってきたのだからたまらない。ビームが貫通した戦艦ヤマトモの損傷はそれほどでもないようである。

     正直、やばい。
     マジでやばい。
     旅もこれで「終わり」か?

     一眼の亀。
     昏睡状態の澄。その澄の夢の中に人影が浮かぶ。
    「大ちゃん?」
    「澄、起きるんだ。みんなが危ない」
     今まで昏睡状態にあった澄が突然、目覚めた。
     澄は夢の中で大介と出会った。これ澄が本当に「危険な状態にあった」ことを表している。というのもこうした現象は人が死にかけて死の世界=妙の世界に片足を踏み込んだときに起こる典型的な現象だからだ。エネルギーからなる法の世界を流れる時間は過去、現在、未来の一方通行の「直流時間」だが、精神からなる妙の世界を流れる時間は過去、現在、未来を自由に往復する「交流時間」であるため過去に死んでしまった人間とも会話が可能なのだ。
     ともあれ、澄は文字通り「死の淵」から生き返った。大介が言うように仲間の危機を救うのだ。
     ベッドから起き上がった澄は直ちに格納庫へと向かった。そして澄は迷わずドリアンに乗り込んだ。
    「澄ドリアン、発進します」
     ドリアンが再び宇宙へと羽ばたく。

     ドリアンが真っ先に援護に入ったのはジャンダル隊。
    「新手?」
     ヨシコが最新情報を仲間に伝える。
    「新たに一機、でてきたわ。みんな、気をつけて」
    「なあに」
    「心配ないわ」
    「たかが一機でしょ」
     三機が揃ってドリアンに迫る。
     その時、ドリアンの羽から何か白くて丸いものが多数、飛び出した。
     蝶の妖精・ドリアンの羽は黒、青、緑、赤、黄、橙、白の七つの色で色分けされているが、そのうちの一つ、左右合わせて全部で十六ある「白い円」は只の模様ではない。羽から飛び出したのはこの白い円であった。その正体はドリアンのパイロットが精神エネルギーで操作するコスモドローン。円の外周には小型のカメラと八つのバーニアが仕込まれ、宇宙を自在に飛翔。円の中心部からはビームが発射される。高速で飛翔しているときには「白い円盤」にしか見えないが、じっくりと観察すれば、その姿は楽器のタンバリンにそっくりである。
    「こいつ」
    「まさか」
    「コスモドローンを放ったの?」
     タンバリンにぐるりと周囲を取り囲まれたF-18。パイロットとしてはまだ若いアイカ、サヤカ、ユウカはこの状況に対し完全に怯えてしまった。
    「くそう」
    「落ちろ」
    「落ちろ」
     必死にタンバリンめがけてビームキャノン砲を発射するが、タンバリンの動きは機敏だ。しかも十六機もいる。
     その十六機のタンバリンが攻撃に転じた。360度全方位から発射されるビーム。オールレンジ攻撃によって瞬く間に三機のF-18が宇宙の塵となった。
    「アイカー、サヤカー、ユウカー」
     仲間の名前を叫んだヨシコの額から汗がびっしょりと噴き出す。その汗によって化粧が一気に崩れた。タカビーな性格をそのまま表現した決して「美しい」とは言い難い素顔を曝け出すヨシコ。
     そんなヨシコの機体にもタンバリンが迫る。
    「くるな、くるな、こっちへくるなあ!」
     ヨシコのF-18も三機のあとを追った。

     一方、こちらはスピルマを攻撃するノリコ隊。
    「あんたたち、何をモタモタしてるのさ。さっさとやっておしまい」
     隊長のノリコがカヨコ、フミエ、ミキに檄を飛ばす。
    「相手は既に左足も右腕もないんだよ」
     しかし、無線には次のような弁明ばかりが戻ってきた。
    「ですが隊長。動きが速くて」
    「どうやら、こちらの攻撃パターンを読んでいるようです」
    「私もそう思います隊長」
     ノリコは頭がぶち切れそうだ。
    「何を言ってるのよ、あんたたち。そんなことあるわけないでしょう」
    「ですが隊長」
     正解を先に言ってしまうと、カヨコ、フミエ、ミキの言うことは「違う」。
     石之伸は彼女たちの攻撃パターンを読んだのではない。彼女たちの動きを「先読みしている」のだ。
     もともと石之伸は「勘の鋭い剣客」だ。後ろから刺客に狙われれば、それを察知するだけの能力を備えている。それは石之伸の生命境涯が高く、無意識のうちに三世一体の交流時間を知覚することで、数秒先に起きる出来事を事前に察知しているからに他ならない。
     そんな石之伸が、プラネタリウムモニターがダウンしたコクピットにいる。そこは何も見えず、外の音が全く聞こえない空間。それは石之伸にとって絶好の「仏道修行の場」となった。その中で石之伸は自身の集中力を限界まで研ぎ澄ませることで像法時代の法華経修行である「止観」を本人も気が付かないうちに体得したのである。
     止観、それは天台大師・智顗が確立した宇宙に遍満する仏界の波動=南無妙法蓮華経のリズムを「心の耳」を開いて聞く像法時代の修行法である。この修行は智顗自身が言うように非常に困難を極めるものだ。像法時代でさえ困難を極める修行であるから、末法を迎えた現代の地球人類には絶対に不可能である。しかし竜宮城で修行を積み、文殊師利菩薩の継承者となった石之伸には可能であった。その結果、今の石之伸にはジ・オンナ隊の「未来の動き」が手に取るように判ったのである。
    「む、新たに一機、こちらにやってくる。この感覚は・・・澄」
     石之伸は新たにコスモパペットの接近を察知した。石之伸は無線を発した。
    「澄、意識が戻ったんだな」
    「そうです、澄です」
    「それは良かった」
    「後は任せて」
     だが、石之伸は澄の申し出を断った。
    「いや、この四機は俺が相手をする。お前は後方にいる艦隊を仕留めろ。できるな?」
    「判りました」
     ドリアンはスピルマと敵との戦闘空域をそのまま素通り。カシマシー艦隊がいる空域へと向かった。
     ふたりの会話を傍受していたジ・オンナ隊は完全にぶち切れていた。
    「このキャロット野郎」
    「舐めやがって」
    「片足も片腕もないボロボロのくせに」
    「その言葉、後悔させてやるわ」
     F-18の攻撃。
     だが、止観の状態にある石之伸に彼女たちなど、もはや敵ではなかった。
    「まずは一機」
     左手のビームサーベルでカヨコのF-18をぶった切る。
    「ぎゃあああ」
     爆発。
    「お次は」
     ミキのF-18に接近。ビームサーベルを顔面に突き刺す。
     更にフミエのF-18を真下から突き刺す。
     残すはノリコのみ。
    「そんな」
     日頃はいかなる状況にあっても皮肉を交えて冷静さを装う大胆不敵さが心情のノリコだったが、この時ばかりはそうもしてはいられなかった。
    「残念だったな。実はちょっとしたアクシデントがあってね。最初こそ対応するのに手間取ったが、結果としては『悟りを開く』のには格好の修行だったよ」
    「なんだと?」
    「どうした?ニンジンサラダを作るんじゃなかったのか」
    「くそう」
     何とノリコはスピルマに背を向け、逃げ出した。インテリが「逆境に弱い」のは宇宙共通のようだ。
    「死んでたまるか。死んでたまるか」
    「情けない女め。こういう女はこちらから御免だな」
     石之伸は背中からノリコのF-18を叩き斬った。
    「死ぬのはいやああああっ」
     これでジ・オンナ隊、全滅。
     石之伸は止観の状態から通常の状態に戻った。その瞬間、石之伸は肉体に疲労を覚えた。全神経は消耗し切っていた。止観には非常に高い集中力を必要とするのだ。
    「澄は・・・大丈夫か」
     石之伸はスピルマを飛行形態にすると一眼の亀に向けて飛行し始めた。左足と右腕がないその姿は、まさに「兎に齧られたニンジン」である。 

    「ジ・オンナ隊が全滅」
     戦艦ヤマトモのブリッジではマユコ准将が狂わんばかりに慌てていた。
    「どうすればいいの、どうすればいいの」
     そうこうしているうちにドリアンがカシマシー艦隊を捕捉した。
     カシマシー艦隊は先頭に四隻の駆逐艦を配し、その後方に巡洋艦を二隻、更にそのかなり後方に戦艦ヤマトモを配置していた。艦の配置は艦隊指揮官の性格がもろに現れる。マユコ准将は余程の「臆病者」らしい。
     ということで、まずは駆逐艦から攻撃開始。十六機のタンバリンがアクガオ、イジメ、ウッキョリ、ダイニチ、四隻の駆逐艦を次々とオールレンジ攻撃する。「次々」ということは「四隻を一度に」ではないということを意味する。ドリアンの操縦席はプラネタリウムモニターと正面スクリーン以外に左右に八つずつ合計十六のモニターがあるから、タンバリンをバラバラに操縦することが想定されてはいるのだろうが、人間の脳はそんなに便利にはできてはいない。伝説によれば聖徳太子は「七人の会話を同時に理解した」らしいが、「ご飯を食べながらテレビを視る」といった具合に一度に二つのことしかできないのが普通だ。つまり今の場合「ドリアン本体の操縦」と「十六機のタンバリンで一機の敵をオールレンジ攻撃する」のふたつだ。勿論、雄兵衛のフィグであれば話は違ってくる。八つの異なる脳を持つフィグは一度に八つの敵を攻撃できる。
     といっても、澄はまだドリアンに乗って日が浅い。「覚醒」は始まったばかりだ。将来的には十六機全てをバラバラに操れるようになるのかも知れない。
    駆逐艦を撃沈。ドリアンは次の標的である二隻の巡洋艦を目指す。
    「撃て、撃て。撃ち落とすのよ」
     マユコ准将が必死の形相で二隻の巡洋艦に命じる。巡洋艦の「弾幕が厚い」と判断した澄は巡洋艦への直接攻撃を控えた。腕と足を大の字に広げるドリアン。これは「ハート砲」の構えに他ならない。
    「ああ、ああ」
     澄が石之伸に抱かれる姿を連想し始めた。澄の姿を象ったクリスタルブリーチがキラキラと輝き始める。
    「ああーん!」
    ハート砲が発射された。忽ちのうちに二隻の巡洋艦が消滅した。
     ハート砲の威力は絶大だ。だが、ハート砲は「近距離兵器」である。中心軸から上下左右15度の角度でエネルギー粒子が拡散するためだ。従って二隻の巡洋艦よりもかなり後方にいた戦艦ヤマトモに被害はなかった。
    「ダセーワとノックアウトがレーダーから消えました」
     それを聞いたマユコ准将は次のように叫んだ。
    「後退・・・いえ合流よ。チンプー艦隊と合流するのよ。早く」
     戦艦ヤマトモが撤退を開始した。そのおかげで女王と将軍のスピルは撃墜を免れた。
     数分後、スピル隊の横をドリアンが通過。更に30秒後、駆逐艦を沈没させた十六機の白い円盤が通過した。

     戦艦アシロ。
    「見たか、今の。この光だ。この光がプラトン艦隊を一瞬で消し去った理由だったのだ。まさかコスモパペットのものだったとは。さすがは竜宮の超過学力だ」
     チンプー司令は興奮しながらそう叫んだ。だが、その興奮も数秒後には怒りと恐怖に変わる。
     索敵が次のように叫んだ
    「戦艦ヤマトモが我々と合流しようと後退してきます」
    「馬鹿者。直ちに止めさせろ。こちらの位置が敵にばれるではないか」
     だが時、既に遅し。急速後退した戦艦ヤマトモがチンプー艦隊と合流してしまった。
    「なんということだ。全艦、戦闘配備。コスモパペット隊、緊急発進」
    「敵コスモパペット、来ます」
    「主砲発射。打ち落とせ」
     敵艦隊による主砲の一斉砲撃が始まった。そのうちの一発がドリアンに当たった。
    「やったか」
     だが、ドリアンは無傷。ドリアンは主砲を受ける直前、腕をクロスさせ、蝶の羽で体をガードしたのだ。ドリアンの蝶の羽は特殊金属繊維で編まれており、スピルマの大気圏突入パネル同様、大気圏突入時に発生する三千度の高熱にも耐えることができる優れものだ。
     コスモパペット隊が上がってきた。だが、澄は至って冷静だ。
     十六機のタンバリンがドリアンの周りに集まった。やがて獅子狩文錦や花樹対鹿錦に編まれた円模様のようにドリアンの周囲を取り囲むと観覧車のゴンドラのようにグルグルと回転し始めた。
     その状態からビーム攻撃が始まった。螺旋を描いて十六発のビームが襲いかかる。しかも十六発のビームによって構成される螺旋の渦は大きくなったり小さくなったり、巧みに変化する。戦艦だって一撃で撃沈する「ドリルビーム」。コスモパペットなど、ひとたまりもない。
    「敵の司令が乗る船はどれ?」
     澄は敵の旗艦の探索を開始した。
    「見つけたわ」
     遂にチンプーの乗る戦艦・アシロを発見した。澄はドリアンをブリッジの正面につけた。
    「こいつが爺を、大介を、阿綺羅を殺した敵の親玉」
     澄はブリッジの中の金髪・色白の、目つきの鋭い、見るからにインテリ風の中年男性をじっと眺めた。
     チンプーもまたブリッジからドリアンをじっと眺めていた。
    「こいつなのか。一瞬のうちに艦隊を全滅させられる兵器を持つコスモパペットというのは?」
     そしてチンプーは呟いた。
    「こんな『リカちゃん人形』のようなコスモパペットに私はやられるというのか?そんなことは有り得ない。絶対に有り得ない。断じてあってはならんことだ」
     だが、そんなことがあり得るのだ。というより、今から起こる。
     ドリアンの後ろからタンバリンがやって来た。
    「絶対にあり得ーーーーん!」
     ブリッジが爆発した。澄はチンプーが爆死するのを自分の目でしっかりと確かめた。
     もう戦いを伸ばす必要はない。澄はタンバリンを収容すると仰向けに寝た。
     左右のグリップをしっかりと掴み、シートの上で想像恋愛を開始する澄。
    「石之伸さまーっ!」
     ハート砲が発射された。光がチンプー艦隊を飲み込んだ。

  • 次回予告

  • チンプー提督が参加要請をしていたタカビー艦隊が到着した。
    「棚からぼ牡丹餅とはこのこと」と一眼の亀に襲いかかるその時、違う方角から謎のコスモパペット隊が飛来した。その正体は?
    次回・文殊の剱
    「帝王の蟹」
    8月9日(土)19:30
    宇宙の旅は続く。



  • 10

  •  戦いが終わり、宇宙に静寂が戻った。
     一眼の亀のメカニックたちは修理に追われ、パイロットたちは休息に入る。特にサイコパペット・ドリアンを操る澄は戻るや、直ちに睡眠に入るのだった。

    「ワープ終了」
     チンプー提督から依頼を受け、出撃したタカビー艦隊が最終ワープを終えた。
    「いないぞ。副官」
     タカビー艦隊を指揮するサムオ提督が叫ぶ。
    「はい提督」
    「本当にここなんだな?」
     副官のシクタ中佐に確認する。
    「間違いありません。合流地点はこの空域です」
    「そうか」
     その時。
    「これは、何だ?」
     宇宙空間には無数の金属の破片が漂っていた。明らかに軍艦やコスモパペットの破片である。言わずもがなそれらは、かつては威容を誇っていたチンプー艦隊の「なれの果て」だ。
    「チンプー司令に無線を入れろ」
     サムオ提督が通信士に命じた。
    「返答ありません」
    「やはりそうか。我々がワープを行っている間にチンプー艦隊は全滅したのだ」
     シクタ中佐が顔を真っ青にして叫んだ。
    「それが事実ならば、我々もここから早く退却した方がいいのでは」 
    「そうです。チンプー艦隊を全滅させる敵なんて、恐ろしい」
     ブリッジのメンバーたちもまたシクタ中佐に同調する。全員「自分たちもやられる」という恐怖に慄いているのだ。
    「索敵」
    「はい」
    「周りの状況は?」
    「は、はい」
    「さっさと調べろ」
    「はい。あっと、1時の方向10000㎞に反応があります。どうやら宇宙船のようです」
    「敵か、味方か」
    「味方の信号は出していません」
    「ならば敵だな」
     ここでサムオ提督は頭をフル回転させ、状況を精査した。
    「その宇宙船は動いているか?」
    「いえ。全く動いてはいません」
    「よし。直ちにコスモパペットを一機、偵察に出せ」
     巡洋艦キョーダインからF-16一機が発進した。
    「偵察から連絡。海亀です。外から見たところ、かなりのダメージを受けているようです」
    「よし。私の推測が正しいとすれば、海亀はチンプー艦隊と相打ちだったのだ。ということは、もう戦うだけの『力はない』ということになる。ふふふ。私は何と『運の強い男』なんだ。労せずして海亀撃破という大金星を上げられるんだからな。『棚から牡丹餅』『柳の下の泥鰌』とはこのこと。攻撃するのはまさに今でしょ」。
     まさにその通りであった。今、攻撃を受けたら一眼の亀はひとたまりもない。
     タカビー艦隊というだけあって、サムオ提督は日頃から自分の博識に自惚れており、自分が知っている諺や四字熟語をこれ見よがしに引けらかすという何とも鼻持ちならない「厭な癖」がある。そして今の場面も勝利を確信した喜びからだろう。「ここぞ」とばかりに自分の知識をひけらかし始めた。
    「竜宮では『仏教』という宗教を信仰しているらしい。皆は仏教を知っているか?」
    「いいえ」
    「知りません」
    「存じません」
    「ならば教えてやろう。仏教では『色即是空・空即是色』といって、この世のものは全て色と空、いずれかの状態にあると説かれているのだ。他にも『以心伝心・不立文字』或いは『教外別伝』といってな。奥義を伝えるのに文字を必要としないんだ」
     この話からサムオ提督の仏教知識が『禅宗の教え』に基づくものであることが判る。色即是空・空即是色という言葉の内容自体は間違ってはいない。だが、それはあくまでも「法=エネルギー」は空と色、二種類の形を持っていることを説明するに留まる。エネルギーをいかなる性質も待たない空の状態から四大性質を持つ色の状態へと変化させた宇宙根本の原理である「妙」の存在については何も説明されてはいないのだ。また、以心伝心・不立文字は見ての通りそれ自体、歴とした四字熟語の文字である(笑)。たとえば、地球という星における本尊が正法時代は銅鐸、像法時代は釈尊の仏像であったのに対し、末法時代は「梵漢共時・受持即観心の曼荼羅御本尊」であるのは正法像法時代ならば兎も角、以心伝心・不立文字では生命の穢れてしまった末法時代の地球人類にはとてもではないが「実践できない」からに他ならない。一握りの優秀な人間にのみ仏教を伝授させるのではなく、全宇宙の全ての人々に教え広めるためにはやはり文字が重要なのだ。ゆえに教外別伝と称し、仏教を一握りの「選ばれた人のための特権物」のように考えている禅宗の教えを仏教の極理のように意気揚々と語ること自体、サムオ提督の博識とやらの「底の浅さ」の証明といえると同時に「自分だけが優秀である」「自分だけが優秀であればいい」という修羅界の生命境涯に支配されたインテリ意識の表れでもある。先に諺や四字熟語をひけらかす話をしたが、実のところこの男、そうした諺や四字熟語を何ひとつ自身の心肝に染めてはいない。この男が「能ある鷹は爪を隠す」という諺を心肝に染めていないことは幼稚園児にだって容易に判ることだ(笑)。この男にとって知識とは自分の振る舞いを正し、人間性を高めるための道具ではなく、自分が如何に優れた人間であるかを周囲に自慢するための道具に過ぎないのだ。そして「類は友を呼ぶ」で、この男の配下の者はひとりも漏れなく同様の性質を持つ者たちから成り立っていた。
    「コスモパペット隊。全機発進。海亀を撃破せよ」
     戦艦メイモンダイからは四機、巡洋艦トーダインからは二機、そして既に偵察機を出している巡洋艦キョーダインからは残りの一機が発進した。
    「ゴリョウ、聞こえるか?」
     ゴリョウというのはコスモパペット隊の隊長、ゴリョウ少佐のことである。
    「くれぐれも慎重にやれ。仮にもチンプー艦隊を全滅させた相手だ」
    「判ってるよ、そんなことは。いちいちうるせえなあ」
    「なにい」
    「へいへい。みんな、聞いた通りだ」
     ウチャンコ、フラピーク、オカズ、カミフタ、ガイス、シアツそして偵察に出ていたフリミノの7名が同時に軽いノリで「へいへい」と返答した。

     一眼の亀。
    「レーダーに反応。12時の方向にワープ・アウトする艦隊あり」
    「なに?もう来たか」
     この攻撃、石之伸は既に予感していたようで、直ちに格納庫へと向かっていた。その格納庫では、まさに今、スピルマの修理が行われている真っ最中だった。
    「どうだ?修理は?」
    「見ての通りですよ。これだけ酷いと、どこから手を付けたらいいか判りません」
    「腕と足はいい。プラネタリウムモニターだけでも直してくれ」
     石之伸の要求はもっともだ。桁外れの集中力を必要とする止観はたとえ石之伸をもってしても超時間持続できるようなシロモノではない。
    「それは無茶ですよ。それが一番難しいんです」
     だが、メカニックの言葉はつれない。腕と足は補修用のパーツを取り付ければ済むが、プラネタリウムモニターはテスターによって破損している部品の特定から始めなければならないからだ。
     スピルマはとても使えそうにはなかった。
    「ジャンダルはどうだ?」
     ジャンダルもこれまた似たようなものだったが、プラネタリウムモニターは死んでいない。
    「借りるぞ」
     石之伸はジャンダルに乗り込んだ。スピルはスピルマの量産型だから当然、機体の構造はスピルの方がスピルマに近いのだが、スピルにはレーザーサーベルが装備されていない。
    「発進」
     右腕のないジャンダルで石之伸は宇宙に飛び出した。

     タカビー隊。
    「敵のコスモパペットが出て来た。一機だけだ」
     それを見た瞬間、敵は全員が呆れ、そして笑った。
    「見ろよ。腕がひとつねえじゃん」
    「ひっでえオンボロだな」
    「こりゃあ、マジで相打ちだったようだぜ」
    「それでも出てくるとは」
    「バカかこいつ」
    「それとも勝つ自信でもあるのか」
    「度胸だけは買ってやるぜ」
     八機のF-16がジャンダルに迫る。それに対し石之伸は左手のレーザーサーベルで挑む。本来であれば、これでも戦える石之伸だったが。
     敵の攻撃を躱し、レーザーサーベルを振り下ろした直後。
    「なに」
     破壊したのは敵のコスモパペットではなくジャンダルの左腕であった。過酷な戦闘が続いた結果、フレームが金属疲労を起こしていたようだ。哀れ、ジャンダルは両腕を失ってしまった。
    「くそう」
     石之伸はトリガーを引いた。本来ならば頭部のマシンガンが炸裂。敵のカメラアイくらいは破壊できるところだが。
    「弾切れ」
     まだ補充されていなかった。
    もはやここまで。さらば石之伸。
     その時。
    「なに?」
     別の方角から今まで見たことのない九機の変形コスモパペットが飛行形態で飛来してきた。赤紫色に塗装されたその姿は鮟鱇そのもの。しかもそれらはジャンダルを護るように八機のコスモパペットに対し攻撃を仕掛けてきたのだ。
     そのうちの一機である隊長機がジャンダルの真横に接近。人型に変形した。左手には二連装のビームライフル。右手にはこれまたグリップから上下にビームが伸びるツインサーベル。
    「石之伸さま。こいつらは我々が始末いたします」
    「お主は?」
    「王室警備隊所属コスモパペット隊隊長・チョウチンアンコウ少佐」
    「安康隊か」 
     安康隊。正式には「国家安康隊」という。パイロットが全て「鮟鱇の精」から構成されたコスモパペット隊で、王室の警護を任務とするエリート部隊だ。
     この名前を竜宮城で初めて耳にしたとき(注、石之伸は竜宮城で三年間の修行をしている)、石之伸の心境は複雑だった。石之伸は徳川家が日本を支配する江戸時代の人間であり、国家安康にまつわる家康公のマイナスイメージは決して「過去の話」ではないからだ。
    「我々が来たからには、もうご安心ください」
    「ここに『お前たちが来た』ということは」
    「そうです。『帝王の蟹』はすぐそこまで来ております」
     ふたりの会話の間にタカビー隊のコスモパペットはその数を急速に減らしていた。タカビー隊と竜宮王室直属のエリート部隊とでは実力に「天と地ほどの差」があるのだ。
     現在のニッポン同様、エルライスでは子供の頃から「学力テスト」の成績が重視されているが、竜宮では学力テストなど存在しない。竜宮で重視されているのは「生命境涯」のみ。生命境涯が高ければ、自分の夢や目標を実現するために一所懸命に努力するから、そういう人間は自ずと賢いわけである。そして学力テストの結果を重視するニッポンやエルライスの教育からは「自分は優秀、他人はバカ」という人生観を持つタカビー人間しか育たないのだ。
     そうこうしているうちに、二隻の軍艦が戦闘空域に急速接近してきた。いずれも空母である。一隻は「アジの開き」の姿をした全長300mほどの空母。もう一隻は「サンマの開き」の姿をした全長200mほどの軽空母。それぞれ六機、三機のコスモパペットを装備する。つまり今回の戦闘では全機出撃したわけである。
     アジの開きからジャンダルに通信が入った。
    「石之伸殿。お久しぶりです」
    「その声は『ダツ中将提督』」
    「その言い方はおやめください。仲間の間では『ダッチャン』で通っています」
     そこへ更に通信が。
    「私もいますわよ。石之伸様」
    「あなたはアツモリウオ中佐」
    「私も少将に昇進して、今では軽空母の艦長ですわ」
    「アツモリウオ少将提督ですか。ご立派になられたものです」
    「その言い方、おやめになって。私も仲間内では『ラーメン』と呼ばれておりますの」
     アツモリウオは人の姿に変わる時、髪の毛がチリチリの巻き毛になる。だからラーメン。そして「話し言葉」から判るように女性である。
     そこへ通信が入った。安康隊からである。
    「全機撃墜しました」
    「よし。敵艦隊を釣り上げるぞ」
     安康隊が乗るコスモパペットの名前は「アングラー(釣り師)」。その名の通り、敵を釣り上げるように倒していく。
    「石之伸様。ではまた」
     チョウチンアンコウ隊長は安康隊を率いて敵艦隊に向かって飛翔した。そのあとを二隻のヒラキ型空母が追う。

     戦艦メイモンダイ。
    「我がコスモパペット隊が全滅だと!?」
     サムオ提督は顔色を変えた。
    「敵のコスモパペット隊が来ます。その後ろに二隻の軍艦確認。どうやら空母のようです」
    「よ、よし。前進だ。二隻の空母を狙うぞ。空母さえ落とせばコスモパペットはどうにでもなる。相手は空母。大した武装は施されていないはずだ」
     サムオ提督のこの読みは確かに軽空母には当て嵌まった。サンマ型軽空母は二連装対空砲を四門装備しているに過ぎない。
     だが。
    「敵艦からビーム攻撃が。強力です」
     アジ型空母には二門の主砲が装備されていた。その二門が戦艦メイモンダイの左右にいる巡洋艦トーダインとキョーダインを一撃で撃沈した。流石は王室警備隊の旗艦だ。射撃手の腕も超一流である。
    「ばかな。この距離で撃沈?こちらの主砲はまだ射程距離外だというのに」
     更に。
    「駆逐艦四隻、撃沈しました」
     こちらは安康隊の仕事だ。
    「提督。もはや残っているのは我が艦だけです」
    「撃て、撃て、撃てえ」
     サムオ提督が叫ぶ。その顔には既に死相が出ている。
    「無理です。まだ射程距離外です」
    「なら、早く前進しろ」
    「ビーム砲、来ます」
     ビーム砲が戦艦メイモンダイを直撃した。
    「うわあああ、いつ死ぬのー?今でしょー!」
     二門の主砲の直撃を受けて戦艦メイモンダイもまた宇宙に散った。

     二隻のヒラキ型空母、そして一眼の亀がランデブー。
     そこへ。
    「来ました」
     更にもう一隻の軍艦が同じ空域にやってきた。その大きさは並みではない。ヤダユ船団の旗艦ゼーモをも上回る巨大艦である。その姿はカブトガニそのもの。船体を焦げ茶色に塗装。胸部の上部を構成する甲羅の左右には16枚の花弁で構成される黄金のロータス=蓮の紋章がキラリと輝く。
     この船こそ、本来の任務である二隻の空母が護衛する竜宮王室のお召艦「帝王の蟹」に他ならなかった。
     ニッポンの皇室では現在「菊の御紋」と読んでいる蓮紋。言うまでもなく豊玉・玉依の両姫が倭国に嫁いだことで倭国でも使用されるようになったものだ。そして弥生時代から古墳時代に変わる際、蓮紋は菊の御紋と改名された。法華経信仰が盛んであった弥生時代の痕跡を全て消すためである。
     帝王の蟹が一眼の亀の真上に静止した。胸部の下部にあるカブトガニの足に相当する10本の銀色のアームが降りてくる。一眼の亀はそれによって挟まれ、そのまま照明によって輝くドーム状の胸部の中へと引き上げられた。
     宇宙服を纏う作業員が水の中を泳ぐように次々と降下してくる。
    「作業開始。急げ」
     帝王の蟹はお召艦であると同時に宇宙船を修理する「ドック艦」としての機能を持っているのだ。
     航行不能状態にまで陥った一眼の亀に対し、直ちに修理が始められた。勿論、破壊されたコスモパペットの修理も。
    「さあ、行こう」
     石之伸が皆を誘う。行き先は勿論、帝王の蟹の中だ。
     一眼の亀と帝王の蟹を繋ぐ通路を歩く。通路の先で待っていたのはダツとアツモリウオの両提督だった。
    「上皇さまと皇太后様がお待ちです」
     現在の竜宮は乙姫が女王であり、その両親である元・国王と王妃はそれぞれ上皇と皇太后になられていた。
     一同が案内されたのは他の星の王族や外交使節団を接遇する貴賓室であった。カブトガニの姿を持つ帝王の蟹の胸部と腹部の上はさしずめ「最高級ホテル」であり勿論、宿泊施設もある。大浴場、映画館、高級食堂など、あらゆる設備が整っている。
    「上皇。如来とその仲間たちをお連れしました」
    「ご苦労であった」
     そう言ったのは上皇でも皇太后でもなく、トラウツボ王子だった。
    「もう下がって良い」
    「はっ」
     提督たちは貴賓室を出ていった。
    「久しぶりだな、石之伸」
    「王子。ご無事で」
     その後、王子から今までの経緯について話があった。それによれば、竜宮がエルライス軍の奇襲攻撃を受けた当時、上皇、皇太后、王子の三名は大小ふたつの銀河から構成される双子銀河M51にある桃源郷を訪問していた。天の川銀河も双子銀河であることから両国は姉妹関係を結んでおり、桃源郷のミンキー女王から招待を受けたからだ。
     そんな彼らが一眼の亀の現在位置を正確に知っていたのは、尾剣の銀河間通信を可能とする大出力の通信アンテナでスペースコロニー・ビッグフェイスから状況を知らされたこと、更に一眼の亀に帝王の蟹だけが受信することのできるGPSが装備されていたからだ。帝王の蟹は天の川銀河の外から正確に一眼の亀の飛行経路を追いかけてきたのである。銀河間のワープは障害物となる星がないため、星間物質が沢山漂う銀河内とは比べものにならない速さのワープが可能であり、遠距離であっても追いつくことは容易であった。
     これだけ説明しておけば「いかなる疑問」も払拭できたことと思う(笑)。
     ともあれドック艦が無事だったのは幸いであった。これで一眼の亀を修理することができる。出発時に故障したメインエンジンも修理され、本来の能力を発揮することができるのだ。

     その日の夜、一眼の亀の乗組員たちを歓迎する晩餐会が大レストランで開催されることに決まった。その前に、乗組員たちは大浴場で汗を流すことにした。
     女風呂。
    「久しぶりの湯船じゃあ」
     一眼の亀にはシャワーしかないから、大浴場の湯船に馬知子女王は大はしゃぎ。
     妖精たちも本来の姿に戻って、泳ぎ始めた。
     それらを横目に、澄は上品に背中を流す。
     だが、それを許しておくような状況ではなかった。女王が澄に近づいてきた。
    「さあ、覚悟おし」
     女王は澄を抱きかかえると湯船の中に投げ込んだ。

     こちらは男風呂。
    「隣は随分、騒がしいな」
     男たちは静かに湯船に浸かっていた。
    「石之伸」
    「何です、将軍」
    「長七郎殿も、大介も逝った。我々は教えを請うべき人々を一度に失ってしまった。正直この先、どのように戦えばいいのか、不安でならない」
    「以外ですな。将軍がこれほど心配性だったとは」
    「将軍職というのは何かと気苦労が多いものでした。そのせいでしょうな」
    「これからは皆から教えを請われる立場になる」
    「そ、それは」
    「判らないことは『判らない』。知らないことは『知らない』。それでいいではありませんか。無理に背伸びをする必要はないですよ。へたに先輩気取りなどしたら、皆からの信頼を失うだけです」
    「そうだな。気をつけよう」

    明日は艦内の正本堂において戦争で亡くなった全ての人々を供養する諸精霊追善法要が営まれる。今夜の晩餐会はいわば「通夜」を兼ねた歓迎会であった。風呂から上がった乗組員が続々と会場内に集まる。
    「これは見事な蓮の花じゃ」
     レストランに置かれた水槽の中に咲く今日、我々が「大賀ハス」と呼んでいる蓮の花を見た蘇我馬知子女王が座席に着くや感嘆した。
    「このような立派な蓮をわらわは今まで見たことがない」
    「ははは、それはそうであろう」
     上皇がやってきた。馬知子女王の斜め向かいに座る。正面には皇太后が座った。
     上皇が続きを話し始めた。
    「そちたちの国では今からおよそ千七百年も前に滅んでしまったからな」
    「ということは、昔は日本にも咲いておったのか?」
     その経緯について上皇が「竜宮に伝わる日本史」を語り始めた。それは現代のニッポン政府や文部科学省が認定する改竄だらけのシロモノものとは当然だが、大きく異なっていた。
    「我が国から豊玉・玉依の両姫が倭国に嫁いで以後、約一千年に渡り、倭国では法華経が信仰されていた。第九代・開化天皇の時代までの話だ」
     馬知子女王の目が輝く。馬知子女王も一度は「日本の女王」になることを夢見た人間。日本の歴史については大いに興味がある。
    「ところが、その後、宜しくない天皇が出現した。崇神だ。この者、あろうことか倭国を当時は後漢と呼ばれていた清国に売ったのだ。正法時代が終わって五年後の西暦57年のことだ」
    「何と。それはまことか?」
    「まことだ。その理由は後漢が持つ『鉄の武器』が欲しかったからだ。当時の倭国はまだ小さな国で、周りには幾つもの豪族たちが統治する強い国があった。それらを全て討ち滅ぼしたかったのだ。そして実際に戦争が始まったのが崇神の子である垂仁の時代だ」
    「垂仁と言えば、伊勢神宮を造った天皇じゃ。もしやそれは」
    「そうだ。戦争を起こすには軍国主義に基づく思想統制が欠かせない。伊勢神宮はそのために建てられた。それが理由で我が竜宮は倭国との国交を断絶した」
     法華経を捨てて軍国主義を志向するようになった倭国を竜宮は「見限った」のだ。
    「全国統一戦争を目論む崇神・垂仁の両天皇にとって平和を尊ぶ法華経は邪魔な存在でしかない。だから銅鐸を土の下に埋めた。そして法華経を連想させる蓮の花までも焼き滅ぼしたのだ」
     これが、大賀ハスが絶滅した理由!言われてみれば成程、確かに崇神・垂仁の時代に大賀ハスは地上から忽然と姿を消している。上皇の話を聞いた馬知子女王は当時の日本人の愚かさを憎まないではいられなかった。こんなに美しい花を焼き捨ててしまうなどとは。
     上皇の話は続く。
    「国交断絶後も我々は倭国そして日本をずっと見続けてきた。当然であろう。娑伽羅竜王の娘たち、豊玉・玉依の両姫君が輿入れした国なのだから。垂仁が始めた日本統一戦争の結果、日本の国土は大きく荒廃してしまった。女性の日の御子(=卑弥呼)を擁立することで漸く戦争は終焉したが、魔物が棲みつく伊勢神宮を敬い続けた結果、皇室の直系は武烈の時代に修羅界の波動がもたらす猛毒によって滅んでしまった。そこからは傍系による新たなる皇室の歴史が始まるわけだが、そんな日本に像法時代の法華経が伝来したのは正法時代に入って丁度、五百年目の西暦552年。欽明の時代だ。そこからはそなたもご存じであろう。そなたのご先祖である蘇我馬子は聖徳太子と共に仏教興隆のために立ち上がり、物部氏を討ち果たした。その褒美としてふたりを『竜宮に招待した』と記録にはある」
     蘇我馬子と聖徳太子は国交を断絶された竜宮に招かれていたというのか。
    「他にも最澄、日蓮を招いたとある。いずれも『法華経を守護する者』という理由によってだ」
    「日蓮が竜宮城に?それって九月二十一日の『あの出来事』のことか」
    「よくご存じで。西暦1271年、旧暦の9月12日。我々は竜宮城から光り物を発射。平頼綱麾下の武士たちを驚かしている間に招待した。その現象は地球では僅か1分の出来事だが、竜宮城では6時間だ」
     地球の一日は竜宮城の一年に相当する。従って1分は約6時間。今日「竜の口」と呼ばれている法難の地は言うまでもなく「竜宮城の入り口」という意味である。
    「豊玉・玉依姫以後の日本の歴史は良くわかった。それ以前、たとえば天照大神とは一体全体『何者』なのじゃ?」
    「豊玉姫から第九代・開化天皇までの時代を『弥生時代』といい、それ以前を『縄文時代』と呼んでいる。縄文は太陽を女性の神に見立てて崇拝するアミニズムの時代で、当時の人々は『土偶』と呼ばれる人形をつくって信仰のよりどころとしていた。だから土偶は全て女性で、男性のものはない。天照大神信仰はこうした時代の『名残』だ」
     今までの説明から次のことが判る。縄文時代は「女性上位」の時代。男は危険な狩猟に出る一方、女性は安全な家の中で子育てに専念していた。弥生時代は「男女平等」の時代。女性も稲作に従事するようになった。そして古墳時代から現代にまで通じる「男尊女卑」の時代が始まったのだ。理由は勿論、垂仁が始めた「全国統一戦争」だ。武勇が価値となり、腕力に劣る女性は下等とされたのだ。
     更に話は古代エジプトに移った。ここからは皇太后が話をする。その内容は驚くべきものであった。何と古代エジプトは竜宮人が建設した「地球出張所」だというのだ。そういえば、古代エジプト王家の紋章はロータスだ。これも菊の御紋同様、竜宮王室から伝承されたものであるに違いない
    「紀元前948年。私たちはエジプトを放棄しました。地球に『正法時代』が到来したからです。それまで天変地夭・飢饉疫蠣といった自然災害を引き起こす祟り神=魔物の力を恐れ、その前にひれ伏すしかなかった地球人類にも仏教という正義の剣を持って立ち上がり『悪と闘うべき時』が来たのです。私たちが去った後のエジプトには巨大な建造物だけが残りました。地球人類はそこにクシャ王国を建国しました。そして私たちは倭国とのみ交流を続けることにしたのです。豊玉姫が倭国に嫁いだのもこの頃のことです。理由は勿論、倭国との友好を深めるためでした」
     皇太后の話に頷く女王と将軍。どうやら理解できているようだ。
     それは当然である。「蘇我城の闘い」の後、女王と将軍はふたりで「世界中を旅していた」のだから。だからふたりは万里の長城も、強固な城壁に囲まれたウィーンも、完成間もないピカピカのベルサイユ宮殿(1682年完成)も、ヴェネチア軍の砲撃によって破壊される直前のパルテノン神殿(1687年破壊)も「自分の目」で見て知っていた。無論、ナポレオン軍の砲撃によって破壊される前のスフィンクスの鼻も。
     料理が運ばれてきた。晩餐会の開始だ。
    「これは美味い」
     平放蕩将軍をはじめ、誰もが料理に満足する。今まで宇宙食しか食べてこなかったことを鑑み、差し引いたとしても、ここの料理は確かに絶品である。
     よく見ると、皿の上には魚料理が乗っている。魚と言えば竜宮の妖精のご先祖では?
    「ふふふ。そんなことを気にしたことはありませんわ」
     皇太后が答える。
    「それは、あなた方が牛や豚の肉を召し上がったときに『同じ哺乳動物を食べるなんてとんでもない』と思わないのと同じです。祖先は同じ魚でも魚と魚の妖精は全く異なる生物なのです」
     生き物を食べることは「殺生」である。仏教では殺生は禁じられているはず。
     それについても皇太后が明確に返答した。
    「戦争による殺戮は生命境涯が修羅界の者による振る舞い故に『悪』であり、生命境涯が高い者による食事は殺生であっても『善』なのです」
     要は殺生もそれを行う者の生命境涯によって善にも悪にもなるということだ。
    華道という芸術がある。花壇の花を踏み荒らして喜んでいるならば、それは修羅界の振る舞いであり、その罪はとてつもなく重いが、華道において花を切ることは芸術=縁覚界の振る舞いであるから罪は軽いのである。
    部屋に出現したゴキブリをあなたが殺したとする。あなたの生命境涯が低いならば、その罪によってあなたは地獄に堕ちるだろう。だが、あなたの生命境涯が高いならば、あなたは地獄に堕ちることはない。それどころか、あなたが殺したゴキブリは来世に人として生まれ変わることができるのだ。それが生命境涯の高い人間が有する「ポテンシャル」であり、だからこそ自分の生命境涯を高める日頃の振る舞い=仏道修行が極めて重要なのである。
     殺生は人として生きている限り避けては通れない。要は自身の生命境涯を高めることだ。それによって自分の犯した罪を消滅するのだ。そのための仏道修行である。小悪は大善によっていくらだって消せる。でなければ一眼の亀に乗り込む者たちは、とてもではないがエルライス軍と戦えないだろう。
     そしてもっと言ってしまえば一見、正論のように見える主義や主張、更には慈善行為も「生命境涯の低い者による企て」であるならば、それらはきっと「悪」なのだ。そうした主義や主張、慈善行為の裏には「自分の人気取り」「裏で利益をむさぼる」といった邪な本音が潜んでいるに違いないのである。
     これは、熊退治にまつわる「クレーマー」による愚行を考えると判りやすい。そんなに反対ならば、匿名電話による役所への誹謗中傷ではなく、自分の体の肉を熊の餌として差し出せばいいのだ。舎利弗が自分の眼を欲しがる者に自分の眼玉を刳り抜いて差し出したように。しかも舎利弗の場合は「この眼玉は匂いが臭い」といって投げ捨てられてしまったが、熊は喜んであなたの肉を召し上がるだろうから「自分は立派なことをした」という充実感は得られる筈である(笑)。だが、そんな勇気や覚悟など、もとよりありはすまい。生命境涯の低い人間の発想は「私利私欲」を土台とし、多くの人々の利益などは一切考慮しない。それゆえに自分の感情を表現するのに匿名電話やSNSへの匿名投稿という手段を用いてクレームや誹謗中傷を繰り返すといった卑劣で卑怯で卑屈な卑しい方法しか思いつかないのだ。生命境涯の低い雑魚がいくら正義の剣を振りかざしてみたところで、そんなものは社会を乱し、人々に迷惑を掛けるだけの「悪の剣」にしかならないのである。

     別の席では石之伸と澄が王子と一緒に会食をしていた。
    「スピルマ、凄いことになっていたな」
    「申し訳ありません」
    「責めているのではない。あれだけ壊れているということは、それだけの激しい戦闘をあいつと共にやってきたということなのだと納得したのだ」
     こんなことを王子が言うのには訳がある。ドリアンが乙姫専用機であるように、スピルマは王子専用機なのだ。
    「当初、私は一眼の亀と合流したら、自分も戦闘に参加するつもりだった。我が愛機に乗り込んで。だが、スピルマはあなたに任せるのが最適と判断した。あなたとスピルマは既に『一心同体』だ」
    「恐れ入ります」
    「そして澄さん。ドリアンを使いこなすとは、あなたは実に素晴らしい素質の持ち主だ」
    「ありがとうございます。でも凄く疲れて、機体から降りた後はすぐに寝てしまいます」
    「当然です。ドリアンの操縦には莫大な精神力を消耗します。くれぐれも体を労ってください」
    「一つ質問してよろしいでしょうか?ドリアン。なぜ、蝶の妖精なのですか?魚ではなく」
    「あれは姉さんがまだ幼い頃、舞台劇を演じた際に着ていた衣装をそのままモデルにしたのです。とても可愛かったものですから。ですが、それは『厭な思い出』ともセットでしてね」
    「厭な思い出?」
    「その舞台劇。遭難した竜宮の船を救助してくださった方々をおもてなしする場で上演したのですが、その方々というのが当時はヤダユ船団の将軍だった現エルライス総統・ヤネニフタなのです」
     何という「運命の悪戯」なのだろう。
    「私はその時、子供ながら『厭な予感』を感じました。姉さんを見るヤネニフタの視線に『熱い』ものを感じたからです。こいつはきっと『姉さんに害をなす奴』だと思ったのです。そしてその予想はあたりました」
    「王子。乙姫は必ず救い出します。あなたのスピルマで」
    「私も、お姉さんのドリアンで必ず」
    「頼みます。あなたがたを信頼しています」

     翌日。
     予定通り正本堂において諸精霊追善法要が営まれた。上皇の導師により唱題が恙なく行われた。
     法華経の題目の声は三世一体の交流時間によって現在だけでなく過去にも轟く。それが法華経の題目を唱えることで先祖回向が可能な理由であり、過去に犯した自分の罪を消滅できる理由でもある。
     その後、石之伸たちは会議室に集合した。今後の計画を練るためである。まずやらなければいけないのは「組織の再編」だ。艦長を誰にするか?その基準をこの場に同席したトラウツボ王子が語り始めた。
    「一眼の亀は姉さんのために開発された『サイコシップ』ですから、武器を使用するにはサイコ能力が必要です。ですから武器を使用する者が艦長席に座る必要があります」
     武器?一眼の亀には武器が装備されていたのか。
    「一眼の亀には二種類の武器があります。戦艦を一撃で破壊する『ギガ主砲』。そして遠距離の敵艦隊を一撃で消滅させる『ハイギガハート砲』です」
     これらを使うことができたなら、長七郎も大介も阿綺羅も死なせずに済んだ。後悔にも似た思いが皆の心に浮かんでくる。ともあれ、以上の説明からすると最適なのは澄だ。だが、澄をドリアンから降ろすなど考えられないことだ。
    「超能力なら、わらわにもあるぞ」
     馬知子女王が自ら名乗りを上げた。確かに、馬知子女王には澄と対等に戦うことのできるだけの超能力が備わる。
    「取り敢えず、確認しましょう」
     ということで、全員で修理中の一眼の亀のブリッジに向かう。
    「艦長席。気分いいわー」
     馬知子女王、はしゃぎ過ぎ。
     ここからは王子のいう通りに操作することが求められる。
    「ではまずギガ主砲からいきましょう。念じてください」
    「念じるぞー。それー」
     三葉虫のように三葉に分かれた背中の甲羅の左右がガルウイング状にガバッと開いた。中には左右に一つずつギガ主砲が装備されている。
    「収納してください」
    「発射したらいかんのか?」
     今、発射したらドックが吹っ飛ぶ。
    「つまんないなあ」
     渋々、左右の甲羅を閉じる女王。
     さて、いよいよメインとなる超兵器・ハイギガハート砲である。
     ハイギガハート砲の特徴はコスモパペット用のハート砲がエネルギー粒子を広範囲に拡散させ、多くの敵を一度に消滅させることを目的とする近距離兵器であるのに対し、エネルギー粒子を一点集中させる遠距離兵器であることで、発射から約35秒で一千万㎞先の敵艦隊を消滅させる威力を持っている。こうした兵器の「特性の違い」は近・中距離の敵にはギガ主砲で対処するという発想によるものだ。
     だが、果たして女王に使用できるだろうか?
    「ハイギガハート砲の準備をしてください」
    「ハイギガハート砲、発射準備」
     女王が想像絶頂を開始した。本来はこれで中央の甲羅がリトラクタブルするのだが、中央の甲羅はピクリともしない。
    「全く動かないぞ」
    「女王様。もっと激しく感じないといけないのでは?」
    「そ、そうか」
     皆の前で感じている仕草を見せる。
    「あん、あん、ああーん」
     男たちも見ている前で恥ずかしいのを我慢して必死に体をくねらせる女王。だが、結果は同じ。
    「一体全体どうなってんじゃあ」
     女王は艦長席を立ち上がった。
     ここで平放蕩将軍が「決定的なひと言」を漏らした。
    「これは女王様が『お年を召されている』からではありませんか?」
    「なんじゃとお!」
     女王は激昂した。
    「わらわはまだ若い。失礼なことを申すな将軍!」
    「申し訳ありません」
     だが、王子は将軍の意見に同意を示した。
    「ハート砲は女性の愛情に反応する兵器。女王様、生理はおありですか?」
    「な、ない」
     女王はとっくの昔に閉経していた。
     どうする?
     王子曰く。
    「方法はあります」 
     かくして女王の「若返り作戦」が始まった。帝王の蟹の中にあるフィットネスクラブに通い、赤いレオタードを着て懸命にフィットネスに励む女王。お世辞にもセクシーとは言えない現在の体のラインがコークボトルへと大きく変化したとき、果たして女王にもハイギガハート砲が使えるようになるだろうか?
     そして操舵手は平放蕩将軍と決まった。女王との相性を考えれば当然の結果と言えよう。
     その結果、ブリッジ要員は艦長が蘇我馬知子女王、操舵手が平放蕩将軍、通信士が海尊枝蕾、索敵が美蕾、戦力分析が怪蕾ということになった。
    「どうじゃ、このメンバーで新たに『冥堕』を名乗るっては?」
    「それは素晴らしいアイデアです、女王様」
     かくして一眼の亀はさながら「天翔る蘇我城」といった状況になるのだった。
     やれやれ。

     その一眼の亀だが結局、修理にはひと月ほど掛かるという。その間、一眼の亀には戦闘能力はない。防衛は二隻の空母が全てを担うことになる。
     そして、ほぼ1週間に1回の割合で戦闘があり、全て撃退に成功した。二隻の空母の防衛力は完璧であった。ダッチャンことダツ中将の采配は常に落ち着いており、ラーメンことアツモリウオ少将の振る舞いも実にクールだ。
     修理の間、帝王の蟹はゆっくりと天の川銀河の中心に向かって進んでいた。そんな帝王の蟹の周りにはいつの間にか50隻ほどの民間宇宙船が集まっていた。これらはエルライス軍の攻撃によって故郷の星を追われた人々が乗る難民船である。ノレンバ、シアリ、ヨンダル、ライン、そしてチナパレス。帝王の蟹からはそれらの船に食料を初めとする物資が供給されていた。
     その物資を運ぶシャトルのひとつに馬知子女王と平放蕩将軍が乗っていた。その理由は「難民の現状」をその目で見たかったからだ。さすがは女王。彼女には人の上に立つだけの器が備わっている。
     シャトルが到着。難民船の中に入る。中にいるのは老人と幼子を連れた若い女性ばかり。若い男性は見当たらない。皆、星に残り、戦っていることが容易に推察できる。
     老人が泣きながら語る。
    「目の前で息子夫婦を殺された」
     別の老人は。
    「娘を敵の兵に連れ去られた」
     幼子を連れた母親は。
    「夫は星に残って敵と戦っています。無事でいることを願っています」
     女王はこれらの人々の話に体をブルブルと震わせずにはいられなかった。
     難民船の視察を終えたふたりがシャトルに戻る。
    「女王様」
    「将軍。わらわは決意した。これらの者たちのためにも、この戦い『断じて勝つ』とな」
     
     一方、こちらは石之伸と澄。ふたりは偶然にもチナパレス星、現在のエルライス星から脱出した難民船にやってきていた。状況は女王と将軍が見たものと似たようなものである。
     若い女性が抱きかかえる幼子。よく見ると右足がない。
    「爆弾で吹き飛ばされたのです」
     別の若い女性が抱く幼子も右腕を失っていた。機銃掃射を浴びたとのこと。女性自身も顔に傷を負っていた。
     ふたりはその後も沢山の人と話をし、ある者に対しては慰めの言葉を掛け、ある者に対しては励ましの言葉を掛けた。その結果「エルライス星の実情」が判ってきた。
     現在、エルライス星では「人道都市」が建設中であるという。それは名前とは裏腹の「強制収容所」であり、そこに先住民族であるチナパレス人を全員収容、人としての「あらゆる権利」を奪い「家畜」として遇するという恐るべき反人道計画であった。
    「許せん」
     石之伸は拳を握りしめた。
    「チナパレスの人々を解放しなくては」
     澄も唇を噛み締めた。
     ふたりもまた「新たなる決意」を抱いてシャトルに乗り込むのだった。

     二匹の亀がドッキングしてからひと月が経った。
    「リフトダウン・ザ・オールアーム」
     一眼の亀を支える全てのアームが下降を開始した。一眼の亀が帝王の蟹の甲羅の外に姿を見せる。
    「オープン・ザ・ヘッドアーム」
     まず首を支えるアームが解除された。
    「オープン・ザ・ボディズアーム」
     続いて残り8本の足が開く。
    「一眼の亀、ゆっくり下降してください」 
    「了解。一眼の亀、下降する」
     一眼の亀が帝王の蟹のドックからゆっくりと下降する。
    「前方クリア。いつでもどうぞ」
    「行け。発進じゃ」
    「メインエンジン点火。一眼の亀、発進します」
     平放蕩将軍の叫びと共にメインエンジンが点火。一眼の亀は帝王の蟹の下から前に飛び出した。

     帝王の蟹。
    「一眼の亀、発進しました。加速良好」
    「うむ」
     ブリッジからその姿を眺めるトラウツボ王子。
    (姉さんを頼むぞ)
     この後、帝王の蟹は50隻の難民船を連れて竜宮へ帰艦する予定である。竜宮では破壊されたスペースコロニーの修復作業が進められており、いくつかは既に「使用が可能」という話であった。そこへ難民を移住させる計画だ。竜宮の人々は地球人、なかんずくニッポン人ほど無慈悲ではない。同じ星の種族は勿論、エイリアンに対しても迫害・差別・排斥など考えても見ないのだ。

     一方、一眼の亀のブリッジ内では「とんでもないこと」が起こっていた。
    「うわあ」
    「きゃあ」
     石之伸と澄が後方に大きく転がって転倒した。平放蕩将軍がアクセルを全開にした結果、急加速で発進しすぎたのだ。今までは後足のサブエンジンのみで飛行しており、その感覚でアクセルレバーを操作したところ、修理が完了した前足のメインエンジンが全開状態になったからだ。一眼の亀は旧型艦ではあるが、当時の乙姫王女のために一艦のみが製造された「お召艦」であり、量産型の戦艦や空母とは違う。今でもその性能は充分に第一線で通用する。
     この加速によるGには着座するクルーたちも閉口した。
    「将軍。何をしておる。速く減速せんか」
    「申し訳ありません」
     将軍がアクセルレバーを戻す。加速は穏やかになった。

     アジの開き。
     ダツ提督の心は揺れていた。できるならば一眼の亀と一緒にエルライス星まで同行したいと思っていたのだ。だが、それはできないことだ。自分には帝王の蟹を護衛するという大事な使命があると必死に言い聞かせていた。
    「提督。トラウツボ王子から通信が入っています」
    「メインモニターに映せ」
    「提督。帝王の蟹は今から竜宮へ向かって発進する」
    「判りました」
    「提督。上皇の命を伝える。心して聞け。お前たち二隻の空母は一眼の亀に同行せよ。以上だ」
    「な」
    「どうした?不満か」
    「ですが、私たちの任務は帝王の蟹を護衛することです。もしも帰艦途中に敵と遭遇することになれば」
    「その心配はない。ここから竜宮までの空間に敵はいない」
    「王子」
    「行け。行って一眼の亀を助けてやれ」
    「了解しました。直ちに一眼の亀を追います」
     上皇の命などない。これは王子の独断であった。王子はダツ提督の心の底を見抜いていたのだ。
     二隻の空母が一眼の亀を追う。それを見届けてから王子は命じた。
    「反転180度。竜宮へ戻る」
    「反転180度。目標、竜宮」
     帝王の蟹が反転。メインエンジンが点火された。
     50隻の難民船を連れて帝王の蟹が故郷を目指し、出発した。

  • 次回予告

  • 天の川大銀河の中心を越えた一眼の亀たちの前に出現したのは、
    巨大な浮遊隕石から成るエルライス軍の宇宙要塞。
    これだけ巨大だと並の兵器では歯が立たない。
    今こそハイギガハート砲を発射するときだ。
    だが、馬知子女王にそれができるだろうか?
    次回・文殊の剱
    「将軍初体験」
    8月23日(土)19:30
    宇宙の旅は続く。



  • 11

  •  エルライス星。
    「どうしてもやるのですか?総裁」
    「ああ。どうしてもだ」
    「考え直してはいただけませんか?」
    「私の決意は堅い」
    「ですが、一つ間違えれば、死ぬことだってあり得ます」
    「私も元は軍人だ。心配ない。あらゆる拷問に耐える訓練も受けている」
    「判りました」
     ここはイセサレムにある軍の研究所。ヤネニフタ総統は自ら進んで「サイコ能力」を開発するための実験を行おうとしていた。
     ヤネニフタ総統が球体のケージの中に入る。
    「さあ、初めてくれ」
    「実験開始」
     ドクター・サラーがスイッチを入れた。
     ケージに電流が流れ、ケージの中が特殊な地場で包まれた。ヤネニフタ総統の全身が激しくスパークする。
    「ううーっ」
    「大丈夫ですか?」
    「大丈夫だ。このまま続けろ」
     必死に苦痛に耐えるヤネニフタ総統。しかしなぜ、こんなことをするのか?
     アシベ艦隊を始め、チンプー艦隊、更にはタカビー艦隊まで撃破された。総統は一眼の亀の実力に「恐怖」を抱いていた。もはや他人をあてにしている時ではない。自ら戦わねばならない。これはそのための試練なのだ。
     だが、サイコ能力を開発とは。まさかヤネニフタ総統はサイコパペットに乗るつもりか。ということは、エルライス軍は「サイコパペットの開発」に成功したということか?

     一眼の亀と二隻のヒラキ型空母の前に天の川大銀河の中心が迫っていた。その中心には勿論、巨大なブラックホールが鎮座する。このまま真っ直ぐ進むわけにはいかない。右と左、どちらを抜けるべきか?通常であれば2億年を掛けて時計回りに一回転している天の川大銀河の左側を通過するのが正しい。それが最もエネルギーロスが少ないからだ。だが、そのルートには当然、敵艦隊が待ち伏せているだろう。では、右側から通過するか?敵が再び軍事侵攻しているとすれば、当然、彼らにとってエネルギーロスの少ない右側をこちらに向かってきているだろう。こちらも敵と遭遇する可能性は有り得るのだ。
     結論から言うと、三隻は右も左も選択しなかった。ブラックホールの真上を通過することにしたのだ。いわゆる「中道」である。真上を通過するということは、富士山に麓から登り、再び下山するようなルートを辿ることになる。エネルギーロスは実のところ最も激しいルートである。だが、それでもこのルートを選択したのには訳があった。山頂に登れば麓を一望できるように、ブラックホールの真上を通過する際に天の川大銀河の全貌を見渡せるからだ。自分たちがこの先、進む世界を是非とも見ておきたかったのだ。
     推力に問題はない。一眼の亀はもとより、ヒラキ型空母も帝王の蟹に随行する船だ。ブラックホールの引力に引っ張られるようなことはない。只、問題はある。それはブラックホールが発生する地獄界の波動だ。天の川大銀河の円盤から外れた空間には遠心力がない。つまり、ブラックホールが発生する地獄界の波動をもろに浴びることになるのだ(三相性理論では重力と波動は相対性の関係にある。従って重力が強い場所では生命境涯は下がる。そして遠心力にはその働きを抑える効果がある)。それは生物を「無気力・無感動」へと誘う波動であり超時間、それを浴び続けるならば「旅なんかもう止めよう」と思うようになってしまうかも知れないのだ。それを克服するには持ち前の「信仰心の強さ」を発揮する以外にはない。
     三隻が同じ空間にワープ・アウトするためにワープ回路がシンクロされた。
    「重力制御装置三艦同期、異常なし。作動継続。船体質量、光子よりも軽くなります」
     三隻が寸分違わぬタイミングでワープに入った。

     自室。
     石之伸は先に交わしたトラウツボ王子との語らいを思い返していた。
    「そうですか。竜宮城のドックには一眼の亀しか残っていなかったのですか」
    「ええ」
     トラウツボ王子の顔が曇った。
    「竜宮王室が保有するお召艦は『一眼の亀』と『帝王の蟹』以外にもう一隻あります」
    「もう一隻?」
    「そうです。一眼の亀は姉さんがまだ王女であった頃に愛用していた船。そして帝王の蟹は武器を一切持たない外交艦」
    「すると、残る一隻というのは」
    「そうです。くれぐれもご注意ください。竜宮城のドックになかったということはエルライスが持ち去ったに違いありません」
     どうして一眼の亀だけが竜宮城のドックに残されていたのか。お召艦なのに、なぜ蓮紋がついていないのか。その謎がこれで解けた。女王に即位した乙姫にはそれに相応しい「新たなるお召艦」が用意されていたのだ。だから王女時代のお召艦である一眼の亀はもう「使用されることはない」ということで蓮紋を外され、封印されていたのだ。そのおかげで一眼の亀はエルライスによって奪われることなく、今こうして「乙姫救出の旅」に使用されているとは、何という運命の悪戯だろう。
     そして「女王のお召艦」は乙姫が閉じこもる無量宝珠と共に、今は敵の手中にある。その能力が一眼の亀を遙かに上回るものであることは容易に想像できる。
     敵がそれを繰り出してきたとき、闘いは文字通り「熾烈を極める」ものとなるだろう。
    「だが負けない。我々は必ず勝ってみせる」
     石之伸は決意を新たにするのだった。

    「ワープ・アウト」
     三隻は無事にブラックホールの真上を通過した。一気に視界が開ける。頭上は暗闇だ。
    「おおっ!」
     それに対し、下には何とも煌びやかで幻想的な「光の世界」が広がっていた。それこそ紛れもない、今まで見ることのできなかった天の川大銀河の反対側の姿に他ならなかった。それはある種、夜に大都市近郊の山に登ったときに感じる感動、或いは真っ暗な夜の高速道路を走行中、トンネルを抜けたら突然、明かりに満ちた街が出現した時に感じる感激に通じるものがあった。そして正面奥には青白く光り輝く、もうひとつの渦巻き銀河が見える。それが旅の目的地、エルライス星のある天の川小銀河に他ならない。
     暫くの間、その美しさにうっとりと眺めるクルーたち。だが、いつまでもそうしてはいられない。早いところもう一回ワープして、再び遠心力のある天の川大銀河の円盤内に戻らねばならない。
    その時、美蕾が叫んだ。
    「レーダーに反応。0時の方向に何か巨大な浮遊物があります。どうやら巨大な隕石のようです」
     こんな空間に隕石?怪しい。
    「監視カメラ、最大望遠」
     スクリーンにはアンボイナガイそっくりの形をした巨大な隕石が映っていた。だが、それはただの隕石ではなかった。
     石之伸が呟いた。
    「これは敵の宇宙要塞だ」
     そう。それはエルライス軍が巨大隕石を使って建設した中間補給基地であった。この隕石の外観をアンボイナガイたらしめている縦に真っ直ぐに走る深い溝には無数の発着ポートがあり、そこには多くの軍艦が係留されていた。エルライス星を出発した艦隊はここで補給を受け、天の川大銀河のブラックホールの反対側へと侵攻するのだ。
    「なんてことじゃ。よもや、こんなところに敵の補給基地があるとは夢にも思わなんだ」
    「どうしますか、女王様?一気に降下して円盤の中に逃げ込むことも可能ですが」
     敵がこちらに気が付いていない今なら、一気に降下。天の川大銀河の円盤内に雲隠れすることができる。だが、女王は気性が激しいご性質。そんなことはすまい。
    「決まっておる。戦うのじゃ。これを破壊しておけば、もう我らの後ろへは侵攻できないはずじゃ」
     やっぱり。たしかに「その通り」ではある。だが、それは果たして可能なのか?
     怪雷が敵の宇宙要塞を計測した。
    「縦30㎞、横24㎞」
     縦はスペースコロニー並み。横はその4倍もある。しかも相手は隕石である。スペースコロニーのように「空洞だらけ」ということはあるまい。
    「敵が動き出しました。迎撃ミサイル、多数接近」
     敵も気が付いたようだ。戦うと決めた以上、もはや一刻の猶予もない。
    「コスモパペット隊は全機、発進じゃあ」
     一眼の亀の左右の甲羅がガバッと開いた。

     宇宙要塞サントウセイ。
    「司令。未確認の宇宙船を発見しました。その数、三隻」
    「直ちに確認しろ。第一級戦闘態勢に移行」
     ヤサヌキ要塞司令が戦闘準備指令を出した。
    「敵の正体は判ったか?」
    「二隻は不明。ですが、残りの一隻は例の『海亀』のようです」
    「なら、残りの二隻も敵よ。発進できる軍艦から直ちに発進させなさい」
     突然の敵の出現。こちらも相当、慌てているようだ。
    「乗組員が全員、下船しており、しかもメインエンジンを停止しているため、すぐには発進できません」
    「ならば迎撃ミサイルを発射しなさい。『あれ』を混ぜて」
    「えっ?あれってまさか」
    「早くなさい」
    「ですが」
    「敵を撃沈するには、それが最も安上がりです」
    「了解。迎撃ミサイル発射します。あれを混ぜて」
     多数の迎撃ミサイルが一眼の亀とヒラキ型空母に向けて発射された。

    「ギガ主砲の威力を受けてみよ」
     一眼の亀に装備された二発のギガ主砲が唸る。見事に命中。誘爆によって平行飛行する全てのミサイルが爆発する。
    「なんじゃ?」
     そのうちの一発が、とてつもない威力で大爆発した。
    「あれは核ミサイルです。女王様」
     何と、敵の宇宙要塞は核ミサイルを通常弾頭のミサイルに混ぜて発射していたのだ。もしも命中していたら一眼の亀はひとたまりもない。
    「第二波、来ました」
    「発射」
     ギガ主砲が発射される。誘爆。そして大爆発。
    「1回でもギガ主砲を外したら終わりじゃ」
     流石の女王も緊張する。
     平放蕩将軍が叫ぶ。
    「コスモパペット隊はどうした。発進したのか?ミサイルを迎撃してくれ」
     中山が言い返す。
    「冗談だろう?核ミサイルをコスモパペットで迎撃などできるものか」
    ジャンダルのビームライフルの射程では核ミサイルの爆発に巻き込まれる危険が高い。スピルマは論外だ。スピルであれば遠距離からの狙撃が可能だが、スピル隊は現在、存在しない。女王が艦長に、将軍が操舵手に就任したからだ。
     だが。
    「石之伸スピルマXX、発進する」
     石之伸が発進した。えっ、スピルマXX?この名称は一体全体どういうことなのだ。よく見れば、スピルマの背中にスピルのビームキャノン砲が乗っかっている。そう。XXとはこの状態のスピルマの名称である。帝王の蟹でスピルマは改造されたのだ。飛行形態時にスピルのビームキャノン砲を装備できるようにスピルマの股間部分にビームキャノン砲を固定する旋回式のパイロンが装備されたのだ。ビームキャノン砲を装備するときには股間を防備するガーダーが後方に下がる。勿論、ステルス性能はなくなってしまうが、攻撃力は格段にアップした。そしてパイロットを失ったスピルは結局、修理されることはなく、共通部分の多いスピルマの部品取りのパーツとなったのである。
     再びミサイルが横一列になって飛んできた。
    「やってみるか」
     スピルマがビームキャノン砲を真横に旋回させた。ミサイルが真横に来た。
    「発射」
     ビームキャノン砲がミサイルを真横から串刺しにした。やはり核ミサイルが含まれていたようで、大爆発が発生したが、その時には既にスピルマは高速飛行性能を生かし、ミサイルの横を通過。遙か彼方まで離れていた。しかし、それにしても高速飛行するミサイルを同様に向かい合わせに高速飛行するスピルマで串刺しとは。石之伸の射撃の腕は相当のものだ。だが、それは驚くには当たらない。「剣の腕」にばかり注目が集まり、もう忘れているかも知れないが、石之伸は碁石を手裏剣のように操る「飛び道具の達人」でもあるのだ。
    「このまま突っ込む」
     スピルマXXはそのまま宇宙要塞に向かって飛行するのだった。

    「澄ドリアン、発進します」
     スピルマXXに続いてドリアンがカタパルトデッキから飛び出す。
    「タンバリン」
     タンバリンを起動。コスモドローンならば核ミサイルに巻き込まれても問題ない。
    「中山。みんなも発進するのよ」
    「で、ですが」
    「みんなは宇宙要塞のミサイルローンチャーを破壊するのよ」
     ジャンダルの能力では飛行するミサイルの迎撃は無理だが、敵の要塞に接近してミサイルローンチャーを破壊することはできる。
    「判りました。聞いた通りだ。みんな出撃するぞ」
     四機のジャンダル隊も発進した。
     その直後、一眼の亀の真横にアジの開き空母が並んだ。
    「空母から通信です」
     海女尊枝蕾が女王に通信を繋ぐ。
    「ミサイルは我々のギガ主砲で撃墜します。その間に、そちらはハイギガハート砲の発射準備をしてください」
    「なんじゃと?」
    「あれだけ大きな要塞です。ギガ主砲では破壊できないし、コスモパペット隊が全てのミサイルローンチャーを破壊するには時間が掛かります。この場を乗り切るにはハイギガハート砲を使用する以外にはありません」
    「わ、わかった」
     女王がハイギガハート砲の発射準備を開始する。
    「想像するのじゃ。わらわが理想の殿方に抱かれているところを、想像するのじゃ」
     必死に想像する女王。だが、ハイギガハート砲はピクリとも動かない。
    「だ、だめじゃ。わらわには無理じゃ」
     第三波が来た。ドリアンとアジの開き空母のコラボレーションでどうにか迎撃に成功した。だが、次も成功するという保証はない。

     一眼の亀のジャンダル隊とヒラキ型空母のアングラー隊が合流。要塞に向けて飛行する。
    「あと三秒で攻撃可能エリアに入る。みんな気張れよ」
     既にスピルマXXが攻撃を開始していた。既にいくつかのミサイルローンチャーと対空砲を破壊しているようだ。
    「よし。全機、攻撃開始」
     コスモパペット隊が宇宙要塞サントウセイに攻撃を開始した。だが、その何十倍もの反撃がコスモパペット隊を襲う。さすがは宇宙要塞。対空砲の数は戦艦の比ではない。
    「だめだ。近づけない」
     コスモパペットによる要塞への突入攻撃には軍艦による援護射撃が欠かせない。だが、それは今、期待することはできない。
     要塞の中から敵のコスモパペット隊が上がってきた。圧倒的な物量にものを言わせて襲いかかってくる。パイロットの練度はこちらが上でも、これではかなわない。このような場合、本来は「引け」なのだが、引いたら敵のコスモパペット隊が一眼の亀に襲いかかってしまう。圧倒的に不利な状況下ではあるが、女王がハイギガハート砲を発射するまで、今は闘うしかない。

     一眼の亀。 
    「そ、そうじゃ」 
     女王が何か閃いたようだ。
    「将軍」
     女王は将軍を呼んだ。
    「何です、女王様」
    「わらわを抱け」
    「は?」
    「わらわと接吻するのじゃ」
     平放蕩将軍は我が耳を疑った。
    「今、なんとおっしゃられましたか」
    「だから、わらわと愛し合うのじゃ。早くせい」
    「お、お待ちください、女王様。こんな時に、しかもこのような場所で」
    「時間がないのじゃ。お主は死にたいのか」
    「で、ですが」
    「構わぬ」
    「わ、判りました」
     将軍が艦長席の前にやってきた。
    「では、参ります」
    「はよせい」
    「皆は余所を向け」
     海女尊枝蕾、美蕾、怪蕾が「見て見ぬ振り」を装う。
    「では、始めますぞ」
     将軍は女王の体の上に乗った。
    実のところ、これは将軍にとって初めての体験であった。真面目に糞がつくほどの真面目さを誇る平放蕩将軍は女王に仕えて以来、一度として女性に心を動かしたことがなかったのだ。
    一眼の亀の甲羅の中央がガバッとリトラクタブルした。

     ああっ、ああっ、ああっ

     更に砲身が延びる。

     ああっ、ああっ、ああああああーっ!

     その瞬間。ハイギガハート砲が唸りを上げた。恐るべきエネルギー粒子の塊が宇宙要塞サントウセイに向かって突き進む。

    「む」
     あの闘い以降、富みに勘の鋭くなった石之伸がハイギガハート砲の接近を感じ取った。
    「全機、待避。急げ。巻き込まれるぞ」
     スピルマXXをはじめ、ジャンダル、アングラー全機が要塞から離脱する。その直後、ハイギガハート砲が宇宙要塞サントウセイの中央に突き刺さった。巻き込まれた敵のコスモパペットは瞬時に消滅。それだけでない。対空砲も、ミサイルローンチャーも、停泊中の戦艦も。否、宇宙要塞を構成する岩石までもが焼かれていく。
    「これが『ハイギガハート砲の威力』なのか」
     ハイギガハート砲の光が消えた。一瞬、宇宙が何も見えない暗闇と化し、再び見えるようになったとき、改めてハイギガハート砲の恐ろしさを感じないではいられなかった。宇宙要塞の中央部分が巨大なクレーターのように大きく抉れていた。そして四方に向かって無数の罅が走る。やがて、その罅が大きく拡大し始め、宇宙要塞はバラバラに分解し始めた。

     宇宙要塞サントウセイ作戦司令室。
    「な、何があったの」
    「敵の新兵器による攻撃です。我が軍のコロニー・マグナム級の破壊エネルギーがサントウセイを直撃しました」
    「そんなバカな。敵はたった三隻の軍艦だろうが」
    「しかし、事実であります」
    「被害状況は?」
    「判りません。内線は全てズタズタです」
    「なんということだ」
    「司令、退去命令を」
    「この宇宙要塞を『捨てろ』というのか?」
    「今のままでは、どうすることも」
    「わかった。脱出する」
     この判断は懸命だった。要塞はまさにバラバラに分解し始めていたのだ。
     ヤサヌキ司令は作戦司令部の者たちと共に無傷の戦艦に乗り込んだ。
    「発進」
     戦艦ポピュリズムが発進する。
     だが。
    「敵のコスモパペット隊が正面にいます」
     ハイギガハート砲による攻撃が終わり、再び竜宮艦隊のコスモパペット隊が集結していたのだ。
    「奥に敵の軍艦が」
     一眼の亀とヒラキ型空母も迫る。その三隻を護衛するドリアンも。
    「主砲発射準備、急げ。生き残っている味方のコスモパペット隊には本艦を護衛させよ」
     しかし。
    「味方のコスモパペット隊はおりません」
     既に全滅していたのだ。
    「通信が入っています」
     通信はアジの開き空母からであった。
    「闘いは終わった。おとなしく降伏しろ」
     竜宮艦隊は敵に対し「投降」を勧めたのだった。その理由は無論「敵の詳しい戦力を知りたいから」ではあったが「人道的な配慮」も考えてのものであること言うまでもない。
     だが。
    「もはやこれまで。戦艦ポピュリズムを海亀にぶつけてやるのだ」
     ヤサヌキ司令は部下たちに「特攻」を命じた。
     副官が立ち上がった。
    「もうおやめください。我々は負けたのです。降伏しましょう。相手は仏教を奉じる竜宮軍。よもや降伏した相手を虐待などしないでしょう」
     
     バキューン

    「あ」
     倒れる副官。撃ったのは勿論、ヤサヌキ司令だ。
    「愚か者め」
     愚か者が良識ある判断をした副官を、そう罵った。
    「突撃せよ。拒めば、お前たちもこうなる」

    「この動き。特攻を仕掛ける気だ」
    「止むを得ん。撃ち落とせ。何としても撃沈するのだ」 
     戦艦ポピュリズムに向けて激しい攻撃が行われる。だが、特攻を覚悟した戦艦には怨念でも乗り移っているのか?なかなか撃沈できない。

     一眼の亀。
    「ギガ主砲!」
     甲羅の左右が上に持ち上がる。戦艦ポピュリズムにメガ主砲の照準を合わせる。だが、距離が近すぎて上手く合わせられない。
    「ダメです、間に合いません。激突します」
     舵を切り、回避運動を取る平放蕩将軍が叫ぶ。
    「将軍、落ち着くのじゃ」
     女王はこの危機の場面で妙に落ち着いていた。
    「うわああああああ」
     将軍の絶叫。将軍は頭を下に向け、目蓋を閉じた。
     その時。
    「戦艦が消えた」
     皆が見ている前で戦艦ポピュリズムが消えた。
     ドリアンである。ドリアンがハート砲を発射したのだ。女王の落ち着きは「澄が救ってくれる」ことを予感していたためだ。サイコシップ・一眼の亀を操縦できる女王にも「数秒先の未来」を予知する能力があるのだ。

     一眼の亀・ブリッジ。
     闘いが終われば、そのあとは「反省会」と決まっている。今回の闘いで最も話題になったのは言わずもがな平放蕩将軍であった。
    「そなたは下手糞じゃ」
     女王ににべもなく言われてしまった将軍。男にとって、これほどの屈辱はない。
    「それに、そなたがこれほど『臆病』だとも思わなかったぞ。敵の戦艦の特攻くらいでビビりおって」
    「申し訳ありません、女王様」
     いつもは凜々しい平放蕩将軍もこの時ばかりは、さすがに凹む。 
     だが、女王はやはり将軍には「優しい」のだった。
    「わらわがそなたに度胸をつけさせてやる。今からわらわの部屋に一緒に参るのじゃ」
     女王の部屋?これって。
    「石之伸様。あなたも今から私の部屋に来ません?」
     澄が石之伸を流し目で誘う。それに対し石之伸は首を横に振った。
    「まあ!」

  • 次回予告

  • ヤネニフタ総統は竜宮城から奪った最新鋭の空母を雄兵衛に与えた。
    遂に雄兵衛が一眼の亀撃沈に向け出撃する。
    だが、その前に雄兵衛には倒すべき相手があった。
    そう。一眼の亀に随行する二隻のヒラキ型空母だ。
    次回・文殊の剱
    「激突、雄兵衛VSヒラキ型空母」
    9月6日(土)19:30
    宇宙の旅は続く。



  • 12

  •  エルライス軍が核ミサイルの使用を辞さないことが明らかとなった結果、竜宮艦隊は「艦隊の隊形」を変更せざるを得なくなった。今までは一眼の亀の左右に展開していた二隻のヒラキ型空母が先行し、その後ろを一眼の亀がついていくのだ。「一眼の亀を核ミサイルから護る」ことが最優先された結果だが、言うまでもなくこの隊形は二隻のヒラキ型空母を「囮にする」ことを意味した。無論、馬知子女王をはじめ一眼の亀のクルーは全員反対したのだが、何としても一眼の亀をエルライス星に送り届けるという使命感に燃えるダツ中将とアツモリウオ少将の意思を変えることはできなかった。

     一眼の亀。
    「アーガマとスジャータはこちらのレーダー圏外です」
    「ダツ提督に通信を入れよ」
     アーガマ、スジャータ。前者がアジ型戦闘空母の、後者が軽空母の名前である。いずれも仏教に関連することはいうまでもない。前者は仏陀の言葉を最初に纏めた経典『阿含』から、後者は仏陀に乳粥を食べさせた少女の名前から採られた。
    「アーガマ、アーガマ応答せよ。こちら一眼の亀」
    「こちらアーガマ」
    「こちらのレーダーにそちらの姿が映っていません。もっと下がるようにとの女王様からの命令です」
     少し間を置いて。
    「『その必要はない』とのことです。我々はこのまま先行します」
    「全く、困ったものじゃ」 
    「いかが致しましょう」
    「兎に角、連絡を密にするのじゃぞ」
    「それは大丈夫です。二時間おきに通信を入れるようにしています」
     
     イセサレム宮殿。
    「雄兵衛、参りました。ブイブイー」
     ヤネニフタ総統が雄兵衛を宮殿に招いた。その時、雄兵衛は凡そ雄兵衛には似つかわしくない七名の美姫を連れていた。
    「その女が、例の女たちか?」
    「そうです。私の足となる通称『DP戦隊』です」
     左から順番にDP-7F、DP-15F、DP-23F、DP―37F、DP-45F、DP-47F、DP-51F。
     この娘たち、いずれ劣らぬ美女揃い。それもその筈。この7名全員、エルライス軍によって征服された星の由緒ある家柄の姫君たちなのだ。
     ところで、DPとはいかなる意味なのだろう?結論から言うと研究者たちが便宜上、命名した記号に過ぎない。だが、軍の間では「Doctor‘s Pet(博士の愛玩動物)」或いは「Demon’s Prisoner(悪魔の虜)」の頭文字と専らの噂だ。Fは勿論「ファイター」だろう。そして数字が飛んでいるのは実験に失敗した姫君が大勢いるからに違いない。
    「聞くところによるとDP戦隊は、お前の『情婦』らしいな」
    「ご冗談を。ですが、私の言うことには何でも従います」
    「それは面白い。ここでひとつ見せて貰おうか」
     雄兵衛がひとりに命令をした。
    「45Fよ。総統の靴をお前の舌で舐めて綺麗にしてあげなさい」
     するとDP-45Fは迷うことなく、ヤネニフタ総統の靴を自分の舌でペロペロと舐めだした。
    「完璧だな」
    「ここにいる娘たちは完璧に仕上げてあります」
    「というと?」
    「肝心のDP-65Fの洗脳がはかどりません」
    「お前が最後に連れてきた『地球の姫』か」
    「はい」
     阿綺羅もまた大名・柳生一族の娘であり、由緒ある家柄の姫君だ。
    「まだ知らなかったようだな。私のところに研究所から連絡が入った。洗脳は無事に完了したそうだぞ」
    「本当ですか?」
    「ああ。今はメリックホテルのスイートルームにいるそうだ」
     メリックホテルはエルライス軍御用達のホテルである。
    「では、直ちに」
    「ああ、向かってやれ」
     雄兵衛は嬉々として謁見の間を飛び出していった。

     メリックホテル。
     801号室。ここは総統が言う通り、有名人やVIPが利用する最高級のスイートルームである。
    「65F!」
     雄兵衛が部屋に飛び込んだ。阿綺羅ことDP-65Fが丁度、シャワールームから全裸で出て来た。
    「ご主人さま」
     DP-65Fは雄兵衛に向かってそう言うと、その場で跪いた。確かに洗脳は上手くいったようだ。
    「65Fよ」
    「はい」
    「お前は大介という男を知っているか?」
     雄兵衛はなんと意地悪なこと言うのか。
    「誰ですか?それは」
     だが、DP-65Fに生まれ変わった阿綺羅は大介のことを全く覚えてはいなかった。
    「いや、いい。65F。今から私とメイク・ラブをするのだ」
    「昼間からお盛んですねえ、ご主人さまは」
     そう言って阿綺羅は自ら雄兵衛に抱きつくと唇にキスをした。雄兵衛は阿綺羅を抱きかかえるとダブルベッドへと歩み出した。
     昼間の情事。ふたりは互いの生殖器で相手の生殖器を刺激し合い、互いの肉体で相手の肉体を貪りまくる。
     内線電話が鳴った。
    「五月蠅いなあ。今、いいところなのに」
     最初は無視していたが、あまりにしつこいので、仕方なく雄兵衛は受話器を取った。
    「もしもし」
    「私だ」
    「これは総統閣下!」
    「情事中に済まないな」
     なんで判ったんだ?雄兵衛は内心ドキリとした。そりゃあ判るに決まっている。すぐに出ない。しかも最初の声の、あからさまにムカついているような話し方を聞けば、誰でも凡その想像がつくというものだ。
    「お前たちの素晴らしい門出のために私からプレゼントを用意させて貰った。イトマキⅧ(いとまきえいと)だ。勿論、コスモパペットも九機すべて準備した。以前から聞いていたお前たちの能力に合わせて改造も済ませてある」
     イトマキⅧ。竜宮城で開発された最新鋭のステルス空母である。ステルス空母の名の通り、部分的には一眼の亀を越える能力を持つ。
    「お前は元々、竜宮城の人間だ。我が軍の戦艦よりもこの方が扱いやすかろう」
    「ご配慮、恐れ入ります」
    「期待しているぞ。期待しているからこそ、体がバラバラになったそなたを地球から連れてきて再生したのだ」
    「このご恩、生涯忘れません」
     こんなことを言っているが、他人の厚意に恩を感じるような雄兵衛ではあるまい。とはいえ、この時点で雄兵衛が総統を裏切る気持ちなどは一切ない。

     翌日。
     雄兵衛と八名の美女たちは軍のドックへ向かった。
    「これか」
     そこには明らかに竜宮のものとわかる海洋生物型の空母が置かれていた。その姿はその名の通りマンタにそっくりである。
     全員で乗り込む。まずは格納庫へ向かう。搭載されているコスモパペットの確認だ。そこには九機のスピルマクⅡがあった。その名の通り、アカエイ型コスモパペット・スピルの改良型である。ジェネレーター出力が20%アップしているのだ。そして外観上の特徴は何といっても塗装だ。スピルは単色だが、こちらは豹柄。これはモデルがアカエイからヒョウモンオトメエイに変わったからである。そのうちの七機は同じ黄土色だが、残りの二機は一機がピンクでもう一機がブルー。ピンクはスピル・クレスタ。ブルーはスピル・チェイサーである。この二機はそれぞれ阿綺羅と雄兵衛の専用機としてマークⅡを改良したもので、勿論、違いは塗装だけではない。
     副官がブリッジから雄兵衛のもとにやってきた。この副官はエルライス軍の中佐で、副官であるから艦長を務める雄兵衛の命令に従う身分ではあるが、その任務はあくまでも「雄兵衛の監視」だ。
    「艦長、いつでも発進できます」
    「そうか。わかった。ならばすぐに発進しよう」
     かくしてイトマキⅧが「一眼の亀撃墜」の任務完遂に向け、エルライス星を出発したのだった。
     
     一眼の亀の左右に展開するアーガマとスジャータ。
     そして中央の一眼の亀はダミー。本物は1ミリ光年後方にいる。
    「一眼の亀から通信」
    「『異常なし』と返信しろ」
    「了解」
     何事も起きなければ、次の通信は2時間後だ。

     イトマキⅧ。
    「一眼の亀と二隻の艦船を確認」
     一眼の亀を見つけた。だが、二隻の艦船だと?
    「判明しました。右は戦闘空母アーガマ、左は軽空母スジャータです」
     雄兵衛が呟いた。
    「竜宮王室の護衛空母だ。チチチー。性懲りも無く生き残っていたのか」
    「向こうはこちらには全く気が付いていません」
    「当然だ。こちらは最新鋭のステルス空母なのだからな」
    「作戦はどうします?このまま続行しますか」
    「当たり前だ」
    「イトマキⅧはどうします。接近させますか?」
    「いや。ここで待て。わざわざ、こちらの船を敵に見せる危険を冒す必要などない。とはいえ、万が一にも戦闘が不利になったときには『ギガハート砲』を使用するつもりだ」
     そう。イトマキⅧにはギガハート砲が装備されていた。
     ギガハート砲は基本的にはドリアンのハート砲を左右二門ずつ、合計四門装備したものだ。だが、イトマキⅧのギガハート砲には独自の特徴があった。それは発射口の前に複数のレンズが装備されていることだ。それによって接近戦用の広角から遠距離攻撃用の望遠まで発射範囲を自在に変えられる汎用性を備えているのだ。そのレンズは勿論、工作機械などではない、熟練の職人の手で磨かれた精密なものだがレンズである以上、耐久性には限界がある。一眼の亀のような強力無比のハイギガハート砲でないのはそのためである。ハイギガハート砲ではレンズがもたないのだ。
    「だからギガハート砲の発射準備だけはしておけ。どうせすぐには発射できまい」
    「了解しました」
    「よし、行け」
    八名の乙女たちがブリッジから格納庫へと向かった。
     イトマキエイの口に相当する部分が上下に開く。
    「DP戦隊、発進せよ」
     ブリッジから命令が下る。
    「DP-7F、発進します」
    「DP-15F、発進します」
     黄土色の豹柄塗装が施されたスピルマクⅡがカタパルトデッキから次々と発進する。
    そして。
    「DP-65F、発進します」
     DP戦隊の掉尾である阿綺羅こと65Fがピンク色の豹柄塗装が施されたスピル・クレスタで出撃した。
     雄兵衛がブリッジから指示を送る。
    「65F。両脇の空母は無視して真ん中の一眼の亀だけを狙え」
    「はい」
    「お前は敵に捕捉されない遠距離から脳波で七機を操るのだ」
    「はい。ご主人様♡」
     スピル・クレスタが飛行形態から人型に変形。その場で停止した。
     スピルマクⅡの尻尾はビームキャノン砲だが、特別な改造が施されたスピル・クレスタのそれは鞭のように細く、撓る。これは七機に脳波を送るためのアンテナ。スピル・クレスタはスピルマクⅡを操る「マザー」なのだ。
     早速、65Fが残りの七機に自分の脳波を送り込む。七機は単独で行動するコスモパペットではあるが、この時は65Fの操るサイコドローンと化した。七機のスピルマクⅡのコントロールが阿綺羅の支配下に入ったのだ。
    「一眼の亀に攻撃せよ」
     七機が一斉に人型に変形。ビームキャノン砲を一眼の亀に向けて発射した。だが、この一眼の亀はダミー。ビームキャノン砲を浴びた途端、破裂した。
    「何?これは」
     驚く阿綺羅。
    「しまった。これはダミーだ」
     その状況を観察していた雄兵衛は瞬時に状況を把握した。
    「この俺を騙すとは。やってくれるじゃないか」
     雄兵衛が怒りに燃える。
    「ピピピー。この借りは100倍にして返すぜ。作戦変更、私も出る。お前たちは一旦、艦船から離れろ。敵のコスモパペットの攻撃だけをしのげ。私が行くまでなんとか持ちこたえろ」
     雄兵衛がブリッジから飛び出した。
    「ブイー、発進」
     雄兵衛専用機である青い豹柄模様に塗装されたスピル・チェイサーが発進した。

     アーガマ。
    「監視カメラに敵のコスモパペットと思われる機体を確認」
    「レーダーに反応はないのか?」
    「ありません」
    「ということはステルスパペットか。機首を確認しろ。F22か?F35か?」
    「機首判明。スピルです。それもどうやらマークⅡのようです」
    「敵は我々から盗んだ兵器を使っているのか」
     ダツ提督は顔をしかめた。
    「この闘い、厳しいものになりそうだ」
    「スピル、一眼の亀に向かっています」
    「ダミーに向かうか。その間にこちらは戦闘準備を整えさせて貰おう。主砲スタンバイ。安康隊、発進。スジャータにも連絡だ」

     スジャータ。 
    「ダツ提督から入電」
    「そちらはどうだ?」
    「安康隊は全機、発進しています」
    「流石だな。だが、気をつけろ。相手はスピルマクⅡだ」
    「了解」

     ダミー風船を攻撃したスピルマクⅡに安康隊が攻撃を仕掛ける。
    「DP戦隊、一旦下がれ」
     65Fが七機に脳波を送る。スピルマクⅡは後方に引く。
     安康隊隊長が叫ぶ。
    「このまま押し込むぞ」
     アングラーとスピルマクⅡでは後者の方が性能的には優れているが「士気の差」がその差を埋めていた。

     アーガマ。
    「安康隊、敵のコスモパペット隊と交戦中。優勢のようです」
    「良し」
    「新たに一機、コスモパペットが戦闘空域に接近しています」
     いうまでもなく、それは雄兵衛の乗るスピル・チェイサーだった。

     スピル・チェイサー。
    「よく我慢した。お前たちはアーガマだけを攻撃しろ。その間に安康隊とスジャータは私ひとりでやる」
     DP戦隊が戦線を離脱。アーガマに向かう。
    「アングラーか。王室警護隊専用機とはいっても所詮は普通のコスモパペット。私の敵ではない」
     スピル・チェイサーのお尻に数珠繋ぎに繋がる八機のコスモドローン・フィグがブランチした。
    「さっさと消えろ」
     フィグによるオールレンジ攻撃によって戦況は一転した。それまで優勢だった安康隊はたちどころのうちに劣勢に追い込まれた。次々と撃墜されていくアングラー。
    「何者なんだ、こいつは?」
    「チチチー♪」
     恐るべし、雄兵衛。「青い悪魔」と呼ばれるだけのことはある。
     そして結局、安康隊はたった一機のスピル・チェイサーによって全滅に追い込まれたのだった。

     スジャータ。
    「安康隊、全滅」
    「なんということ」
    「敵のコスモパペット、来ます」
     索敵の言葉通り、雄兵衛がスジャータに迫る。
    「対空砲で迎撃せよ」
    「やっています。ですが当たりません」
     スジャータに対してもフィグによるオールレンジ攻撃が開始された。そのフィグの動きはまるでエイトビートサウンドを聴きながら踊っているかのようにリズミカルだ。そんな調子なものだからアツモリウオ少将の耳にもエイトビートサウンドが聞こえるような気がした。
    「カタパルトデッキ被弾、格納庫被弾、居住区被弾、メインエンジン被弾」
     スジャータが穴だらけになり、その穴から炎が。その光景をアーガマから見ていたダツ提督が叫んだ。
    「スジャータを攻撃しているコスモドローンを撃ち落とせ」
     アーガマが主砲をスジャータの方角に向けた。
    「発射」
     主砲が発射される。だが、コスモドローンのような小さい移動物体を主砲で撃墜することは難しい。
     スジャータの中では敗北を悟ったアツモリウオ少将が溜め息交じりの声で「最後となる言葉」を発した。
    「はちびーと」
     その直後、スジャータが大爆発した。

     一眼の亀。
     ブリッジでは先程から澄が「不快な気分」を感じていた。
    「どうした?澄」
    「この厭な感覚。まさかダツ提督たちに何か良くないことが」
     やがて厭な感覚は石之伸、更には女王にも感じられるものとなった。もはや疑いの余地はない。アーガマとスジャータが敵の攻撃を受けているのだ。
    「しかし、なぜこちらに救援を求めてこないのでしょう?」
    「決まっておろう。我らを護るためじゃ!」
     女王が叫んだ。
    「あの者たちは誇り高き戦士。救援など求めるはずもあるまいが。こちらから救援に向かう。直ちにワープ準備じゃ」
    「了解。重力制御装置作動。見かけの船体質量を光子以下にまで軽くします」
     一眼の亀がワープ航法に入った。
    「レーダーに捕捉。コスモパペット多数。ヒラキ型空母は一隻しか確認できません」
    「まさか」
    「撃沈されたのか?」
    「とにかく急ぐのじゃ」

    「おのれえ!」
     アツモリウオ少将の戦死に、日頃は冷静沈着なダツ中将が激昂した。だが、そんな激昂も戦場では全く意味を成さない。アーガマもまたDP戦隊の猛攻によって深手を負っていた。
    「敵のコスモパペットを運んできた敵艦は?」
     この戦況を逆転するには敵の母艦を撃沈する以外にはない。
    「見当たりません」
    「探せ、探せ、探すんだ」
    「駄目です。どこにもいません」
     この時、ダツ提督は気が付いた。
    「そうか。エルライスめ。イトマキⅧを使ったのか」
     最新鋭のステルス空母にコスモパペット。そしてサイコ能力を育成されたパイロットの組み合わせは絶大な威力を発揮した。竜宮軍最強を謳われる皇室警備隊をまるで「赤子の手を捻る」ようにこうもあっさりと片付けてしまうとは。
     先程のスジャータ同様、アーガマも穴だらけになった。

    「ワープ・アウト」
     一眼の亀が到着した。
    「ダツ提督!」
    「ご覧の通りだ。ダメだったよ。エルライス星まで同行できなくて、済まない」
    「我らこそ、間に合わなくて済まぬ」
    「みんなの健闘を祈る」
     一眼の亀の目の前でアーガマが宇宙に散った。

  • 次回予告

  • ダツ提督とアツモリウオ提督が宇宙に散った。
    「今から弔い合戦じゃ」
    馬知子女王の怒りの声と共に雄兵衛との戦闘が始まった。
    だが、それはかつての仲間との戦闘を意味するものだった。
    「何だ、この『懐かしい感覚』は?」
    石之伸は敵のコスモパペットに阿綺羅の波動を感じた。
    次回・文殊の剱
    「再会」
    9月20日(土)19:30
    宇宙の旅は続く。



  • 13

  • 「コスモパペット隊、全機発進せよ。今から弔い合戦じゃ」
     そんなこと言うまでもないと、女王が言葉を言い終わる前にスピルマXXがカタパルトデッキから発進した。
    「この不愉快な感触は・・・間違いない。雄兵衛だ」
     石之伸は今度の敵が雄兵衛であることを確信していた。でなければ、ダツ提督がこうもあっさりと負ける筈がない。
    「ドリアン澄、出ます」
     澄も同様である。いつもとは順番を変えて、ドリアンが二番目に発進する。
     スピルマXXが迷うことなくスピル・チェイサーめがけて飛翔する。それに対し、雄兵衛が次のように呟いた。
    「お前には素敵な相手を用意してある」
    「なんだと」
    「DP戦隊。こいつを料理してやれ」
     DP戦隊が行く手を阻む。石之伸はDP戦隊との戦闘に入らざるを得なかった。
    「なんだ、こいつらは?」
    「私の『親衛隊』だよ」
    「親衛隊?」
    「そんなに驚くなよ。僕は美男子だから親衛隊くらい、そりゃあいるさ。ブイブイー」
    「美男子ねえ」
    「では、さらば」
     石之伸をDP戦隊に任せ、雄兵衛は単機で一眼の亀を狙う。
     そこへ。
    「待ちなさい」
     今度はドリアンが雄兵衛に迫る。
    「これは『ドリアン』。パイロットは誰だ?一体、誰が操縦しているんだ」
     雄兵衛もドリアンが乙姫専用機であり、サイコパペットであることを知っていた。だからドリアンを見た時、驚かないではいられなかったのだ。
    「この感触。パイロットは・・・まさか」
    「雄兵衛。あなた生きていたのね」
    「澄か。お前如き下賤の者がドリアンのパイロットとは笑止!」
    「下賤とは失礼ね」
    「地球人など竜宮人から見れば下賤の輩よ」
    「なにを」
    「その証拠を見せてやる。どんなにコスモパペットが強力でもパイロットの腕が未熟であれば、その戦闘力はたかが知れているということを、その身で味わうがいい」
    「その言葉、後悔させてあげる。タンバリン」
     ドリアンがタンバリンを発進させた。
    「ピピピー。貴様、コスモドローンを操れるのか。これは驚いた」
    「驚くのはまだ早いわ」
     十六機のタンバリンが青いスピル・チェイサーをオールレンジ攻撃する。
    「どう、雄兵衛。これでもまださっきと同じ言葉を言えて?」
    「思ったよりもやるな。だが」
     雄兵衛もまた八機のフィグを発進させた。フィグがタンバリンを次々と撃墜していく。スピル・チェイサー本体の攻撃に集中しているタンバリンはフィグの攻撃に対し全く無防備であった。
    「ああっ」
    「まだ『ドローン対ドローン』という闘い方はできないようだな?」
     忽ち形勢逆転。もしも澄がタンバリンを異なる標的に対し攻撃できていたなら、間違いなく数で優る澄の圧勝だっただろう。
    「お前の負けだ、澄」
    「くっ」
    「せっかくだから、ドリアンを頂戴するとしよう。俺なら、お前以上に上手く操縦できる」
     フィグが適確にドリアンの腕と足の関節部分にビーム攻撃を仕掛ける。
    「あああーっ」
     ドリアンの腕と足が破壊された。ドリアンの出力が下がる。
     スピル・チェイサーがドリアンに迫る。スピル・チェイサーが蝶のブローチを強引に胸から外し始めた。その後ろにコクピットがあるのを知っているのだ。
    「むっ」
     その時、雄兵衛の脳に「不愉快な波動」が流れ込んできた。それは65Fから発せられたものだった。
     65Fに何かが起きていた。
    「命拾いしたな澄。俺は今すぐDP戦隊の加勢に行かなければならない」
     スピル・チェイサーが去る。
    「た、助かった。でも悔しいわ」
     澄はドリアンを一眼の亀に向けた。

    「これはスピル?」
     石之伸の目の前にいるのは、確かにスピルだ。それも豹柄塗装の。
    「厄介なことになりそうだ」
     スピルの性能は石之伸も十分に知っている。スピルのビームキャノン砲は戦艦の主砲並みの威力を持つ。しかも七機もいる。
     遂にDP戦隊が動き出した。ビームキャノン砲を次々とスピルマXXめがけて発射する。
    「変形」
     スピルマが人型に変形した。石之伸もまたビームキャノン砲で応戦。
    「動きが速い。さすがはスピル」 
     どちらの攻撃も当たらない。それもその筈。両者は姉妹機であり、性能はほぼ互角なのだ。ひょっとしてこの闘い、矛盾の諺の如く「相打ち」になるのか?いや、それはない。石之伸の動きにはまだ余裕が感じられる。
     石之伸はまだエネルギーが充分あるにも拘わらずビームキャノン砲を捨てた。スピルマがレーザーサーベルを持つ。石之伸は敢えて格闘戦を選択した。
    「行くぞ」
     スピルマがスピルマクⅡに突撃を仕掛ける。
    「こいつら、恐怖心がないのか?」
     今までの敵はこちらが勇猛果敢に突撃すれば明らかに恐れを抱き、それを操縦動作に見せるのだったが、今度の敵にはそうした素振りが全くない。
    「こいつらは強い。『場慣れ』か?」
     最初はそう思った石之伸だったが。
    「というより、やはり何か変だ」
     そこで石之伸は敵のパイロットの正体を知ろうと思った。敵のパイロットが発する生命境涯即ち「波動を読もう」というのだ。そのためには接近しなくてはならない。素早く敵の背後に回り、背中をガードするパネルに手を乗せた。
    「何だ?この感覚は」
     それは今までに感じた敵とは明らかに違うものだった。そして遂に石之伸は「その理由」を悟ったのだった。
    「バカな!この機体のパイロットは『若い少女』だ」
     洗脳によって記憶は書き換えられていても、肉体は若い男を求めるピチピチの乙女のまま。石之伸はそれを感じたのだ。
    「まさか、そんなことが」
     別のスピルマクⅡが攻撃してきた。急いで離れるスピルマ。石之伸は敵のコスモパペット間の会話を傍受してみた。すると、若い女の子たちによる声が飛び交うのが聞こえてきた。
    「なんてことだ。雄兵衛め」
     石之伸は改めて雄兵衛の女性に対する冷酷さに怒りを覚えた。年頃の乙女たちを戦闘マシーンに改造するとは。しかし、これは確かに「効果抜群の作戦」だ。これで石之伸はもう闘えなくなった。若い女の子たちがパイロットと判った以上、殺すことなど考えられない。
     では、どうするのだ?負けて死ぬのか。それもと何か「策」でもあるのか。正直、策などはない。
     その時。
    「む、何だ?この波動は」
     石之伸は戦場の外から飛んでくる「新たなる波動」を感じ取った。
    「どうやら、この波動が乙女たちを操っているらしいな」
     石之伸は戦場を離れ、波動がする方角へと飛翔した。そこにはピンク色のスピルが一機いた。
    「こいつがリーダーだな。こいつが七機の乙女たちを操っている」
     石之伸がスピル・クレスタに斬りかかる。
    「うっ」
     スピルマがスピル・クレスタと接触した瞬間、石之伸は「懐かしさ」を覚えた。初めて出会った敵に懐かしさを感じる?そんなことは有り得ない。あってたまるものか。
    「この機体には誰が乗っているんだ?」
     スピル・クレスタが尻尾のアンテナを右手に握った。それまで送信アンテナとして使用されていたそれは光り輝き、レーザーロッドになった。レーザーロッドがスピルマを襲う。
     スピルマの左肩のボディパネルが斬られた。
    「こいつ、できる」
     必死にレーザーサーベルでレーザーロッドを振り払う。だが、サーベルとロッドではロッドの方が圧倒的に有利だ。
    「この敵にはビームキャノン砲が欲しいな」
     だが、それは先程、捨ててしまった。そこへ七機のスピルマクⅡが追いかけてきた。
    「これはお誂え向きだぜ」
     石之伸はスピルマクⅡの片腕を切り落とし、ビームキャノン砲を奪取した。やはり先程までの闘いは「手を抜いていた」ようだ。石之伸が本気になれば、ざっとこんなものだ。
    「これでも喰らえ」
     ビームキャノン砲をスピル・クレスタに発射。ビームがビームロッドを切断した。
     形勢逆転。
    「いくぜ」
     スピル・クレスタの懐に飛び込むスピルマ。
    「やはり『懐かしい感じ』がする。なぜだ?」
     じっくりと慎重に波動を感じ取る石之伸。
    「この波動。まさか、このコスモパペットに乗っているのは」
     石之伸はスピル・クレスタのパイロットが「彼女」であることを認識した。
     阿綺羅は完全に洗脳され、DP-65Fとして生まれ変わっている。だのになぜ、石之伸は彼女を認識できるのだろう?
     人間の肉体を「有機化合物で出来た機械人形」としか見做さない幼稚な西洋医学では「人間の精神は脳が司る」と考え、それが「心臓移植」を積極的に推し進める理由となっていることは現代人の知るところである。だが、それよりも遙かに高度な東洋医学では「人間の精神は心臓が司る」と正しく理解している。
     ヒンドゥー教の伝説において、シヴァ神が息子であるガネーシャの首を切り落とし、再生したとき、ガネーシャの頭に象の体ではなく、ガネーシャの体に象の頭を取り付けたのは、脳ではなく心臓こそが「人間性の源」であるからに他ならない。
     阿綺羅の脳は完全に洗脳された。雄兵衛を愛する「嘘の記憶」が刷り込まれた。だが、心臓はそのままだ。石之伸は阿綺羅の心臓の鼓動、即ち「阿綺羅の心」を察知したのだ。
     だが、阿綺羅の洗脳を受けた脳はまだ自分の心臓が発生する波動に気が付いてはいない。今の阿綺羅はDP-65Fとして石之伸を「自分の敵」と信じ切っていた。
     スピル・クレスタがスピルマに短くなったレーザーロッドを振るう。短くなった分、接近した敵にも振るうことができる。
    「よせ、阿綺羅」
     防戦する石之伸。
     だが、阿綺羅は攻撃を止めない。彼女の脳には「石之伸が少女時代の自分を強姦する」偽の記憶が刻まれているのだ。
    「死ね、死ね、死ねえ」
     憎悪の念を込めてスピルマめがけロッドを振るう阿綺羅。
    「止めろ、止めるんだ」
     スピル・クレスタの背後に回り、両腕で機体を抱きしめる。今、背中からスピルマクⅡによる攻撃を受ければスピルマはひとたまりもない。だが幸い、阿綺羅が自分の手で石之伸を倒そうとしているおかげで七機のマークⅡは静止状態にある。
    「阿綺羅。元に戻るんだ」
    「ええい、離せ。離せえ」
    「思い出せ。昔を思い出すんだ」
    「二度と思い出したくない記憶を思い出せだと?巫山戯るな、この悪魔ーっ」
     今の阿綺羅にとって石之伸との過去の記憶はレイプ以外の何物でもない。
     やはり、阿綺羅はDP-65Fなのか?もう二度と元には戻らないのか?
     その時。
    「うっ、胸が、胸が痛い」
     阿綺羅の胸が鋭く痛み始めた。
     更に。
    「頭が、頭が痛い」
     頭も猛烈に痛み始めた。
     原因は脳の「記憶」と心臓の「心」の間に生じる矛盾によるものであった。石之伸に対し脳は「敵」と認識するが、心臓は「仲間」と認識している。その両者による闘いが始まったのだ。
    「頭が、胸が痛いーっ」
     苦しむ阿綺羅。
     そこへDP-65Fが発する不愉快な波動を察知した雄兵衛がやってきた。
    「石之伸。やはり貴様が原因だったか」
    「雄兵衛。澄はどうした」
    「心配するな。無事に生きてるよ。今のところはな」
     スピル・チェイサーがスピルマに迫る。
    「くそう」
     このままではやられる。石之伸はスピル・クレスタから離れるしかなかった。
    「雄兵衛ーっ」
     スピルマがレーザーサーベルでスピル・チェイサーに挑む。それに対し、スピル・チェイサーはフィグで対抗した。八機のフィグが一斉にレーザーを発射する。石之伸が体験する初めてのフィグによる攻撃。スピルマの基本骨格をガードするオレンジ色のボディパネルが悉く溶かされ、スピルマは骨組みだけの丸裸状態になった。
     その隙を突いて雄兵衛がDP-65Fを連れ去る。
    「待て」
     だが、その前に阿綺羅の脳波による誘導から解放された七機のスピルマクⅡが立ちはだかる。誘導から解放されたということは、この時点で阿綺羅がコクピットの中で気を失ったことを意味していた。
     この七機の乙女たちには阿綺羅のような「脳と心臓の激しい葛藤」は起きていないようだった。それは彼女たちにとって石之伸は「知らない人間」であり、更に厳しい言い方をすれば、彼女たちはいずれも以前は絶品グルメや高級宝飾品に囲まれた生活を営む良家のお嬢様で、その生命境涯は恐らくは欲望を貪る「畜生界」に過ぎないだからだ。脳と心臓の対立は「両者の意見の差が大きく食い違う状態」でなければ発生しない。
     やがてスピル・チェイサーとスピルマは視界から消え、DP戦隊も撤退した。
    「くそう。洗脳がまだ不十分だったか」
     雄兵衛はそう解釈した。きっとエルライス軍の研究者も同様の見解を示すだろう。エルライス軍の医療技術も地球の西洋医学と似たりよったりだからだ。心臓など所詮「血液を全身に送り込むためのポンプ」くらいにしか思っていないのだ。
     エジプト王家が何故、死後の遺体をミイラにするために解剖する際、心臓を特別な壺に保管したのに対し、脳はグジャグジャに掻き回してしてからパイプで吸い取っていたのか?それはエジプト王家が脳や心臓の役割を正しく理解していたからだ。心臓こそが過去、現在、未来三世に繋がる「精神の源」であることを。脳は所詮「今世での記憶」を司るに過ぎないということを。それもまた古代エジプトが高度な知識を有する「竜宮人の都市」だったからである。

    「副官、聞こえるか」
     帰艦途中、雄兵衛はイトマキⅧに通信を入れた。
    「こちらイトマキⅧ。どうぞ」
    「直ちに前進しろ。俺たちはそちらへ戻る。戻り次第、一眼の亀にギガハート砲を発射だ」
    「了解」
     イトマキⅧが前進を開始した。
     そんなイトマキⅧの船内では先程から「とんでもないこと」が行われていた。
    「ああ」
    「いやあ」
    「やめてえ」
     イトマキⅧのとある部屋から聞こえる少女たちの声。
     そこは「ハート砲制御室」。そこではDPーLと命名された良家のお嬢様たちがベッドの上で男性兵士によって抱かれていた。
     DP戦隊の乙女たちに与えられた記号はFIGHTERのF。それに対しLはDP戦隊に参加できるだけの素質に恵まれなかった者に与えられる称号。即ち「劣等」を意味するLOWだ。そんな彼女たちは「ハート砲を発射するための装置」として利用されていた。ハート砲を発射するには女性の愛情が欠かせない。本来は女性艦長が艦長席で想像恋愛をするのだが、この船には女性艦長は乗っていない。そこで男性兵士によって強制的に「恋愛行為」が行われていたのだ。お嬢様のうち誰かひとりでも「心地良く」感じればハート砲は発射する。

     一眼の亀。
    「監視カメラに敵の大型艦をキャッチ。艦種は『イトマキⅧ』。竜宮の最新鋭空母です。こちらに急速接近中。あと30秒で我が艦の目の前に到達します」
    「何じゃと?なぜ、接近に気付かなかったのじゃ」
    「レーダーに反応はありませんでした」
     そして。
    「うわっ」
     目の前にイトマキⅧが現れた。距離僅か300mで対峙する二艦。それはまるでイトマキエイと海亀の「お見合いシーン」のようだ。この距離でギガハート砲を発射されたら、一眼の亀はひとたまりもない。
    「じょ、女王様。いかが致しましょう」
     選択肢は二つしかない。逃げるか。攻撃するか。
    「女王様」
    「よし」
     果たして女王の選択は?

     イトマキⅧ。
     雄兵衛がブリッジに戻った。
    「副官、ギガハート砲は?」
    「今、発射準備をしております」
    「急げよ」

     制御室。
    「発射準備、急げ」
    「了解」
     兵に抱かれる女性たち。誰もが必死に絶頂すまいとする。

     イトマキⅧ、ブリッジ。
    「制御室から連絡。娘のひとりが『その気』になりました」
     ということはハート砲が発射されるということ。
    「石之伸、澄。お前たちの最後だ!」
     ギガハート砲が発射される・・・筈だが。
    「ブイー。なぜ発射しない?副官。これはどういうことだ」
     副官の顔から大量の汗が流れ落ちる。
    「どうした、制御室。発射しないぞ」
    「判りません」
     副官と制御室との交信に苛立つ雄兵衛。
    「副官。なぜギガハート砲が発射できないんだ」
    「判りません」
    「冗談ではない。今、目の前に一眼の亀がいるんだぞ」
     その通り。イトマキⅧは既に一眼の亀の目の前にいた。
     一眼の亀の左右の甲羅がガルウイング状に開いた。
    「拙い。チチチー!」
     
     一眼の亀。
    「ギガ主砲発射」
     女王は攻撃を選択した。いつ必殺のギガハート砲を敵に発射されるかヒヤヒヤの中で、それでも女王は「闘いの道」を進むことを選んだ。なぜって、これは弔い合戦なのだから。ここで逃げたらダツ提督とアツモリウオ提督にあの世で何といって顔を合わせるのだ。
     そして女王の勇気ある判断は「吉」と出た。
     ギガ主砲が唸る。それらがイトマキⅧの両翼を直撃した。だが、流石は最新鋭空母だ。至近距離からのギガ主砲のパワーをもってしても船体を貫通しない。このぶ厚い装甲を打ち抜くには正確に同じ場所を連続して攻撃する以外にはない。
    「ええい、面倒じゃ」
     女王は究極の選択をした。
    「将軍。わらわに乗れ!」
     ハイギガハート砲を使用しようというのだ。女王はまだ澄のように想像で絶頂することはできない。
    「はっ」
     将軍は迷わず女王の体の上に乗った。

     イトマキⅧ。
    「なんということだー」
     これは完全に誤算であった。まさかギガハート砲を発射できないとは。
    「艦長、あれを」
     副官が指差す。その先には真ん中の甲羅をリトラクタブルした一眼の亀の姿が。雄兵衛の顔が本来の姿である豹紋蛸のように真っ青に染まった。
    「こいつら、ハイギガハート砲を使う気だ。副官、ワープだ。速く逃げろ」
    「軌道計算していません。どこにワープ・アウトするか判りません」
    「そんなことはどうでもいい。速くしないとやられるぞ」

    「ああーん」
     女王が前回よりも速くなった。将軍も少しは上手くなったようだ。
     ハイギガハート砲の銃口がピンク色に輝き始めた。

    「急げえ、急ぐんだあーっ!」
     イトマキⅧが機首を持ち上げた。180度反転している余裕はない。
     ハイギガハート砲が発射された。イトマキⅧめがけて突き進む。
    「ワープ」
     間一髪。イトマキⅧはワープに成功した。一眼の亀の上部擦れ擦れを通過。
    「どうやら助かったようだ」
     緊張が一気に抜け、雄兵衛は脱力状態になった。
    「阿綺羅といい、ギガハート砲といい。予定通りに事は進まぬものだな」
     阿綺羅については説明済みであるから、ここでは「ギガハート砲の説明」をしよう。ハート砲は女性の愛情によって起動する。これだけ読めば、イトマキⅧのギガハート砲が作動しなかった理由はわからない。
     ハート砲は「サイコ・キャノン」。つまり女性が愛情を感じるだけでは駄目で、女性がサイコ能力の持ち主であることが重要なのだ。

    「くそう。逃げられた」
     ハイギガハート砲が当たる瞬間、ワープして消えるのを女王は将軍の頭越しに見た。渾身のハイギガハート砲は空振りに終わった。
    「無念じゃ」
     女王は唇を噛んだ。

     ハイギガハート砲が宇宙を駆ける。
     その姿を眺めながら、澄は己の未熟さを噛み締めていた。
    「強くなりたい。あの男を倒せるくらい強く」

     ハイギガハート砲が宇宙を駆ける。
     その姿を眺めながら、石之伸はひとつのことだけを考えていた。
    「阿綺羅は生きていた。そして雄兵衛も。必ずや阿綺羅を救い出す。そして奴の息の根を止めてやる。大介、見ていてくれ」

     ハイギガハート砲の輝きは全ての人々の心を刺激し「哲学」させずにはおかない。

  • 次回予告

  • 一眼の亀の行く手で一隻の宇宙船が五隻の戦艦と二十機のコスモパペットから猛攻撃を受けていた。
    多勢に無勢。だが、戦況が不利なのは宇宙船を攻撃している側であった。
    圧倒的な強さを秘める謎の宇宙船。その正体は一体?
    文殊の剱「白いスピルマ」
    10月18日19時30分
    宇宙の旅は続く。



  • 14

  •  エルライス軍が立て続けに竜宮から奪取した兵器を使用。これはエルライス軍が竜宮の兵器の扱い方を学び終えたことを意味する。今後は次々と竜宮の兵器が実戦に投入されてくるに違いない。しかもイトマキⅧもスパコンも、いずれもレーダーでは捕捉することが極めて難しいステルス艦であった。今後は当たり前のようにステルス艦が投入されるものと考えた方がいい。そこで話し合いの結果、監視カメラだけに頼るのではなく、定期的に偵察機を発進させることに決めた。
    「石之伸スピルマ、発進する」

     イセサレム宮殿。
     総理大臣のサエナイが謁見の間に入ってきた。
    「どうした?」
    「以前から追跡していた『白い宇宙船』が見つかりました」
    「そうか。遂に見つけたか」
    「はい。ですが」
    「ですが、何だ?」
    「参謀本部の話によりますと現在、海亀のいる方角へ向かって進んでいるとのことです」
     顔には出さないが、ヤネニフタ総統は内心ドキリしていた。「やはりそうか」と思ったのだ。
    「今の様子ですと、あと三日もすれば海亀と接触するはずです」
    「ならぬ。断じて両者を合流させてはならぬ」
     ヤネニフタ総統が椅子から立ち上がった。
    「戦艦を五隻出す。何としてもその白い宇宙船を撃沈するのだ」
    「ご、五隻もですか」
     戦艦を五隻も向かわせるとは。たかが一隻の宇宙船相手に一体全体、総統は何をそんなに恐れているのだろう?サエナイ総理にはその理由がわからない。戦艦五隻ということは、コスモパペットは全部で二十機になる。そもそもエルライス建国以来、ヤネニフタ総統が白い宇宙船の行方を必死に捜索させてきた理由は一体全体、何なのだ?
    「貴様は直ちにニシヤスト中将私のところに来るよう連絡を取れ。五隻の宇宙戦艦と搭載パペットの概要については私が直接、中将に説明をする」
    「わかりました」
     サエナイ総理が謁見の間を去った。
    「なんということだー」
     再び椅子に座るヤネニフタ総統。
    「やはり戻ってきたか。この天の川銀河に」
     この言い方から察するに白い宇宙船とやらは天の川銀河の外にいたらしい。そしてヤネニフタ総統はその存在を昔から「知っている」ようだ。

     スピルマ。
    「何だ?」
     石之伸は1時の方向に閃光を発見した。
    「ひょっとして、戦闘か」
     閃光の正体は戦闘によるものであった。直ちに一眼の亀に報告を入れる。

     一眼の亀。
    「こちらでも確認した。前方で戦闘が行われている模様」
    「了解。引き続き偵察を続ける」
    「おい待て。危険だ」
    「心配ない。スピルマはステルスパペットだ。発見などされないよ」
     どうやら石之伸は戦闘空域に入る気らしい。
    「画像を送るから、機種を確認してくれよ」
     ここで女王が叫んだ。
    「我らもスピルマを追うのじゃ」
    「ですが、もしも敵なら」
    「敵なら闘うまでじゃ」
    「例のイトマキⅧだったらどうするんですか」
    「それこそ闘うまでじゃ。将軍」
    「了解」
     女王の性格は判っている。一度言い出したら「聞かないお人」である。
     一眼の亀もまた戦闘が行われている空域に向け飛行を開始した。
     
     ウラガーネ艦隊。
     五隻の宇宙戦艦から成るこの大艦隊はイトマキⅧに続き実戦投入された竜宮兵器を用いる艦隊である。
     全長300mに達する戦艦の名称は「隠岐の鰐鮫(おきのわに)」。『古事記』に登場する因幡の素兎と関係の深いサメである。ヒラキ型空母が実戦配備される前の主力艦であるため、いささか設計が古く、イトマキⅧ量産の暁には退役する予定の艦だ。メガではない通常の主砲を三門装備。左右の鰓の部分に三連装ミサイル発射装置を三つずつ装備している。三つもあるのは装填時間を考慮。発射時間を短縮するためである。あと二連装式対空砲が左右に三つずつ。総合的な性能はエルライス軍の主力戦艦と同程度である。コスモパペットを四機搭載することができるが、カタパルトは装備されていない。
     そして既に発進している艦載機,即ちコスモパペットの名称は「シャコロナ」という。名前の由来は飛行機型から人型に変形する途中、蝦蛄に似た姿になることもできるからだ。
     シャコロナは「変形パペット第1世代」である。戦闘機の形から両腕を外に出した蝦蛄形態、更に足のある人型形態へと形を変えるのだ。
     武器は両腕に装備された鎌のような形のビームナイフと、口に装備されたビームライフル。両腕が鎌であるのは、レーザーサーベルのグリップに納まる小型ジェネレーターがこの時代にはまだ開発されておらず、機体から直接エネルギーを供給する必要があったからだ。
     そしてシャコロナは更に「ステルスパペット第1世代」の機体でもある。つまりスピルよりも古くに開発されたステルス性能を有する機体である。その片鱗は幾つも見ることができる。シャコロナのアイカメラはエルライス軍と同じタイプで、プラネタリウムモニターを採用せず、上・下・後ろは接近を知らせるセンサー方式である。またリュックサックの左右に装備されたバーニアが殊更に巨大なのは軍艦に発進用のカタパルトが装備されていなかった時代の名残で、格納庫から発進後に自ら加速する必要があるからだ。なお、シャコロナには後に改良を施した「シャコロナ・エクシブ」と呼ばれるタイプもあり、それにはプラネタリウムモニターが採用され、バーニアが円筒形から菱形に変更、ステルス性能が向上している。
     これらの武器を装備するウラガーネ艦隊が一隻の船に苦戦していた。
    「たかが一隻の、それも駆逐艦サイズの船に何を手子摺っているんだ」
     今回、艦隊の指揮を任されたニシヤスト中将提督が叫ぶ。
     もとより、今回の艦隊は指揮を執るのが非常に難しい。戦艦の艦長が全員、中将という同じ階級にあるだからだ。ニシヤスト中将が指揮を執ることに他の四名、セコヒロ中将、ハギコウイ中将、マツヒロカ中将、タカツヨ中将が不満であることは明白だ。チンプー艦隊におけるプラトン中将の時と同じである。
     エルライス軍は度々こうしたミスをする。残りの四隻の艦長を「少将以下」から選任すればいいものを。そうすれば指揮系統はスムーズになる。だが、こうしたミスをするにはそれなりの理由があった。「少子高齢化」である。現在のエルライス軍には未来を担う小・中・大尉クラスの人材が少ない一方で、中将クラスの老人がうようよいるのだ。
     しかもこの五名は一度、軍の役職から外された者たちである。その理由は艦隊のニックネームの通りだ。それが今回、復職したのである。

     スピルマ。
    「到着した。見たところ『多勢に無勢』で、一機の白い船を多くの戦艦やコスモパペットで攻撃しているようだ」
     石之伸は当初、そのように判断した。
    「映像を送る。しっかりと分析してくれよ」
    「了解」
     怪雷がスピルマから送られてくる分析を行う。
    「戦艦は『隠岐の鰐鮫』という竜宮のものです。コスモパペットはこれも竜宮のもので『シャコロナ』です。どっちも旧式です」
    「ということはエルライスだな」
    「でしょうね」
    「で、白い方は?」
    「データはないです」
    「ということは、どこか未知の星の船ということか」
    「で、どうする気です?白い船に加勢するのですか」 
    「そうだな」
     通常であれば、そうするだろう。だが、石之伸は加勢を躊躇った。
    「どうしました」
    「どうやら、自分はとんだ『勘違い』をしていたようだ」
    「勘違い?」
    「苦戦しているのは白い船を攻撃しているエルライスの方だ」
    「何ですって」
     ここで女王が叫んだ。
    「監視カメラを拡大するのじゃ」
     言われてみれば確かに、次々とコスモパペットを撃墜しているのは白い船で、戦艦からは煙や炎が吹き上げているのが見える。それにしても白い船の動きの素早さは一体全体どうしたことだ。これは明らかにコスモパペットのもので「船の動き」ではない。
     石之伸は白い船を徹底的にマークした。戦艦やコスモパペットのことは全く無視して。
    「成程。これは凄いメカニズムだ」
     全長150mもある船がどうして全高18m(機種により差がある)のコスモパペットのように機敏に動けるのか?その理由はノズルの位置とその動きにあった。この船は通常の船とは明らかに姿形が違う。モチーフは四足歩行動物、地球では通称「象」と呼ばれる生き物である。そして四本の足の裏に強力なバーニアが備わり、四本の足は付け根を軸に自在に回転する。それによってバーニアの噴射する方向を瞬時に変えられるのだ。といっても、これは一眼の亀の足の鰭と基本的には同じものだ。
    「鼻先がビーム砲になっているのか。そして牙が六つ。どうやら強力な磁場を発生させるバリア装置のようだ」
     地球の象の牙は二本だが、この船のそれは全部で六つある。
     更に、石之伸はとんでもないものを目撃した。船のお尻が二つに割れ、中から無数の鬱金色に輝くインコが羽ばたいたのだ。これはきっとコスモドローンに違いない。インコが尾羽根をくの字に曲げる。その先端からビームが発射された。
    「凄い」
    ビームが次々とシャコロナを撃墜する。それも複数のシャコロナを一度に。そればかりか戦艦までも同時に。この鬱金色のインコを操る者は鬱金色のインコ一匹一匹を単独で操れるだけの完璧なサイコ能力を備えているのだ。
     闘いは終わった。白い船の圧勝である。
     確かに敵の装備は旧式ではあった。とはいえ、竜宮の科学力で開発された戦艦とコスモパペットである。一部のコスモパペットには最新のプラネタリウムモニターが装備され、スピルに匹敵するだけの機動力が備わっていた。それを余裕綽々で蹴散らすとは。
     もしも、この白い船が今から「一眼の亀を襲った」としたら?石之伸はぞっとした。額からは汗が流れ、グリップを握る手も汗で濡れていた。だが、一眼の亀は不用意にも既にすぐ近くまで来てしまっていた。
     スピルマに通信が入った。白い船からだ。
    「おい。俺たちの闘いを見ていたコスモパペットのパイロット。俺の声が聞こえているか?」
    「ああ」
    「それはよかった。だったら、あそこの海亀に知らせてくれ。『我々は敵ではない』と。いきなりハイギガハート砲では、たまらんからなあ」
     こいつ。こちらの武器を知っているのか。
    「おい、聞いてるか」
    「ああ了解した。直接、話をしてくれ。回線を繋ぐ」
     一眼の亀と白い船との通信回線が繋がった。
    「今からそちらへ乗り込みたい。許可を願う」
    「女王様、どうしますか?」
    「許可する、と伝えよ」
     相手からは「サンキュー」と返答があった。
    「いいんですか」
     女王の決断に美蕾、怪蕾が異を唱える。だが、女王は言下に否定した。
    「実に鮮やかなお手並み。個人的にわらわも奴らには興味がある。是非とも会ってみたい」
     白い船のお尻が二つに割れ、中から白い機体が発進した。
    「あっ!」
    その瞬間、石之伸は思わずそのように叫んでしまった。色は確かに白い。だが、その姿形は紛れもない「スピルマ」であったからだ。スピルマがキャロットならば、これはさしずめラディッシュだ。
    「バカな!」
     スピルマは竜宮のトラウツボ王子専用機だ。それと同じ機体がもう一機あるなど、たとえ「宇宙広し」といえど考えられない。白いスピルマが一眼の亀に接近する。石之伸もまた大急ぎで一眼の亀に向かった。「この相手と会わねばならない」と思ったからだ。白いスピルマは既にカタパルトデッキに着艦していた。石之伸は反対側のカタパルトデッキから着艦した。
     スピルマから降機。反対側のカタパルトデッキへ走る。そこにはラディッシュが既に人型に変形して着艦していた。その姿、やはりスピルマだ。そしてそのパイロットは女王・将軍・澄の三名と挨拶を交わしている最中だった。
     自分に気が付いたパイロットが石之伸の元に歩いてきた。石之伸よりも頭ひとつ分、背が高い。足はやや内股である。
    「私の名は『悠』。是非、あなたには会いたいと思っていた」
     手を差し出す悠。石之伸も手を差し出した。
    互いの手が握り会った瞬間。
    「こ、これは」
    「久しぶりだな、文殊師利」
     石之伸の生命の奥底に眠っていた「遠い過去の記憶」が呼び覚まされた。100年、1000年の話ではない。五百塵点劫という果てしなく遠い過去の記憶である。
    「お、おまえは普賢か」
     そして最も新しい記憶は勿論、釈尊による「法華経の会座」だ。その一部始終を高台の上から目撃した文殊。会座が終わりを告げようとしたそのとき、遠い彼方の銀河からやってきた一隻の白い宇宙船。その中から出てきた者こそ普賢菩薩に他ならない。法華経化城喩品に「在々諸仏土常与師俱生」という言葉がある。これは決して「師弟」の話だけではない。同じ時代を駆け抜けた「友」もまた再び同じ時代に出会うのだ。そして普賢と文殊は幾度となく輪廻転生を繰り返しては同じ戦場を駆け抜けてきた「戦友」なのだ。
    「乙姫を助けに行くぞ」
     両者の手が離れた。既に石之伸の頭の中には過去の出来事の全てが思い出されていた。無論、それは他人に話すようなことではない。というより、話したところで誰も信じはすまい。
     その後ふたりは悠の愛機である白いコスモパペットを見上げていた。
    「何故、スピルマなんだ?」
    「不思議か?」
     色こそ違うが、紛れもないスピルマ。だが、よく見ると背が高い感じがする。事実、石之伸のスピルマは身長17mだが、白いスピルマは20mある。その違いは足の長さによる。
    形も少し異なる。石之伸のスピルマはノズルの向きが変形前と後で同じだが、白いスピルマは90度向きを変え、爪先が鋭く尖った状態になる。
    「こちらがオリジナルさ。俺は旅の途中、船が故障し、どうしても修理が必要になって竜宮に立ち寄ったことがある。20年も前になるかな。そして二年ほど修行を積み、普賢菩薩の継承者となった自分はスピルマを貰ったのだ」
     同じだ。石之伸もまた竜宮城で三年の修行を積んで、文殊師利菩薩の継承者となった。
    「知っての通り、俺たちは共に『教主釈尊の脇士』だ。そして教主釈尊の精神を現代において継承する者は言わずもがな『乙姫』さ」
     教主釈尊と釈尊は違う。釈尊は地球の「お釈迦様」ひとりのことだが、教主釈尊は過去に存在した全ての「仏」を差す。より詳しくいえば「仏を仏たらしめている理由」のことだ。仏はどうやって仏になったのか?仏はどのようにして悟りを開いたのか?その答えは菩薩道である。菩薩道によって仏は「宇宙の根源」を知り、仏となったのである。つまり教主釈尊とは宇宙の根源=妙の世界のことだ。
     石之伸が乙姫を助けに行かねばならない理由がこれで明らかとなった。石之伸は乙姫の「脇士」なのだ。そして悠も。
    「自分のスピルマは二機、製造された試作機のうちの最初の一機で、今の上皇、当時の竜王が操縦することを前提としているから、相当に腕の立つパイロットでないと操縦が難しい」
     石之伸の機体は王子が操縦することを前提とし、剣を持つ腕の動きに重点が置かれているが・・・。
    「自分の機体は足技を得意とする。上皇は足技の使い手なのさ」
     成程。だから足が長いのか。ノズルが90度向きを変えるのも「足蹴り」の威力を増すための工夫に違いない。その攻撃力の程はいずれ判るだろう。「次の戦闘」は必ずやってくるのだから。
     更に石之伸は悠の宇宙船についても質問した。
    「あれは私の故郷の星で開発された。名前はウイ。『ホワイト・エレファント』の頭文字さ。外見はその名の通り『白い象』。普賢菩薩の乗り物と言えば白い象と決まっているからな。勿論、当時の自分は普賢ではなかったのだが、これは断じて偶然ではない。『仏法に偶然なし』というだろう?仏法ではあらゆる出来事が『必然』。自分が普賢になったのも『必ずそうなる』と決められていたのだろうよ」
     こんな逸話がある。誉と命名されたとある少年は小学生の頃「清酒・会津誉」とクラスメートから渾名を付けられ、虐められていた。その結果、その少年は後年、大の「長州嫌い&会津贔屓」になったという。その少年には、そうなることが運命付けられていたのだ。
     さて、そのウイだが、鼻がメガビーム砲で、六本の牙は敵のビーム兵器を無効化する磁力バリア。四本の足の裏にはそれぞれバーニアが装備され、しかも四本の脚は360度回転する。それによって飛行する方角を瞬時に変えることで駆逐艦クラスの大きさでありながらコスモパペット並みの高い機動性を確保している。そしてお尻の格納庫にコスモパペットとコスモドローンを収納する。コスモドローン「鬱金色のインコ」は全部で二十機!それらが全てサイコ能力によって誘導され、バラバラの標的を攻撃する。
     何て奴だ。この悠という男は。
     修行半年といい、二十機のドローンを自在に操る能力といい、石之伸を遙かに上回る能力の持ち主だ。

     悠が自分の船に戻った。
    「黄桜。戻ったぞ」
    「悠ーっ」
     悠の愛妻・黄桜が二席並ぶコクピットシートの右側から立ち上がるや悠の元に駆け寄り、そのままの勢いで飛びついた。
    「どうでした?あなたの昔の『お友達』とやらは」
    「上手くやっていけそうだよ」
    「それはよかったわ」
     黄桜は「銀河一」といっても過言ではない絶世の美女である。乙姫は兎も角、少なくとも澄は完全に負けている。女王は論外だ。そして彼女の名前から推測できるとおり、二十機のコスモドローンを操っていたのは悠ではない。彼女こそ先程の戦闘で鬱金色のインコを飛ばした者の正体である。サンバード星人である彼女には非常に優れたサイコ能力が備わっているのだ。
     美貌に超能力と、まさに才媛の黄桜だが、欠点もある。彼女は非常に「焼き餅焼き」である。それに関しては、戻ってくるなり飛びついた振る舞いから、ある程度、予想できるだろう。

     エルライス星。
    「遂に普賢と文殊が出会ってしまったか」 
     ヤネニフタ総統はそう呟いた。
    「申し訳ありません、総統閣下」
     サエナイ総理大臣が片膝を突いて謝罪する。
    「慌てるな。F-22,F35も量産体制に入った。戦力的に『我々の優位』は崩れていない」
     総統の言葉の通り、普賢と文殊が手を結んだとはいえ、まだまだ戦力的には圧倒的に優位の立場にある。
    「それはそうと、あちらの方はどうなっている?」
    「はい。既に配備は済ませてあります。あとは奴らが予定されるコースを通過するのを待つばかりです」
    「そちらは確実に仕留めるのだぞ」
    「はっ」

    「正面に惑星発見」
     見るからに生命体が存在しそうな水の惑星を発見した。
    「モニターに惑星の表面の様子を映せ」
     だが・・・。
    「酷いな」
    「やはり全滅か」
     この星は「惑星ファラ」という。エルライス軍の攻撃によって徹底的に破壊され、この星に住んでいた住民は全て殺されていた。
     二機は既に同様の惑星を幾つも通り過ぎていた。エルライスめ。
    「しかし、いくら艦隊が攻めてきたといっても、たかだか軍艦七隻にコスモパペット十一機でここまで完璧なジェノサイドなんてできるのか?核ミサイルにだって限りがある」
     平放蕩将軍が素朴な疑問を吐いた。
     それに対し、悠が次のように説明した。
    「『コロニー爆弾』だ」
    「コロニー爆弾?」
    「スペースコロニーを爆弾に見立てて、惑星の主要都市に落下させるんだ。スペースコロニーの市民と都市の市民、両方を一度に葬り去ることができる実に画期的な戦術さ」
    「そういえば、今まで通過してきた惑星にはスペースコロニーが一つもなかった」
     その時、美蕾が叫んだ。
    「2時の方向にレーダー反応。スペースコロニーです」
    「まだ残っているのか?」
    「映像出します」
     映っているのは確かに密閉型のスペースコロニー。その周囲には無数のソーラーパネルが浮かぶ。
    「どうも臭い」
     悠がそう呟いた。
    「同感じゃ」
     女王も続く。
    「やはり罠か」
     石之伸はじっと映像を眺める。
    「このスペースコロニーは一度、蓋を開けられている」
    「どういうことだ?石之伸」
    「映像を拡大してくれ。手前の蓋と筒の縁をだ」
    「映像拡大します」
    「ほら、はっきりと線が見える。蓋と筒はひとつに繋がっていない。分断されている」
    「はっ」
     悠が何かに気が付いた。
    「直ちに今の場所を移動だ。スペースコロニーの蓋の前から移動するんだ」
    「どうしたのじゃ?悠」
    「早く言われた通りにしろ」
     ウイは既に全速力で移動を開始していた。
    「わかったわい」
     一眼の亀も移動を開始した。
     その数秒後。
    「なんじゃ」
     スペースコロニーの蓋が突然、一眼の亀をめがけて飛んできたのだ。幸い、寸前のところで蓋はあたらなかったのだが、その蓋を飛ばしたのは、ハイギガハート砲をも上回る高出力ビームの粒子であった。ビームの輻射に面する一眼の亀の表面温度が3000度を超える。 
    「だめか」
    「もうだめじゃあ」
    「きゃあああ」 
    「おとうさーん」
     ブリッジの中を絶叫が飛び交う。幸い、ビームは10秒ほどで出力を急速に低下させた。
    「直撃だったらひとたまりもなかった。どうやら大丈夫だったようだ」
     石之伸の状況分析は完璧だ。
    「無事か?」
    「悠、今のは?」
    「コロニー・マグナムだ。スペースコロニーを砲身として利用する超破壊兵器だ」
    「何て兵器だ」
    「我々のためにエルライス軍が用意していたらしいな」 
    「どうする?」
    「できれば、今から破壊してもらいたいところだ」
    「了解した。お返しに、こちらもハイギガ絶頂を見舞ってやろうではないか。女王」
    「何じゃ、石之伸」
    「ハイギガハート砲の用意を」
    「だめじゃ」
    「どうして?」
    「腰が抜けた」
    「何だって?」
    「さっきの『コロニー・マグナム』とやらで、完全に腰が抜けてしまった。セックスなど、できんわい」
    「使えないおばさんだな」
     石之伸は思わず本音を口走った。
    「何じゃと。誰がおばさんじゃ」
    「石之伸、発進する。澄、お前も来い」
     石之伸はスピルマに乗り込むと、右手でビームキャノン砲を握った。
    「スピルマXX、発進」
     スピルマXXが発進した。既に敵の艦隊がコロニーの反対側の蓋にある宇宙港から出撃していた。
     ウイからスピルマXXに通信が入った。
    「何故、発進した?ハイギガハート砲一発で事は足りるが」
    「それが、うちの女王様が先程の攻撃に驚いて、腰が抜けたんだとよ」
    「参ったな。わかった。通常戦闘をしよう」
    「済まないな。こういう時の闘い方ってあるか?」
    「中に侵入。コロニー・マグナムの心臓部である発射装置を爆破する」
    「やっぱりそういうことになるのか」

     ウイ。
    「黄桜。俺も出る。ウイの操縦は任せた」
     悠が格納庫へ走る。
    「スピルマ発進」

     蓋がなくなったので、正面から突入できる。といっても中はまだ相当の高温の筈。とても正面から突入する気にはなれない。石之伸はスピルマXXを宇宙港に向けた。正面には敵艦隊。
     敵艦隊の砲撃が始まった。幸いなことに、それを躱すための浮遊物が周りには沢山浮かんでいる。ソーラーパネルだ。石之伸はソーラーパネルを隠れ蓑にして、敵艦隊に接近した。
    「墜ちろ」
     ビームキャノン砲を発射。見事に戦艦のブリッジに命中。そのまま戦艦を素通りして宇宙港に侵入。

     続いてドリアンも発進。
    「タンバリン」
     直ちにタンバリンを放出。敵巡洋艦を攻撃。ドリアンもまた宇宙港に入った。
     宇宙港にスピルマXXとドリアンが仁王立ちする。船が一隻もいない宇宙港は実に広々とした空間だ。
    「さて、どこから破壊すればいいんだ?」
    「見て。あっちに通路があるわ」
     澄が指差す。
     中を進むと突き当たりにコスモパペットでも通過できる大きな開閉扉があった。
    「きっとここからコロニーの中に入れるわ」
    「気をつけろよ。まだ温度が高いかも知れないぞ」
     開閉扉を開く。
    「どうやら大丈夫みたい」
     コロニーの中へ入るドリアンとスピルマXX。
     普通であれば町が建設されているスペースコロニーの内部だが、シリンダーは黒焦げ状態で何もない。
    「見て」 
     澄がいう方向を見る。そこはシリンダーの底の中央部分に当たり、本来はコロニー内部を明るく照らす人工太陽がある場所だ。
    「これは!」
     そこには何と、巨大な一本の棒が聳え立っていた。その高さは実にコロニーの長さの半分にあたる15㎞。あまりに巨大なので、その全容は石之伸には判らなかったが、計測したところ、その棒は松茸そっくりの姿をしている。
     これこそ、コロニー・マグナムの心臓部、通称「リンガ」と呼ばれる炉心棒である。この棒が光り輝き臨界に達したとき、あの恐るべきエネルギー粒子が発射されるのだ。
     そして、再び超巨大リンガが淡く発光し始める。どこかにある制御室で再び発射準備が開始されているのだ。
    「澄」
    「わかってるわ」
     ドリアンが腕と足を大の字に広げる。
    「いいーっ」
     ハート砲を発射。これで終わりだ。
     だが。
    「エネルギー粒子を吸収?」
     石之伸は見た。超巨大リンガハート砲のエネルギー粒子を悉く吸収するのを。

  • 次回予告

  • コロニー・マグナムの中でコスモパペットによる白兵戦が始まった。
    その間もリンガはその輝きを不気味に増していく。
    もしも発射されれば、シリンダーの中にいるコスモパペットは全滅だ。
    まさに極限の闘い。石之伸は、澄は果たして無事に生きて脱出できるのか?
    文殊の剱「大艦隊」
    11月1日19時30分
    宇宙の旅は続く。



  • 15

  • 「そうか。コロニー・マグナムのシステムはハート砲と同じ。だからハート砲のエネルギー粒子では破壊できないのだ」
     ドリアンのハート砲を吸収する超巨大リンガ。
    「何て恐ろしいものを開発したんだ。エルライスは」
     そして再び、その咆吼を宇宙に轟かせようとしている。
     だが何故だ?これだけ巨大なスペースコロニーである。その動きは緩慢であり、いくらエネルギーを充填したところで一眼の亀やウイを狙い撃ちすることなど出来はすまい。

     一眼の亀。
    「9時の方向にレーダーに反応。艦隊です。それも大艦隊です」
    「エルライスのものか?」
    「艦船を計測。データはありません」
    「ということは、エルライス軍ではないのか」
     この謎の艦隊についてはウイのレーダーでも探知していた。黄桜が計測する。
    「この艦隊は『ラムスイ教』のものだわ」
     銀河の中を旅するウイにはデータがあった。
     ラムスイ教とは天の川銀河で最も信者数の多い宗教である。チナパレス人もラムスイ教の教徒だ。そして帝王の蟹が救助した人々も、その多くがラムスイ教徒であった。ラムスイ教は像法時代の宗教であり、地球のような末法時代に突入した星では形骸化し、倫理・道徳的な価値しか持たない宗教だが、天の川銀河の中にある星の多くは「像法時代の星」であり、ラムスイ教徒と仏教徒は「天の川銀河の平和」のために友好関係を結んでいた。
     これでコロニー・マグナムが再び発射態勢に入った謎が解けた。コロニー・マグナムはチナパレス人を救済するためにエルライス星に向かうラムスイ教の艦隊を狙撃するつもりなのだ。それこそが本来の目的で、たまたま一眼の亀とウイがここを通りかかっただけなのだ。
     悠が黄桜に命令を与える。
    「ラムスイ艦隊に向かえ。こちらの状況を説明して艦隊をブランチさせるんだ。艦隊がひとつに固まっていたらコロニー・マグナムで狙い撃ちにされる」
    「了解」
     ウイがラムスイ艦隊に向けて発進した。
    「さて、俺も突入するとするか」
     スピルマ・ラディッシュがコロニー・マグナムの中に突入した。

     スピルマXXとドリアンは超巨大リンガに対し、あらゆる武器を試してみた。
    「だめだ。この巨根は破壊できない」
    「どうするの、あなた」
    「判らない。だが、必ず何か方法があるはずだ。人が作ったものである以上は」
     だが、考えている暇はなかった。敵のコスモパペット隊がコロニー内に侵入してきたからだ。こうなると、もはや戦闘に専念するしかない。
     ビームキャノン砲を打ち尽くしたスピルマXXはレーザーサーベルを手にした。
    「なに」
     よりによってF-18とがっぷりよつの状態になった。下半身がオールスカートのF-18はバーニアの推力でスピルマに優る。スピルマの背後には不気味に光る超巨大リンガ。既に輝いているから、もしもこのまま押し込まれればスピルマは蒸発してしまう。
     危うし、スピルマ・キャロット。
     その時、頭上からスピルマ・ラディッシュが降下してきた。その右足がスピルマ・キャロットをリンガに押し込もうとしているF-18の脳天を直撃した。F-18はその勢いで落下。F-18がいた位置にスピルマ・ラディッシュが納まる。
    「大丈夫か?」
    「正直、今のは危なかった」
    「大分、苦戦しているようだな」
    「というより、この後ろのデカブツを破壊できないで困っている」
    「直接攻撃はムリだ。まずはコロニーの筒と底の面から崩していくしかない」
     といっても、スペースコロニーは巨大である。しかもコロニー・マグナムは「発射時の衝撃」や「内側の高熱と圧力」に耐えられるように通常のスペースコロニーよりも遙かに頑丈な作りになっている。コスモパペットで破壊していたら大変な時間が掛かるだろう。しかもそこへ次々と敵のコスモパペット隊が雪崩れ込んできているのだ。
    「く、また来やがった」
    「まずはこいつらを片付けてからだ」
    「そうね」
     格闘戦は続く。

     一眼の亀。
    「中山ジャンダル、発進」
     コロニー・マグナムの中で格闘戦が始まったのを受けて、ジャンダル隊が加勢のために発進した。
    「突入する。みんな気張れよ」
    「了解」
     ジャンダル隊が正面からコロニー・マグナム内へ突入。コロニー・マグナム内では既に戦闘が進んでいた。
    「攻撃開始」
     ジャンダル隊の攻撃はビームライフルによる上からの攻撃。敵のコスモパペットは「不意を突かれる格好」となった。
    「中山。なかなか上手い攻撃だ」
     石之伸は素直に褒めた。
    「お褒めにあずかり光栄です」
    「お前たちはリンガの先端部から奥に入るな。そのまま上から砲撃するんだ」
    「合点、承知の助」
     超巨大リンガの輝きによって、ジャンダル隊はリンガの中にいるコスモパペットからは見えない。中にいる石之伸にはそうした状況が判っているから、こうした命令を下したのだ。そして上からは、下を飛ぶコスモパペットの動きは光によって「丸見え」であった。だからジャンダル隊の仕事は実に楽なものであった。
     だが、肝心の「コロニー・マグナムの破壊」乃至「コロニー・マグナムの機能停止」作戦は一向に進まないのだった。超巨大リンガの輝きがどんどん増していく。このままだと「二度目の発射」が行われてしまう。

     頼みの綱のひとつ、一眼の亀。
    「女王様、しっかりしてください」
     平放蕩将軍が必死に女王を介抱する。先程から女王をうつ伏せにして腰のマッサージを行っていた。
    「おー痛い、痛い」
    「急がないと、間に合いませんぞ」
    「判っておる。だが、腰が痛いのじゃ」
     まだ当分はダメのようだ。

    「こうなったら」
     石之伸は戦場を後にした。自分がコロニー内に入る時に使用した入り口に向かう。
    「何処へ行くの?」
    「ここを管理している制御室だ。そこを占拠する」
    「沢山、人がいるはずよ。ひとりでは無理よ」
    「やってみなけりゃわからない」
    「あなた」

     コロニー・マグナム制御室。
    「エネルギー充填50%。発射まであと20分」
    「そんなに掛かるの?」
    「発射には大量のエネルギーが必要ですから」
    「こいつの唯一の欠点ね」
     このコロニー・マグナム「チョイウトウシ」の最高責任者であるクボキタマ中将は苛立つ心を隠せない。またまた中将の登場だ。先に登場した五人の中将たちに「裏金問題」があったように、この中将にも「学歴詐称疑惑」がある。
     何やら扉の外が騒がしい。
    「何があったの?」
    「敵襲です。どうやらひとりのようです」
    「リンガは破壊できないから、ここを占拠しようという魂胆ね」
    「心配いりません。ご安心ください。ここを護る兵は50人おります」
    「このまま発射準備を続行せよ」
    「了解」

     発射まであと20分。勿論、石之伸はそんなことは知らない。一刻も早く制御室を制圧しなければと気持ちが焦る。石之伸は敵から奪った機銃で応戦していた。だが、敵の反撃は凄まじい。ひとりふたり撃ち殺しても、すぐに増援がやってくる。とても通路を突破できそうにない。
     そこへ悠がやってきた。
    「こりゃあ凄いな。とても通れんぞ」
    「悠」
    「ここはひとつ、俺に任せろ」
    「どうするんだ」
    「こうするんだ」
     答えは実に簡単。悠は手持ちの手榴弾を投げ込んだ。
    「うわあ」
     手榴弾が爆発。
     「行くぞ」
     先へと進む二人。
     次々と手榴弾を投げ込む悠。その後をついていく石之伸。その時、石之伸は死体の中に銃ではなく剣を所持している者を発見した。
    「いただき」
     石之伸はそれを手にした。
    「とう」
     通路で悠がジャンプ。足蹴りを相手の顔に喰らわす。
     更に。
    「やあ」
     回転蹴りで相手を弾き飛ばす。悠は「足技の名手」なのだ。
    「俺も負けてはいられない」
     剣を持った石之伸は鬼に金棒だ。
    「うりゃあ」
     敵兵を袈裟斬りで斬る。
    「とりゃあ」
     今度は突きで倒す。
     息の合ったコンビは、まさにふたりが古の時代から共に戦ってきたことの何よりの証だ。
     ふたりは遂に制御室の前の扉までやってきた。
    「でやあっ」
    「それ」
     石之伸が扉を二つに斬り、その後、悠が扉を蹴飛ばした。
     中に入ると、そこには多数の技師と、ひとりの見るからに厚かましい雰囲気を湛える女がいた。この女こそ、ここの責任者のクボキタマ中将であった。
    「いわれなくても判っているな。直ちに発射を中止するんだ」
    「残念だったわね。もう止められなくってよ」
    「何だと?」
    「お前たちが来るのが遅すぎたのよ。既に臨界に達しているわ。ここで無理に発射を止めようとすれば、ここにいる全員が死ぬことになるわ」
     今の話は真か嘘か?
     コロニー内にはまだ澄とジャンダル隊がいる筈だ。そのような状況での発射など有り得ない。
     石之伸は中将にばれないように懐の通信機のスイッチを入れた。
    「そんな話、誰が信じるものか」
    「信じる、信じないもない。発射しなければエネルギー粒子によってリンガが溶けて、コロニー全体がエネルギー粒子によって蒸発するのよ」
    「それまで、あとどのくらいの時間があるんだ」
    「そうね。あと3分かしら」
    「それまでにコロニー・マグナムを発射しないとダメということか」
    「そういうことよ」
     
     ドリアン。
    「あと三分」
     澄はジャンダル隊に命令した。
    「直ちにここを脱出よ。そうしないと私たち全員、エネルギー粒子に飲み込まれて蒸発するわ」
    「合点」
    「承知の助」
     中山たちがジャンダルを上昇させた。その後に澄のドリアンが続く。更にその後を敵のコスモパペット隊も追ってくる。
     まずジャンダル隊が外に出た。次いでドリアンも無事に脱出。
     その時。
    「え、なに?」
     ドリアンは今まで見たことのない軍艦がコロニー・マグナムを取り囲んでいるのを見た。
     そして最後にエルライス軍のコスモパペットが脱出した瞬間。
    「あっ」
     それらの軍艦が一斉に砲撃を開始した。エルライス軍のコスモパペットは全て破壊された。

     制御室。
    「リンガが溶け出すまであと10秒」
    「判った。仕方があるまい。俺たちも死にたくはない」
     クボキタマ中将が叫んだ。
    「コロニー・マグナム、発射」
     二回目となるコロニー・マグナムが発射された。
     悠に通信が入った。
    「こちら黄桜。悠、聞こえる?」
    「ああ。よく聞こえる」
    「コロニー・マグナムは不発に終わったわ。ラムスイ教の船には一隻も損害はないわ」
     この通信はクボキタマ中将の耳にも入った。
    「なんだと。そんなバカな」
    「ウイの飛行速度の方が、お前たちの作戦よりもちょっとばかし『速かった』ということだ」
    「そんな」
    「舐めてもらっては困るな。これでも普賢菩薩なんだぜ。俺は」
    「くそう」
    「さて。それでは全員、捕虜になって貰おうか。一眼の亀に『ご同行』願おう」
     その時、制御室に謎の兵士たちがどどっと雪崩れ込んできたかと思うや、瞬く間に制御室を占拠した。
    「何者だ?」
     叫ぶ石之伸。
    「その戦闘服はラムスイか」
     悠は落ち着いている。
     そう。彼らはラムスイ教を奉じる人々からなる兵士たちだ。コロニー・マグナムを取り囲む高速駆逐艦の中からやって工作隊のメンバーたちである。
    「構え」
     リーダーらしき人物がそう叫ぶ。他の兵士たちが一斉に機銃を構えた。
    「おい」
    「よせ」
     悠と石之伸が叫ぶ。
    「撃てえ」
     制御室に機銃掃射の音が轟く。石之伸と悠の目の前で技師とクボキタマ中将は銃殺された。
     悠と石之伸は直ちに彼らの愚行に対し非難の声を上げた。
    「お前たち、なんてことを!」
    「捕虜には生命を守られる権利がある!」
    「エルライス人はチナパレスの人々を今も虐殺し続けている。やられたらやり返す。我々はエルライスを殲滅する。お前らには同胞を殺されていく私たちの怒りは判るまい」
     その後、続々とラムスイ教の艦船が集結してきた。
    そして。
    「一斉発射」
    彼らの砲撃によってコロニー・マグナムは宇宙の藻屑となった。

     一眼の亀。
     艦隊を統率するラムスイ教の教主がシャトルで来訪、蘇我馬知子女王と謁見した。教主は女王に謝辞を述べ、打倒エルライスのための同盟関係が結ばれることになった。

     ウイ。
     悠は石之伸を招いた。二人きりで話がしたかったからだ。
    「お前も見た通り、エルライス人はラムスイ人を、ラムスイ人はエルライス人を全滅させることが『勝利』であり『宇宙の平和』であると考えている。実に愚かなことだ」
    「俺たち菩薩には菩薩としての『勝利の基準』というものがある。エルライスを悪と決めつけ一方的に虐殺することは断じて菩薩のすることではない」
    「エルライスとラムスイの人々を握手させる。それが我々の勝利だ。それ以外の形での戦争の終結は我々の敗北だ」
    「だが『憎しみの炎』を消化する作業は容易じゃない」
    「だが、やらねばならない。我らふたりが揃ったからには、この世に不可能なことなど存在しない。否、断じて存在してはならない。菩薩が宇宙を『平和にできなかった』となれば、宇宙には希望など一切存在しないことになってしまうからな」
     普賢と文殊。ふたりの心の中で慈悲の精神=菩薩界の炎が激しく燃え上がっていた。

     一眼の亀。
     四回目のワープを終了した。到着まであと三回である。
     あの日の闘い以降、一眼の亀とウイはラムスイ艦隊と行動を共にしていた。共闘するにあたり「敵の捕虜は一眼の亀に収監する」ことが取り決められた。そうしないとまた処刑という悲劇が行われることになるからだ。そしてこの取り決めは半ば一眼の亀側からの強制によって決められた。ラムスイ側としては一眼の亀とウイの高い戦闘能力がどうしても必要だったから、渋々ではあったが承諾したのだった。
     そしてこんなギクシャクした状況では、必ずと言っていいほど「おかしなこと」を企む輩が出てくる。
    「俺たちで一眼の亀を乗っ取っちまおうぜ」
     ラムスイ軍の過激派が密かにその時を狙っていた。
     ラムスイ艦隊は補給艦を同行させていた。
    「一眼の亀へ。我々から補給物資を提供しよう。今からシャトルを送る」
     補給艦からシャトルが発進した。
    シャトルが一眼の亀の格納庫内に着陸した。シャトルの扉が開く。
    「何だ。うわっ」
     シャトルの中からは過激派メンバーらが銃を持って降りてきたのだ。瞬く間に格納庫は制圧されてしまった。
    「作戦通りだ。お前の隊はブリッジを占拠しろ。俺たちはここのコスモパペットを頂く」

     スピルマ・キャロット。
     その頃、石之伸は偵察に出ていた。
    「む」
     無線の様子がおかしい。
    「こちら石之伸。どうした?」
    「大変だ。敵襲だ。敵がブリッジを占拠しようとしている」
    「何?」
    「ラムスイの連中が一眼の亀とコスモパペットを奪おうとしているんだ」
     なんてこった。
    「判った。直ちに引き返す。それまで持たせろよ」
     石之伸は機首を反転。一眼の亀へと向けた。

     ウイ。
    「悠。一眼の亀で何か起きたようよ」
    「何かって何だよ?黄桜」
    「今、艦内で銃撃戦が行われているわ」
    「判った」
     悠はウイを直ちにラムスイ艦隊の旗艦・戦艦ヘンテラへ向けた。

     石之伸が一眼の亀を視認した。
    「もう間もなく着艦する」
     その時。
    「何?」
     発進口からジャンダルが次々と発進、スピルマ・キャロットめがけて飛んでくる。ビームライフルをスピルマ・キャロットに向けて発射してくる。その練度は低い。撃墜することは簡単だが、そんなことをすれば一眼の亀のコスモパペットがなくなる。
    「あれは?」
     石之伸は一機のシャトルが一眼の亀に向かうのを目撃した。シャトルが一眼の亀の中へ入った。そのシャトルにはラムスイ艦隊の司令官と、その配下の兵たちが乗り込んでいた。
     一眼の亀のブリッジはラムスイの過激派によって既に制圧されていた。
    「司令官殿」
     過激派は司令官が自分たちの行動を支持、一眼の亀にやってきたものと思った。だが、司令官は自分が率いる兵に対し「撃て」と命じた。
     過激派は司令官によって一掃された。
     更に。
    「司令官が一眼の亀に入った」
    「そうか。一眼の亀を我が軍の配下に収めたのだな」
     ジャンダルを奪取したパイロットたちもまた全員、一眼の亀へ帰艦した。
    「撃て」
     ジャンダルから嬉々として降りてきた彼らもまた射殺されるのだった。
     かくして反乱は鎮圧された。

     一眼の亀・ブリッジ。
    「この度は我が軍の者がとんだことを企て、誠に申し訳なかった」
     ラムスイの司令官は馬知子女王に謝罪した。
    「今回のことで、我々は自分たちが如何に『野蛮な存在』に成り下がっているかを知りました。今の我々はエルライスと何ら変わらないということを」
     その場に同席していた石之伸が次のように言った。
    「では、どうすればラムスイ教の信者として恥ずかしくない『善良な人間性』を取り戻せると思いますか?憎しみのままにエルライスの人々を『皆殺し』にしますか」
    「いえ。それは間違っています。私たちは今こそ『殺さない』ことを決意しなくてはなりません。最後の最後まで敵対してくる者に対してのみ『武器を向ける』と」
     どうやら、今回の事件でラムスイの人々は気がついたようだ。「敵を殲滅する」という怒りの心が如何に物事を正しく判断する能力を失わせるかということを。そして自らを存在価値のない「下劣な存在」に変えてしまうものかということを。
     司令官と兵はシャトルで戦艦ヘンテラに戻っていった。
     ラムスイはこれでいい。あとはエルライスだ。

  • 次回予告

  • 一眼の亀、ウイ、そしてラムスイ教の連合艦隊は
    天の川大銀河と小銀河が接触する場所までやってきた。
    ここは二つの銀河が衝突する場所であり、無数の惑星が密集、
    頻繁に衝突を繰り返す「魔の地帯」だった。
    そしてそこで、悠と雄兵衛の「運命の出会い」があった。
    文殊の剱「第六天魔王VS普賢菩薩」
    11月15日19時30分
    宇宙の旅は続く。



  • 16

  •  エルライス星近くの宇宙空間では先程からイトマキⅧによるギガハート砲の発射テストが繰り返されていた。制御室ではひとりの少女が男性兵士に抱かれていた。
    「ああー」
     少女が感じると同時にギガハート砲が発射された。ということは、この少女は「サイコ能力を持つ」ということを意味する。
     その少女とはかつては芽茱萸(めぐみ)と呼ばれていたDP-67Lだった。エルライスによって滅ぼされた元ビクトリー星の王女である。
    「実験成功だ!これならば実戦に投入できる」
     研究者は大いに喜ぶのだった。



  • 「こりゃあ酷えな」
     浮遊隕石同士が衝突する。その時の凄まじい衝撃により大量の小さな隕石群が四方に飛び散る。それに当たれば戦艦などひとたまりもない。
     浮遊隕石同士でさえ、そうなる。ところが、ここでは惑星同士が互いの発する重力によって衝突することも珍しくない。その時には浮遊隕石同士の時とは比較にならない大量の隕石群が宇宙に散らばるのだ。
     ここは天の川大銀河と小銀河が交差する場所。両方の星々が衝突し合い、非常に多くの隕石群が存在する場所である。
    「こんな場所、通れるのか?」
    「エルライス軍は通っているんだろう?」
     そうとも限らない。銀河円盤の上か下に飛び出しているのかも知れない。そこで思い出されるのは、天の川大銀河の中心にあるブラックホールを上から通過したときのことだ。そこにはエルライス軍の中間補給基地である宇宙要塞サントウセイがあった。
    「隕石群を通過するか、それとも宇宙要塞を撃破するか」
     ここはよりエルライス星に近い場所である。サントウセイよりも、より強力な宇宙要塞があるに違いない。
     ルートは三つ。どのルートを通るべきか?話し合いの結果、上をラムスイ艦隊、下を一眼の亀、そしてウイが隕石群を中央突破することが決まった。ウイの中央突破はウイがコスモパペットのように小回りの効く宇宙船だからだ。
     集合地点を確認後、それぞれのルートを目指す。
    「無事だったら」
    「また会おう」
    「では」
     果たして、この中で「貧乏くじを引いた」のは誰?

     一眼の亀。
    「銀河円盤の下に出ました」
     頭上に銀河円盤。正面には天の川小銀河の中心部である膨らみが見える。
    「レーダーに反応あり。巨大隕石発見」
     どうやら、貧乏くじは一眼の亀のようだ。

     一方、上からの通過を選択したラムスイ艦隊もまた。
    「前方に敵宇宙要塞確認」
     どうやら、貧乏くじはひとつだけではなかったようだ。

     そしてウイ。
     ウイは順調に隕石群の中を突き進んでいた。
    「流石に、こんな場所に敵はいないようだな」
     悠が黄桜にそう話した。
    「いえ。どうやらそうでもなさそうよ、悠」
    「なに」
     その直後。ウイに衝撃が走った。
    「どうした黄桜。隕石との衝突か」
    「今のは遠距離からのビーム砲よ」
     ウイを直撃したビーム砲はイトマキⅧのギガハート砲であった。かなりの距離があったからだろう。完全破壊こそ免れたものの、直撃を受けたウイの左耳には大きな穴が空いていた。
    「この感覚は」
     悠は昔に感じた「懐かしい感覚」を思い出した。
    「これはあのときの」
     その時、ウイに通信が入った。
    「久しぶりだなYOU」
    「その声。それにその邪悪は波動。貴様、雄兵衛か」
     貴様。この時代の江戸ではまだ「目上の者に対する敬語」として用いられている。無論、ここでの悠はそんな意味で用いてはいない。これは貴様が「相手への侮蔑語」として用いられるようになった最初のケースである。
    「思えば、俺とお前の出会いは石之伸よりも古いんだよな」
     確かにそうだ。竜宮の漂流船をヤダユ船団が救助。ヤダユの戦艦が竜宮まで運ぶ途中、ふたりは出会ったのだった。
    「そうだったな。今にして思えば、あのとき倒しておくべきだった。ヤネニフタ将軍と共に」
    「今頃、後悔しても遅い」
    「それはどうかな」
     悠はウイのコクピットシートを立ち上がった。
    「黄桜、おれはラディッシュ(白いスピルマのこと)で出る。後は任せる」
    「ほう、来るか。ならばその挑戦、受けてやろうではないか。ブイブイブイー」
     雄兵衛がスピル・チェイサーで発進した。
    「変形」
     ステルス性能を持つ飛行形態でウイに向かう。
     その後を追うようにDP戦隊も出撃した。

    「発進」
     ラディッシュがウイのお尻から発進した。
    「変形」
     こちらも大根に変形。
     スピル・チェイサーVSスピルマ・ラディッシュ。まずはどちらも戦闘機の姿でドッグファイトだ。
    「墜ちろ」
     ラディッシュの頭が機体の上に持ち上がり、機銃が掃射される。だが、これは当たらなかった。
     Uターンしてくるかと思いきや、そのまま素通りするスピル・チェイサー。
    「逃げる気か」
    「お前には相応しい相手を用意してある」
     相応しい相手=DP戦隊がやってきた。
    「悠はお前たちに任せる。私はウイを墜とす」
     雄兵衛はそのまま黄桜が操縦するウイに向かったのだった。
     それを見た悠は内心「バカな奴だ」と思った。せいぜい黄桜の恐ろしさを味わうことだな。そう思ったのだった。
    「ならば俺は迷わず、こいつらの相手をするとしよう」
     悠はDP戦隊との闘いを選択した。
    「変形」
     ラディッシュが大根から人型にスイッチした。石之伸であれば、このあとはすぐさまレーザーサーベルを手にするが、悠は手に武器を持とうとはしない。
    「素手で我らと闘うというのか?」
    「何と愚かな」
    「バカな奴だ」
    「構うことないわ」
    「大根サラダにしてやるわ」
    「みんな」
    「ビームキャノン砲よ」 
     七機がビームキャノン砲を構える。
    「連射攻撃、開始」
     1,5秒間隔でビームキャノン砲を発射してくる。それを、まるでフラメンコを踊るように華麗に躱すラディッシュ。
    「文殊は、お前たちを少女ゆえに『殺したくない』と感じたようだが、俺は文殊ほど甘くはない」
     悠が攻撃を仕掛ける。
    「まずは一機」
     悠の攻撃法は「足蹴り」。ラディッシュは足の臑から下の部分がビームサーベルのように発光するようにできているのだ。
     悠はどの機体が最初にビームキャノン砲を発射していたのかをしっかりと見ていた。いくら他の機体がビームキャノン砲を発射してこようが、最初に発射した機体は10秒間、ビームキャノン砲を発射できないのだ。
     ラディッシュが最初にビームキャノン砲を発射した機体に接近した。その間までの時間は8秒。
    「それっ」
     ラディッシュが右足でスピルマクⅡの頭を、サッカーボールをゴールに向けてシュートするように勢いよく蹴飛ばした。蹴りを食らった頭はグチャグチャになった。
    「あーっ」
     その後、機体は爆発。まずDP-45Fが宇宙に散った。
    「さて、お次は」
     ビームキャノン砲を避けた悠はそのビームキャノン砲を発射した機体に向けて接近。
     それはDP-37Fだった。
    「やあっ」
     これまた発射から10秒以内に懐に入り込み、回転踵蹴りで顔面のカメラアイを破壊。更に腹に足蹴りを喰らわす。
    「さあ、お次は誰だ?」
     お次はDP-51Fであった。タイミング悪くDP-37Fを破壊した直後にDP-51Fがビームキャノン砲を発射してしまったからだ。
     ビームを躱し、その直後に急速接近するラディッシュ。10秒の時間さえあれば再攻撃できるのだが、それを与えないのが悠だ。
    「デュエットキック」 
     両足を揃えてのキック。その勢いは凄まじく、DP-51Fは喰らった瞬間、両腕と両足が体から分離した。
     これで三機撃墜。
     この状況を遠くから見ているのは隊長機であるピンクのスピル・クレスタ。即ちDP-65F。
     その気配に悠は無論、気が付いていた。気が付いていて、敢えて無視していた。まずは残りの四機を撃墜したかったからだ。
     悠はフェミニストの文殊、即ち石之伸には倒せない敵を、この場で全て「仕留めておく」と決意していたのだ。

     丁度、その頃。
    「ハイギガ絶頂発射じゃあ」
     一眼の亀が宇宙要塞ア・ヴィルア・フォテブにハイギガハート砲をお見舞いしていた。
     更に、その同じ頃。
    「全艦、一斉砲撃。撃てえ」
     ラムスイ艦隊もまた宇宙要塞アフフン・ゴロジヤに対し猛攻撃を加えていた。
     勝敗はいずれも「エルライス側の敗北」となるだろう。

     場面は隕石群の中に戻る。
     DP-65Fはもっと隕石を「有効に使え」と脳波で四機に指示を送った。
     四機が隕石の背後から隕石を打ち抜くようにビームキャノン砲を打ち始めた。
    「考えたな」
     10秒以内での接近はどうやら難しそうだ。
    「ならば、こちらも」
     悠もラディッシュを巨大な隕石の裏に隠す。
     その隕石めがけて四機のビームキャノン砲が一斉発射された。巨大隕石が粉々になった。
    「やった。とうとうやったわ」
     だが、ラディッシュは粉々になった巨大隕石の破片の裏に隠れていたのだ。
    「頂き」
     今度の獲物はDP-47F。ラディッシュは右肩にキックを浴びせた。右腕が吹っ飛ぶ。
    「はい頂いた」
     頂いたのはDP-47Fの右腕に握られていたビームキャノン砲。それを自分の右腕に握る。
    「はい、はい、はいーっ」
     そのビームキャノン砲を連続発射。小隕石の後ろに隠れている残り三機のスピルマクⅡを小隕石ごと撃破した。銃身の長いビームキャノン砲でありながら、その射撃はまるでポケットに収まるミニ拳銃を扱うように実に軽やかだ。
     ビームキャノン砲を捨てて、ラディッシュはDP戦隊最後の生き残りがいる場所へ向かう。勿論、DP-65Fのことだ。
    「哀れな乙女よ、安心しろ。速やかに成仏させて来世に生まれ変わらせてやるからな」
     悠が阿綺羅を仕留めることになるのか?確かに、悠ならば阿綺羅とは直接的な繋がりがない。悠は何も迷うことなく阿綺羅を倒すであろう。

     一方、こちらは雄兵衛と黄桜。
    「間違いない。あの時の白い船だ」
     雄兵衛は当時の記憶を思い返していた。
    「我がフィグの攻撃を受けてみよ」
     スピル・チェイサーの尻尾が八つに分裂。八機のフィグに変化した。
     八機の無花果がウイにオールレンジ攻撃を仕掛ける。黄桜はそれを躱そうと必死に操縦するが。
    「く」
    「この隕石群の中では自由に動けまい」
     フィグの攻撃を躱そうとすると、小隕石に機体をぶつけないではいられないのだ。
    「どうしてこの場所で俺様が待ち伏せしていたか、判っただろう?ブイブイー」
     雄兵衛の口からオノマトペが出た。調子に乗っている証拠だ。
    「さあ、好きな方を選べ。小隕石にやられるか、それとも俺様のフィグでやられるか」
    「まだよ」
     だが、黄桜はまだ闘志を失ってはいない。
    「ミミー」
     ウイのお尻が二つに割れた。中から鬱金色のインコの姿をしたコスモドローン・ミミーが飛び出した。その数二十機。
    「攻撃よ」
     ミミーVSフィグ。インコVS無花果。二十機VS八機。
     だが、数に優るミミーはフィグに苦戦した。ミミーの攻撃は小隕石の中を自在に飛翔、小隕石を盾として巧みに利用するフィグの前には無力だったのだ。
     次々と撃墜されていくミミー。このままでは危ない。
    「戻れ」
     黄桜はミミーを戻さざるを得なかった。
    「仕方が無いわ」
     黄桜は操縦席でひとり悶え始めた。
    「あん、あん」
     まさかこれは。
    「悠さまーっ」
     ウイの鼻先から強力な破壊力を持つエネルギー粒子が放出された。ハート砲である。ミミーが通用しないと判断した黄桜は日頃は羞恥心から使用しない秘密兵器を発動したのだ。ウイのハート砲が小隕石もろとも八機のフィグを粉砕する。
    「ピピピー。これはやばい象」
     雄兵衛はダジャレを言いつつ慌てて後退した。かろうじてスピル・チェイサー本体は消滅を免れた。だが、これでウイとスピル・チェイサーの間を遮る小隕石は一掃された。
    「漸く、ご対面ね」
    「チチチー」
    「こうなれば、こっちのものよ」
     回収したミミーを再び飛翔させた。十二機のミミーがスピル・チェイサーを攻撃する。
    「呑!」
     これはオールレンジ攻撃。
    「辛口一献!」
     これは一方方向からの集中射撃。
     いずれの攻撃も雄兵衛を恐れさせるに充分なものだ。
    「これはたまらん。イトマキⅧ、援護しろ」
     イトマキⅧから威力を落としたギガハート砲が長距離射程で連続発射された。黄桜はミミーを散開させることで直撃を免れる。だが、その間に雄兵衛は退却した。勿論、DP-65Fもだ。

     ラディッシュ。
    「む、退却したか」
     DP-65Fが発する脳波が消えた。スピルはステルスパペットだから、レーダーには反応しない。しかもこの隕石群だ。脳波を感じられなくなれば居場所などわかるはずもない。
    「こっちも退却だな」
     悠もウイに帰艦した。
    「黄桜、大丈夫か?」
     悠がブリッジにもどった。
    「悠」
     黄桜はいつものように悠に抱きつこうとはしない。逆に悠から黄桜を抱きしめた。
    「どうした?」
    「ハート砲を使ったわ。それにミミーを八機も墜とされたの」
    「まだ十二機もある。それだけあれば充分に闘えるわ」
     悠はハート砲には一切触れず、ミミーが撃墜されたことだけに話を持っていった。
    「よいしょ」
     悠は黄桜を「お姫様抱っこ」すると、そのまま寝室へと連れて行った。せっかく濡れているのだ。やらない手はない。

     集合場所には既に一眼の亀とラムスイ艦隊が到着していた。ウイは最後の到着となったわけだ。
    「遅かったのう。そなたらしくもない」
     馬知子女王からの通信の第一声。
    「ああ」
    「どうやら、派手にやられたようじゃな?」
     ウイの左耳に穴が空いているのを女王は見逃さなかった。この時点では、女王の発した言葉には多少の「揶揄い」の意味が含まれていた。
    「雄兵衛が待ち伏せしていた」
     それを聞いた女王は顔色を変えた。
    「まことか」
    「ああ」
    「あの隕石群の中でか」
    「そういう場所こそ、奴にとっては絶好の戦闘フィールドさ」
    「なんと恐ろしい奴なのじゃ。その雄兵衛という男は」
     石之伸から話には聞いていても雄兵衛の恐ろしさを女王は今も今まで実感することができずにいた。「自分だったら容易く倒せる」くらいに思っていたのだ。だが、悠の話を聞いて女王は漸く雄兵衛の恐ろしさを知ったのだった。
     九つの脳を持つ男、雄兵衛。その能力は計り知れない。
     その後、悠は石之伸にDP戦隊との格闘について語った。というより石之伸から悠にDP戦隊との格闘について尋ねたのだった。雄兵衛と戦闘したという事は当然「DP戦隊とも戦った」に違いないからだ。その話は石之伸にとっては驚愕するものだった。何しろ「全滅させた」というのだから。
    「まさか、ピンクの機体も撃墜したのか?」
    「いや、そいつだけは自分が到着する前に撤退したよ」
    「そうか」
     石之伸はその言葉を聞いて安堵した。
     黄桜がもしもハート砲を発射していなければ、悠は阿綺羅との戦闘に突入していただろう。「運命」とはこういうものだ。一見、偶然と思えるものが実は「偶然ではない」のだ。
     やはり「阿綺羅との決着」をつけるのは石之伸しかいないのである。

  • 次回予告

  • 一眼の亀、ウイ、ラムスイ艦隊は遂にエルライス星の所属する太陽系を捉えた。
    綿密な作戦を立てて進軍を開始する連合軍。
    それを迎え撃つは、強大なるエルライス艦隊。
    その戦闘の中で石之伸と阿綺羅の運命の歯車が回転する。
    文殊の剱「決戦」
    11月29日19時30分
    宇宙の旅も、いよいよ終わりに近づいた。



  • 17

  •  隕石群を抜けた竜宮・ラムスイの連合艦隊はいよいよ「最後のワープ」に入ろうとしていた。
     ワープ・アウトした先はもうエルライス星のあるチナパレス太陽系の中だ。となればワープ・アウト後には直ちに戦闘が始まることになる。従って、ワープに入る前に綿密な作戦を立案しておく必要があった。
    話し合いの結果、隕石群を通過するときと同様、艦隊を三つに分けることが決まった。問題はどこに、どの艦を配置するかである。
    「自分たちは左だ」
     真っ先にそう言ったのは石之伸。
    「じゃあ、俺は右だ」
     それに悠が続く。
     これはいわば彼らの「本能」であった。教主釈尊を中央に向かって見たとき文殊菩薩は右、普賢菩薩は左と決まっているからだ。
    ということで、ラムスイ艦隊は必然的に中央と決まったわけだが、隕石群の時と異なるのはラムスイ艦隊を今回、三つに均等に分けることだ。でなければ、エルライスに一眼の亀の位置がすぐに判ってしまうからだ。
    そして三艦隊にはそれぞれ「異なる任務」が与えられた。
    一眼の亀はエルライス星に降下、乙姫を救出する。中央のラムスイ艦隊は敵艦隊と交戦。そしてウイだが、ウイにはエルライス星の周囲に浮かぶ敵のスペースコロニーを奪取。一眼の亀が乙姫を救出したのち、イセサレムに落下させる「コロニー爆弾作戦」が与えられたのだった。
    「作戦開始」
     三隊に分かれた艦隊がそれぞれ作戦を開始した。三隊はそれぞれの方角に向け、ワープした。

     エルライス星・総統の宮殿。
     サエナイ総理がヤネニフタ総統に現状を報告する。
    「敵は三隊に分かれて我が星へ進軍しております」
    「で、海亀は、どの隊を率いているのだ?」
    「それが皆目、判りません」
    「艦隊はどの位置にいる?」
    「既に林星の軌道上におります」
     林星というのは、地球の太陽系でいうところの木星である。
    「では、発射までもう『時間が無い』な」
    「はい」
    「判った。ならば中央の艦隊を狙い撃て。確立は三分の一だ」
    「はっ。そのように連絡します」
     ヤネニフタ総統が仏教に対し無知であったことが幸いした。もしも知っていたなら、一眼の亀が向かって「右側にいる」ことは容易に判っただろう。

     密閉型コロニーを改造して造られたコロニーマグナム・バキ。エルライス星に最も近い場所に浮かぶスペースコロニーであり、いわばエルライス軍の最終防衛兵器である。
    「総理より入電。敵艦隊が炎星の軌道上に到達直後、サドバルン照準で発射せよ。以上」
     炎星は太陽系の火星に相当する惑星である。
    「了解」
     ここの責任者であるキーハンタラーは入電内容を聞き終えると、内部の状況確認に入った。
    「リンガへのエネルギー充填はどうだ?」
    「6時間前から充填作業を開始しており、間もなく臨界に達します」
    「よし。臨界に達したらそのまま待機。海亀め。必ず仕留めてやる」
     
     そんなこととは知らず、旗艦ヘンテラを先頭に炎星付近を進むラムスイ艦隊。
    「ここを過ぎれば、遮る惑星はもうない。エルライス星は目と鼻の先だ」
    「はい」
    「全艦、第一級戦闘配備に移行せよ」

     バキ。
    「敵艦隊、炎星軌道に到達」
    「発射一分前。発射に備え各自、防御準備」
     全員、サングラスを掛ける。
    「あと30秒」
    「エネルギー数値正常」
    「各種機械、オールグリーン」
    「あと10秒、9、8,7,6,5,4,3,2,1、発射」
     恐るべき轟音が轟く。悪魔の兵器が再び宇宙に咆哮を上げた。

     一眼の亀。
    「何じゃ、あの光の線は?」

     ウイ。
    「あれは、まさか」
     ラムスイ艦隊の左右に展開する両艦隊からも、夜空を走る銀河特急を思わせる一筋の光の線がはっきりと見えた。

     一眼の亀。
    「あれはラムスイ艦隊が航行している方角だ」
    「女王様」
    「直ちにラムスイ艦隊に連絡を取るのじゃ」
     応答はない。先程の光の線によって打撃を受けたことは明らかだった。直ちに救助に向かう必要があった。
     だが。
    「このまま直進だ」
     そう言ったのは石之伸。
    「なぜじゃ。ラムスイ艦隊の救援に向かわねば」
    「そんなことをすれば作戦は失敗する。あれはコロニー・マグナムだ。救援活動中にもし、もう一度発射されたら我々も全滅する。我々がすべきことは一刻も早くエルライス星に降下することだ」
    「じゃが」
     その時、通信が入った。ウイからだ。
    「救助活動は俺たちが引き受ける。そちらは作戦を続行してくれ」
     さすが悠だ。事情を全て把握していた。
    「判った。我が艦隊はこのまま前進する」
     この場は悠を信じて、一眼の亀が率いる艦隊はそのまま直進した。

     一眼の亀、カタパルトデッキ。
    「石之伸キャロット、発進する」
     キャロットが発進。
    「澄ドリアン、発進します」
     続いてドリアンが。
     更にそのあとをジャンダル隊が続く。
    エルライス星降下作戦が遂に発動したのだ。
     まずは通常のコスモパペットの三倍の速度を誇るキャロットとドリアンが大気圏に突入する計画だ。二機が平行に飛行する。
     その二機の前に、次々と敵のコスモパペット隊が立ちはだかる。
    「邪魔だ」
    「どきなさい」
     構っている暇はない。目の前の進路を塞ぐ敵だけを破壊し、速度を維持したまま飛行するキャロットとドリアン。
     二機が大気圏のすぐ手前まで到着した。
     その時。
    「この波動は・・・阿綺羅」
     石之伸は阿綺羅の波動を左手に感じた。
     一方。
    「この波動は・・・雄兵衛」
     澄もまた雄兵衛の波動を右手に感じた。
     二機はそれぞれ真逆の方向へ90度、機首を向けた。そして石之伸は阿綺羅へ、澄は雄兵衛へと向かうのだった。

     一眼の亀。
    「前方よりエルライスの大艦隊が接近中。あっ」
    「どうした」
    「後方からもエルライスの艦隊が接近してきます」
     天の川大銀河への軍事侵攻のために派遣されていた艦隊が呼び戻されたのだ。まあ当然だろう。母星が攻撃を受けようとしているのだから。
     一眼の亀は前と後ろで「挟み撃ち」となってしまった。前方の大艦隊は予定通りだったが、後ろの艦隊はイレギュラーだ。おまけに今は石之伸も澄もいない。
     エルライス艦隊の砲撃が始まった。前と後ろからの砲撃に次々とラムスイ艦が撃沈されていく。
     しかも。
    「後ろの敵艦隊の後ろに、更に別の艦隊を探知」
    その結果、後ろの艦隊は前にいる艦隊に匹敵する大艦隊になった。
     もはやここまでか?
     だが。
    「待って下さい。後ろの艦隊は更に後ろから来た艦隊から攻撃を受けているようです」
     どういうことだ?
     ここで一眼の亀に通信が入った。
    「モニターに出します」
     モニターに映ったのは。
    「久しぶりだな。竜宮の諸君」
    「あなたはヤダユ王」
    「漸く決心がついた。我々もエルライスと戦う」
    「ヤダユ王」
    「元々、こうするべきだったのだ。『我々でけりをつける』という言い方は烏滸がましいな。あなたがたに加勢させてくれ」
     何と「心強い援軍」を得たことだろう。士気は一気に高まった。
    「よっしゃあ。後ろの敵は彼らに任せて、うちらも戦闘開始じゃ」
     一眼の亀の左右の甲羅がパカッと開いた。
    「ギガ主砲の乱れ撃ちじゃあ」
     正面にいる敵の艦隊めがけて、馬知子女王によるギガ主砲の連射が始まった。
     
     ジャンダル隊をはじめ、ラムスイ艦隊から発進したコスモパペットは全機、左手に傘のようなものを持っていた。それは一体、何なのか?その正体については作戦が進むうちに判るだろう。
     エルライス軍もコスモパペット隊を続々と発進させてきた。F-15、F-16、F-18、F-22、F-35といった具合にあらゆる機種が渾然一体なって攻めてくる。
     かくして大混戦が始まった。
    「こんなところで撃墜されてたまるか」
     ジャンダル隊が敵と擦れ違う。
    「振り向くな。我々はこのまま真っ直ぐ突き進め」
     だが、そうはいかない。キャロットやドリアンは通常の三倍の飛行速度を持っていればこそ、それが可能だったが、ジャンダルやその他のコスモパペットでは敵が攻撃を仕掛けてくれば戦闘は避けられなかった。 
     次々と宇宙に光が輝く。それらはエルライス、或いはラムスイのコスモパペットが撃墜されたときの爆発によって生じる光。幸い、ジャンダル隊はまだ撃墜されてはいない。



  • 「阿綺羅」
    「『最後の戦い』をはじめましょう」
    「どうしてもか」
    「そうよ」
     スピル・クレスタがレーザーロッドを手にした。
    「いくわよ」
    「くっ」
     石之伸もレーザーサーベルを抜いた。
     これも運命か?遂に両者の戦いが始まってしまった。
     阿綺羅がロッドを振るい、石之伸がサーベルで受ける。実力は石之伸の方が上だが、石之伸は先程から防戦一方だ。そんな石之伸の脳裏には先程から「阿綺羅との思い出」が甦っていた。特に「蘇我城攻防戦」では、ふたりは一緒に行動を共にし、女王がいる本丸御殿まで駆け抜けた。
    「できない。俺には阿綺羅を殺すことなど」
     だが、こんな石之伸の思いは先の戦闘以降、更に強力な洗脳を施された今の阿綺羅には全く届かない。
    「ははは、どうした石之伸」
     レーザーロッドがレーザーサーベルを弾き飛ばした。
    「しまった」
    「とどめだ」
     レーザーロッドがキャロットの全身にグルグルに巻き付く。
    「死ねえ!」
     レーザーロッドがキャロットの外壁を熱する。このままではキャロットは輪切りなる。
     その時。
    「うう」
     阿綺羅が突然、苦しみだした。
    「ああ、心臓が、心臓が苦しい」
     雄兵衛を愛する阿綺羅の脳と石之伸を慕う心臓との格闘が始まったのだ。
    「ああああああ」
     必死に自分の脳に擦り込まれた偽りの記憶と格闘する阿綺羅。頑張れ、阿綺羅。
     やがて、スピル・クレスタのコクピットが静かになった。どうやら戦いが終わったようだ。勝ったのか?石之伸はキャロットのコクピットから降りると、スピル・クレスタに宇宙遊泳で取り憑いた。スピル・クレスタのコクピットのキャノピーを開ける。
    「阿綺羅」
     阿綺羅は既に息絶えていた。石之伸を慕い、最後の最後まで脳からの指令に逆らい続けた阿綺羅の心臓は苦しみのあまり破裂してしまったのだ。まさに「胸が張り裂けてしまった」のである。
    「うおおおおお」
     石之伸は阿綺羅を抱きかかえると、涙を流しながら吠えるのだった。



  • 「いたわね、雄兵衛」
    「澄。今日こそ貴様の最後だ。ピピピー」
    「お前なんかに構っている暇はないわ」
     ドリアンが腕と足を大の字に広げた。
    「これで一気に片をつけさせて貰うわ。ハート砲!」
     澄は迷うことなくハート砲を発射した。これで雄兵衛も最期だ。さらば雄兵衛。
    「なに?」
     しかし、ハート砲は雄兵衛が乗る青いスピル・チェイサーから逸れ、エルライス星へと落下した。
    「ブイブイー。ここではハート砲は使えない。エルライス星の重力に引っ張られるからなあ」
     ハート砲唯一の欠点。ハート砲のエネルギー粒子は重力の影響を極度に受けやすいのだ。真空の宇宙では無敵のハート砲も重力下では役に立たないのだ。
    「ならば、これはどう」
     澄はタンバリンを使わずドリアン本体のみでスピル・チェイサーへ攻撃を開始した。
    「ブレストビーム」
     だが、相手は雄兵衛である。そんなものは余裕で躱す。
    「この攻撃。どうやら、お前はタンバリンを自在に操れるようにはなれなかったようだな?」
    「くっ」
    「ならば死ねい。フィグ」
     フィグが放たれ、ドリアンを攻撃し始めた。もはやタンバリンを操るどころではない。澄はフィグからの攻撃を避けるためにドリアンを操縦するだけで手一杯だ。
    「ハハハ、どうした澄。避けているだけじゃ,俺は倒せないぞ」
     やがてフィグの攻撃がドリアンを掠めるようになった。
     澄、危うし!
    「どうやらこの勝負、俺様の勝ちのようだなあ、澄」
    「タンバリン」
     ここで澄はタンバリンを放出した。だが、フィグと勝負しても勝てないことは判っている。だから澄はタンバリンをミサイル代わりに次々とスピル・チェイサー本体に体当たり攻撃させた。だが、もとよりタンバリンはミサイルではないから爆発はせず、粉々に砕けるだけ。その効果はせいぜいスピル・チェイサーを少し後退させる程度だ。
    「バカめ。こんなものでやられるものか」
     余裕綽々の雄兵衛。
    「最後の一機が砕け散ったときが貴様の最後だ」
     そして最後のタンバリンが砕け散った。
    「これで終わりだな。覚悟しろ、澄」
     フィグがドリアンをオールレンジ攻撃する体勢に入った。
     だが。
    「なに?」
     雄兵衛は自分の体が後ろに大きく引っ張られるのを感じた。
    「これは、まさか」
     スピル・チェイサーがみるみる後方へと下がる。いや、落下する。
     そう。スピル・チェイサーはエルライス星の引力に捕らえられてしまったのだ。
    「じょ、上昇だ」
     バーニアを全開にして上昇を試みる。だが、一度落下を開始した機体は余程の推力がなければ上昇などできはしない。
    「だ、ダメだ。落下する」
     落下速度が増していく。スピル・チェイサーの青い機体が摩擦によって赤く発熱し始めた。
    「なんということだー」
     スピルには大気圏に突入できるだけの能力は備わっていない。
    「石之伸ならいざ知らず、この俺様が澄如きに負けるなどとはー」
     足、腕といった具合にスピル・チェイサーが分解し始めた。
    「ふたりいるからにほんしゅうー」
     最後に謎の言葉を残して雄兵衛は肉体ばかりか魂までも完全に焼き尽くされたのだった。
    「や、やったわ。遂に雄兵衛を倒した・・・」
     雄兵衛を見事に倒した澄。感極まったのだろう。澄は思わず、その場で泣き崩れるのだった。



  • 「右耳を破壊されたわ」
    「くそう」
     ウイはイトマキⅧに苦戦していた。隕石群で左耳を破壊されたときと同様、今度は右耳を破壊されてしまった。そしてコスモドローン・ミミーもギガハート砲によって破壊され尽くしていた。
    さすがは竜宮が開発した最新鋭空母である。イトマキⅧの機動力はとても全長300mの巨大空母とは思えない素早いもので、ウイの機動力をも上回っていたのである。
     だが、イトマキⅧを倒さない限り、ラムスイ艦隊をコロニー・マグナムへ突入させることはできない。イトマキⅧこそコロニー・マグナムを防衛する最終防御兵器なのだ。
    「発進」
     ウイのお尻から悠の乗るラディッシュが発進した。
     ウイはもう限界であった。悠はラディッシュでイトマキⅧと闘うつもりなのだ。竜宮最新鋭空母とコスモパペット単機では勝負は見えている。これはあまりにも無謀な作戦であった。
     周囲に浮かぶコスモパペットの残骸からビールライフルを入手。それを武器に果敢にイトマキⅧに取り憑こうと試みる。だが、イトマキⅧの動きは実に機敏。うっかりすると取り憑くどころか激突してしまう。
     そしてイトマキⅧの左右の翼の先端部に並ぶ無数の機銃掃射からは雨霰のような攻撃が。最新鋭兵器らしい正確な射撃によってラディッシュは背中の黒い耐熱板の右半分を弾き飛ばされてしまった。
    「駄目だ、このままではどうしようもない」
     悠の脳裏に「作戦失敗」という文字がよぎり始めていた。

     そのイトマキⅧの中では「一つの事件」が起き始めていた。
    「ああ、ああ」
     最初のうちはギガハート砲の発射装置として完璧に機能していた芽茱萸だったが・・・。
    「なに?」
    「どうした」
    「装置に過電流が!」
     芽茱萸の体から装置が許容する以上の電流が発生していたのだ。
    「ああああーん」
     やがて芽茱萸は自らの精神でイトマキⅧの操縦系統を乗っ取り始めたのだった。その結果、もはやブリッジの兵たちによってはコントロールができなくなったイトマキⅧは完全にその機能を停止した。
    「動きが止まった」
     なぜだ?悠は不思議でならない。だが、今なら機体に取り憑ける。
     しかも、ブリッジの下にあるカタパルトデッキの発進口が上下に大きく開き始めた。勿論、芽茱萸が操作しているのだ「私を助けて」と。
    「よし、今だ」
     悠のラディッシュがそこからイトマキⅧの内部へと侵入。カタパルトデッキに着陸した悠は機銃を手にラディッシュから降りた。
     白兵戦が始まった。悠は巧みな機銃捌きと華麗な足技で敵の兵を次々と倒していく。
     そして遂にギガハート砲制御室まで辿りつくことに成功。中にいる兵を一掃した。
    「ううう」
     芽茱萸は危険な状態にあった。イトマキⅧの操縦系統をジャックするためにかなりの精神力を消耗していた。
     芽茱萸を抱えてラディッシュに戻った悠は、カタパルトデッキ内にあるコスモパペットを全て破壊してから脱出した。カタパルトデッキ内では破壊されたコスモパペットの爆発で火災が発生。炎はイトマキⅧの内部全域に達した。
     そして。

     ドカーン!

     幼気な乙女たちを兵器として利用したイトマキⅧは乗組員の兵と共に大爆発。宇宙の塵となって消えた。
     ウイに戻った悠は芽茱萸を直ちに治療室へと運んだ。治療用のベッドの上に芽茱萸を寝かせる悠。そこへ黄桜がやって来た。
    「悠」
    「どうやら、大丈夫そうだ」
    「これからどうするの?」
    「俺たちはここまでだ」
     今の傷ついたウイとラディッシュでは大気圏へは突入できない。悠と黄桜はこのまま戦線を離脱「芽茱萸の治療」に専念することにしたのだった。

     イトマキⅧを失ったコロニー・マグナムはやがてラムスイ艦隊によって制圧された。
     そして。
    「核融合エンジン点火」
     コロニー・マグナムが移動を開始。ラグランジュポイントから離れた。
    「エルライス星への落下軌道に入りました。予定通り2時間後にイセサレムの中心部に落下します」
     ここまでの作戦は成功である。
     あとは地上に降下した石之伸たちが2時間以内に乙姫を救出するだけである。

  • 次回予告

  • 石之伸のキャロットが、澄のドリアンが大気圏に突入する。
    最初に突入した石之伸は首都・エルライスでヤネニフタ総統が乗るドリアン・マジェスタと闘う。ドリアン・マジェスタの圧倒的なパワーの前に苦戦する石之伸。
    一方、あとから突入した澄は無量宝珠の前に到着した。乙姫の救出に成功した澄。だが、戦いはこれからが佳境。
    「ドリアン発進」
    乙姫が自らの愛機であるドリアンを駆る!
    次回・文殊の剱
    「激闘!ヤネニフタ総統VS乙姫」
    12月13日(土)19時30分。
    お楽しみに。
    最終回まであと2話。



  • 18

  •  大気圏突入時に生じる高温によって真っ赤に燃える人参。表面温度が下がると、目の前に巨大な都市が出現した。
    「これがイセサレムか」
     エルライスの首都・イセサレム。「科学力の高さ」は判るが、やはり「美しい」とは言えない町並みを持つ。石之伸はこの大都市が発生する修羅界の波動を肌でビリビリと感じ取っていた。
    「む、敵か」
     正面に無数のコスモパペットを確認。F-35の編隊である。
    「邪魔だ」
     石之伸はキャロットを人型に変形させると直ちにレーザーサーベルを手に握り、F-35を次々と切り裂く。 
     そんなキャロットの前に新たなる敵のコスモパペットが接近してきた。どうやら新型らしい。
     その姿を見た石之伸は吃驚した。
    「この姿は!」
     石之伸は初めて遭遇するにも拘らず、そのコスモパペットの外観には見覚えがあった。それもその筈。そのコスモパペットの外観は女王に即位した乙姫にそっくりだったのだ。
     そのコスモパペットの名は「ドリアン・マジェスタ」という。エルライス軍が竜宮から奪った超兵器の一つである。そして、このドリアン・マジェスタのコクピットに乗っているのはヤネニフタ総統その人に他ならなかった。
     ドリアン・マジェスタは本来、乙姫専用機である。それは「サイコパペット」であることを意味する。ヤネニフタ総統はこのドリアン・マジェスタに乗るために、命にも関わる危険なサイコ訓練を受けていたのだった。そして今、乗っていると言うことは、訓練は「成功した」ということを意味した。
     このドリアン・マジェスタだが、全高は一般的なコスモパペットの3倍。出力は澄が乗るドリアンの実に8倍にも達する。ミノカサゴの衣装を身に纏うドリアン・マジェスタは下半身が全てロングスカートに覆われているため、足がないことで巨大なジェネレーターを装備することが可能である。そしてドリアンだから当然、コスモドローンやハート砲も装備されている。まさに全宇宙最強、無敵のコスモパペットであった。
     そのドリアン・マジェスタが「手始め」とばかりに石之伸のキャロットに攻撃を仕掛けてきた。
    「くっ」
     石之伸はスピルマを降下させると、地面すれすれをホバーで移動しながら高層ビルを盾に隠れた。
     だが。
    「なに?」
     ドリアン・マジェスタは高層ビルに向かってビームを発射したのだ。破壊され、倒壊するビル。石之伸は慌てて瓦礫が降り注ぐビルから離れた。
    「何て奴だ。ビルを破壊しやがった」
     その後、石之伸はテレビ塔とおぼしき電波塔の後ろに隠れたのだが。
    「またかよ」
     再びドリアン・マジェスタのビーム砲によってテレビ塔が倒壊する。
    「こいつ、判っているのか。自分たちの街を壊しているんだぞ」

     こちらは澄。石之伸のキャロットに続いて、大気圏へ突入。4枚の羽根を2枚に重ねて背中から降下する。羽根と髪の毛の繊維によって高熱から胴体を保護する。
     ドリアンは乙姫がいる無量宝珠が発する信号の地点に正確に降下する。
     石之伸もそうだが、澄も20世紀のアメリカのアストロノーツにとっても極めて難しい「大気圏突入」を難なくこなす。江戸時代人であるふたりの方が「発達した文明」によって怠け癖が身についた結果、精神を弱くしてしまった現代人よりも遙かに強い精神力や集中力を持っている証である。
     それはそうだろう。ご飯ひとつ焚くにしても、現代人は電気釜にスイッチを入れるだけだが、江戸時代の彼らは薪を割り、火をおこすところから始めねばならないのだから。
     表面温度が下がり始めたところで、ドリアンが向きをクルリと回転させた。
    「あそこね」
     ドリアンはエルライス軍の研究所の敷地内に着陸した。
    「ここからは白兵戦ね」

     こちらは宇宙空間。
     ヤダユ船団の砲撃によってエルライス軍のコスモパペット隊はあらかた片付けられていた。
    「私たちの船ではエルライス星には降下できない。後は任せました」
    「ありがとうございました、ヤダユ王。後は私たちに任せて下さい」
     生き残った竜宮・ラムスイ連合軍のコスモパペット隊が大気圏のすぐ傍までやって来た。
    「よし。進入角度異常なし」
     中山がイセサレムへ侵入するのに最適な軌道を計算する。
    「よし。大丈夫だ。みんな、降下するぞ」
     中山を先頭に次々と妖精たちの乗るジャンダルがエルライス星の引力圏の中に飛び込む。みるみるうちに加速していくジャンダル。やがてジャンダルの表面が赤く発光し始めた。機体との摩擦によって表面の大気がイオン化しているのだ。それと共にジャンダルの表面温度が上昇する。
     ジャンダルにはキャロットやドリアンのような大気圏突入能力はない。このままでは高温によって宇宙の塵と化してしまう。
    「よし。パラソルを開け」
     ジャンダルは左手に持つ傘を開くと、通常とは逆に先端を下に向け、その上に乗った。
    これは下に向けて差す、その名も「ボトム・パラソル」。特殊繊維によって編まれたこの傘は大気圏に突入する際に生じる高熱からコスモパペットを護ることができる。子供が雨上がりの時に傘の上に乗っかって遊ぶ、あの要領である。
     無事に敵の攻撃を通過したラムスイ隊のコスモパペットも次々と同じ要領で大気圏突入を開始する。ジャンダル隊の降下目的地はイセサレムだが、ラムスイ隊はそれぞれ別の地点へ降下する。それぞれの場所で戦っているチナパレスの同志たちと合流するのだ。

    エルライス軍研究所。
     てっきり白兵戦になると思っていたが、研究所内には人は誰もいなかった。既に全員、逃げ出していたのだ。澄は何の苦もなく無量宝珠のある場所までやってくることができた。
    「これが無量宝珠」
     無量宝珠。宝珠の中の宝珠。大きさもさることながら、その美しさときたら、水晶と言うよりは巨大なダイヤモンドだ。
    「これは」
     無量宝珠が七色に輝き始めた。
     中から人影が。乙姫が無量宝珠の中から出てきたのだ。
    「乙姫様」
    「澄。よくドリアンをここまで運んで下さいました」
     この言葉ほど、今回の一眼の亀の「旅の目的」を端的に言い表すものはない。澄を始め石之伸や馬知子女王らは「エルライス星に連れ去られた乙姫を救出するための旅」と考えていたのだが、実はそうではなく、ドリアンを乙姫の元に届けることこそ旅の「本当の目的」だったのだ。
    「あとは私に任せなさい、澄」
    「はい」
     澄は反射的に「はい」と返答していた。
    「では参りましょう。ドリアンの元へ」
     乙姫が歩き始めた。澄は後に続いた。

    「これでは埒があかない」
     石之伸は足の裏のノズルでキャロットを地上から空へ上昇させると、ドリアン・マジェスタの頭上をとった。 
    「喰らえ」
     レーザーサーベルを振り下ろす。頭上を急所と読んだからだったのだが。
    「なに」
     ドリアン・マジェスタはビーム砲の装備されていない肩や頭の上からビームを発射してきたのだ。慌てて避けるキャロット。
    「ならば」
     今度は阿南目下から上昇しつつ「突き」による攻撃を狙う。すると、今度はやはりビーム砲などどこにもないスカートの表面からビームが発射された。
    「うわあ」
     辛うじて避けたものの、バランスを崩したキャロットは地面に落下してしまった。
    「まさか、このコスモパペットは」
     石之伸の「予想通り」である。ドリアン・マジェスタは特定のビーム発射装置を持たない。機体の表面全てがビーム発射装置となるのだ。勿論、これはドリアン・マジェスタがサイコパペットだからこその芸当である。つまりドリアン・マジェスタには「死角がない」のだ。
     更に。
    「何だ、あの丸く光るものは?」
     ドリアン・マジェスタの周囲に「白く光る球体」が次々と発生する。それらがキャロットに迫る。しかも球体はビームを発射してきた。
     これはドリアン・マジェスタが生み出した、その名も「サイコドローン」。サイコ能力によって生み出されたエネルギーのみで構成されるコスモドローンなのだ。
    「冗談だろう?」
    必死に逃げる石之伸。必死にビルの谷間を走る。それを追いかけるサイコドローン。
     そんな鬼ごっこも終わりを迎えようとしていた。キャロットはビルの谷間の袋小路に入ってしまったのだ。
    「くそう」
     コスモドローンに左右と上を囲まれ、逃げ場のないキャロット。その奥から悠々とドリアン・マジェスタが迫る。
    「貴様の最期だ」
     石之伸がやられる!
     そこへ上空からジャンダル隊が降下してきた。
    「石之伸様。我ら妖精四人衆。加勢いたす」
    「止せ。お前たちじゃ無理だ」
     必死に止める石之伸。だが妖精たちはドリアン・マジェスタにビーム攻撃を開始した。しかしそれらは全てドリアン・マジェスタの体に吸収されるかのように消滅する。
    「蚊トンボめ」 
     ドリアン・マジェスタの全身からビームが発射された。それらがジャンダルのボディを破壊する。
    傷ついた四機のジャンダルが地上に落下した。
    「みんな!」
    「待たせたな。いよいよお前の番だ、文殊」

     エルライス軍研究所。
    「あなたはここで無量宝珠をお護りなさい」
     乙姫は澄にそう告げると、ドリアンの操縦席に座った。
    「ドリアン、発進」
     本来の主である乙姫がドリアンを駆る!

    「貴様の最期だ。喰らえい」
     石之伸がやられる!
     その時、ドリアン・マジェスタは背中にビーム攻撃を受けた。といってもドリアン・マジェスタにはビームを吸収する能力があるから無傷だ。
    「何者だ?」
     その答えは石之伸が答える。
    「あれはドリアン。澄か」
     石之伸に通信が入る。
    「ドリアン・マジェスタの下を潜りなさい」
    「その声は・・・乙姫様」
    「さあ、私が言う通りに」
    「判りました」
     石之伸はキャロットを飛行形態に変形させると、宙に浮かぶドリアン・マジェスタの真下を高速で潜り抜けた。
    「あなたはそのまま軍の研究所へ向かいなさい。そこで澄が待っています。ドリアン・マジェスタは私に任せなさい」
    「ありがとうございます」
     キャロットはそのままエルライス軍の研究所へと飛翔した。
     ドリアン・マジェスタが振り返る。子供と大人、乙姫の姿を持つ二つのドリアンが対峙した。
    「乙姫」
    「戦いは私が引き継ぎます」
     ヤネニフタ総統VS乙姫。
    「遂に宝珠の中から出て来たようだな?乙姫」
     ヤネニフタ総統は笑わずにはいられない。
    「世は『この時』を待っていたのだ。乙姫よ。ドリアンを破壊して、お前を必ずこの腕の中に抱いてやるぞ」
    「それは無理です」
    「ドリアンとドリアン・マジェスタではパワーも性能もダンチだ。しかも世はこの日のためにサイコ能力を伸ばす訓練を日々、積んできた。お前が勝つ可能性はゼロだ」
    「ならば、その成果を試させてもらいましょう」
    「なめるな!」
     ドリアン・マジェスタのサイコドローンがドリアンを取り囲んだ。
    「攻撃」
     サイコドローンによるオールレンジ攻撃。一方、ドリアンのコスモドローンは既に一機もない。
     しかしドリアンはそんなことは「全く問題ない」といわんばかりにまるでフィギュアスケートでステップでも踏むかのように華麗なダンスを披露しながら躱す。その間にビームを消費するサイコドローンはどんどん小さくなり、やがて全て消滅してしまった。
    「くそう」
    「では、今度はこちらか行くわよ」
     ドリアンが足と腕を大の字に構える。
    「私は美少女ロボット、ドリアン」
     何とドリアンが口をきいた!その後、ドリアンは今まで見たこともない強力なハート砲を発射した。
     これが本来のドリアンの攻撃能力!澄はせいぜいドリアンの能力の1/10を発揮していたに過ぎないのだ。
     その理由は澄の愛が石之伸という特定の男性に対する「性愛」であるのに対し、乙姫の愛は生きとし生けるもの全てに注がれる「慈愛」だからである。乙姫の放つハート砲の凄まじさは、乙姫の「慈愛の深さ」の表れなのだ。
     だが、それをドリアン・マジェスタは全て吸収した。
    「フハハハハ。無駄だ、乙姫。ドリアン・マジェスタには敵のビーム攻撃を吸収する装置が備わっているのだ」
     恐るべき、ドリアン・マジェスタ。
     だが、乙姫は再びハート砲を発射した。再び吸収されるエネルギー。
     そして、もう1回、ハート砲が発射される。
     その時。
    「なに?」
     ドリアン・マジェスタの腰の部分が内側から爆発した。それはエネルギーを吸収する装置のある部位であった。ドリアン・マジェスタはエネルギーを吸収する能力を超えるエネルギーを吸収したことで、装置が破壊されたのだ。
    「こ、こんなことが」
     慌てるヤネニフタ総統。 
    「これが、乙姫のサイコ能力なのか」
     その通り。三連続でハート砲を発射した乙姫の精神力の強さは相当のものだ。
     ドリアンがドリアン・マジェスタの頭の上に移動した。
    「しまった」
    「発射」
     ドリアンがハート砲を発射した。重力に極端に影響を受けるハート砲だが、重力の向きと同じ方向に破壊すべき物体があるならば、その威力はむしろ増加する。
     ドリアン・マジェスタはハート砲を受けて頭や肩を消滅させた。乙姫は自分の今の姿をしたドリアン・マジェスタを破壊することに何ら痛痒を感じてはいなかった。胸から下のみとなったドリアン・マジェスタが地上に落下する。ドリアン・マジェスタは地上を突き抜け、地下都市へと落ちた。砂煙が辺りを包む。
     やったのか?
     そこへ操縦席に澄を乗せ、手に無量宝珠を抱えた石之伸が操縦するキャロットがやって来た。
    「乙姫様。やったのですね」
    「急ぎましょう。もうすぐここに落ちてきますよ」
     落ちてくるというのは、コロニー爆弾と化したコロニーマグナム・バキのことだ。
     地上にいる妖精たちを回収、急いでこの場を離れるドリアンとキャロット。
     そして遂に真っ赤に燃えたコロニーマグナム・バキがイセサレムに落下した。
     直径6㎞、全長30㎞に及ぶ巨大コロニーの落下である。その衝撃によって、文字通り一瞬のうちにイセサレムはエルライス星の地上から消滅した。その衝撃波は半径数100㎞にまで及んだ。その結果、イセサレムにある全てのモノが破壊されたかと思われた。
     だが。
    「何だ」
     石之伸は煙の中に巨大な影を見た。
     やがて巨大な影の正体が煙の中から出現した。
    「ば、バカな」
    「そ、そんな」
     驚く石之伸と澄。
    「あわわわわ」
    そしてジャンダル隊の妖精たちも。
     それはお召艦・帝王の蟹の2倍の全長を誇る巨大な宇宙戦艦であった。コロニー爆弾の威力に耐えて超巨大宇宙戦艦が今、まさに出現したのである。
     だが、そんな中ひとり乙姫だけが冷静であった。というのも、その正体を乙姫は知っていたからである。
    「贔屓(ひき)」
     乙姫はそう呟くのだった。
     

  • 次回予告

  • コロニー爆弾によって発生した煙の中から出現したのは超巨大宇宙空母「贔屓」。
    その中で遂に石之伸とヤネニフタ総統が剣を交える。
    果たして勝つのはどちらか?
    文殊の剱・最終回
    「そして・・・」
    12月24日19時30分~



  • 最終回

  • 地上。
     コロニー・マグナム落下前にイセサレムを脱出したサエナイカタチ首相と閣僚、そしてエルライス軍研究所の科学者らはエルライス第二の都市・テルアツタを目指し、大型軍用機で移動していた。
     だが。
    「ああっ!」
     窓の外を見たサエナイ首相が叫んだ。
     大型軍用機の周りを多数のラムスイ軍のコスモパペットが取り囲んでいたのだ。そのうちの一機がビームライフルの銃口をまさにサエナイ首相が座る席の窓に向けた。
     銃口が光る。
     首相、最後の言葉。
    「私は今まで働いて、働いて、働いて・・・」
     大型軍用機は空中爆破した。

     宇宙空間。
    「な、何じゃ」
     一眼の亀が勝手に動き始めた。向かう先はどうやらエルライス星のようだ。
    「どうした亀よ。わらわの言うことをきくのじゃ」
    「どうしました、女王様」
    「わからぬ。船が勝手に動いておるのじゃ」
    「何ですと」
    「ええい、ダメじゃ」
     贔屓に背を向けた一眼の亀は遂に大気圏へと突入してしまった。
    「どうなってしまうのじゃ」
     怯える女王を余所に、一眼の亀は無事に大気圏突入を終えると、ある場所へと飛翔する。
     そこにはドリアンとキャロットがいた。どうやら一眼の亀は乙姫のサイコ能力によってここまで誘導されたらしい。二機は直ちに一眼の亀に着艦した。
     ブリッジにドリアンを降りた乙姫がやって来た。
    「そこをお退きなさい」
     このように言われて、普段であれば黙って言う通りにする馬知子女王ではない。だが、この時ばかりは素直に艦長席を降りたのだった。女王は乙姫のあまりにも高貴な姿を前にして反射的にそうしてしまったのである。
     今まで女王が座っていた艦長席に乙姫が座った。
    「一眼の亀、発進」
     一眼の亀は贔屓の前にやって来た。幸い、贔屓からの攻撃はない。
    「贔屓の最も装甲の薄い場所は」
     乙姫は真ん中の甲羅をリトラクタブルさせた。
    「一眼の亀と同じ、首の付け根にあるカタパルトデッキ」
     贔屓のかなり斜め横からそこに狙いを定める。斜め横から狙う難しさはサッカーゴールを狙うエースストライカーのそれと同じだ。正面から狙うのに対し1/4しか面積がないのである。
    「発射」
     一眼の亀のハイギガハート砲が発射された。これまた馬知子女王と平放蕩将軍の合体技よりも遙かに威力が激しい。そしてそこは乙姫。見事にピンポイントで狙い所に命中させた。斯くして贔屓の左カタパルトデッキの扉にコスモパペットが通れるほどの穴が空いた。
    「石之伸、澄。聞こえますか?あの穴から贔屓の中へ侵入しなさい。最後の決戦の時です。ヤネニフタ総統を倒すのです」
    「判りました」
     キャロットが飛び立つ。ハイギガハート砲がつくった穴から贔屓のカタパルトデッキに飛び込むと、中で人型に変形してから着艦した。
     外だけでなく、中も反撃はない。どうやら戦闘員が誰も乗っていないようだ。
    「行くぞ、澄」
     石之伸と澄は操縦席から降りた。ふたりはヤネニフタ総統がいると思われるブリッジへと向かった。
     だが、ふたりが向かった先にあったのはブリッジではなく直径50m程のドーム状の屋根を持つ円形の広場だった。正面中央には銅鐸が置かれ、周囲の壁には墓碑と思われる石碑やそれを飾る彫刻が置かれていた。
    「ここはパンテオン」
     パンテオンというのは高貴な人々を埋葬する「墓所」のことだ。
     ここには歴代の竜宮王室の人々の骨が分骨されて埋葬されている。本物のパンテオンは勿論、竜宮城にある。このような場所がここに設けられているのは贔屓が「戦闘用の軍艦」だからだろう。ここでの儀式を通じて兵士たちの戦意を高揚させる狙いがあるのに違いない。外交艦である帝王の蟹には全宇宙の恒久平和を願う殿堂である正本堂を設置し、贔屓には死者を埋葬するパンテオン。如何にも竜宮らしいと言えよう。
    「その通り」
    「お前がヤネニフタ総統か」
    「ここは墓所。『お前たちが永眠する』のに相応しかろう」
    「澄、下がっていろ」
     石之伸は澄を下がらせた。
    「最終決戦に『二対一はない』からな」
     石之伸がヤネニフタ総統に対峙した。
    「行くぞ、総統」
     石之伸は両手を一旦、袖の中に引っ込めると再び外に出した。その両手の指の間には碁石が挟まれている。
    「これでも喰らえ」
     石之伸が碁石をヤネニフタ総統に向かって放った。ヤネニフタ総統めがけて流星のように飛翔する碁石。
     だが。
    「なに」
     碁石がヤネニフタ総統の手前で静止した。
    「フン」
     碁石が石之伸めがけて戻ってきた。碁石が石之伸の和服を切り裂く。
    「ば、バカな」
    「ふふふ」
    「ならば」
     石之伸は腰に差した刀=草薙剣を鞘ごと抜いたかと思うと、直ちに抜刀術の構えをした。
    「ふん」
     ヤネニフタ総統も剣を抜く。
    「お前の剣は地球に伝わる伝説の剣らしいが、私の剣は竜宮に伝わる伝説の剣だ。その名も『臥竜天昇』」
     その名を訳せば「地に伏せていた竜が飛び立ち、天に向かって昇っていった」だ。その名前だけでも強そうだ。

     一眼の亀。
    「石之伸、いけない。ひとりで闘っては」
     乙姫は石之伸の決断に「不満の意」を示した。乙姫はパンテオンで今起きていることをサイコ能力によって鋭敏に感じ取っていた。

     贔屓・パンテオン。
     石之伸から攻撃を仕掛ける。
    「悪いが、早々と終わらせて貰う『海鼠の嚔・青い波濤』」
     石之伸が奥義の一つである海鼠の嚔で、早々とけりをつけようとした。青い波濤は抜刀術による水平斬りである。
     だが、ヤネニフタ総統はその技を軽々とはじき返した。後ろに吹っ飛ばされたのは石之伸の体の方であった。
    「そんな」
     再び石之伸の攻撃。
    「ならば『海鼠の嚔・赤い潮』」
     これは刀を斜めに振り上げてから背中を叩いた瞬間、左手で刀の鞘を握り右手で抜刀する袈裟斬りである。
     しかしこれも通用しない。
    「これならどうだ『海鼠の嚔・深海に降る白雪』」
     左足を引きつつ体を横に向け、その間に刀を抜刀。頭上から振り下ろす唐竹割り。
    「甘いな、文殊」
    「なぜだ。なぜ通用しないんだ?」
     石之伸の剣が通用しない理由。それはヤネニフタ総統のサイコ能力にあった。その能力によって、石之伸は4倍速ではなく、普通の速度で剣を放っていたのだ。
     しかも。
    「どうしたんだ。体が重い」
     増大するヤネニフタ総統のサイコ能力によって石之伸の力は更に封じ込められていくのだった。今の石之伸は普通の剣の達人どころか並の剣客以下に成り下がっていた。
     その後は、まさにそれを「証明する戦い」が展開された。苦戦する石之伸。
     戦いに余裕を見せるヤネニフタ総統が石之伸に向かって語り始めた。
    「仏という野郎は実に無慈悲な存在だな」
    「なに?」
    「そうであろう。お前たち仏教徒が言うように仏が本当に『慈悲深い存在』であるならば何故、我らヤダユ民族に『安住の地』を与えては下さらなかったのだ?何故、我らに『永遠の流浪』という無限に続く苦しみを与え続けるのだ?」
    「それは違う。流浪の中にこそ『本当の喜び』があるのだ。惑星が発する『修羅界の波動からの解放』が喜びでなくて一体全体、何だというのか。定住などして何になる?惑星の重力にしがみつき、地上で『領土獲得合戦』を繰り広げる者たちの人としての野蛮さを、器の小ささを見てみろ。そんな連中には『宇宙の広大さ』など思いも寄らない。それに引き換えヤダユ民族はそれこそ大宇宙全体を『我が家』としているんだ。素晴らしいことじゃないか」
    「ええい、そんな詭弁。聞く耳持たぬわ」
     今のヤネニフタ総統には何を言っても無駄だ。ヤネニフタ総統の胸中に自分の声を響かせるためには、この戦いに勝つ以外ないのだ。
     だが、そのためにはヤネニフタ総統のサイコ能力を封じなくてはならない。石之伸は優れた剣客だが、サイコ能力はない。
    「だから俺は仏ではなく、我らに安住の地を約束してくれた神に忠誠を誓った。たとえそれが本当は魔物なのだとしても構わぬ。我らは遂に安住の地を手に入れた。それを奪おうとする者は誰であろうと許さん」
     ヤネニフタ総統が水平斬りを放った。それによって石之伸の丁髷が斬られた。その結果、髪はばらけ、石之伸は見るも無惨、レオナルド・ダ・ヴィンチのような姿になった。よもや、このような姿を石之伸が曝け出すとは。
    「ああっ」
     時代劇に登場する悪代官の最期を思わせる無様な石之伸の衝撃的な姿を目の当たりにした澄の目から涙が零れ落ちた。
    「くっ」
    「死ねい、文殊」

     一眼の亀。
    「このままではやられる」
     乙姫はサイコで石之伸の心に語りかけた。
    「石之伸。意地を張っているときではありません。今こそ『澄の手を借りる』のです」
    「なに?」
     澄にはサイコ能力がある。澄ならばヤネニフタ総統のサイコ能力を封じることができる。だが、石之伸は乙姫の要求を否定した。
    「これは『男の誇り』を賭けた一対一の勝負なのです」
    「私はそんな『くだらないこと』を賭けた戦いをやらせるために、あなたをそこへ送り出したのではありません」
    「何ですと?」
    「澄はあなたにとって何なのですか?ただの『お飾り人形』ですか?生涯を共に生きる『伴侶』だったのではないのですか?」
    「そ、それは」
    「ならば、助けを借りなさい。男の誇りなんて『夫婦の愛』の前には実に儚いものです」
     続いて、澄にもサイコを送る。
    「澄。泣いているときではありません。早く石之伸を助けなさい」
    「で、でも、あのお方にも意地というものが」
    「あなたは石之伸の『奥方』でしょう?夫婦は『ふたりでひとつ』の筈。今のあなたはその務めを全く果たしていません」
     石之伸は自分の手で澄を護ることが夫である「自分の務め」と思っていた。だから今まで常にひとり人で戦い、そして勝ってきた。その結果、いつしか石之伸は澄の前では常に一人前の男を演じることを心がける「見栄っ張りな男=関白亭主」になっていたのだ。勿論、澄を人間として見下していたわけではないけれども、やはり心のどこかに「女は男よりも弱い生き物だ」という女性を男性よりも「下に見る考え」があったのである。
     そして澄もまた、私の夫は強くて頼り甲斐があって、いつでも自分を護ってくれる。そうした状況に慣れてしまっていた。
     しかし、これは本当の意味で正しい「夫婦の姿」ではない。夫婦というものは互いの長所を認め合うと共に、互いの欠点を補い合う存在でなければいけないのだ。相手の欠点に対し幻滅する間柄であってはいけないのだ。そして、そうした「間柄ではない」のであれば、自分の弱みを相手に隠して見せないようにする必要など一切ないのである。
    「ふはははは。どうした文殊」
     石之伸が呟く。
    「澄」
    「はい」
    「助けてくれ」
    「判りました」
     夫婦になって以来、石之伸は初めて澄に助けを求めた。そして澄も初めて自分の助けを求める石之伸の弱々しい姿を見た。お互いに「気恥ずかしさ」を感じながらもこの時、石之伸も澄も心の中に今まで感じたことのない「喜び」を感じていた。これこそが互いを必要とし合っている「夫婦の幸せ」に他ならなかった。ここに至って漸くふたりは「真の夫婦」となったのである。
     そんなふたりの会話は勿論、ヤネニフタ総統にも聞こえていた。 
    「貴様・・・いよいよ澄の手を借りるか」
     ヤネニフタ総統の顔は青ざめ、体はブルブルと震えていた。これこそ、ヤネニフタ総統が最も恐れていたことだったからだ。
    「ああ。俺たちは夫婦だからな。夫婦は『ふたりでひとつ』なんだ。澄」
    「はい」
     澄がサイコ能力を発動させた。ヤネニフタ総統のサイコ能力が封じられる。石之伸の体が軽くなった。本来の力が甦ったのだ。
    「これで戦いは『振り出しに戻った』なあ、ヤネニフタ総統」
    「くっ」
    「行くぞーっ」
     石之伸の反撃が始まった。
    「海鼠の嚔・青い波濤」
    「海鼠の嚔・赤い潮」
    「海鼠の嚔・深海に降る白雪」
     面白いように奥義が決まる。形勢は一気に逆転した。傷つくヤネニフタ総統。
    「これで最後だ。究極奥義『鰯の竜巻』!」
     決まった。その名の通り、回転によって生じる遠心力を最大限に利用した必殺の剣。ネタニヤフ総統が倒れた。普通であれば、もう立てない。
     だが、ヤネニフタ総統は立ち上がる。総統としての意地が、それを可能とさせていたのだ。
    「負けるものか。この俺様が貴様如きに負けるわけがない」
     だが、足は既にフラフラ。とても戦える様な状況ではない。
    「もう止せ」
     そこへひとりの老人が現れた。
    「ユダヤ王」
     石之伸が叫ぶ通り、それはヤダユ王であった。ヤダユ王もまた石之伸たちを追って贔屓の中にやってきたのだ。
    「息子よ。もう止めるのだ」
    「父上」
     息子?父上?ヤネニフタ総統はヤダユ王の息子だというのか。そうか。だからヤネニフタ総統は若くしてヤダユ艦隊の将軍であったのか。
    「もしも戦いを『続ける』というのであれば、私が相手をする」
    「バカな。父上が戦うなどと。その歳でどうやって」
    「馬鹿にするな。これでも私はかつての英雄『ムスタングのチャー』だぞ」
     これまた驚きだ。何とヤダユ王が伝説の英雄、ムスタングのチャーその人であったのだ。
     疲労を極めるヤネニフタ総統と老境の身であるムスタングのチャー。どちらが勝つか正直、油断はできない。
     剣を構える父と子。勝負は一瞬で決まる。
     じりじりと甘いが詰まる。
     そして
    「やあ!」
    「とう!」
     交錯する剣と剣。一瞬、火花が散った。
     そして。
    「ううっ」
     悲鳴を上げたのはヤネニフタ総統。ムスタングのチャーの勝利だ。仰向けに倒れるヤネニフタ総統。
     その懐から何やら、小さな布袋が落下した。それは小さな巾着袋。その巾着袋を拾い上げたヤダユ王は中を確かめた。
    「こ、これは」
     それはさくら貝。乙姫がヤダユ王に贈った「お宝」のひとつ。
    「やはり、お前が盗んでおったのだな?」
    「父上」
    「そんなにも『乙姫が愛しい』のならば何故、儂にひとこと相談しなかった?愛する息子のためなら竜王に頭を下げるくらい、何てこともなかったのだ」
    「私は男です。嫁取りに『親の威光に縋る』など、どうしてできましょう」
    「そうか」
     ムスタングのチャーはヤネニフタ総統を抱き上げた。もはや敵同士ではない。父と息子である。
    「息子よ」
    「父上。お許し下さい」
     ヤネニフタ総統の首が落ちた。
    「息子よ。我が息子よーっ!」
     ムスタングのチャーは自分の息子の体を抱きしめ、まるで子供のように泣きじゃくるのだった。

     宇宙空間。
    「さらば。竜宮の戦士たちよ」
    「ヤダユ王も、お元気で」
     ヤダユ船団はヤネニフタ総統の遺骸を抱いて、再び流浪の旅に出発した。
     生き残ったラムスイ軍はエルライスからチナパレスに戻った星の再建に向け、大気圏を降下していく。
     乙姫は乗り移った贔屓を操る。一眼の亀の艦長席には再び馬知子女王が座っていた。
    「では、皆さん戻りましょう。竜宮へ」
     贔屓と一眼の亀のワープ回路が同期した。
    「ワープ」



  •  スペースコロニー・ビッグフェイスの脇に浮かぶ「帝王の蟹」。
     その修理ドックの中から一隻の船が出航しようとしていた。
    「修理用アーム、フルオープン。いつでもどうぞ」
    「了解」
     修理を終えた白い宇宙船が降下を開始した。その機体はウイに他ならなかった。エルライス星の戦闘空域を離脱後は竜宮に向かい、ドック艦で修理を受けていたのだ。
     ウイに通信が入る。相手はトラウツボ王子。
    「調子はどうだね?普賢」
    「大丈夫そうだ。ありがとう」
    「文殊には会わないのか?」
    「天の川銀河での『自分の仕事』は終わったよ。今から違う銀河で、別の菩薩の手伝いさ。もう会うこともあるまい」
    「そうか」
    「では、おさらば」
     ウイが帝王の蟹の直下から発信した。ブリッジには悠と黄桜のふたり。
     そこへひとりの少女が入ってきた。
    「パパ。ママ」
     それは芽茱萸だった。芽茱萸はウイが修理を受けている間、最高級の設備を誇る帝王の蟹の中で快適な日々を過ごしていた。最初は竜宮に留まることも検討されたのだが、最終的に悠と黄桜の養女になったのである。
    「この船は何処へ行くのですか?」
    「マニック・ユートピアいう星だよ。そこは大層、美味しい林檎が採れる星でね。星の住民はその実を搾って造ったジュースをいつも飲んでいて、そのおかげでいつも『ハイの状態』にあるんだ」
     どうやら、かなり危ない星らしい。
    「面白そうですね」
    「だろう?黄桜はどう思う」
    「私は別にいいわよ」
    「よし、じゃあ決まりだ」
     ウイが進路をマニック・ユートピアに向けた。
    「ワープ」

     こちらは竜宮城。
     破壊された都市も再建が進んでいた。
    「今回は本当にご苦労様でした。特に石之伸と澄にはお世話になりました」
    「いえ、当然です。竜宮は私たちの命の恩人なのですから」
    「これは私から今まで竜宮のために尽くしてくれたふたりへの、ほんのささやかな『お礼』です」
     ドックには「大地に伏せる獅子」をイメージした宇宙船が置かれていた。全長210m。スピルマの大気圏突入パネルと同じ素材で作られた黒いの土台の上にオレンジ色に塗られた船体を載せる最新鋭艦であった。建築工学を応用、強固な土台の上に構造物を載せる設計により、この船は墜落時の衝撃に対し非常に頑丈な作りになっている。
    「あなたは文殊。ですから獅子をモチーフにデザインしました。さあ石之伸、この船に名前をつけてあげなさい。私たちは『ブラックベース』と呼んでいますが」
     黒い土台では、あまりにも素っ気なさ過ぎるというものだ。
    「これは『橙の獅子』です」
     石之伸の命名も素っ気ないが、ストレートに外観を表現しているといえる。
    「その通りですね。ですが、愛称をつけてあげませんと」
     乙姫は名前が不服だったようだ。
     暫く考える石之伸。だが、いいアイデアが思い浮かばない。
    「いずれ決めます」
     石之伸はそう返事をするしかなかった。文殊の知恵を持ってしても、すぐには「いい名前」が思いつかないらしい。
    「判りました」
     更に。
    「馬知子女王にもプレゼントがあります」
     何とそれは一眼の亀。
    「あなたはこの船を非常に上手に操ることができます。別れるのは『お名残惜しい』でしょう?」
    「その通りじゃ。さすが乙姫さまは『人の心』が良くおわかりじゃ」
     女王は大喜び。
     そして一眼の亀には女王以下、将軍、美蕾、怪蕾、海女尊枝蕾が乗り込む。これで一眼の亀は名実ともに「冥堕」となった。
    「石之伸様」
     ここで中山こと鯰の精が石之伸に語りかけた。
    「是非とも、我ら四名も一緒にお連れ下さい」
    「お止めなさい。野暮な申し出は」
     そう言って諌めたのは乙姫。
    「夫婦の間に水を差してはなりません」
     しょげる妖精たち。
     石之伸がそんな妖精たちに語りかけた。
    「私たちがいない間、江戸の屋敷と福南藩を護ってくれ」
    「判りました」
     妖精たちは、まだ自分たちと石之伸との関係が「終了ではない」ことを知って喜ぶのだった。

     さあ、お別れの時が来た。
    「発進」
    「発進」
     橙の獅子が、冥堕が竜宮城から発進した。途中までは一緒に飛行する。
    「さらばじゃ。またどこかの星で会おうぞ」
     冥堕が進路を変更。どんどん遠ざかる。やがて姿が見えなくなった。
    「それじゃあ、俺たちも行くぞ」
     そういって、ふたりが向かった先は地球。
     まずは江戸上空を飛行する。
    「よく見ておくのだぞ。今度、戻るのはいつになるか判らないんだからな」
    「はい。あなた」
     その後、福南藩の上空を通過。
     その時。
    「決めたぞ」
     石之伸が叫んだ。
    「何を?」
    「名前だよ、名前。こいつの名前だ」
    「で、何て名前なの?」
    「『ともみ』さ。『鞆の海』という意味だ」
     日本で最も美しい海を持つ鞆の浦。その名前こそ船の名に相応しい。石之伸はそう思ったのだ。
    「素晴らしいわ」
     澄も納得。
     暫く鞆の浦の上空を飛行した後、ともみは大気圏を離脱した。
    「エンジンは快調だ。このまま一気に加速するぞ」
    「何処へ行くの?」
    「さあな。知らない星さ」
     ともみが遠距離ワープに入った。

  • 文殊の剱 完     



  • あとがき

  •  本作品のテーマとして私は「夫婦関係」を設定した。それに関する私の主張は「最終回」の通りである。夫婦は「助け合ってこそ夫婦」というのが私の夫婦観である。そして第三部ではもうひとつのテーマが設定されている。それは、お国の名誉や領土に執着する人間は大地が発生する修羅界の波動に精神を支配された「旧人類」で、そうしたものに固執しない流浪の民こそが全ての人類が志向するべき「新人類」だということ。ヤネニフタ総統は前者の典型であり、後者は言うまでもなくヤダユ民族である。これらの原型が「何」かは説明するまでもあるまい。無論、こうした対比はニッポン国内における「右翼VS中道」にもそっくり当て嵌まるものだ。そして前者が争いを好み、後者が平和を尊ぶ勢力であることは言うまでもない。平和を尊ぶとは、お国の名誉や領土への執着を「持たない」と言うことなのである。それらに対する執着心がある限り「平和を愛する」ことはできないのだ。



  •  コックローチシリーズが2021年12月24日に脱稿して4年。その間『ソフォニスバ伝』など短編は執筆していたものの、400字詰め原稿用紙1000枚を超える大作を書くことはなかった。コックローチシリーズが余りにスケールが大きかったため、その後の構想に時間が掛かったのである。如何にしてコックローチを越えるか?そのためにはまだ自分が執筆したことのない未知の領域に挑む以外にはない。それは「時代劇」であった。斯くして文殊の剱は江戸時代の江戸を舞台とする作品とすることが決まったのである。第一部、第二部までは概ね初期の設定通りの作品に仕上がった。蘇我馬子の直系子孫である女王との戦いを描いた「蘇我城編」。幕末において徳川幕府の懐刀・会津藩の宿敵である長州藩との戦いを描いた「福南藩編」。ところがその後、一気に舞台が変わる。江戸時代なのに「宇宙戦記」に一変してしまう。その理由は読んでの通りで、当初から竜宮城を盛り込んでいたことが原因である。竜宮城を当初から作品に登場させていた以上、超科学を誇る未来世界がいずれは舞台となることは必至だったのだ。かくして髪を丁髷に結い、袴を穿いた江戸時代の剣客が未来のロボット兵器を操縦するという、かくも笑える状況がここでは描かれることになった。この設定を私は非常に気に入っている。こんなアイデア、他の人間では到底思いつかないだろう。「誰もやらない」ことを思いつく。クリエイターにとってこれほど自分自身を満足させてくれるものはない。現代は「過去の焼き直し」にしか思われない作品が大量に生産されている時代である。そういう時代にあって「文殊の剱・第三部」には、そこにしか存在しない世界観が充分に描かれていると思う。

  • 著者しるす        
    2026年4月2日    


  •  
  •